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2006.12.22 傾城の微笑。5
花魁見習いとなった高尾は「新造」と呼ばれました。
「高尾新造・まずは先輩花魁について、いろいろ教わるんだよ」
松葉屋の主人が上機嫌で、花魁の部屋に連れて行きます。
「身の回りのことや、立ち居振る舞いなどをね」
「はあ」
気の抜けた返事をしながら、「花魁、いいかな?」
主人も気を使う、襖の向こうの花魁とは?
「瀬川でありんすよ」
松葉屋の看板太夫、瀬川です。
年は高尾よりも上でしょう。
そしてまるで島原のような白塗りに紅をさしています。
のっぺりとしたうりざね顔に、この化粧。
まるで歌舞伎ものです。
「この新造に、教えろと?」
値踏みするようなものの見方をしてきました。

「なるほど。仕込んでおきやしょう」

瀬川太夫の部屋に入ると、高尾は鼻をくんくんさせました。
「いい匂いですねえ」
「わかるかい?香をいただいたのさ」
ふうと吹けば飛ぶような木屑にしか見えませんが。
「香道もたしなみのひとつですか」
「おや?おまえさんはどちらの出だい?」
香道と言う言葉を、見習いが知るなんて?と瀬川太夫は訝しげに感じます。
「西です」
高尾はそれ以上のことを話す気がありません。
「ほお。たいしたタマだね。
おまえさんは男を知っているのかい?」
「同じ男でしょう。知るもなにもない」
瀬川は高笑いすると
「教えてあげようか?」
ぐいっと高尾の袖を引張りました。
ざざと畳の上に腕を滑らせます。
「痛いなあ」
睨みつけますが、瀬川は面白そう。
「見せてみい」
着物の裾をぺろりとめくります。
普通なら、ここで降参するでしょう。
しかし、高尾はあらわになった足をすらりと伸ばして見せました。
「は・・」
際まで見えてしまいそう。
「欲しければ代価をいただきます。俺は安くないですよ」
 
どちらが先輩花魁なのか・・。

手出しの出来ない瀬川は、さっそく馴染みの客の座敷に高尾を呼びました。
まだ何も知らない高尾に、座敷で恥をかかせてやろうと言う悪戯心でしたが・・

酒を勧めても飲みません。
踊れといったら「兄さんの舞が見たいなあ」
歌えといえば「兄さんの声を聞かせてくださいよ」
客もうすうす気がついて面白がり出します。
「瀬川もひとが悪いなあ」
豪快に笑うと、
「なにが食べたい?新造さん」
「菓子」
料理の中で一番高いものを要求しました。

この時代、砂糖は高価なものでした。
刺身の台よりも。

「おやおや。これはまいったねえ。新造さん?床をとれるかい」
「いいですよ」
花魁は初会の客は床をとりませんが、馴染みは別。
しかしこの客は瀬川の馴染み・・。
馴染みが花魁を変えるのは、吉原での規約違反になります。

「兄さんの代わりに床をとりましょう」
不敵な微笑。
兄の客なら、違反ではありません。

そして異例の床とりで、客に奉仕しました。
入れさせずに、指で扱いたのです。
「高尾・・と言ったな」
喘ぐ客の自身も震えています。
果てた後を始末する高尾に、

「高尾の花魁道中が見たい。花代を出す。総仕舞にさせてもらうよ」
「おや?そんなことをしたら、瀬川の兄さんが呆れませんか」

「高尾の顔に、そうしろと書いてあるよ」



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2006.12.22 傾城の微笑。4
江戸は広大な武蔵野が広がる河川や沼地で構成された過疎地でした。
そこに幕府が街を作り、商売の匂いをかぎつけた商人と、
遊女屋を生業とした業者が多数流れ込んできました。
街を作るために集められた土木作業の男たちにおおいに歓迎された遊女屋は盛況。
ところ構わずに店を構える遊女屋に頭を抱えた幕府に、
遊女屋を営む甚右衛門なる男から「遊廓の設置願」が届きます。
点々と散らばる遊女屋を一箇所に集めて営業したいとのこと。
不審者が隠れぬよう幕府がすぐに取り締まれる体勢を整えたいと体裁のいいことを言いますが、本音は幕府のお墨付きが欲しいだけ。
幕府はこれを公認します。
甚右衛門らに与えられた場所は葦の生い茂る湿地帯でした。

のちの吉原です。



吉原に小船で向う女衒と高尾。
土手の上は宿籠がひょいひょいと走っています。
「こんな昼間から遊ぶんだ」
高尾が他人事のように呟きます。
「花魁は朝から晩まで働きどうしさ」
舟のこぎ手が教えてくれました。
「おまえさんらは見物かい?」
「売られてきたんですよ」
高尾は相変わらず、飄々としています。
「へえ?どこの見世に行くんだい」
「松葉屋に」
女衒がご機嫌。
もうすぐ大枚が手に入るからです。
「ほお。あんなに大きい見世にかい。たいした上玉なんだねえ」
こぎ手は、その気のないひとのようでした。
高尾はだんだん近づく岸の上に興味がありました。

けばけばしい装飾は、島原による途中の荒れた羅生門を思い出します。
まさに魔界への入り口かもしれません。

「気をつけてな。お兄ちゃん、よう働くんだよ」
こぎ手が手を振ります。
「働けって」
苦笑しながら大門に向います。
じゃりじゃりと草履を滑らせながら歩くと
「この門をくぐったら、生きて帰ることもままならぬ苦界。気をたしかに持ちなさいよ」
女衒が言いました。
「ありがとう」
高尾は聞き流しているようでした。さっさと大門をくぐると
「松葉屋は何処?」
後からくる女衒に振り向きながら聞きます。
怖くないのでしょうか。
未練もなにもないのでしょうか。

「おまえさんは、きっと上級花魁になれるなあ」
「そうだね」
微笑するその姿。
近いうちに金襴緞子を着るだろう。
女衒は確信しました。



2006.12.20 傾城の微笑。3
高尾はまっすぐ江戸に向わずに、まずは島原に連れられていきました。
ここはお公家様のお膝元。
二条城の近くに栄える遊廓です。
島原でも名のある大見世、三浦屋に女衒があがりました。
「ここで花魁がどんなものか見て行きましょう」
「はあ」
さっきから生気の無い白塗りの男子が歩き回っています。
それを見ただけでうんざりな気持になりました。
「外で待っていますよ」
高尾はさっさと出て行くと、見世を眺めながら散歩し始めました。

トッテンシャン
チントンシャン
耳慣れない音が聞えています。

「これが楽しいのかい」
高尾は少し呆れていました。
お公家様に似せた化粧。豪華な着物。
お人形みたいな男子たちに、なにを学べというのでしょう。
つまらない街だなあ・
高尾が出店で蕎麦を食べていると、ひとりの男子が駆け込んできました。
「見つけましたよって」
白塗りの男子が高尾を指して言いました。
「高尾さんやろ」
「なんだい。食事中なんですが」
「探してはるで?お連れさんが」
「あ、そう」
急ぐことも無く、蕎麦に七味をかけています。
「お兄ちゃん、かけすぎやで」
店の主人が心配しています。
「そうかな?」
「そないなもん食べたら喉がおかしなる」
「大丈夫よ?」
「高尾はん!」
のんきな高尾に、いよいよ声を荒げます。
「はよう!」
「うるさいな。食べてるからほっといて。で、誰?きみ」
「九重と申します。三浦屋の格子ですわ」
主人が「格子と言われてもお兄さんにはわからんやろ」
「お兄さん。花魁には階級がありましてな。
一番上が太夫。で、次が格子。
以下、散茶、局(つぼね)、端(はし)、切見世 言いますねん」
「へえ・じゃあ。二番目なんだ?凄いねえ」
高尾は口では誉めながらも、説明も聞き流しているようです。
しかしこの誉め方が九重を喜ばせました。
「高尾はんも花魁になるんやろ?俺がなんでも教えてあげるさかいに」
鼻息も荒く胸を張ります。

「いいよ。芸事は向こうで聞くし」
「向こうて?なんや~、吉原に行くんかい?」
残念そうな九重に、
「きみが島原で一番の太夫になればいい。俺は吉原で太夫になるからさ」
蕎麦をすすると唇を押さえました。
「辛いな~」
「当たり前や。京都の七味は山椒がきいとるんや」
主人が楽しそうに笑います。
「お兄さん、花魁になるの?
やめときい、おまえさんには勤まらんやろ」
「どうしてだい?」
高尾が面白そうに聞きました。

「なんだか惜しいからさ」
主人が照れたよう。
「器量がいいから間違いなくおまえさんは売れる花魁になるやろ。
でも花魁てのは、床をとる職やで?
勤まるんかいな」

「平気だよ」
高尾は笑って見せました。

「叔父さん、一月したら吉原においで。
俺がお酌してあげるよ」
「高そうやなあ」
高尾は今から自分の向う世界にも、こんな気のいいひとがいたらいいなあと感じました。
しかし体を売るのは苦しみ以外のなにものでもありません。

「さて、行きますか」
蕎麦を平らげると「ごちそうさま」
高尾は手を振って出て行きました。

提灯の明りが道を照らしています。
空には星が見えています。
草履にの裏にざらつくのは砂でしょうか、それとも郷里への思いでしょうか。

「太夫か」
最上級の花魁。その名を口に出してみました。
<そこまで上がらなければ苦界を味わうことになりそうだ>
ふいっと息を吐くと、女衒が待つ三浦屋に向って歩き出しました。


→4話に続きます。







2006.12.18 傾城の微笑。2
西条なる男は絵師の家の跡取り息子。
現在は廃れたものの、
豊臣の以前より絵姿を描くのを生業とした家です。
高尾とは武道の師範宅で知り合いました。
同じ年の少年の中でも高尾の立ち居振る舞いの無駄の無さ。
際立つ育ちの良さに、だんだん惹かれていった西条。
互いの家を行き交う友人の関係から、
一歩踏み出した矢先のことでした。
しばしの別れを告げる高尾の両足の間に割り込むと、
そのまま抱え込んで縁側に押し倒します。
「・・誰か来るだろう?」
「来ない」
「嘘付け」
笑う高尾の唇に舌を押し付けます。
でも人の眼を気にする高尾が「よっと」と西条を横に倒してしまいました。
そしてさらりと豪快に裾を乱して西条の上に乗ります。
「・・高尾?」
「おまえが外を見てろよ。誰か来たら言え。すぐにやめてやる」
西条の股に手を入れるとしごき始めます。
「た、高尾!」
「どうしたい?」
「や、」
圧し掛かる高尾の背中に爪を立てます。
「言ってみろよ。暫く会えないんだ、言うことなんでも聞いてやるよ」
「・・離れたくない!」
吐息と共に高尾の頬にかかったのは、こころからの願でした。

「ごめんね」

西条の全身の力が抜けるまで高尾はぐいぐいと扱きました。
やがて白い精液が高尾の手首まで汚すと。
「西条、おまえに頼みがあるんだ」
「なんだよ・・こんなにしておいて。力仕事はお断りだぞ」
荒い息を吐きながら片足を立てます。
つい、と立とうとしていますが、かなりだるそう。

高尾は着物をはだけて腕を見せました。
傷ひとつ無い、滑らかな肌です。
「ここにおまえの名を彫って欲しいんだ」
「俺の?」
「花魁は惚れた男の名を腕に彫って、操を立てるものと聞いた。
俺もそうしておくよ。
客にいちいち詮索されるのもうっとおしいからね」
西条は高尾の腕をぐい、と掴むと

「消えないんだぞ?いいのか、俺で」
「おまえしかいないだろう」

西条はあらわになった高尾の胸を撫でました。
その仕草を高尾は黙ってみています。
この体を見知らぬ男が抱かぬように刺青を入れるという。
抱かせない?
そんなことが花魁に可能なのか?
西条は花魁が芸と体を売る者と知っています。
しかし、止める手立てがありません。
高尾の家の事情を知らぬ体ではありませんから。
そして護れぬ自分の不甲斐なさ。
まるで非力な己の若さに、悔し涙が零れます。

「泣いてるのか?師匠に告げるぞ」
「これは水だ。見てわからんのか」
握りこぶしにぽたぽた落ちる雫を着物で拭います。
「おまえが大事だ。でもそのまえに、俺は家を護りたい」
西条が抵抗せぬように唇で塞ぐと、そのまま圧し掛かり。
「誰も来ないように祈ってろ」
先刻の行為で濡れた先端を持上げます。



「島原ではないのだね?」
母親は遊廓なるものが島原にしか存在しないと思い込んでいるようでした。
「公家の玩具にされるのは許されません」
「なりませんよ」
お茶を飲みながら、別れの挨拶。
まるで、ちょっとそこまでの雰囲気ですが・・・
ここで再びお茶を飲めるのは数年先になることでしょう。
「では。行ってきます。お元気で」
高尾が外に出ると、入れ替わりに女衒が中に入りました。
すぐに悲鳴があがり、
母親が髪を振り乱して飛び出してきます。
「高尾!おまえは・・」
母親の出てきた足元には小判が零れていました。

「すぐに全部使っちゃだめですよ。
いい医者を探してくださいね。
俺が帰るまでに、あいつの病を治してやって下さい」
軽い1枚の草履を履いて出て行く高尾。
今から向う遊廓では、何枚も重ねた草履を履くことになるのです。
「許しとうせ・・!」
母親の涙。まさか見ることになるとは思いませんでした。
火の車と化した家計。
息子にはわからぬように意地を張り通した母親を助けることができたはず。
しかし晴れ晴れとしないこの気持はなんでしょうか。

「おや。腕に怪我をしたのかい?」
「武道の稽古で当てたのさ」
「傷のある子は値が落ちる。早く治るといいが。
この先、情事で火傷なら花魁としての箔がつくだろうな」
「それいいね女衒さん、そう言う事にしようかな」
まるで他人事のように笑います。
じくじくと痛む腕の刺青の跡。
布を巻きつけてごまかしてはいるものの、
これが売れる前に知れたらとんでもないことになりそうです。

思いの通じた相手を残して出かける世界。
この痛みは代価でしょう。

→3話へ続きます。

2006.12.18 傾城の微笑。1
白鷺の殿様の甥っ子に、とんだ商談を持ちかけたことを女衒は後悔しました。

紺屋のあたりをふらふら歩いていた少年を見かけて、後をつければ町のはずれの古びた屋敷。
これは金に困っているに違いない。
先の男子の器量ならば、高く売れることだと取らぬ狸の皮算用。
まだ手にしない小判を妄想。ほくほくしながら声をかければ、身なりの清潔な男子と対面する羽目になりました。
「榊原と申します」
その苗字で女衒は気がついたのです。
あの真っ白いお城の殿様の親戚筋。
「なにゆえこのような営みをなさっておられるのか?
殿様の親戚筋ならば、街中に住むことも許されましょう」
「自分の器にあう生活をしているだけです」
隣に座る奥方と思わしき老いた女性が微笑します。
一家の大黒柱が見当たりません。
<なるほど、父親を亡くされたか。それゆえ隠居のような生活を>
女衒は、ここに隙があると感じました。
「金策に困っておられると見た。
しばし貸してさしあげることが可能です。
こちらの男子をお借りできればの話ですが」

「当家は困っておりませんよ」
奥方は首を振りました。
その穏やかさに、毒を抜かれた女衒は一時退却を余儀なくされます。

しかし、どうにも諦めきれない。

「俺を買うんですか?」
男子の声は、まっすぐ女衒に刺さりました。
肝の据わった態度に驚かされます。
これは値踏みもできません。
「相当積むんでしょうね」
胡坐をかいていた足を崩して、立ち上がろうとします。
「待ってください。とんでもないことを言い出したのは百も承知。
しかし、あなたなら地方の大名もとりこにできましょう。
私は、江戸は吉原の大見世に頼まれてよいおひとを探しておりました。
榊原殿。私と江戸に行きませんか?
金は要るだけの額を準備しましょう。
聞けば、あなたの弟君は床に臥せっておられるとか。
薬代もままなりませんでしょう?」
弟、と言われて男子の表情が翳りました。
この時代の薬代は、一家の暮らしを圧迫する高額のものでした。
数少ない医者にかかるにも金が要る。
一家の大黒柱を欠いての生活では、いくら表面上は穏やかに見えても家計は火の車でしょう。

「江戸ですか。一度見てみたいと思っていました」

奥方譲りの微笑。
まるで一輪の花を揺らす穏やかなる風のよう。
女衒は、その男子の手に触れたい衝動にかられました。
触れておきたい。
まもなくこの男子、江戸でとんでもない花魁になる。
その予感がしたのです。

「明日、また来て下さい。支度をしておきましょう」
女衒を追い出すと、下駄をはいてざらざらする道を歩いていきました。
細い腰。
すらりと伸びた脚。
なによりも、あの器量。
自分が買われたら。何をして返すのか知っているのでしょうか?

慣れている気がする。
そして世の中を達観している気配すら。

「武士の子か」
末裔とはいえ、その意地は感たるものでした。


畑を越えると古井戸が目印の田舎屋敷に着きます。
「こんにちは。西条はいるかい?」
「高尾のあんちゃん。こんにちは」
わいわいと子供が飛び出してきました。
「泥だらけじゃないか。皆、手を洗わないとおやつももらえないよ」
古井戸までちびっ子を連れていって、よいしょよいしょと水をくみ上げます。
着物の裾が割れて、脚が見えます。
その脚にからみつきたい子供たちを追い払いながら、
額の汗を拭います。
「高尾!」
着物の袖を捲り上げた男子が大声で呼びます。
「なんだい。いたならさっさと来ないか」
「子供らにとられるとは思わなかった。昼間っからどうした?」
「しばらく会えない」
「はあ?」
首をかしげる男子に、
「西条。ようやく親孝行できそうだ。江戸の花火を見てくるよ」
「江戸?まさか、徳川の殿様の稚児になるのか?」
あはははと笑い出す高尾。
「やめてくれよ。大名なんて勘弁だ」
「じゃあ?」
「たぶん吉原だと思う」
「花魁?待てよ、着物の裾をすぐに乱す高尾に勤まる仕事ではないだろうに。まして・・体を売るのか?俺は承知できん」

「金なんかで体を渡さないよ。
だから、ここに居てくれ。
俺はおまえがここにいてくれないと、帰る場所がない」

榊原の家から花魁が出ること。
それは、お殿様の耳にはいれば只では済みません。
恐らくお家断絶になることでしょう。
「なあに、すぐに帰るさ。俺は飽きっぽいからね」


→2話へ続きます。









徳川が開いた江戸は地方武士の尽力で街を築いていきました。
地方から集められた武士は与えられた土地に屋敷を構えます。
当然、男は働いた分遊びたい。
女がいてもいなくても、
噂に聞く花魁に興味が無いものはおりますまい。

錦絵に描かれた最上級の花魁である太夫の姿は、
人々が貼られた絵を眺めるまもなく売れていきます。
金襴緞子を纏う微笑。
本物は見れずともせめて絵だけでも欲しい。
庶民の足元をみて、いやらしくも釣りあがる絵の値段。

それでも売れるのは、後に伊達の大名を狂わせるひとりの太夫です。

絵師が書いている途中でも平気で寝てしまう。
起こそうと近寄ると、たきしめた香に惑わされそうになる。
絵師の間でも、隠した思いつのらすものもいたでしょう。

罪なる太夫の名は、高尾。

公家のお膝元である京都は島原の花魁のような白塗りの化粧を嫌い。
「嘘で塗り固めるのも面倒臭い」
後れ毛も気にせずそのままに。
適当に髪をまとめて鼈甲の櫛を、ひょいと挿す。
女ではない。
男の身でありながら女よりも麗しい。
それでいて、決して媚びない姿。
江戸っ子の粋をそのままに、まっすぐの背筋に絶やさぬ微笑。
江戸幕府公認の遊廓である吉原、
その中でも、大見世と呼ばれる松葉屋の名を大きくしたのは
床をとらない異例の太夫。
高尾太夫の存在のおかげでした。

この世の春と歌われる、夜でも真昼のように明るい吉原。
現世と区切るように立てられた大門が閉じるのは、
拍子木の<引け四つ>。(深夜12時)
明け六つ(午前6時)から始まる花魁の一日は長いものでした。
目覚めれば苦界の一日の始まり。
しかし松葉屋は、高尾という柱を得てからというもの。
なにやら華やかになっていったのです。

そう。
仕事に徹する。
そしてこの苦界から抜け出す。
世の中をいかに上手く渡りきるか。
微笑に隠されたのは心意気。
その生き様が花魁をまとめていったのです。


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