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「ここまで言わせちゃいますか?」
杉菜が微笑しています。
「あまり、ふらふらしないでください。
相手にその気があると思わせないように。
あなたを見ていると心配になります」
話しながらも、杉菜はラッピングを見事に仕上げます。
レジの子に番号札の控えと一緒に渡すと、手際よく後片付けをします。
「杉菜さん。マネージャーから内線ですよ」
杉菜が呼ばれて行きました。

「枝垂さんはミドリちゃんがさっきから呼んでいます」

レジの子が、申し訳なさそうに言います。
「うん、気づいていた。ごめん」
「え、スルーですか?」
アイドル扱いのミドリをスルーなんて、考えられないことでした。
「枝垂さん、やっぱり杉菜さんが好きなんだ?」
「やっぱりって」
「杉菜さんといるときの枝垂さん、すごくいい顔をしているんですよ」
言われても、これは気づいていませんでした。自覚が無かった。
「好きなひとにだけ見せる顔って、あるものなんですね」

その会話を、ミドリがしっかり聞いていました。
いつの間にかレジの後方に入り込んできたのです。
「いやだ」
声で気がつきました。気配を感じないほどに杉菜のことを考えていたようで。
「ミドリさん、こんなところに来ちゃいけないでしょう。売り場に戻って」
「どうして杉菜さんなの?
あのひとはマネージャーと出来ているのに、そんなひとでもいいの?」

初めて聞きました。そんなことは噂にも聞いたことがありません。

「おかしなことを言わないで。杉菜さんが聞いたら怒るよ」
「枝垂さんも怒っているんだ?本当のことなのに!
見たんだよ、マネージャーが自分の車に杉菜さんを乗せて帰るところを。おかしいでしょう、出来てるよ、絶対!」
拳を枝垂の胸にこつこつ当ててきます。
まるで閉ざされてしまったドアをノックするように。
どうしても開けたいのです。
どうしても入り込みたいのです。

でも。

「ミドリさん、売り場に戻って」
枝垂は突き放しました。
「仕事中でしょう?おかしなことを言わないで、仕事をしよう」
ミドリが悔しそうに唇を噛んで、出て行きました。
「あんなミドリちゃん、初めて見た!」
レジの子がびっくりしています。
「それに変なことを言っていたね」

「嘘でしょう。忘れようよ」

自分にも言い聞かせるように呟きます。
ようやく芽吹いた恋心に、不安の陰が伸びているのを認めるわけにはいきませんでした。


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「振り返らないでくださいね」
杉菜が念を押します。
「振り返ったら、ミドリさんはますます本気になりますよ?」

「本気って」
「あなたにその気が無いのなら、ミドリさんを突き放してください。
もとより、ここは職場ですからね」
手をつないでいるわけでも、引張られているわけでも無いのですが。
枝垂は、微笑している杉菜から離れられないものでつながれた気がしました。
でもそれが束縛ではなくて、むしろ、ほっとするのです。
杉菜ならいいや、と思ってしまいました。

「はい、」
自分が杉菜に惹かれていると自覚したのは、今が初めてです。

しかし背中に突き刺さるようなミドリの声が止みません。
こっちに来ない枝垂を非難しています。
騒いでも戻らないと気づいたときは、遅すぎました。
枝垂の視線は杉菜に向けられているのです。
ミドリは自分の眼で、そんな光景を見てしまいました。

でも追いかけずに、ただ遠くからレジに立つふたりを睨みつけています。
「あ、」
枝垂が気づきましたが
「見ちゃだめですよ。期待してしまうから」
杉菜が小さい声で牽制します。
「あなたの些細な言動で、期待してしまうのですよ?」
さくさくと仕事をこなしながら、枝垂の肘をつつきます。

「ねえ。俺でも期待してしまうんですから」

そんな言葉を言われたら、どう返していいのかわかりません。

「そんな顔をしないで、仕事をしましょう。ほら、」
杉菜が笑顔で作業を続けます。
レジの後方でラッピング作業に没頭しながら、ふと枝垂は思います。
そういえば、いつもこの場所にふたりで立つのです。
平机が3台ならべてあるのに、いつも一番左の机にふたりで並んで作業をしていました。
それも、杉菜の右隣が枝垂の立ち位置と決まっています。
いつからこうだったかな・・と枝垂が記憶を辿りますが・・
ここに立てといわれたこともなさそうで・・
「偶然かな」
「何がですか」
「いつも、ここに居るんだけど」
「俺がそこにあなたを立たせているんです。どこにも行かせないように。
いまさら言わないでください。気づいているかと思っていましたよ」
「俺、キスは下手なんです」
言いながら紅葉を散らしたように顔が赤くなりました。
え?と固まった杉菜の腕をポケットから抜くと、顔を見ないようにして売り場に逃げ込みました。

どきどきしました。
杉菜はキスのつもりではなかったかもしれません。
でも。
枝垂は胸が苦しくなりました。
キスがしたい、と思ってしまったからです。
欲望に負けたくなくて、妙な言い訳をして逃げてしまいました。
思い出すだけで鼓動が早鐘。
売り場に立っているのに、上の空です。

いけない。ゆっくり深呼吸して商品の陳列を眺めました。
先ほど杉菜がやってくれた場所です。
計ったようにまっすぐに商品が並んでいました。
杉菜の仕事は手落ちが無くて、勉強になります。

離れた所で、さっそくお客様がひとつ手にとっています。
凄いな。杉菜の力を見たようで嬉しくなりました。
枝垂は思わずお客様に微笑みかけます。
お客様もたちまち笑顔になりました。
さっと商品を差し出して「会計をお願いします」
「ありがとうございます。では、こちらで」
お客様をレジにご案内していると、ちらほら人が集まってきました
なんだろう?
その中心にミドリがいました。

「ほら。これが最新のものですよ」
ミドリはお客様に受けがいいのです。
アイドルらしく、愛くるしい振る舞いで確実に顧客を作っていました。
「・・ミドリさん?」
自分の部署に戻らないと・・と声をかけるつもりだったのに。
枝垂の顔を見て、ぱああと輝くような笑顔になりました。
「俺も役に立てているかな?」
今にも飛びついてきそうです。
「ありがとう。でも、」
ミドリの部署の方向を指差して注意を喚起します。
「今はいいんだって。お客様を案内に来たんだから」

「ミドリさんがいるなら、十分ですね。
枝垂さんはレジを手伝ってください」

杉菜が傍に来ていました。にっこり微笑みながら枝垂の袖を引張ります。
「あ、はい」
枝垂が行きかけると「枝垂さん!!」ミドリが大きな声を上げました。








不本意とはいえ手を繋いでいたのを見られていました。
「ミドリさんのことはどう思っているんですか?」
杉菜が真面目な顔をして聞いてきます。
「プライベートでも親しくなりたいと思っているんですか」
咎めはしません。
でも<そうじゃないって言ってください>と確認するように、まっすぐ枝垂を見てくる瞳の力に緊張感がありました。

「仕事場でも、親しくないです」

枝垂が言い切ると「安心しました」杉菜がにこっと笑って、売り場の方向に歩いていきました。
その後姿を慌てて追いかけて、
「あの、さっきの・・」
メモのことですが。
「急いで着替えますから。待っていてくださいね。
あの場所なら煙草も吸えますから、あなたが一本吸い終わる前に行けます」
「俺、吸うの早いですよ?」
「知っています。あなたのことなら、なんだって」
さくっとパンツのポケットに手を入れられました。
「え!」
びくついたら「ここにライターを入れてるでしょう」
ライターじゃないものにも触れそうなくらいに指が暴れています。
「あなたの好きな緑色の」
「あの、・・杉菜さん?」
手を抜かせようとしましたが

「こんなに近くであなたを見たのは初めてだ」

杉菜が微笑みます。

「目を閉じてもらえませんか?」
「なんのために?」

「そんなこと言わせないでください。
ミドリさんがなんでもないなら、遠慮したくないんです」




<19時に検収口の前にいてください。>
杉菜の字でした。
いつも杉菜が書類を書いているのを隣で見ているので見間違いません。
枝垂は捨てにくいなと感じました。
走り書きのようでしたが、杉菜から初めてもらったメモです。
杉菜のことを意識し始めると、なんだかこのメモすら大事になるのです。
今日は枝垂も杉菜も19時あがりのシフトでした。
仕事が終わったら、待っていてほしいということですね。
今まで杉菜からこんな誘いはなかったので、どきっとしました。
なんだろう、
何か話でもあるのかな。
落とさないように上着の内ポケットにしまいこんで、売り場の整頓を始めました。


「枝垂さん。さっきはごめんなさい。怒ってる?」
いきなり声をかけられて驚きました。
前置きなしで声をかけていいのはお客様だけでしょうに、
気配を消してまで近寄るミドリの心境が枝垂には全く理解できません。
「あの。・・なんですか?」
「今晩、空いてない?ご飯食べたいんだ」
「今日は先約があります。すみません」
「・・このまえもそんなことを言ってた!どうしてすぐに断るの?僕じゃイヤなの?」
売り場で騒がれては困ります。
「ミドリさん、売り場に戻らないと皆が心配するから」
「だって!」
子供のように騒ぐミドリの手をとって、売り場に連れて行きました。
階段を上って、上のフロアー。
結構歩いたのにミドリがおとなしかったのは、枝垂が手を繋いだからでしょう。
きゅっと握り返すミドリに応えずに、売り場につくとさっと手を離して走って戻りました。

あんなところ、見られたくない。

そう強く思ったからですが。


誰に・・?

一歩踏み出すところに誰かの足が伸びてきました。
もう少しでこけるところでした、
「だれ?」
「お疲れ様」
杉菜が足を引っ込めました。
「仲がいいんですね。知らなかった」

「良くないですよ」

「そうですか?ミドリさんはすごく嬉しそうでしたよ。
あなたは怒りまくっていましたけど」


「それでね、枝垂(しだれ)さんについてきてもらおうと思って。
みんなは棚を変えるなら、作業に慣れているあのひとのほうが適任じゃないかって言ってたけどね。
僕は枝垂さんが好きだから。一緒に仕事がしたくて」
くわえていた煙草を落としそうになりました。
バイト先の休憩室です。
ほかにも人がいるのに告られるとは思いませんでした。
返事をしない枝垂に、
「ねえ、枝垂さん!聞いてる?」
ぐっと近寄ってきました。
「え、ごめんなさい。なんでしたミドリさん?」
「その敬語もやめて。僕はもっと枝垂さんと仲良くしたいんだ」
銀のピアスをつけた唇が、枝垂を非難しています。
「敬語だと距離を感じるんだけど!」
「あの、煙草の煙がかかるから。もっと離れて、ね?」

「今日の作業だけじゃなくてさ。
これから、ずっと枝垂さんと一緒に仕事がしたいんだ。
あのひととのチームを抜けてくれない?」

一方的に責めてこられても困ります。
今日は、たまたま一緒に仕事をしただけで。
いつもは別の部署なのでチームを抜けろも何も、自分の意思で決められることではないのです。
上司が決めた配置です。

それにさっきから、あのひと・あのひとって・・。
「ミドリさん。あのひとって誰ですか」
隠語で通じないのが、気に入らないようです。
ほっぺを膨らませて睨んできました。
「杉菜さんしかいないじゃん!」
最近は顔を見れば杉菜の話題になるので、嫌気がさしていました。
「杉菜さんの話はやめませんか?
俺は杉菜さんのことは特別に思っていないんですから」

「じゃあ、僕のことはどう思う?」
「別に、なんとも」
枝垂の言い方があまりにも冷たくて、同席していた先輩が肘をつつきました。
「枝垂」
「は?」
「ミドリちゃんは店のアイドルなんだから泣かせるなよ?敵を作るぞ」
「はあ・・」
気のない返事をしているとミドリが枝垂の煙草を取り上げました。
そのまま銜えて煙を吸って・・・思いっきりむせています。
「なにしてるんですか・・」
枝垂が背中をさすってあげると、「杉菜さんは煙草を嫌わないんでしょう?」
「もう、聞きたくないです」
枝垂は急にイラついて、休憩室を飛び出しました。

杉菜は枝垂と同じ部署です。
いつも一緒に仕事をしているだけで、お付き合いをしてはいませんが。
このミドリのように、枝垂にしつこく杉菜との仲を聞いてくるものは後を絶ちません。
おかげで何も思わなかったのに、だんだん意識し始めていました。



「もう休憩終わりですか?」
売り場に戻ると、杉菜が待っていました。
切れ長の瞳が、まっすぐに枝垂を捉えています。
「早くないですか?」
「ええ、まあ・・」
腕時計を見て、そのまま棚の作業にかかろうとしたら
「商品は並べておきました」
なんと杉菜が売り場を完成させてくれていたのです。
「あ、すみませんでした」
「いいえ。手が空いていたので。それよりも」
ぱしっと枝垂の手を掴みました。
そのままぎゅっと・・拳骨を作らされます。
「え、」
指に何かが当たりました。
「あとで読んでください。じゃあ、俺も休憩に行きますから」

どきっとして指を開くと、紙くずのようなものを握らされていました。
「なんだ、ごみか・・」
ごみのわけがありませんでした。




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