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 琉の営業成績に戸惑いを覚えながら、創はデスクに戻った。
ネクタイを緩ませて「ふう」と息を吐くが落ち着かない。
「なんか疲れた顔をしてる」
「は?」
 創が顔を上げると琉が頬杖をつきながら眺めていた。

「買い物カゴはどうなった?」
 痛いところを突かれて、創は眉間に皺が寄る。
そして疲労を感じたのか眼鏡を外して目元を指で押さえた。
「まだ返事が来ない」
「そうかー。大口の契約だもんなー、そうやすやすと決定がおりないだろうねー」

 創は『おまえの・のし紙ライターはどうなんだ』と言い返したくなる。
しかしこれは八つ当たりだ。
買い物カゴとは比にならないが、高価な機械を電話で購入させた琉の手腕には驚かざるをえない。

「明日は本社に行く予定だから、そこで話をつめてくるつもりだ」
「じゃあ、明日のお楽しみだねー」
 
 琉は創に微笑みかけると「さてと」と言いながら発注書を取り出す。
そしてパソコンの画面を見ながら「やっぱ、種類が多すぎるなー。手間がかかりそうだ」とぼやく。
 気になった創が眼鏡をかけ直しながら琉の手元をのぞきこむと、のし紙を発注しようとしていた。
のし紙の種類は多い。
葉書サイズから始まって、最大A4サイズまであり、しかも短冊形まで製造されている。
これをすべて自社で扱うとなると、相当な手間だろう。
しかしのし紙ライターを買わせたのだから、のし紙も在庫を持たなければならないのは当然だ。

――のし紙ライターとは『お祝』や『快気祝』、そして差出人の苗字など、
今まで店員が直筆で書いていたのだが、その手間を省く機械だ。
しかもきちんとのし紙をセットすれば、誰でも読める美しい字を書くので重宝する。
これは人件費の削減にも貢献するのだ。

「さてと。商品部に寄ってから帰ろうかなー」
 琉は立ち上がるとカバンと発注書を持ち、パーテンションで区切られた商品部のブースに行った。
それを見送っていた創に「油断しているとすぐに抜かれるぞ」と部長がハッパをかける。
「そうでしょうか」
「同期同士で切磋琢磨すれば、会社としては有難いんだけどね」
 そして部長もカバンを持って「定時だから帰るよ」とだけ言い、営業部から出て行った。

 しかし創は見逃さなかった。
部長は商品部に立ち寄り、どうやら琉の急ぎの発注をとおそうと力を貸したのだ。
 上司の応援があると意欲が変わってくる。
これで出世欲がなかった琉にも、仕事に対しての貪欲さが備わることだろう。
 
 創は負けられないと感じた。
眼鏡を指で上げるとパソコンの画面を見ながら買い物カゴの試算をしてみる。
全店購入なら、今までに無い高額の取引だ。
 創は胸の高鳴りを覚えながらもデスクの上で両手を組み、努めて冷静さを保った。
これなら琉の・のし紙ライターの売り上げを抜くことができる。
気分よくカバンを持つと、創も営業部を後にした。


 創が駅に着くと山間部に集中した豪雨の影響で、電車のダイヤが乱れていた。
ホームの電光掲示板は沈黙し、駅員が乗降客を誘導している慌しい中で、
創は腕時計を見ながら電車を待った。
 いつもなら自宅近くの駅に着いている頃だ。
だが電車は一向に来る気配が無い。
遠回りだがバスで帰るかと思ったとき、ホームに琉が駆け込んできた。
「お疲れー!まだ電車は来ない?」
「あ、ああ。まだ…」
 創は琉のテンションに圧倒されて言葉が続かなかった。
「やだなー」
 琉は大きなため息をつきながら、ふと創を見上げる。
「明日は朝から本社に行くんだろう?だったら社用車を借りて帰ろうよ」
「はあ?」
 意外な意見に創は面食らった。
「自宅から本社に直行すればいいよ。僕が部長にそう言っておくからさ」
 琉に腕をつかまれて駅を出た創は、会社に戻り社用車を借りた。
そして総務に「明日は直行します」と伝え、了解を得た。

「なーんだ。僕が話すつもりだったのに」
 琉は頬を膨らますが、何故か社用車に乗り込んでくる。
「おい。おまえを送るなんて聞いていないぞ」
「いいじゃん、たまには。ドライブしようよ」
 あっけらかんとした態度の琉に、創は勝てる気がしなかった。
なによりも営業成績で負けそうだと危機感を募らせているので、創はため息をついた。
「家、どこ?」
「国道を東へまっすぐ。後は『ここで右折』とか言うよ」
「…わかった」 
 なんともいい加減なナビである。
「突然曲がれとか言うなよ?」
「わかっているって」
 琉は楽しげに鼻歌まで歌いだした。
「面白いなあ。僕に営業成績を抜かれたらどうしようって顔をしてる」
 いきなりの直球だが創は落ち着いていた。
散々悩んだせいだろう、自分を取り戻していた。
「すぐに追い抜かすから平気だ」
「そうでなきゃ!」
「はあ?」
 創が隣の琉を見ると嬉しそうだ。
「競い合うのがそんなに楽しい?」
「相手が創だからだよ」
「ふーん」
 創は聞き流したが琉は真剣な眼差しで創を見つめていた。

5話に続きます
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「いや、そんな。店長さんだけが頼りなのにそんなことを言われると僕は…」
 創の目の前で琉が顧客と電話で話し込んでいる。
しかも目を潤ませて「お願いです」と話しているあたり、注文がキャンセルなのかと創は思った。
だがそれだけの理由で涙をこぼす理由になるだろうか。
大の男がみっともないと、創は呆れていた。
 無言でテイッシュを箱ごと琉のデスクに置くと、琉が一瞬だけ創を見上げた。

「ん?」
 なんと泣いているはずの琉が微笑んだのだ。

「ええ、店長さん。僕にできることならなんでも。ええ、はい」
 顧客には涙声で訴えるのだが、どうやらこれは演技だと創は気付いた。
「とんでもない俳優だ…」
 
 創が驚いていると部長が「今日も切れ味がいいな。これでまた注文をとるぞ」とにやりと笑う。
「部長、これは…」
「なんだ。知らなかったのか?秋山の隠し技・泣き落としとすがりつきだ」
 あまりにもあっさりと部長が言うので、創は目を丸くした。
「秋山は小顔で可愛い容姿だろう?それに背が低いのを武器にして顧客の懐に飛び込むんだよ」
「えっ?」
「顧客には元々可愛がられているから、お願いをすれば十中八九・注文を取れる」
 創は「なんてあざといんだ」と言葉を失う。
「ははは。1度秋山と一緒に顧客に挨拶したらどうだ?」
 部長は満足げに笑うと「うちのエースだな」と琉を見てうなづいた。

 その言葉に創は心中穏やかではない。
自分がナンバー1だったのに、覆される日が間近に来ていたのだ。
しかもそれが出世欲のない琉だとは。
 
 混乱しかけた創の前で受話器を置いた琉が「なに?」と聞いてくる。
「僕の顔ばかり見て、どうかした?」
「いや、なんでもない」
「あ、そう」
 琉は立ち上がると部長のデスクに駆け寄り「のし紙ライターの注文を受けました」と報告した。
「おお!凄いじゃないか!あれは130000円の機械だぞ?」
「あ、1台じゃなくて5台です。他店にも使ってもらうことになりました」
「素晴らしい!」
 部長が喜んで立ち上がり、琉に拍手をした。
「ありがとうございます。ちなみにのし紙も当社で請け負うことにしてもらいました」
「そつがない」
 部長は深くうなづいて背の低い琉の頭を撫でている。
「これでわが部署の今月の成績は昨年割れを回避したぞ」
「わー。部長。髪が乱れます」
「元々くしゃくしゃじゃないか」
 事務員たちも一斉に拍手をして「さすが、やるわねー」と賛辞の声を惜しまない。
 
 しかし創は複雑な気持ちでいた。
携帯を持って喫煙室に向かうと顧客に連絡を取る。
買い物カゴの件で色よい回答が欲しいのだ。
だが、店長は忙しいらしく取り次いでもらえなかった。
 
 琉のように姑息な手段で注文を受けるのは邪道だと創は思っている。
だが逆に、今まで正攻法で受注してきた自分が馬鹿らしくも思う。
 ナンバー1の実力を持つはずの創は、追い込まれた気がした。
これで買い物カゴの注文を取れなければ今月の営業成績は2番手に落ちることだろう。
 男としてのプライド、そして出世欲。
創は心の中で葛藤しながら、それでも不思議と琉をうとましくは思えなかった。
毎日口ケンカをしている割に少しは琉のことをかっていたようだ。

 それが同僚だからなのか、それともデスクがお見合い状態なせいなのか。
創ははっきりとしないこの想いを持て余していた。

4話に続きます
――和室に布団を敷き、浴衣姿のうら若き人妻が横になっている。
その足元に不審な男が座り込み、人妻の足を丹念にマッサージし始めた。
男はどうやらマッサージを職とする・昔で言う「アンマさん」なのだろう。
熱心に人妻の足を撫でるようにマッサージを続けるが、やがてその手は股間に達した。
「やめて」
 人妻の声は男を制することができない。
哀れにも人妻は股間はおろか胸元まで乱されて、豊かな乳房が男にわしづかみされた。


「何を見ているんだ!」
 帰社した創が眉間に皺を寄せながら、先に帰社していた琉を叱りつける。
「たまにはいいじゃん。人妻ものだよ」
 敵はあっけらかんとしたものである。
「会社のパソコンを使ってエロ動画を見るとはたいした度胸だ」
「まーね。これくらいの息抜きをさせてもらわないと気力が続かないよ」
「何を言っているんだ。仕事場だぞ!さっさと消せ!」
 琉は「今からいいところなのにな」と不平をこぼしながらサイトを閉じた。

「まったく。そんなものを昼間から見る奴の気が知れない」
 創は眼鏡を外してクリーナーでレンズを拭き始めた。
その顔を琉が珍しそうに眺めている。
「…なんだ?」
「目、切れ長なんだねー。こうしてじろじろと見たことがなかったからさ、初めて知った」
「…切れ長だったらなんだって言うんだ」
「そうカリカリするなって。ああ、どうしてそんなにいつも苛立つの?」
 琉はからかっているわけではない。
興味を持ったので聞いただけだ。
しかし年中苛立つ創にとっては、火に油を注ぐようなものだった。
 創は眼鏡を拭き終えて再びかけると、目の前で頬杖をついている琉をにらんだ。

「おまえとは話にならない」
「ああ、そう?思い込みじゃね?」

 2人の思惑はそれぞれが違う方向を向いている。
とても相容れない状況に、またしても事務員たちが給湯室に逃げ込んでいる。

「毎日、飽きないものねー。話が合わないのに会話しようなんておかしくない?」
「秋山くんが面白がっているようにも見えるけど」
 事務員たちもいい迷惑である。
「とにかくこの空気はもたないわ。そのうち部長に相談しようかしらね」
 誰が見ても反りの合わない2人なので、デスクの場所を変えるように提案しようというわけだ。
「でも『お見合い席』でかれこれ1年以上が過ぎているじゃない?今更無理よね」
 事務員たちは「ああ」とため息をつき、2人の会話が静まるのを見計らって席に戻った。

「ところで今日の首尾は?」
 創が琉に聞くと「事務用品はすべて受け持つことになった」とため息まじりに答える。
「事務用品か。粗利が取れないな」
 
 この商社は大手スーパーの包装資材を卸している。
しかし最近のエコ活動により、スーパーではマイバッグ持参運動を行っているので大打撃だ。
 昨年割れを起こしている現状で、営業マンとしては新たな注文をとるのに必死なのだ。
粗利が微々たる事務用品であっても現状よりも1歩前進と見るべきか、
それともピッキングに手間がかかって時間の浪費と見るべきなのか。

「でもラミネートマシーンも売れたよ」
「えっ?」
 創が初めて琉を見直した。
「まさか98000円の、高いほうか?」
「うん。35000円のマシーンは家庭用だから、連続使用に耐えうるほうがいいって勧めた」
「やったじゃないか!」
 創が珍しく手を叩いた。
そして「98000円なら粗利が30000円ってところか。大きいな」とうなづく。
「それでラミネートフィルムも全サイズ注文をとったから、事務用品の粗利は少なくてもいいかなって」
 琉が続けると創はやけに喜んで「フィルムも粗利が取れる。凄いな!」と誉めた。
その姿に琉が「僕がトップに立ったりして?」と笑う。

 すると創は眼鏡を直しながら「調子に乗るなよ」と釘を刺した。
「俺はそう簡単にナンバー1の座を譲らない。出世がかかっているんだからな」
「へえ?」
「事務用品なんて細かいものじゃなくて、俺は買い物カゴをプレゼンしてきた。あれなら粗利が取れる」
「うまくいくかな」
 自信満々な態度の創に琉が口角を上げた。
「は。俺を馬鹿にしているのか?買い物カゴは1店舗につき平均500は使用するんだぞ」
「よく調べたものだねー」
「当然だ。これでおまえよりも先に上に行く」
 いかにも出世をもくろむ男の野望である。

「そんなに急がなくてもいいんじゃない?」
 琉のつぶやきに創は「はあ?」と首をかしげる。
「あ、そうか、おまえは出世欲がなかったんだな。しかし男らしくないぞ」
 創がまた説教を始めようとしたとき、部長が帰社した。
「お帰りなさい」
 2人はそれぞれ今日の首尾を部長に報告すると、結果を出せた琉が誉められた。
創の提案した買い物カゴの返事はまだだ。
この注文が取れたら自分の勝ちだとばかりに、創は隣で誉められている琉を横目で見た。
『次は俺だ』と心の中で思い、また苛立たしさを感じた。

「創、ちょっと」
 急に琉に呼ばれて喫煙室に入ると、琉は煙草をくわえた。

「怒り丸出し。みっともなくね?」
 琉は創を見上げながらぼやく。
「怒ってなんかいない。それよりも煙草は止めるんじゃなかったのか」
「3日我慢して元どおり」
「…意志の弱い奴だ」
 創が呆れていると「なあ」と琉が身を乗り出した。

「結構、僕が話したことを覚えていたりするんだねー」
「ああ、覚えているさ。ろくでもないことばかりだけどな」
「ふうん。興味があったりする?」
「誰に?おまえに?そんなことは一切ない!」
 創は切って捨てるような言い方をするが、琉は楽しそうに笑う。
「普通は興味がなければ聞き流すんじゃね?」
 腕組をした琉に、創は「なにをいっているんだ?」と理解できない様子だ。
「灰が落ちるぞ、ちゃんとしろよ」
 琉のくわえたままの煙草から今にも灰が落ちそうだ。
「おっかしーの」
 琉は笑いながら煙草を灰皿に押し付けて揉み消した。
白くて細い煙が天井に上っていく。

「自分の気持ちから逃げなくてもいいのにさ」
「逃げる?なんのことだ」
 まだ琉の言わんとするところが見えない創は眉間に皺を寄せた。
「ま、いいや。僕は毎日楽しんでいるからねー」
 誘っておいて先にデスクへ戻る琉の後ろ姿を見ながら、創は「いいかげんな奴だ」とつぶやいた。

3話に続きます
「子供じゃないんだから、机の上くらい綺麗にしろ。見苦しい」
 営業先から帰社した藤川創(ふじかわ はじめ)は眼鏡を直しながら、
目の前の席に座っている同僚の秋山琉(あきやま りゅう)を叱り付けた。

「毎日同じことを言わせるんじゃない、聞いているのか?」
「ああ、聞いているよ。だから少しずつ片付けているじゃん」
 
 しかし琉の片付け方は創の思うようなものではなかった。
ファイルを一冊しまうと「あ、思い出した」と騒ぎ、違うファイルを取り出してパソコンに向かう。
そして「あの店に納品した型番はなんだっけ」などと言いながらまたファイルを取り出す。
 そんなときに琉宛ての電話が鳴れば収集がつかない。
「毎度ありがとうございます。●●商事です」
 そう言いながらメモを取り出す。
そして用件をメモに書くと、わざわざポストイットに清書してパソコンに貼り付ける。
これで乱れたデスクの出来上がりだ。

「要領が悪い!」
 この商社で営業成績ナンバー1の実績を持つ創は怒り心頭に達した。
「なんでそんなに怒鳴るかなー」
「見ていてイライラするんだ、琉、おまえにはな!」
 またしても創の怒鳴り声が室内に響く。
しかし琉はおびえたり怯む様子もなく、あっけらかんとした態度である。
これでは何を言おうと馬の耳に念仏の状態だ、大抵の人はここで諦めるのだが創は強かった。
眼鏡のズレを直しながら「早く片付けろ!」と続けた。
「俺のデスクにまでファイルが流れ込んでいるじゃないか!」
「目の前の席だから仕方なくね?」
「琉!」
 創が両手でデスクを叩くと、室内が静まり返った。
この空気に琉が周りを見渡すと事務員の女性が給湯室に逃げている。
そして遠巻きに見守るほど、創と琉の仲は悪かった。


――2人は昨年同期入社したのだ。
年は共に23歳、怒鳴りあうほど子供ではないのだが創の短期と琉の自己中な性格が災いだった。
 創は黒髪のベリーショートで縁なしの眼鏡をかけているせいか、知的な雰囲気の漂う営業マンだ。
180を越える身長も彼の存在を際立たせている。
そして琉は今どきの髪にエアリー感を持たせたパーマをかけ、しかも茶髪。
165センチの身長も手伝って、とても一流の商社に勤める営業マンには見えない。


「早く片付けろ。部長が帰社したら俺よりも怒鳴るぞ」
「はーい」
「伸ばすな!」
 
 ようやく落ち着きそうな空気を感じ取った事務員たちがデスクに戻ってくる。
そしてひそひそと噂話を始めた。
「藤川さんって、怒鳴りすぎてそのうち脳の血管が破れちゃうんじゃない?」
「イライラしすぎよねー。秋山くんだって頑張っているのに」
 どうやら女性陣には仕事のできる創よりも、2番手の琉のほうが受けはいいらしい。
「藤川さんって女嫌いって聞いたことがある」
「えー!じゃあ彼女がいないの?」
「いるわけがないじゃない。あんなにイライラする人よ?」

 この噂話がたまたま琉の耳に入ってきた。
「創は彼女がいないの?」
 琉はファイルで扇ぎながら目の前で渋い顔をしている創に聞いた。
「いない。だが、それがどうかしたのか」
 創は「扇いでいないで、さっさと片付けろ」と手で払う。
「好きな人もいないの?」
 まだくだらない質問を続ける琉に、創は呆れてため息をつきながら「好きな人はいる」と答えた。
「しかしおまえに教える義理はない。早くデスクの上を片付けろ」
「鉄壁だねー。個人情報は教えないタイプだ」
 琉が茶化しても創はびくともしない。
「定時で帰りたいんだろう?だったら無駄口を叩いていないでさっさと片付けろ」
「はーい」
「伸ばすな!馬鹿っぽい!」

 言い争いばかり続ける2人だが、帰宅する方向が同じなので自然と一緒に帰る羽目になる。
この商社はエコを推奨していてマイカー通勤を禁止し、公共交通機関を使うことになっていた。
「僕、混んでいる電車ってマジ苦手」
「…いい加減に妙な言葉使いを改めろ。お客の前でそんな言葉使いをしたら契約が取れないぞ」
「はー。そういうもんですかねー」
 同意していないのは明白だ。
「だからおまえは2番手なんだ。俺を抜くことができない」
「2番手で十分。僕は上を目指していないから」
「はあっ?」
 これは予想外だったらしく、創の声が裏返った。
「男が上を目指さなくてどうするんだ!」
「わかっていないなー。僕は創を抜く気にはなれないんだ。それだけのこと」
 琉が「ふふ」と笑うが、創には意味が伝わらなかった。

「抜けるはずがないからって言い訳か」
「はあ?…なんか面倒くさい人だなー」
 
 琉は目を丸くしつつ、創を見上げた。
「2年もこうして一緒に通勤しているのに、どうもわかってもらえない感じ」
 その言葉さえ創には理解不能だ。
「ま、いいけど。怒鳴られるよりはマシだ」
 含みをもたせる琉の言葉に、創は首をかしげるばかりだった。

2話に続きます
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