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迷いに迷いましたが、お礼ができない以上コメントの受付をすべきではないと思い至り、
まずはコメント受付を中止しました。

順次、拍手も撤去します。

今までありがとうございました。
いただいたあたたかいお気持ちはすごく励みになりました、
気にされておられる方がみえたので申し訳ないのですが、
負担…ではなくて、
自分は不器用なのでいつも言葉が足りなくて、
果たしてきちんとお礼が伝わるのか甚だ疑問だったのです。

拍手をたくさんいただけて感激し、
コメントまで頂戴して、読んでいただける幸せをしみじみ感じております。
どれだけ言葉を重ねても足りないと思いますが、
すごく幸せです。
ありがとうございます!


このブログは立替して、3年前に書いたものは削除します。
(ほとんどそうなのですが)
もはや…書き方がまるで違うので…
最近のエロから読んでくださった方には「黒歴史?」状態ですし、
あの時代に得たいろいろなことに区切りをつけて、
仕切りなおしたいのです。

あ、このお知らせも続きがUPできたら削除しますので…


二次は今ピクシブの場をお借りしていますが、
きちんとしようと考えています。
話自体も資料集めてきちんとしてあげたい。

もともと極道好きなのでマフィアに染まったのもなにかのご縁だなと思います。



BL続けながら二次もやらせていただきたく、
メリハリつけて頑張りたいと思います。
創作は大好きなのです。

またお時間ございましたら遊んでいただけると嬉しいです。

では近日、UPして……いろいろ整理して仕切りなおします、
今後ともどうかよろしくお願いします。


柊リンゴ
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2011.01.17 えにし.4
「困るって言われても止められないんだけど。わかる…?」

穣は戸惑い続ける智梓の唇を塞ぐと舌を這わせた。
それは唾液を蹴散らして智梓の舌を探り当てると、
先刻までのやさしさを感じさせない性急さで絡んでいく。

穣の理性が飛んでいると知り、慌てる智梓だが拒めない。
唇の端から唾液がこぼれ、流れ落ちていくのがわかる、
これすら拭えずぼんやりと麻痺したような自分が恐ろしいのだ。

貪るようなキスだった。
今まで智梓の姿を見かけても眺めるだけでその思いを募らせていたというのは嘘ではない、
我慢していたものは制御不能だった。
やがて穣の手によって智梓のシャツがまくりあげられ、素肌をそっと撫でられる。
「わ…」
いくら手があたたかいとはいえ、人に体をまさぐられるのは初めてだ、
智梓は驚き、そして体を強張らせた。

「…怖い?」
「えっ」
はっきりとそう聞かれると否定しづらいものだが、
智梓は頬を赤らめると「誰か来たら困るし」とやんわり肯定する。
「…そうだね」
意外にも穣が頷いた。
「俺も止められない予感がしてたんだ」
そして絡めていた指をそっと離す。
この瞬間、智梓は自分が大きな間違いを犯したような気がした。
しかし口から出た言葉はもはや回収できない。
吹っ切ろうとかすかに首を振る穣の表情が寂しげで、
智梓は適切な言葉が見出せない。

指に残るあたたかな体温。
触られた肌。
今更どうして名残惜しく思うのだろうか。

「あのさ…」
話題を変えるべきかそれとも迷うこの気持ちを正直に吐露すべきか、
判断できないまま声をかけたが、
穣が再び口を開く前に大勢の靴音が聞こえてきてしまった。







「環境が変われば俺にもチャンスが巡ってくるような気がしてたんだ。
ほら、学校とか教室とかだと互いに仲のいい友人がいるからさ。
それも大事だけど、俺は智梓のこと知りたかったんだ。
だから修学旅行って、チャンスだったんだ」

穣が明るい声でそう智梓に打ち明けたのはそれから1ヶ月も過ぎたあとだった。

「結局、俺ばかりが智梓を気になってたんだけどね」

『そんなことはない』と返したかった智梓だが、
過ぎたことを蒸し返すのはよくないなと諦めてしまい「そうなんだ?」と流してしまう。

「冷たいなあ。手と同じで」
穣はあのときのような寂しげな表情をしない。
むしろ明るく振る舞い、彼も智梓の言葉を明らかに流していた。


互いが相手を気にしつつも踏み込めないものだけを感じ取っていた。
それを受験があるからとか部活が大変といった理由にこじつけて本題から逃げ、
しかし校内でも顔を合わせることが増えていく。

切り出したい言葉を貯めすぎてなにから話していいのかわからない、
そんな中でこぼした穣の言葉を智梓は軽く受け流してはならなかったのだ。
自分も離れたその手を追いかけてつかまえたい衝動にかられたというのに、
迷ったまま決めることができず、自分の気持ちだけで手一杯だったのだ。

並んで歩いていても、穣は智梓の顔を見ようとするが、
智梓はキスを思い出してしまい目を反らす。
そのささいな行き違いでさえ大きな障害に変わってしまう。

互いが、はっきりと気持ちを打ち明けていないからだ。




「俺たちさあ、…なんなんだろうね」
この状態が心地よいはずはない。
焦れてそっと唇の端を噛んだ穣の気持ちも智梓は悟れなかった。


5話へ続きます
2010.12.05 えにし.3
穣は先に靴を脱いで部屋へあがり、片膝をついて智梓の靴を脱がせた。
その間の無言が智梓には気掛かりだったが、
『しゃべらなくていいよ』を反芻して自分に何も言わせないよう気遣っているのかと思いなおす。

しかし靴まで脱がせなくてもと恥かしさは隠せない。

人に靴を脱がせてもらうなど、恐らく幼児の頃以来だ。

それも自分にはかすかな記憶の破片しかない、
こんなにかまわれるのは困惑してしまう。

だがお礼もいえないまま部屋の隅まで抱えて連れられ、
視線を合わせられないまましゃがみこむと、前髪に何かが触れた。

「酔わないよう連れ出したのに、なんかごめん」

「は」

恐る恐る上目遣いで見やると穣が額を合わせていた。
互いの鼻の頭がぶつかりそうで、
智梓はこの距離に面食らう。
あわてて目を反らそうとするが自分の体を抱え込むように穣の両腕がガードしている。
その細腕には筋肉がついているのか、
はりつめた質感を目の当たりにした智梓は言葉を発せない。

「思ってた以上に、か弱いんだ?」

穣の呼吸が智梓の唇にかかる。
体温を思わせるあたたかな息に思わず智梓がぎゅっと目を瞑る。

「まつげ、なが…」

ささやくような小さな声だった。

しかも今までかけられたことのない言葉に『それは僕ー?』と驚き、
その目と唇を開いた智梓だが、
ぬるい体温のなにかが唇に一瞬触れ、
ためらうようにすぐ離れた。

それが穣の唇だと直感でわかった。

顔の角度からしても唇以外にありえない、
智梓は取り乱しそうになり、
右手を伸ばして穣の頬に触れた。

「な、なにして…?」

「…したかったから」

ばつが悪そうに口を尖らす穣に「するのは、話だろ…?」と問いを重ねる。

「かすっただけだし」

「…したかどうかもわからないキスなんて、1番対処に困るよ」

「…経験あるような言い方をする。こわがってたくせに」

穣は自分の頬に遠慮がちに張り付いたままの智梓の手を取ると、
「手、つなぐだけでもよかったのに。ほんと」
「はっ?」
「ずっと見てたって言ったのは、いつか智梓と手をつなげたらなと思ってたから」

ここまで言われたら先刻まで言葉を交わしたことのない相手であろうとも、
口説かれていると理解する。

しかも穣の視線は揺るがない、
デッキで遊んでいた連中もそのうちこの部屋へ戻ってくるだろうに、
その靴音が聞こえてこないか気になり聞き耳を立てる智梓とは対照的に、
智梓だけを見つめているその瞳は光りを帯びていた。


「触れたかった。すごく」


穣が智梓の指の間に自分の指をあわせ、
そしてきゅっと絡ませる。

その指には少しずつ力がこもっていく。
初めは絡ませるだけの指が、
次第に智梓の指を圧していく。


「智梓に触れてみたかったんだ」


募る思いが噴出しそうなのを堪える姿を黙って見続けることはできない、
智梓が手首を軽くひねり、その力に応えた。


「…智梓?」
この反応に驚いたのか、
意外そうな顔をする穣に「誰か来たら困るんだ…」と返事をしつつ徐々に視線をそらしてしまう。

「僕、ど・どうしたらいい」

「…こっち、来て」

穣は指を絡めあったまま、それを突然引いた。
「んっ?」
反射的に左手で穣の胸を抑えたものの、智梓の唇は穣のそれと重なった。

慌てて離れようとする背中を穣が片腕をまわして制し、
舌の先で唇を舐めた。


「…開けて」
『えっ』

「入りたい」

それは消えそうなほど小声なのに智梓の胸を大きく揺らし、
左手を下ろすのに十分な力を持っていた。


早鐘を打つ胸を悟られないよう祈りながら、
智梓は目を閉じる。


『だ・誰か来たら…見られたら』

困惑しつつも唇を開けると穣の舌が潜り込んでいく。
それは歯列をなぞり、明らかに智梓の舌を突こうとしている。

『あ、やっぱり困る!こんなところ見られたら』

智梓が無意識に絡めたままの指に力をこめてしまうと、
穣はちょんと唇を舐め「俺が相手じゃ困る?」と首を傾げた。



4話へ続きます
2010.12.01 えにし・2
「どんな人ごみの中にいたって、俺は智梓を見つけられる。大丈夫」

人目が気になり手をつないでいられない智梓に穣がそうつぶやいた。

「今までずっと見てきたんだ。絶対に間違えない」

デッキには船酔いを恐れない生徒が数人集まっている。
同じクラスのものも混じっているだろう、
ただでさえ先刻まで口を聞いたことのない2人が並んで立っているのだ、
興味を惹き、注目を浴びてしまうのは間違いない。

「…絶対・なんて言葉はこの世にないんだよ」
智梓は揺れる波を遠目で追いながらぼやいた。
「え」
「そんな不確かで、曖昧な結果を案じさせる言葉は言っちゃいけない」

まるで屁理屈だった。
命を持った生き物のようにうねる波を見ながら、
智梓は続けるべき言葉を飲み込み、穣も深く問わない。
どちらかが歩み寄れば心の距離は近づけただろう、
しかし智梓の沈黙は重かった。

「…そうかな」

穣が風に乗せて飛ばすように言葉を吐き出した。

「俺を試していいよ。そんな概念は打ち崩してあげるから」
そう言うと智梓の背をぽんと突き飛ばし「おーい」と同じクラスらしきものに手を振った。

「あれーーー?智梓じゃね?」
たちまち数人が寄ってきて「おまえはいつも単独行動をとりたがるな、で、今日は珍しく寄ってきた?」と
口々に歓迎し、穣の元から連れ去っていく。

「後ろに誰かいなかった?」
「え、いたっけ」
「…穣、いたじゃん」
智梓が続けるのだが皆は「へえ」と興味なさそうですぐに別の話題を持ち出した。

「なあ、イルカ見えるかな」
「イルカ?」

「泳いでるところ、見えたらいいな」

智梓は不慣れながらも笑顔を作り、クラスメートに共感している素振りに努力した。
体は存在しているが心ここにあらずだ。

イルカに会うよりも、気になる出会いをしたばかりなのだ。



『ずっと見てきたって言ったなあ。しかも絶対・って、よく言うよ』


仲のよいもの同志がそう言うのなら多少は理解できる、
だがしかし手が触れたのも先刻だ、
それなのに何がわかるというのだろうか。


『でまかせーーーー』


智梓はいつのまにかクラスメートとデッキを随分と歩き回り、
もはや方向感覚を失い、
穣が見当たらず、元々どこにいたのかさえわからなくなっていた。

『あれ、どこに』

揺れる船の上で歩き回るのは危険が伴う、
足元は不確かであるうえに見える景色はほとんど変わらない。
見渡してもそうそう劇的に変化するものではない。
それは人を不安に陥らせ、船酔いに移行しやすい。

智梓も例外ではなかった。
突然吐き気を催し、
がくりと折った膝を甲板にぶつけ、その衝撃で唇を噛んでしまった。

しかしクラスメートは異変に気付かない。
船は機械音を響かせながら運航しているので物音さえ届かない。

彼らは変わらぬ景色に飽き、それぞれが部屋に戻ろうと前しか見ておらず、
1番後ろをついていた智梓のことなど知るよしも無い。

智梓が自力で立ち上がろうと腕を伸ばしたときに、
その腕をつかまれる感触があった。


「…大丈夫?」

「えっ」

それは穣だった。
どこから走ってきたのか、息を切らせたまま智梓の腕をしっかりとつかんでいた。

「ど、してわかった?」
「…見つけるって言ったよね」

「僕、助けを呼んでないし」
「叫んでも気付かないよ、こんな爆音の中だから」

「…なにそれ」
「も、いいから。ここで吐かないでよ、部屋まで抱えていく」

穣は智梓の腕を自分の肩へまわさせ、体を抱きかかえると「よし」とばかりに歩き始めた。

「僕、試してないから」
「わかってるよ、そんなことする子じゃないって」

「あ、あのさ」
「しゃべらなくていいよ」

「ありがと…」

「どういたしまして。…智梓にそんなこと言われるなんて、ちょっと嬉しい。走った甲斐があった」

自分の体を引きずるように歩いていく穣に寄りかかりながら、
智梓は自分の屁理屈を打ち砕くために走ったであろう穣の気持ちを考えた。

自分ならどうしただろう。

どうしたい。

「…たくさん話してみたい、穣と」

「うん、俺も」



3話へ続きます
2010.11.08 えにし・1
まだ吐く息が白く濁らない初冬だった。

あまりの寒さに目が覚めた智梓(さとし)は、霜が降りているんじゃないのかと疑い、
パジャマにフリースの上着を羽織ってまだ暗闇の外へ出た。

裸足のつまさきに冷えたスニーカーの感触に身を震わせながら、
空を見上げるとそこには冬の星座が広がっていた。

星は凍えた空気でちかちかと輝き、
大きく見えた。

「落ちてきそう…」

智梓が小学生の頃、遠足で行った隣町のプラネタリウムよりも迫力があったのだ。

自然と子供の頃を少し思い出すが、
まだ眠気の残る頭は冴えない。

智梓はじきに家へ帰り、ドアを静かに閉めた。



時計は5時前を指していた。
いつもなら6時に起きているのであと1時間寝たいところだが、
寝過ごしたら一大事である。

仕方なく服を取り出したが、それはまだショップの袋に入ったままの新品だ。

智梓は服の選択を面倒に感じると新品を着る妙な癖がある。

しかもタグを外すのは着てからだ。

鏡の前でハサミを持った右手を後ろへやり、
タグを切り落とすと「あ」と小さく呟いた。



『最近、新しい服ばかり着てるの。なんで?』

懐かしい声が頭の中に響いた。
それは、とても大事な声だった。

つられて友人の『智梓、そのうちタグつけたまま学校へ来るんじゃね?』とはしゃぐ声も思い出す。

智梓の胸が高鳴った。

『もしもタグつけて学校へきたら、俺が外してあげるよ』

大事な声が続いていたのだ。

『誰にも見つけられないうちに』

微笑むその声の主に会えなくなったのは5年前だ。


「あ。あいつ…」
名前はおろか、顔も姿も覚えている、それは自信があった。
しかし声まで覚えていた自分に恥かしくなってきた。

「穣(みのる)だ」



穣は高校の同級生だ。
常に折り目のついた清潔感のあるシャツを着、黒髪で真面目そうな容貌のせいか、
智梓は穣と出会った当初は少しも親しみがも湧かなかった。

クラス内で優秀な生徒として名を挙げられる穣は堅物にしか見えず、
ゲームだ・バイトだとバタバタ毎日を生きる智梓とは縁遠い存在だった。


しかし転機は訪れる。


修学旅行で九州へ向かう貸切客船の中、
船酔いを警戒して部屋に閉じこもった智梓は別のものを訪ねて来た穣と目が合った。

「…ひとりで何してんの?」

「留守番だよ…」

ぎこちない。
これがクラスメートとして半年経過し、初めてのちゃんとした会話であった。
しかし開けたドアからそれ以上近づけない穣と、
部屋の隅で揺れを恐れて膝を抱えたままの智梓はどこか似ている空気があった。

それは互いを意識しすぎる面だ。


「…寂しくないの?」

「別に。ゲームでもやればいいし」

校則違反のゲームを取り出してみせる智梓に、穣は瞬きをした。

「そんなもの見てると船酔いするよ」

「えっ?」

驚き慌てる智梓は、すっかり見透かしたような穣の目を見つめた。
船の部屋の床は波でかすかに揺れている。
そこに手をついただけで智梓は戦慄した。

「どうせ、こうして揺れているんだからさ」

穣は部屋のドアに凭れかかった。

「一緒に波でも見ない?」

「…なにそれ」

智梓は穣がどうして自分を誘い出すのか理解できない。
今、初めて口を聞いたような相手だからだ。

「気晴らし」

なんだそれ、とますます智梓は警戒した。

「いいよ、僕はパス」

「行かないとゲーム持ってたこと担任に言う」

「はあっ?!」

こいつ裏切り者かと驚く智梓に、穣は床に膝をつき、手を差し伸べたのだ。

「行く気になった?…智梓」


その低く響く声に智梓は急に胸が苦しくなってしまった。

どうして微笑んでいるのだろうか、
なぜ手を差し伸べているのだろうか、
なにが楽しくて見つめてくるのだろうか?

そして、どうして自分の下の名前を知っていたのだろう?と。

意識しすぎた結果なのか、
智梓はまるで磁石に引き寄せられる蹉跌のように穣へ歩み寄り、
思わずその手に自分の手を重ねてしまい、
「うわあ」と動揺した。

しかし穣は揺らぐことなくその手を軽くにぎる。

「…智梓。手、冷たいんだ?」

会話も初めてで、目を見たのも恐らく初めてだろう。
そして、手をつなぐのも初めてのことだった。

「…あったかい手、してるんだー。ね。」

目をあわせられないまま返事をするのがやっとだった。

「うん」

穣はぎゅうと両手で智梓の手を包み込んだ。

「ええっ?」

「もっとあったかいでしょ」

「あ、ああ、そうだけどさ、あのさ?」

智梓は誰かがこの部屋へ入ってこないか、覗き込まないか心配になってきた。

「心があたたかいひとは手が冷たいって誰かに聞いた」

「へ、へえ?」

「智梓がどんな人か知りたくなった」

ささやくようなその声に智梓の力が抜けていく。

「あ、あのさ。手、はなし…」

勇気を振り絞り顔を上げると間近に穣の顔がある。

「目、大きい。顎も尖って。かわいい顔してるよね、そう言われる?やっぱり」

「あのさ!…み・穣のほうがきれいな顔してる・よ。目、黒いし。顔小さいし。僕の主観だけど、ね!」

言い切ってしまった智梓は今更ながら照れ、首を振るといたたまれない様子で唇を震わせた。


「…意識してくれてたんだ?」

弾んだその声に、涙さえにじんだ目を向けた。



2話へ続きます
容赦ない夏の日差しが照りつけ、口を開けると唾液さえ蒸発する気がする。

晴矢は会話の切り出し方がわからずにただ利玖の隣を歩き、
時折ちらりとその横顔を見た。
誘い出してくれたのは嬉しいのだが、不安が隠せないままなのだ。

「暑い。中、潜ろう」

利玖は地下鉄の出入り口を指した。
この日影になる階段で話をしようと言うのだろう、
晴矢は頷くと即座に日影へ体を入れた。

そして階に立つと利玖がどこに行くのか目で追う。

「これで風が出るといいのにね」

利玖は晴矢に並ばず、1段下に下りた。
並べば同じ身長なので目線が合うのに、利玖は後ろぐらいことでもあるのか退いて見せた。
積極的な利玖にしては意外な立ち位置だ。

「あのさ、利玖。聞いてもいい?」
「なにを?」
利玖は目を瞬かせ、晴矢の思いを読もうとする。

「…携帯」
「カバンが置いてあったから、番号をもらった」
「あ、そうなんだ」

「勝手にしてごめん」

その声は空気を変えた。

「え」

珍しく利玖が折れたので晴矢は声を失ってしまう。
そして慌てて手を横に振ると「いや、違う違う」と弁解する。

「別に咎めてないよ。後輩に教えていたくらいだし」

それは事実だ。
晴矢はただどうして自分の携帯番号を利玖が知ったのか、それを単純に聞きたかっただけだ。
自分の手元の携帯には利玖からの着信記録がある、
これさえも愛おしいと思えるほど晴矢は胸躍らせていた。

しかし目の前にいる利玖は困惑した表情を浮かべている。

「他に聞きたいことがあるよね?」
「は?」

「携帯・じゃないよね」

利玖は眉が下がり、唇の端を噛み締めて両腕を組んでいる。
いつもは強気な態度で挑むくせに、今の利玖の姿は晴矢には虚勢を張った小動物のように映る。

「…話がしたいんだ」

『聞いて欲しいのか』

利玖が腹を決めていると晴矢は悟った。
恐らく涼川との関係だろうと思い当たった晴矢は「あまり聞きたくない」とぼやいた。
しかしその声は小さすぎて、階段を上がっていくサラリーマンの靴音にかき消された。

「知ってたよね?あの先生との関係は精算したから」
「だから」

いきりたつ晴矢だが、2人の会話は学生らしき女性の群れの靴音と話し声に邪魔される。

「僕が有名大学へ進学するのが母の夢だった。それをかなえるために依頼した家庭教師が彼だ」
「…学年主任がカテキョーのバイト?」

晴矢にはにわかに信じがたい歴史が淡々と説かれていく。

「有名高校の主任だから、いい稼ぎになるそうだよ」

『はあ…規律正しいことを推奨させる割には、自分が道をたがえているんじゃないか』

どうりで後味の悪い会話をしたものだ、
晴矢は言葉につまり空を見上げようとして地下鉄出入り口の屋根を視界に入れた。
薄汚れたそれは晴矢の心境に似ていた。


「僕は彼を尊敬していた。だけど不本意な関係だった」

「もう、いいよ」


晴矢はうんざりな気分だった。

「俺は正直、見苦しいけど疑ったし嫉妬した。だけど今はそんな気持じゃないんだ」

晴矢の荒々しい声に利玖が目を見開いた。
予想外の言葉に自分がふられると思ったのだ。

しかし晴矢は「俺は利玖のことが好きだから、それでいいと思うんだ」と続けているのだが、
またしても地下鉄の乗降客の足音がノイズとなり利玖にははっきり届かない。

「晴矢、『そんな気持ち』って…」

衝撃を受けた利玖は言葉が滑らかに出てこない。
そして頭をわずかにふるわせ、明らかに足元が怪しくなる。
ここは階段だ、まっすぐ立っていないと下へ転げ落ちてしまう。

「僕は初めてきみを追いかけたんだ、今まで誰も追いかけたことなんてない!」
「え?り・利玖」

「そんな簡単に諦めるなよ、僕はきみを選んだんだ!」

激した利玖はここが階段だと忘れていた。
1歩踏み出そうとしてバランスを崩し、背中から真下へ吸い込まれるように落ちていく。

「あぶな!」

晴矢は咄嗟に右手で利玖の腕をつかみ、片方で手摺にしがみついた。
全力で利玖の転倒を防ぐためだ。

この反動で利玖の左足のつま先が階段に触れ、体の角度が変わる。
今度は階段に倒れこむようにうつぶせになるがなんとか左手1本で体を支え、
転げ落ちるのを食い止めた。

「あっ…ぶなー…」

晴矢のつぶやきは安堵している。
だが、周りで見ていた大人達は2人がふざけていたと思い苦々しい顔つきだ。
高校生が遊ぶならよそでやれ・そんなボヤキさえ聞こえてきた。


「晴矢といると目立つなあ」
苦笑しながら利玖が体を起こした。

「姿だけでも派手なのに、こんな助け方されたら誰でも見るもんな」
利玖は両手を払い、制服についた汚れもパンパンと払い除ける。
そして晴矢の隣に立つと、目線をようやく合わせた。

「ありがとう」

素直な感謝が晴矢の心に染みていく。

「あ、どういたしまして」

妙に照れる晴矢の腕を利玖が指した。
「血? 晴矢、怪我してる…」
「こんなの消毒すれば大丈夫だよ」

言いながら自分の腕を見ると晴矢は血の気が引いた。



地下鉄はなにかと汚れている。
ゴミバコがあるのにそこへ捨てないのがポリシーなのか、モラルのない人が増えている。

晴矢はしがみついていた手摺にドリンク剤の瓶が差し込まれているとは知らなかった。
圧力で割れたらしい破片は晴矢の腕を浅くだが切ってしまっていた。


「とりあえず止血…あ、止まっているか」
利玖は落ち着きはらいながら傷口を見て「ガラスが刺さっているといけない」といい、
カバンからボルヴィックを取り出すとそれで傷口を洗い流した。

「大丈夫そうだね、じゃ、消毒」

利玖はその唇を傷口に押し付けた。
「えっ、ちょっと?」
晴矢は慌てるが傷口を舐める利玖の舌にぞくりと快感を覚えてしまった。

『あつ…』

晴矢は額に汗がにじむがぬぐえない。
動きたくなかったのだ。

利玖にこのまま自分の腕を舐めていて欲しい、そんな欲望さえ湧いてしまっていた。


地下鉄出入り口を利用する乗降客は他人が何をしていようと構わない様子だ。
その靴音が響きあう中、呼応するように晴矢の胸は高鳴っていく。


『指を少し動かすだけで利玖に触れられるのに』

本能は叫び続けていたのだ。

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