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2009.06.30 視界良好・9
 涼真は唯斗の指使いに翻弄され、ソファーの上で「んっ、んー!」と声を押し殺しながら体を揺らす。
数日前に遊び心でネットで見たエロ動画と同じように、自分は手コキをされていると思うとたまらない。
 しかも相手が唯斗だ。
自分が惚れている相手に手コキをされるなんて、嬉しさと同時に追い込まれた感がする。
「つ、強すぎ!出ちゃいます!」
「まーだダメだよ。早すぎる」
 そう言いながら唯斗は楽しそうに手コキを続けている。
「お、ようやく起つか?手のかかる子だなー。ま、それも面白いけど」
「まだ起ちませんよ!そう簡単に…」
 唯斗の手コキに痺れる感覚を味わいながら、それでも涼真は口だけは強気だ。
「ふーん?」
 その強気が唯斗は気に入ったようだ。

「俺を見たら起つんじゃない?」

 唯斗はタンクトップを脱ぎ捨てた。
そしてボトムも下着ごと脱いで体を起こし、前髪をかきあげながらようやく涼真に全裸を見せた。
「す・すご…」
 筋肉質は言うまでもないが、肌が綺麗なのだ。
そして汗でしっとりとしたヘアーの中に、涼真のそれよりも大きな茎が頭をもたげていた。
「おまえの裸で起つとはねー。俺は年下って苦手なはずなんだけどなー」
 唯斗は涼真の体をまたいだ状態で首をかしげる。
「ま、いいか。おまえの体は固そうだけど、面白いから抱いてあげる」
「頼んでいませんよ!」
 涼真は首を振って抵抗するが、下半身の痺れときたらかつてない感覚なのだ。
もっとこの先を知りたい・そう思いながらも口だけは達者だ。

「へえー?おまえが嫌がっても俺はしたいけどねー」
 唯斗は涼真の体に覆いかぶさり、唇をふさぎながら鎖骨を撫で、そしてそのまま手を下ろしていき、
胸を撫でまわす。
「んっ!」
 涼真が唯斗を跳ね除けようと手を伸ばすが絡め取られてしまい、両手を頭の上に押しつけられた。
すると緊張感が増したのか、陥没していた涼真の乳首が起き上がり、そのふくらみを唯斗が舐める。
「い、嫌だ!」
 体を反らして抵抗するが、唯斗は乳首を口にふくんで何度も吸う。
「く・くるしっ…」
 まるで電流でも流れたかのように涼真の全身が痺れてしまう。
そして股間は汗を帯び、ヘアーがしっとりと湿ると勃起した茎が丸見えになった。

「そんな…」
 唯斗相手に勃起する自分を信じられずに、涼真は力が抜けた。
しかし体は疼いていて、熱くてたまらない。
ソファーが熱いのか、それとも自分の体温のせいなのか、それすらも涼真は知ろうとしない。
熱にうなされたように目を閉じると、息が上がって「うっ」と胸を反らした。

「ふーん。反応が新鮮だな」
「は…」
 吐息混じりの声を上げると唯斗が「目を開けていろよ」とささやいた。
「俺の体のどこに蝶々がいるのか知りたいんだろう?」
 そして唯斗は涼真の手を解放すると再び茎をつかみ、あろうことか自分の茎をあわせ持った。
「な、なにをするんですか」
「俺も結構限界なんでねー」
 言うが早いか唯斗は2人の茎を同時に擦り始める。
「あ・ああっ!痛い、擦れて痛い!な・なんか変だっ!」
「痛いんじゃなくて、痺れているんじゃない?」
 唯斗に言当てられて涼真は顔が熱くなる。
「割といい感じでしょ?根元から先端まで擦ってあげるよ」
 ひょうひょうとした言い方をするが、唯斗の目は真剣だ。
固いものがぶつかり合う未知の感覚に、涼真は「ウウッ」と大声を上げて早くも爆ぜた。

「これからだって言うのに早いなー」

 唯斗は達せなかった茎から手を離し、今度は涼真の足を持上げて膝で折った。
局部が丸出しにされた涼真は焦り、手を伸ばして股間を隠す。
「今更そんなことをしても俺は止まらないよ?」
「こんなところを見ないでください!」
「見ないと入れられないんだけど?」
「い?入れるって…」
 涼真が顔を強張らせると、唯斗はまたしても吹き出した。
「そうか。年下には『教える』って言う快楽があるわけだ、初めて知った」
 唯斗の茎が涼真の秘部に迫る。
そのとき、唯斗の腿に小さいが鮮やかな蝶々の刺青があるのを涼真は見つけた。
「…こんなところに」
 一瞬力を抜いた涼真の秘部に、固くて熱いものが挿入された。
それは入り口を破壊するかのように乱暴に押し込まれ「ぐ、ぐうう!」と涼真が体を反らしても突き進んだ。

「痛い、痛い!」
「ちょーっと無茶だったかな?」

「唯斗さん!勘弁してっ!」
 涼真は全身を貫かれるような錯覚を覚えていたのだ。
目に涙を浮かべて「く・クウウン!やめて!マジで痛い!」と叫ぶが、唯斗の背に手をまわした。
本能的に快楽の入り口を知ったのだろう。
唯斗にしがみつきながら腰を震わせている。
「これじゃあ、よがる姿にしか見えないけどなー」
 唯斗はそう言いながら茎を抜こうとしない。
そればかりか嫌がる涼真の腰を撫でながら引き寄せ、力任せに根元まで押し込んだ。

10話に続きます
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2009.06.29 視界良好・8
 不意をつかれていきなりキスをされても、涼真は拒まなかった。
唯斗に取られた腕は肩の蝶々に触れたままで、自由になる片方の手で唯斗の胸に触れた。
そして焦れたようにタンクトップをつかんで握り締める。
じわじわと熱くなる体を感じ、芯がくすぶっているのを自覚したのだ。
 一方、唯斗は涼真の唇を舌で舐め、中に入りろうと試みていた。
歯列をなぞられ、苦しくなった涼真が口を開けるとそれはまんまと潜り込み、涼真の舌と絡み合う。
 涼真の鼓動は激しくなるばかりだ。
こぼれないように唾液を吸われ、下唇を甘噛みされた涼真は体が火照ってしまう。

「はあ…」
 
 全身が熱くて、もはや吐息しか出ない。
男に舌を入れられたことがないので動揺が激しく、また相手が唯斗なのがいけなかった。

「『近い』って、怒らないんだ?」
 唯斗がからかうように涼真の頬を突く。
互いの息がかかるほど近くにいるのだが、涼真は珍しく拒否せずに受け入れていた。
 そして肩に触れたままの指が震えている。
間近で見た蝶々の刺青は美しく、それ自体が生きているかのようだ。
しかも体を鍛えているのか痩せ気味に見える唯斗は、なかなかの筋肉質で魅力的に映る。

「そんなに蝶々が気に入った?」
 唯斗は自分から離れようとしない涼真に対して目を細めた。
「蝶々の刺青は肩だけじゃないよ。俺の体のどこにあるのか、探してみたい?」
 唯斗は唇を離すと、涼真をまた挑発する。
「探すって…。体を見てもいいんですか」

「見たいなら隅々までどーぞ。ただし、おまえが先に脱がなきゃ始まらない」

「えっ」
 再び涼真の胸の鼓動が早まる。
涼真は着ているシャツの襟元をぎゅっと握り、不安を感じながら体勢を整えた唯斗を見上げる。
「どうかした?」
「脱げってことは…その」
「セックス、したくないの?」

「えー!」

 涼真が素っ頓狂な声を上げたので、唯斗は吹き出した。
「面白いなー。ムードぶち壊しの上に拒むのか」
「こ、拒んではいません。だけど恥かしいんですよ!」
「同じ体なのに?」
 唯斗はまじまじと涼真を見つめた。
そして観察でもしているのか全身を見渡して「細すぎて骨が当たりそうだなー」とぼやく。
「柔らかい体が好みなんだけどねー。ま、たまにはいいか」
「よくないです!」
 涼真は焦れた体を持て余しながらも自分を騙して、唯斗の誘いを跳ね除ける。
同性同士のセックスなんて考えられないのだ。
「でも、俺の体を見たいんでしょう?」
「あ、あ・はい…」
「蝶々がどこにいるのか知りたいんでしょう?」
「そうです…」
「じゃあ、脱げ」

 唯斗に言い切られて、涼真は腹を決めた。
シャツを脱ぐと床に落とし、ベルトに手をかけた。
「潔いね」
 唯斗は脱いでいく涼真を眺めながら腕を組んだ。
まさに傍観者だ、涼真はジーンズを脱ぎながら騙されていないかと勘繰る。

「…本当に蝶々を見せてくれるんですよね?」
「探していーよ。だけど見つけられるかな?」
「見つけます」
 
涼真はケンカを買ったような気分でジーンズを脱ぐとこれも床に放置した。
そして下着に手をかけようとしたら「あれ。起たないのか」と唯斗がもの珍しそうに股間を見る。
「裸をさらして興奮しないの?」
「興奮よりも羞恥心と言うか、恐怖を感じます」
 涼真が素直に告げると、唯斗が口角を上げて微笑んだ。
そして涼真の下着の上から股間をまさぐり「固いじゃん」と笑う。

「いきなり触らないでください!」
「触らなくてどうするの。起たせてやるよ」
 涼真が何かを言おうとして口を開けるが、唯斗の手のほうが早かった。
唯斗は涼真を抱き上げるとソファーに運び、そこに横たわらせた。
 涼真は今から始まる行為に不安と喜びが錯綜する。
目の前にいる唯斗が自分だけを見つめていることに恥かしささえ覚えてしまう。
思わずクッションで上半身を隠しながら「あんまり見ないでください」とつぶやく。

「焦らすねー。ここまで来て初心なことを言われるとかえって燃えるんだけど」
 
 唯斗は涼真の体に圧し掛かり、クッションを取り上げてテレビに向けて投げた。
そしてあらわになった涼真の体を眺めると、下着を膝まで下ろし、
「つかまっていろよ」と言ってまだ起き上がらない涼真の茎をつかむと擦り始めた。


9話に続きます
2009.06.27 視界良好・7
パスタは美味なのだが、涼真は目の前の唯斗が気になってなかなか喉をとおらない。
「おとなしいなー。つまんないじゃん」
 
唯斗に指摘されて、これは身の上話でもしたほうがいいのかと迷う。
しかし父親は公務員、母はパート、飼っているのは雑種の三毛猫・こんな話を唯斗が面白がるはずがない。
 趣味の話はどうだろうと思うが、あいにく涼真は堂々と人に言える趣味はもっていない。
ネットサーフや友人と話すのは好きだが、それは趣味ではなくコミュニケーションだ。
 涼真は、むしろ唯斗の話を聞きたいところだ。
しかし話してくれるだろうか?破天荒なところがあるし、すぐに笑う、そんな唯斗に話がふれない。
 フォークを口に当てながらぼんやりと悩む涼真を見て、唯斗が口を開く。

「恋わずらい?」
「はあっ?」
 言当てられてしまった涼真は取り乱してフォークをくわえてしまう。
「で、相手は俺?」
「は…」
 フォークが床に落ちてコンと音を立てた。
「わかりやすいなー、本当に。そんなに俺が好き?ま・悪い気はしないけど」
 唯斗はパスタを食べながら「男に好かれたのはこれで2度目だなー」と予想外の言葉を口にした。

「前にもこんなことがあったんですか!」
 涼真は自分の気持ちを告れると思い、前のめりになったが唯斗の笑いを引き出しただけだった。
「面白いなー。俺が近寄ると『近い!』って怒るくせに」
「時と場合によります!」
「へー。初めて聞いた。だけどそれは自己都合じゃないの?」
 どうも唯斗の手のひらで遊ばれている気がする。

「…唯斗さんは僕みたいなのをどう思います?」
「おまえみたいって、なに?俺の着替えを眺めていたり、俺と話すときは赤面すること?」
「…眺めていたのは忘れてください。大体、唯斗さんもカーテンを引かずに着替えるからいけないんです!」
「暑いから仕方ないじゃん」
 唯斗は「着替えるときはクーラーをガンガンにつけたいところだけど、まだ6月だし」と続ける。
「それに早着替えができるから、特に問題はない」
「問題はありますよ。他の人に見られたら困るでしょう?」
「涼真みたいな子は、そうそういないよ」
 そして唯斗は鼻で笑うと「俺を観察するんだから」と思い出し笑いをしているようだ。
涼真は笑いものにされているのだが『涼真』と呼ばれたことに感激して気付かない。
1つのハードルを越えたような気さえする。
これで本当に付き合えたらどんなに嬉しいことだろう。
しかし、親と友人には言えない秘密になる。

「あのさ。俺が男に惚れられたのは高校生のとき以来だよ」
「へえ…」
「そのときは速攻でお断りしたんだけど、涼真ならいいかなーって思う」
「本当ですか…?」
「あれ。嬉しいの?」
 今度は唯斗が前のめりになって涼真を挑発する。
「躾の行き届いたいい子だし。なにより面白いしねー。だけど俺が好きってなかなか言わないなー」
 唯斗に頬を突かれて涼真は腹を決めた。
「い・言います。…好きです」
 しかし語尾が小さい。
「は?聞こえないぞー」
 唯斗に煽られて涼真は息を吸い込んだ。
「あなたの破天荒さに惚れました!」
「あははは。よーくできました!」
 唯斗は手を叩いて笑っている。
完全に遊ばれた、涼真はそう感じざるを得ない。
また・からかわれたと思い、涼真は落ちたフォークを拾って席を立ち、キッチンへ洗いに行った。

「涼真ー。泊まっていくだろう?」
「はああ?」
 思わず大声を出しながら振り返ると、食べ終えたらしい唯斗が皿を集めている。
「なに。泊まる気じゃないの?」
「部屋に帰りますよ!」
「それじゃあ、付き合っていることにならないねー」
 唯斗が空になった皿を流し台に乗せ、「俺に慣れたでしょ?なら、泊まればいいじゃん」などと言う。
「泊まる意味がわかりません…」
 涼真は頭がクラクラとしてきた。
泊まるとなれば、相手が女性ならすることは1つだ。
しかし唯斗相手に、何をすべきか見当がつかない。
並んで眠るのは緊張して、到底できそうにない。
「大学生にもなってそんなことを言う?もしかして童貞?」
「違います。それに童貞かなんて関係ないでしょう」
「なーんだ。色々教えてあげようと思ったのに」
 その『色々』に涼真は誘われた気がした。
「お言葉に甘えて、泊まってもいいですか」
「どうぞ?」
 唯斗が口角を上げて微笑んでいる。
並んで立つと身長差を感じるのだが、唯斗は涼真のためによく膝を曲げる。
涼真と視線を合わせるためだ。
その気配りにも涼真は感激してしまった。

「付き合ってもいいんですよね、じゃあ、触ってもいいんですか?」
「いーよ。どうぞ?」
 唯斗は涼真の手を取ると「どこがいい?」と聞く。
「肩。蝶々に触りたいんです」
「へえ?」
 唯斗はさほど驚かずに涼真の手を導いた。
そして涼真が蝶々に触れたとき、唯斗は涼真の顎を指で上げて唇を重ねた。

8話に続きます
2009.06.26 視界良好・6
「おー。よしよし、昨日よりも早く来れたなー」
 全力で走ってきた涼真は体を折って膝に手を当て、苦しそうに呼吸をしていた。
そんな涼真にタンクトップ姿の唯斗が頭を撫でてやっている。
「忠実な子だなー」
「…僕は、犬や猫じゃないんですけど」
「走って来いとは言わなかったのに全力疾走?そんなに俺の生着替えが見たかった?」
「違います!」
「ここまで来たら否定しなくていいんじゃない?」
 唯斗の言葉に涼真は肩が震えてしまう。
悔しいことに、言当てられた気がするのだ。
自分の気持ちに向き合わない涼真だが本能で全力疾走し、こうして唯斗に会いに来たのだから、
自覚を促す言葉に胸が苦しくなる。

「僕は…」
「ん?」
 唯斗が片膝をついて涼真の顔をのぞきこむ。
「顔、赤いよ?」
「近いし!見ないでくださいよ!」
「こんなところで悩んでいないでさ、ま・あがれよ」
「…お邪魔します」
 涼真が部屋にあがると、唯斗は冷蔵庫からエビアンを出して「飲んだほうがいいよー」と渡した。
「梅雨どきにそんなに汗をかいてさ、脱水状態になったら困るでしょ」
「はあ、いただきます」
 涼真が素直に受け取ると、唯斗はタオルも貸してくれた。
ふかふかのそれは石鹸の香りがして、とても1人暮らしの男が所持しているものとは思えない。
やはり洗濯をしてくれる彼女がいるのだろう、涼真は汗を拭きながら思いつめた表情をする。
見知らぬ誰かに嫉妬している自分にまだ気付かない。

「なにを考えているの?悩みごと?」
 急に唯斗に声をかけられて、涼真は慌てた。
しかも顔を上げたら唯斗の顔が近くにあって「近い・近い!」と連呼した。
「面白いなあ。表情がすぐに変わるから見ていて飽きないなー」
「酷い言い方です」
「そう?俺は誉めているんだけどね」
 唯斗は涼真の側から離れようとしない。
なにを企んでいるのか、涼真には見当がつかない。
 
 ただ、涼真は唯斗の肩に注目してしまう。
蝶々の刺青だ。
唯斗が動くたびにそれは揺れ、まるで羽ばたくかのように見えるのだ。
 すると唯斗が1歩近づき膝を折ると「何を見たいのかなー?」と挑発してくる。

「体に触りたい?」
 不意に唯斗が涼真に直球を投げた。
「は、はあ?」
 涼真は持っていたエビアンを思わず強く握り締めた。
柔らかいペットボトルがクシャッと音を立てて変形する。
「見ているだけじゃ満たされないんだろう?」
 この挑発的な言い方で、涼真はそそのかされたように顔を赤く染めた。
そんなはずは無い・またからかわれているんだと思いたくても、体が熱くなるばかりだ。
「ちがい…」
 首を振って否定するはずが声がかすれて言葉にならない。
「違うかなー?」
 追い込まれて涼真は口をつぐむと首を振った。
「ま、いいや。俺だってタダでは触らせないからねー」
「は!お金を取るんですか!そういう商売もしているんですか?」
 すると唯斗が吹き出して「この子、俺をなんだと思っているんだろう?」と大笑いをする。
「はー。面白い。駅前の立ちんぼじゃあるまいし、体を売っていないよ」
 唯斗は目に涙を浮かべて笑っている。
「あ、立ちんぼってわかる?売春している人のこと」
「わかりますよ。それよりも、じゃあ、なんで『タダでは触らせない』って言うんですか」
 すると唯斗が珍しく真面目な表情を見せた。
いつも笑うかふざけている男のこんな姿に、涼真はときめいてしまう。

「付き合っている相手にしか触らせない。当然でしょう、俺は安くないよ」

 涼真は胸の鼓動が早まるのを感じた。
ただでさえ男前の唯斗の真面目な表情と、そしてこの心意気に魅せられて、
すっかり心を奪われてしまったのだ。
 自分にはないプライドの高さと自由奔放そうな言動もうらやましくなる。

(僕は、この人が好きなのかもしれない)
 
 ようやく涼真は自分の異変に気がついた。
だが、自覚したからと言ってすぐに行動できる性格ではない。
好きだと告るべきなのか、それともこれは胸のうちに秘めて棺おけまで持っていくべきなのか。

「さー。キッチンは釜茹で状態になるぞ。リビングに行ってろよ」
「えっ。えー?」
「何を驚いているの。晩御飯はパスタでもいいだろう?なんか文句ある?」
「作れるんですか!」
 涼真は唯斗のことを1つ知れた喜びに胸をときめかせた。
「凄い」
「茹でるだけじゃん」
 まさにいい加減な男である。
しかし涼真はどうしてこの人は爽やかなんだろうと、恋に落ちたと気付いてから唯斗を見つめてしまう。
 やがてぐらぐらと煮え立つ鍋から熱気がむんむんとしてくるのだが、涼真は動こうとしない。
唯斗を見ていたい、そんな気持ちに駆り立てられているのだ。
 その視線に気付いた唯斗が「目が泳いでいる」と指摘した。
「そんなに腹が減ったの?」
「え」
「俺を見ていてもここでサウナ状態になるだけだよー。さ、行った行った」
 涼真は複雑な想いを抱えながら、唯斗に言われるままリビングで待機することにした。
キッチンに立つ唯斗の背中を見ながら、涼真はこの想いをどうしたものかと悩んでしまった。

7話に続きます
2009.06.25 視界良好・5
「なんだ。女が好きなんじゃないか」
 昼休みに事務所の前を通りかかった涼真は、室内で事務員と談笑している唯斗を見かけたのだ。
「散々からかって、これか」
 男が女を好きなのは当然だ。
しかし涼真はどうしても腑に落ちない。
『付き合おう』と言ったくせにと、苛立たしくなる。
「何がしたいんだよ、あの人は」

「涼真、何をぶつぶつ言っているんだ?」
 友人の里田は独り言をつぶやく涼真を心配して室内をのぞいた。

「あ、さっきのお向かいさんじゃないか」
「声が大きいよ!里田!」
 明らかに涼真の声のほうが大きく、唯斗が気付いて顔を上げる。
そして涼真を見つけると「そんなに俺が気になるわけ?」と言いながら歩み寄ってきた。
自信に満ち溢れた笑顔がやけに眩しく、涼真は日差しをよけるように手をかざす。
「後光でも見えた?」
「そんなものは見えません!」
「じゃあ、何か用事?」
「用事もありません、失礼します!」
 涼真が頭を下げて立ち去ろうとしたが、唯斗が「いつもストレートだなー」と笑う。
「俺に対して警戒しすぎ。もう慣れただろう?拒んでばかりだと余計に気になるぞ」
「…気になりませんよ」
「おまえじゃなくて、俺が」
 
 唯斗は腰に手を当てて、やや前傾姿勢をとる。
この格好だと涼真と視線が合うし距離が縮まるようだ。
「近いです!」
「ランチでも奢りたいところだけど、あいにく多忙だから会社に戻らないといけないんだ。悪いね」
「…ランチの期待もしていませんが、何が『多忙』ですか。事務員さんと話していたくせに」
「あ、嫉妬?」
 その一言に涼真は胸がちくりと痛んだ。
「そんなわけがないでしょう!もう、いい加減な人だ!」
 涼真は体が熱くなるのを感じながら、背中を向けて駆け出した。
里田も慌てて「涼真、どうしたんだ?」と叫びながら追いかけた。


 唯斗の登場で涼真の1日は混乱した。
講義を受けていても頭に入らず、ずっと唯斗のことばかり考えてしまった。
 涼真は自分はゲイではないと思いながらも唯斗が気になるのだ。
唯斗を想うと胸が高鳴り、体が熱くなる。
しかしこれは知恵熱かもしれないと、自分の気持ちに向き合おうとしなかった。


 帰宅するといつもの調子で「ただいまー」と言ってしまうが反応は当然無い。
1人暮らしの寂しさを痛感する一瞬だ。
しかも室内は閉め切っていたので湿度の高さを感じ、ベランダの窓を開けた。
すると涼しい風が舞い込んでくる。
「あー、気持ちいい」
 手摺をつかみながら思わず唯斗の部屋を見るが、まだ帰宅していないらしく室内が暗い。
「…会社員って、いつ帰宅するんだろう」
 涼真の父は公務員なので遅くとも18時には帰宅していた。
時計を見るとまだ16時、唯斗が帰宅するとは思えない。
ふう・とため息をついて涼真は自分の愚かさに感づいた。

「なんで僕があの人の帰宅時間を気にしなくちゃいけないんだ?」
 
 1日唯斗のことを考えていた割りに、気付くのが遅い。
「嫌だ、嫌だ」
 何かをふり払うかのように頭を振ると、ガラッと窓が開く音が聞こえた。
思わず顔を上げると、スーツ姿の唯斗が煙草をくわえながらベランダに立っていた。
「お疲れさーん」
 唯斗は涼真がいたのを知っていたのだろうか。
驚くこともなく、平然と煙草に火をつけた。
「で。なんか用事?」
「な、なんでもないです」
 涼真は手摺につかまっているが指先が震え、手に汗をかいていた。
まるで緊張しているかのようだ。
「そんな素振りには見えないけどなー。俺がいないから寂しかった?」
「…何を言い出すんですか!」
「当たりでしょ?」
 唯斗は煙草を口元から離して白い煙をたなびかせる。

「俺と付き合う気になった?」
 スーツ姿で、にやりと笑う唯斗が涼真には刺激的だ。
見慣れないスリムなスーツ姿には昨日見てしまった体が隠されている、そう思うと体がじわじわと熱くなる。
涼真は年上の同性にこんなに惹かれたことはない。
「返事はー?」
「な、なりません!どうして僕が…」
「結構、好みだからさ。可愛い顔をしているし、からかうと面白いし。飽きないよねー」
 唯斗は携帯灰皿に煙草を入れた。
そんな細かい仕草まで見えてしまうこの距離にも、涼真は胸の高鳴りを覚えてしまう。

「俺が好き?」
「な!何を言い出すんですか?」
「聞いているのはこっち」
「そんなことを大声で言うものですか!」
「よし、おまえの気持ちはわかった。付き合ってやる」
「はああ?」
 涼真はまたしても唯斗のペースに巻き込まれている。
「まずは夕飯だなー。こっちに来いよ」
 手招きをされても涼真は「行きません!」と拒む。
「美味しいシュークリームを会社でもらったんだけどなー」
 唯斗は口角を上げて微笑んだ。
「それともそこにじっとして、俺の着替えを見たいわけ?」
「見たくありません…」

 涼真はシュークリームに釣られたのだと自分に言い聞かせて「行きます」と返事をした。
しかし顔が熱いし、体がだるい。
動悸も激しくてこれは何かの病気ではないだろうか。
「相変わらず赤面するなあ。人見知りするタイプ?」
「そんなことはどうでもいいでしょう」
「知りたいから聞いてるんだよ?」
 声に甘さがあって、涼真はどうも唯斗には勝てそうに無い。
涼真は熱い頬を抑えながら「人見知りはしますけど、迷惑をかけていないからいいでしょう」とぼやく。

「聞こえないぞー?」
「だから!人見知りをします!」

「じゃあ、慣らしてやるよ。俺が着替え終わるまでに来い」
 そう言うと唯斗はベランダから離れて部屋に入り、カーテンを閉めてしまった。
途端に胸が苦しく、寂しさを覚えた涼真はいたたまれなくなり、部屋を飛び出した。


6話に続きます
2009.06.24 視界良好・4
 涼真は迫られるならブラジャーとパンツ姿の美乳なお姉さんがよかったとつくづく思う。
もしくは会社の制服姿だ、まるでコスプレだが涼真は年上の女性に惹かれるタイプらしい。
 しかし引っ越してきて初めて見たのが唯斗の生着替えとは、この先の人生が思いやられる。

「はー」
 
 暇つぶしに見ていた動画サイトを再びクリックして、画像を眺めた。
それが動物であろうと、セックスして喘いでいる女性だろうと、なぜか涼真は気が向かない。
唯斗との会話が涼真に疲労を感じさせているのだ。
ぼんやりと見ているとおなかが鳴った。
「あ、おなかが空いていたんだった…」
 つぶやいても1人・である。
自分で行動しないとご飯を食べられない。
 涼真は引越し前は自炊する気でいたが、1人分ならコンビニの弁当を買ったほうが安いと知った。
500円あれば弁当が買える時代だ。
しかし自炊ならそうはいかない、しかも野菜などは使い切れないだろう。
トータルで考えるとコンビニの弁当で十分だと涼真は思い、弁当を買いに外に出た。

 まだ歩き慣れない道である。
街灯が照らす道を歩きながら近くにコンビニがないかとキョロキョロしていると、
数メートル先の信号を渡ったところに一軒あり、その斜め向かいにもある。
 これはラッキーだ、涼真はさっそく信号を渡るとコンビニに入った。
「いらっしゃいませ」
 レジを見ると可愛らしい女性店員が立っている。
涼真は『これからもここに通うぞ』と心に決めて弁当を物色し始めた。
引っ越したからソバでもいいが、ご飯が無性にたべたくなり唐揚弁当を手にした。
そして食べ損ねたシュークリームも取り、レジに向かおうとしたら弁当の上に野菜ジュースが乗せられた。
「はっ?」
 思わず隣を見ると、なんと唯斗が立っていた。
しかも「野菜も取らないと肌が荒れるよー?」などと言う。
「ひっ!追いかけてきたんですか?」
「まさか。そんな面倒くさいことを俺がすると思う?単純に腹が減ったんだよ」
「…あなたのことなんて、これっぽっちもわかりません」
 涼真は野菜ジュースを棚に戻すと、ため息まじりでレジに向かう。
可愛い女性店員にレジをしてもらい、なんだか得をした気分でいたら背後に気配を感じる。
見返ると隣のレジで唯斗が煙草を買っていた。

(煙草を吸うのかー)

 まるで新発見をしたかのように涼真は胸がときめいた。
涼真の脳内では何も知らない子供のように、煙草を吸う大人はかっこいいのである。
唯斗をまじまじと見ていると、突然見返されて涼真は戸惑った。
そしてコンビニの袋を持つと逃げるようにコンビニを後にした。

 ベランダのカーテンを閉めて1人で弁当を食べていると寂しさを感じる。
昨日までは家族と一緒に食べていたせいだろう、
しかしこの寂しさに耐えなければ1人暮らしは成り立たない。
「はー」
 なんだか食欲も落ちて弁当を半分残してしまい、涼真は床に転がった。
ひんやりとした感触が心地いい。
しかしもっと涼しくなる方法を涼真は知っている。
ベランダを開ければいいのだ、しかし唯斗に気付かれないだろうか。
『俺たち、付き合おうか』
 あのからかいぶりが目に浮かぶ。
だが涼しさには変えられない、涼真はカーテンをつかむと思い切って窓を開けた。
「あれっ」
 唯斗の部屋は明かりが消してあった。
肩透かしをくらった気分だが、これで堂々と風を受けることができる。
涼真はベランダに立つと、ようやく深呼吸をし、これから頑張るぞと誓いを新たにした。




 翌朝涼真が大学に行くと、友人の里田が「1人暮らしはどう?」と聞いてきた。
「楽・と言うか、自分で全部やらないといけないから大変な気がする」
「あれー。涼真が自分で決めたことだろう?頑張れよ」
「そうだな」
 涼真は里田と並んで歩きながら談笑した。
「隣の部屋に綺麗なお姉さんが住んでいない?そういうこと期待するんだけど」
「里田が想像しているようなことは無さそうだよ。かえって向かいのマンションに…」
 涼真は唯斗のことを言いかけて口を閉じた。
「向かいのマンションに・なんだよ?」
「なんでもない、忘れてくれ」
 
 自分でも忘れたい事柄だ。
しかしそんな涼真の前に立ちふさがり「おはよー」と声をかける男がいた。
その男のスーツ姿に魅せられて誰なのかピンとこなかったが、笑顔を見て動悸が激しくなった。
「はあっ!どうしてここにいるんですか!マジでストーカーですか!」
「失礼だなー。俺はこの大学に事務用品を届けているんだよ。もちろん、仕事でね」
 スーツ姿の似合う男は唯斗だった。
そして唯斗は「ほら」と名刺を渡してきた。
そこには営業部と記されている。
「ストーカーならおまえのほうじゃないの。俺が行く先々にいるし」
「ありえません!…だけど本当にサラリーマンだったんだ…」
 涼真が驚いていると里田が「知り合い?」と聞く。
「あ、うん。向かいのマンションの…榎木唯斗さん、昨日知り合ったんだ」
「へえ?向かいの?あ、涼真の友人の里田です」
 里田が軽く頭を下げると唯斗は「かしこまらなくていいよ、俺はただの営業マンだし」と言う。
「だけど、そのうちこの涼真と付き合う予定」

「はあっ?!」

 里田が目を丸くして「涼真?」と肩を揺さ振るが、涼真は顔を赤くして口をぱくぱくとさせるだけだ。
「し、信じられない!こんなところまで来てからかうなんて!」
「だからー営業で来たの。からかっていないよ、ふざけているだけ」
 唯斗はまた大笑いをして「おなかが苦しい」とさえ言う。
「こんなに面白い奴は初めてだ、あーおかしい。からかうのが癖になりそう」
「癖にしないでください!行こう、里田!」
 涼真は里田の手首をつかんで猛然と駆け出した。
「いいのかよ?お向かいさんだろう」
「いいんだって!あの人は僕をからかうのが好きなんだ、ちくしょう、構われたくないのに」
 涼真は唯斗にからかわれたくないのだ。
目が合うと何故か鼓動が激しくなるし、顔どころか体も熱くなる。
それがどうしてこうなるのか、涼真は考えようとしなかった。
「いつもすぐ近くにいるし。もう、嫌だー!」
「はあ?涼真、大丈夫かー?」
 里田の声が届かない涼真は、ただ走り続けた。

5話に続きます
2009.06.23 視界良好・3
「なにこれ。俺が頼んだのは靴だけだぞ」
「…『人の家にお邪魔するときは手ぶらで行くな』と親に教わりましたから」
 涼真が唯斗に差し出したのは投げつけられた片方の靴と、小さな紙袋だ。

「なにが入ってんの」
「シュークリームです。後で食べようと思っていたんですけど」
「あ、好物。ありがとうー。いい子だなー」
「ひっ?」
 涼真は唯斗の笑顔を間近で見てしまい、激しく動揺した。
「ち・近いです!」
「そう?普通の距離じゃね?」
 確かに2人の間に人が1人入れる距離だ。
しかし唯斗を激しく意識している涼真には耐えられない近さなのだ。

「ま、入れば?」
 唯斗はドアを開けると靴を先に入れ、意外にも大事そうに紙袋を持ちながら涼真に手招きをする。
「お邪魔する気はありませんから。ここで失礼します!」
「このシュークリーム、食べたいんじゃないのー?」
「…また買い直します」
「突っ張るんじゃないよ、大谷涼真」
「はっ」
 涼真は背中をどんと押されてしまい、よろよろと玄関に入り込んだ。
「こうでもしないと入らないのか。これも親御さんの躾?」
「違います!」
「そうだろうねー。俺を意識しすぎて頭が正常に作動しないんじゃない?」
「機械じゃありません!」
「でも凄く緊張しているんだろう?手足がガタガタ震えているじゃん」
 唯斗が口角を上げて「別に取って食うわけじゃないのに・さ」と笑う。
その笑顔を見ながら、涼真は言当てられて顔が熱くなってきた。
どうして自分が唯斗を意識してしまうのかわからないまま玄関に立っていた。
 そんな涼真に構わず、唯斗は靴を脱いでさっさと部屋に上がる。
そして見返ると「動かないなー」とぼやいた。
「狭いところで萎縮していないで上がれよ」
「…お邪魔します」
 
 涼真が渋々靴を脱いで部屋に上がると「わ、広い」と思わず声を上げてしまった。
自分が住んでいるマンションとは部屋割りが異なり、広いリビングが見えたのだ。
しかも白いカーペットに赤いソファーが置かれてある。
まるで洒落たカフェのようだが、これは男の1人暮らしにしては派手だ。
恐らく彼女がいるのだろう、唯斗はなかなかの男前だからな、涼真はそう解釈をした。
 
 しかし涼真はキッチンに立つ唯斗の後ろ姿を見て、急に胸が高鳴る。
これは一体どうしたことだろう、涼真は唯斗の背中に見蕩れてしまった。
「茶でも飲むー?」
 振り返った唯斗に、涼真は大袈裟なくらいに驚いた。
「け・結構です」
「なーんだ。せっかく引越し祝いでもしてやろうと思ったのになー」
「祝い?」
「そ。もしかして遠慮しているのか?」
「遠慮じゃありません、知らない人に接待されるのは恐怖を感じます」
「恐怖だって?じゃあ、警戒していたのか!これは面白いなー」
 唯斗は流し台にもたれながら涼真をじっと見つめる。
「…俺が飲み物に何か入れやしないかと、警戒しているんだ?」
 だんまりを決め込む涼真に、唯斗は「傑作だ」と吹き出した。

「何か期待しているなら裏切っちゃうけど、俺はおまえに何かしようとは思っていないよ」

「は。僕だって、して欲しいとも思っていません!」

 涼真は顔どころか体まで熱くなるのを感じながら吼えた。
いかにも小動物が自分より大きな体を持つものに対して威嚇するような叫びだ。
しかし、唯斗を笑わせるだけでなんの効果もなかった。

「なーんだ。男が好きな奴かと思ったけど違う?」
「ご・誤解です」
「じゃあ、俺に惚れたとか?」
「違います!知らない人を急に好きになるような発情期じゃありません!」

 涼真が何を言っても唯斗のツボらしかった。
もたれていた流し台から崩れるように床に尻をつけると目に涙まで浮かべて笑っている。
「あー、こんなに笑ったの・久し振り」
 唯斗は楽しそうに涼真を見上げた。
「俺たち、付き合おうか?」
 予想もしない誘いに涼真はしびれたかのように指先が震える。
「まんざらでもないんでしょ?」
 唯斗は床に手をつくと、ひょいと立ち上がって前髪をかきあげた。
その仕草1つも、涼真の眼を惹いてしまう。
「…男が好きなんですか?」
「違うよ。見るからにノーマルだけど?」
「からかうのもいい加減にしてください!」
 涼真は玄関に走り、急いで靴を履くとドアを開けようとしたが開かない。
「ロックを外さないと出れないよ?」
「わ、わかっています」
 しかし慣れないことは急いでするものではない。
ロックの外し方さえ涼真はわからない。
もたもたしているうちに、唯斗が玄関先に座り込んだ。
そして背中越しに「逃げられると火がついちゃうんだよなー」とぼやいた。

「へっ?」
 
 涼真が振り返ると唯斗が首をかしげていた。
「興味が湧いた。やっぱ、付き合おう」
「そ、それはお断りです!有り得ないです、男同士なんて!」
 早く外に逃げたい涼真だが、焦ると非常に不器用だ。
いまだにロックが外せない。
焦るからこそ簡単なことができないのだ。

「そこ、あんまりガチャガチャされると傷がつくんだけど」
「あ、すみません」
 
 思わず手を離した涼真だが、唯斗に尻を触られて「ぎゃっ!」と声を上げた。
「いいか?よーく聞け。俺は平日休みのサラリーマンだ。だから学生のおまえと付き合える」
「僕は付き合うなんて言っていません!」
「威勢がいいなー。あんまり拒むと、さらに火がついちゃうよ?」
 唯斗は涼真のジーンズの中に手を差し込んだ。
「わ!何をするんですか!」
 涼真が騒いでも唯斗は引き下がらない。
そして直に尻を触ると「あれ。柔らかいなー。心が動くかも」
「そ。それは、体が目当てなんですか!」
「おまえも俺の裸に見蕩れたんだろう?」
 そう言われると返す言葉がない。
「…好きで見たわけじゃないのに。謝らせたいから、からかうんですか?」
「見るのはタダ。別に見られて困る体じゃないし。それにからかっていないよ?」
「え、そうなんですか」
「ふざけているだけ」
 その言葉に涼真は苛立ちを隠せない。
「帰りますから、開けてください!」
「よく吼える子だなー。俺にどう思っていて欲しかったんだ?」
「…そんなの、僕にはわかりません」
「耳まで赤くなって『わからない』はないでしょう?」
 そう言いながらも唯斗はドアを開けた。

「いつでも来ていいよー」
「2度と来ません!」
 涼真はようやく解放された安堵感と、からかわれた悔しさで胸が押し潰されそうだった。


4話に続きます
2009.06.22 視界良好・2
「どうせならOLのお姉さんの生着替えを見たかった!」
 部屋に戻った涼真は大きな声で独り言を発した。
それに開かずの間と化したベランダを見ると怒りが湧いてくる。
見たくて見たわけではないと言いたいところだが、唯斗の体に魅せられたのは確かだ。

「あんなちゃらちゃらした男がサラリーマンのはずがないし!」
 涼真は唯斗を疑っていた。
行き場のない怒りとともにそれは高まり、2度と顔を見たくないとさえ思う。
憤慨しながら入れたコーヒーは苦く「うえっ」と舌を出しながら接続を終えたパソコンを見た。
 
 今日は大学に行く気がなかった。
暇つぶしに動画サイトを見ると、ノーマルなものから危ないエロ画像まで色々と出てくる。
<幼妻が夫の留守中に…>などと卑猥な宣伝文の画像を見ると、隠し撮りだった。
 最近はこういうものばかりだなあと涼真は苦すぎるコーヒーを飲みながらぼんやりとした。
こんなものを見ていたら日常的に発情しそうで、涼真は別の画像に切り替えてみた。
<我が家の猫>と題して三毛猫が爪とぎをしている動画を見て、これはほのぼのしすぎだと呆れる。

「はあ」
 退屈をしていると、ふとカーテンに閉ざされたベランダが気になる。
唯斗は出かけているはずだから、開けてみよう・そう思い立ちカーテンを開けた。
 すると涼しい風が入ってくる。
梅雨の晴れ間と言うべきか、6月にしてはひんやりとした風だ。
これはいいなあとベランダに出て風を受けていたら、向かいの部屋のカーテンが開いた。

「わ」
 
 慌ててベランダから避難しようとすると「大谷涼真。そんなに俺が見たい?」と大声で聞かれてしまう。
なんて恥かしい人だ、涼真は顔を見ないようにして部屋に入るとうつむいたまま窓を閉めた。
 すると突然ゴンと大きな音がする。
涼真が顔を上げると、なんと窓に靴が投げつけられていた。
「あ、危ないじゃないですか!窓が割れたらどうしてくれます!」
「そう簡単に割れないよ」
 唯斗は手摺に寄りかかって涼真を見ていた。
「大谷涼真。大学には行かないのかー?」
「今日は休みました。どうせ講義も1つしかないし」
「は?さっきみたいに大きな声で言わないと聞こえない」
「…今日は・お休みしました!」
 涼真が腹から声を出して叫ぶと、唯斗が大笑いする。
「…ちゃんと聞こえていたんでしょう?なんて人だ!」
「ふふ。からかいがいのある子だなー。靴を持ってちょっとこっちに来いよ」
「はああ?」
 涼真が不審がって身を乗り出すと「危ないよー」と唯斗が微笑む。
「そこがいくら3階だからってね、落ちれば足の骨くらいは折れちゃうよ?」
「わかりますよ、それくらい!」
「よく吼えるなー。面白い」
 唯斗は興味深そうに涼真を眺めている。
「本当は高校生なんじゃないの?」
「大学生です!」
 涼真はだんだんムキになる自分が恥かしくなってきた。
しかし唯斗はその様子が面白いらしく、涼真から目を離さない。
「かーわいいね。早く靴を持ってこっちに来いよ。それともその靴が欲しい?」
「片方だけの靴なんていりません!」
 涼真は靴を拾うと部屋に入り、すぐさま玄関で靴を履いて向かいのマンションに行くべく駆け出した。
すっかり唯斗のペースに巻き込まれているが、涼真にその自覚はなかった。

3話に続きます
2009.06.22 視界良好・1
 ベランダの窓を開けると向かいのマンションの一室で、若い男が着替えをしているのが見えてしまった。
ローウエストの黒い下着1枚の姿で、左肩に蝶々の刺青が入っている。
その肩に色目を抑えた茶色い髪がかかっていて、白い肌を際立たせていた。

(えー!)
 
 涼真(りょうま)は声を押し殺し、ただその姿を呆然と見続けてしまった。
 念願だった1人暮らし初日に、まさかこんな光景を見てしまうとは縁起がいいのか悪いのか。
着替えている男が女性だったなら願ってもない光景なのだが、視力の良い自分が悔やまれる。
 涼真はため息をつくとベランダにカーテンを取り付けにかかった。
これで半裸の男は見なくて済む。
そう思ってふと眺めると、半裸の男と目が合ってしまい鼓動が早まった。
慌てて背を向けると後ろ手でカーテンを引き、胸を抑えてフローリングの床にしゃがみこむ。
「…とんでもないマンションに越してきてしまった」
 涼真は着替えを覗いていた自分を恥じ、そしてこのカーテンは常時開けられないなと思った。


――2週間前のことだ。
 大学に通う涼真は以前から考えていた1人暮らしを両親に話し、あっさりと了承された。
両親にしてみれば車を持たない涼真が、自宅から大学まではJRと地下鉄を乗り継ぎ、
しかも駅からスクールバスで通う姿が不憫だったのだろう。
それに定期代も馬鹿にならない。
いっそ近場のマンションに住まわせたほうが安いくらいだったのだ。
 涼真は両親の許可をもらい、不動産屋に通いつめてようやく大学の近場のマンションを借りられた。
ここは学生がよく借りるそうでこの街中にしては格安な家賃なのが嬉しいが、
反面・隣のマンションとは隣接していて日中は日影になるのがネックだった。
 しかし昼間に部屋にいることはないので、涼真は悩まずにこの部屋を選んだのだ。
「ベランダから隣のマンションが見えてしまうので、気をつけてくださいね」
 確かに不動産屋はそう言ったが、涼真は聞き流していた。
1人暮らしができることに嬉しさが隠せず、舞い上がっていたからだ。



「まだドキドキするー」
 涼真は胸を抑えながら深呼吸をした。
自分と同じ男の半裸にどうして取り乱すのか、涼真は「なんで」と自分が理解できずに頭を抱える。
「…はー。やばかった」
 落ち着いてみればなんのことはない。
それは覗いていたという後ろめたさと、自分より若干年上らしい男の引き締まった体に見蕩れたからだ。
「顔、見られたなー」
 隣のマンションとはいえ、外で会う確率は高い。
もしも出会ってしまったらどんな態度を取ればいいのか。
知らん振りでスルーしようか、それとも謝るか、どちらにしても、とっさの判断ができなさそうだ。
 涼真は首に巻いたタオルで汗をぬぐった。
そして半裸の男を忘れようと首を振って引越しの後片付けを始めた。
考えてみたら大体向こうも悪い、カーテンを開けて堂々と服を脱ぐなんておかしいと涼真は思う。
もう関わらないことだ、そう結論づけると作業ははかどった。

 空の段ボール箱を抱えて、ゴミとして出そうとマンションの出入り口に行くと「こら」と男の声がする。
「ダンボール箱はリサイクルの対象だから、資源回収の日に出すんだよ」
「は、すみません」
 涼真は頭を下げて謝ると、先の尖った革靴が見えた。
まさかと思いながら顔を上げると、果たして先程の半裸の男に間違いがなかった。
タンクトップ姿なので蝶々の刺青がはっきり見えたからだ。

 動揺してしまい凍りついたかのように動けない涼真に、
「ちなみに回収は明後日だから。部屋に持ち帰りな」と男が教えてくれた。
「この辺りは物騒で、外に置いておくと無用心だから」
「あ、はい」
 
 ぎこちなく体を反転させて部屋に戻ろうとした涼真は、急に「うっ」と息が苦しくなった。
思わず首に触れると後ろから襟をつかまれていた。
「今日、越してきたのか?」
「はい、そうですけど…」
 見返ると男の端整な顔立ちがよく見えた。
鼻筋のとおった男前で、涼真は生唾を飲み込んだ。
「ふーん。で、名前と年は?」
 言う必要があるのだろうかと思いながら、抵抗できない空気を感じて涼真は口を開いた。
「大谷涼真です。…年は18です」
「へえ、大学1年かー。に・してはやけに幼く見えるなー」
 放っておいてほしいと涼真は心の中で思う。
好んで童顔になったわけではないからだ。
「俺は榎木唯斗(えのき ゆいと)。24才のサラリーマン」
「サラリーマン?!」
 涼真は突然素っ頓狂な声をあげてしまった。
肩に蝶々の刺青をしたこんなリーマンはありえない、騙されていると思ったのだ。
しかも昼間からこうしてふらふらしているのもおかしい。
リーマンは普通、土日休みではないのか。
「なに?おかしい?」
「いえ、別に…」
 怯える涼真に唯斗は鼻で笑う。

「結構、いい体をしているでしょ。見てもいいけど触らせないから」
 
 堂々と腰に手を当ててやや前傾姿勢の唯斗に、涼真は何も言えなかった。
唯斗もしっかりと涼真の視線に気付いていたのだ。
「お向かいさん、よろしくねー」
 唯斗は手をひらひらと振って歩き出した。
涼真はそれを見送りながら、腰が抜けそうなほど動揺して抱えていたダンボールを落としてしまった。
 
2話に続きます
GReeeeNにはまりました
さっき「遥か」を聞いて泣きそうになりました
名曲だ…
自分に不測の事態が起きたときは、これを流してもらいたい
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「室内の湿度」、1話1話が長すぎてすみませんでした
読みやすくしたいので、次からは短くしようと思います

またお時間がありましたら、読んでいただけると嬉しいです
いただいた拍手に、読んでくださった皆様に感謝しています

背中を押してくださってありがとうございます
 杏樹が目を覚ましたとき、時計は21時をまわっていた。
夜勤に行く凱を起こそうと隣を見ると、もぬけの殻だ。
寝ている自分を起こさずに夜勤に行った凱に優しさと心配りを覚えるのだが、
どうせなら見送りたかったなあと杏樹は思う。
 タオルケットを体に引き寄せて膝を抱えると寂しさが募る。
しかし明日になれば1日中一緒にいられるのだ、そう思うと杏樹は1人寝に耐えることができた。
 それにこのベッドには凱の体温が残っているようで、杏樹は凱の寝ていた跡を撫でた。
恋しさがこみ上げてきてしまい、杏樹は涙腺が弱くなる。
だが、これもぐっとこらえて明日を待つことにした。



 朝の6時に再び目が覚めた杏樹は大急ぎで洗濯やら掃除を済ませた。
いつも散らかっている部屋なので、2人で過ごせるなら少しは綺麗にしようと思い立ったのだ。
 しかし慣れないことは急いでするものではない。
杏樹はぐったりと疲れてしまい、ソファーに深く腰掛けた。
「あー。もうダメ」
 手足を伸ばしてもたれていると呼び鈴が鳴った。
凱だ、そう思った杏樹は疲労を忘れて立ち上がり、ドアを開けた。

「おはようございます。ちゃんと眠れました?」
 夜勤明けの凱が清清しい風とともに現れた。
朝日を背に受けた凱は、いつもより眩しく感じられる。
「お、おはよ」
「今日はいい天気になりそうですね。早く出かける準備をしてくださいよ?」
 疲れているだろうに笑顔を見せる凱に、杏樹は見とれて照れてしまう。
「いまさら照れることもないでしょうに。可愛いなあ」
「それ、言いすぎだよ」
「本当のことだから何回も言いますよー」
 ふざけた調子で言うが、視線は穏やかだ。
「あがって待っていて。すぐに支度をするからさ」
「はい、お邪魔します」

 凱はいつ来ても礼儀を忘れない。
その姿勢にも杏樹は惚れているのだ。
 
「あれ、珍しい。掃除をしたんですか」
「うん。いつも散らかっている部屋しか見せていないからさ…」
「俺、掃除をする気で来たんですけど」
 よく見ると凱は雑巾を手にしていた。
「そこまでさせないよ!」
 杏樹は急に恥かしくなって顔を赤らめた。
「支度をするから、リビングで待っていてよ」
「はい、わかりましたー」
 凱は「ふふ」と笑いながらリビングに入っていく。
それを見て杏樹も部屋に入り、着替えを始めた。
自分よりも年下の凱と出歩くなら、どんな服がいいのだろう。
考え始めるときりがない。
姿見の前で悩んでいると、堂々と凱が入ってきた。
「まさかスーツを着ませんよね?」
「着ないよ!あれは仕事用なんだから」
 杏樹はTシャツを脱ぐとクローゼットから別のシャツを取り出した。
そしてジーンズを履くと「ふう」と一息ついて、凱を見上げた。
「こんな感じでいい?」
「十分です」
凱はそう言いながら杏樹のシャツの襟を直した。
「俺はあなたと出歩けることが嬉しいんですよ」
 
 そんなことを間近で言われると照れるどころか顔から火が出そうだ。

「なんか、口説かれている気がする」
「それは気のせいです。俺だって空気を読みますから」
 凱は微笑みながら「時と場所を選ぶんです」と続ける。
「杏樹さんだって、会社では欲情しないでしょう?」
「当然だよ」
「ムキになっちゃって。口説いて欲しかったんですか?でも出かける約束ですからねー」
 凱は杏樹の髪を撫でると「じゃあ、行きましょうか」と手を取った。
主導権はあっさりと凱にさらわれたが、杏樹は悪い気がしない。




 日曜日の繁華街は恋人同士はもちろん、家族連れもいて賑わっている。
そんな中を男2人で歩いていても別段目立つ様子はなかった。
人々は自分達のことで頭がいっぱいなのだし、他人をじろじろ見ることはしない。
 杏樹と凱はウインドーショッピングをしながら、互いのいきつけの店に行き、物色した。

「白があったんだ!感激だなー」
 革製品の専門店で凱が手にしたのは革でできたキーケースだ。
「前から欲しかったけど、白があるなんて嬉しいな。買っちゃおう」
 あまり悩まずにキーカバーを購入している凱を見て、杏樹もこっそり同じものを別のレジで購入した。
キーカバーは入用ではないのだが、1つ思い立ったことがあるからだ。
なので買ったことは秘密にしたい。
「このまま使われますか?」と店員に聞かれ、慌てて「袋に入れてください」と頼んだ。
 これは自分用ではなくて、実は凱に使って欲しいからだ。
杏樹は凱に見つからないようにそれをカバンにしまいこんだ。
「少し休みましょうか?いいカフェがあるんです」
「でも、混んでいない?」
「大丈夫です。裏通りにあるので隠れた名店なんです」

 凱の薦めたカフェはたしかに人がまばらだった。
しかし注文したコーヒーもクロワッサンサンドも美味しくて、杏樹は喜んだ。
「ケーキとか、食べないんです?」
 凱が妙なことを聞き始めた。
「僕は甘いものはあまり食べないよ」
「甘いものが好きそうな感じなのに意外です」
「あー。よく言われる」
 杏樹は指についたパンくずを舐めながら「会社でもおやつが出るんだけど食べないし」と続けた。
「ハーゲンダッツは好きなんですよね?」
「うん、アイスは好き」
「話を聞いていると、可愛いなあーって益々思います」
 凱が微笑むので杏樹はどんな表情をしたらいいのかわからない。
「もっと杏樹さんのことを知りたい」
 杏樹はテーブルの上で手を組んでいる凱を見ながら、言うなら今だと腹を決めた。
カバンからキーカバーの入った袋を取り出してテーブルに置くと口を開いた。

「一緒に暮らさない?」
「えっ?」
 
 凱は突然の誘いに面食らっている。
しばらく何も言わずにただ杏樹だけを見て、飲みかけのコーヒーをぐいっと飲み干した。
「ど・どうかな」
「杏樹さんの部屋で・ですか?」
「うん、あ・あのさ、迷惑なら今の話はなしに…」
「迷惑じゃないですよ、凄く嬉しいです」
 そして凱はテーブルの下で足を伸ばして杏樹の靴に触れた。
「いつも一緒、なんて禍福な気がする。でも側にいたいから、俺からお願いしたいくらいです」
「あ。ありがとう…」
 杏樹は胸が一杯になってもう食べることができなかった。
そんな杏樹を見て凱はキーカバーを受け取った。
「合鍵、1度断りましたが使わせてください」
 凱はいつの間に買ったのかと聞かない。
それは杏樹が胸を抑えて、見るからに安堵しているからだ。
「可愛いことをしてくれますねー」
 杏樹のすることすべてが凱には癒しのようだ。
「俺、あなたに会えて毎日が楽しくなりました。これからもそうです」
 凱の気持ちに杏樹は顔を上げ「僕もそうなんだ」と笑顔で応えた。
 


 街から部屋に帰ると杏樹は凱のためにお茶を入れた。
「今日は楽しかったよ、ありがとう」
「そう言われると俺も嬉しいです。お茶、いただきます」
 2人は服の入った紙袋を並べて置き「結構買いましたねー」とのんびりした会話を楽しんだ。
「さっそくですけど、泊まっていいですか?」
「あ、うん。ここに住むんだからいちいち聞かなくてもいいのに」
「そうでしたね。あ、なんか嬉しさがこみ上げてくる」
 凱は珍しく頬を染めた。
「明日にでもすぐに荷物を持ってきます。と言ってもたいした量じゃないんですけど」
「早くおいでよ。僕は早く一緒に暮らしたいんだ」
 杏樹はトレーを持ちながら窓を開けて空を眺めた。
梅雨らしく曇天の空だ、明日は雨が降るかもしれない。
「荷物が濡れないようにね」
「はい、旅行用の大きなキャリーケースで来ますから大丈夫です」
 これで話は決まった。
杏樹がカーテンを閉めると凱が「お風呂を沸かしましょうね」と立ち上がる。
「ありがとう」
「一緒に入ります?」
 凱の誘いに杏樹は胸のときめきを抑えきれない。
「うん、そうしよう」
 そして靴下を脱いで裸足になると凱に続いてバスルームに向かった。


終わり

読んでくださってありがとうございました
 
「杏樹さん、いつもより触っていいですか?」
「聞かないでよ。凱になら、なにをされても構わないんだから」
 杏樹は凱の腕の中にいながら、興奮して呼吸が荒くなっていた。
上気した頬が赤い、しかも体を擦り合わせようと足を絡めている。
つま先立ちをした杏樹の股間が凱のそれに近づき、杏樹は凱を見ながら腰を揺らした。
「も、我慢できない!」
 杏樹は凱のジーンズのジッパーを下ろして下着の上から茎をつかもうとした。
「あ、杏樹さん」
 しかし凱の茎は大きくて長い。
下着の上からはなかなかつかめるものではなかった。
「これが欲しいのに…凱、早く欲しい!」
「杏樹さん!」
 凱は焦る杏樹の唇をふさぐと、片手でボトムを脱がせて細い腰を撫でた。
「んん!」
 それだけでもびくりと体を震わせる杏樹を見て「感じやすくなりましたね」とささやく。

「最初から、でしたっけ?」
「意地悪だな、焦らしてばかりだ」
 
 真っ赤な顔をして唇を尖らす杏樹に、凱は「焦らすと大胆に乱れるから」と微笑む。
 言葉どおりに杏樹は待ちきれなくて股間を抑えながら下着を脱ぎ去っていた。
「その脱ぎ方も好きだなー。俺が焦らされてしまいます」
 凱は自分でシャツを脱ぐと引き締まった体を杏樹に見せ付けた。
その姿に目を潤ませる杏樹を抱き上げると、ベッドに運んで組み敷いた。
「凱、早くなんとかして」
 杏樹は股間を両手で隠しているが、指の間から精が漏れてきている。
「あ、もうダメ。もたないよ」
 恥かしそうに股間を抑える仕草が凱の心に火をつけた。
「杏樹さん。綺麗にしてあげます」
 凱は杏樹の両手を股間から離させて、爆ぜた精を舐めていく。
精の飛び散ったヘアーにも舌を這わせて内腿も丹念に舐めるので杏樹は身をよじり、また勃起してしまう。
「感じちゃう、なんか辛い!」
 杏樹はシーツを手繰り寄せながら勃起した茎を震わせていた。
屹立したそれは今にも爆ぜそうだ。
「我慢できないって!凱!」
「もう、本当に可愛い人ですね」
 凱は杏樹の茎を口に含むとフェラを始めて、片手で秘部に指を入れる。
「アッ!な、なにをしているのっ」
 前からも後ろからも攻められて、杏樹はひくひくと腰を動かしながら快感を覚えた。
「凱、ん・いい。なんかいい感じがする…」
 しかし凱のフェラの勢いが激しくなり、まるで絞り取るような吸い方に杏樹は上体を反らす。
「や、ん!凱、くるしっ…凱!」
 杏樹は悶えながら凱の髪をつかむ。
「も、止めて!出ちゃう!」
 叫んでも凱はフェラを止めず、とうとう杏樹は凱の口の中で爆ぜた。

「は…んん。凱、吐き出して」
 杏樹は額の汗を手でぬぐいながら凱に声をかけるが、凱は慣れた感じで口元を舌で舐めている。
もう精を飲み込んでしまったのだ。
「そんな焦った顔をしないでください。さっきまで舐めていたんですから慣れました」
「そう、なんだ」
 
 杏樹は体勢を変えようとして違和感に気付く。
まだ秘部に凱の指が入っているのだ。
凱の茎の大きさを知った秘部は、指1本では反応が鈍くなっていた。

「指じゃイけないんだ。凱のものが欲しい」
 ためらいもせずに杏樹が欲しがると、凱は微笑んだ。
「大胆になりますね、本当に」
「ねえ、笑っていないで入れてよ?ずっと欲しかったんだ」
 杏樹は凱に体を寄せると腕をまわして、ぎゅっと抱き締めた。
しかし力が入りすぎて爪を立ててしまう。
 
 凱は痛みで一瞬怯んだが、すぐに口角を上げてみせる。
「もったいぶっていると、俺が負けそう」
 そして体を起こしてジーンズを下着ごと脱ぎ、勃起した茎を杏樹に見せた。
この大きさに杏樹は体を震わせる。
ようやく入れてくれるのかと期待に満ちて、泣いてしまいそうな衝動に駆られたのだ。
「そんなに興奮してくれるんですか?可愛いなあ」
 凱は杏樹の股を割ると、ゆっくりと杏樹に体重をかける。
「俺以外の人に、そんな顔を見せちゃダメですよ?」
「そんな顔って…?」
「欲しくてたまりません・みたいな顔です」
「意識していないんだけど」
「それは罪ですねー。誰かにさらわれないようにしなくちゃいけません」

 凱は杏樹の首筋を舐めてそのまま胸元に舌を這わせる。
どうやら杏樹の乳首が気に入っているようで、舌で転がしたり口に含んで吸ったりする。
凱が吸うそのたびに杏樹は「ああんっ」と喘ぎ、腿が震えてしまう。
「杏樹さん、艶がありますねー。乳首が立っていますよ、凄くそそられる」
「凱、早く入れてっ!」
 この叫びに顔を上げた凱は、杏樹の乳首に唾液をこぼした。
唾液は杏樹の滑らかな体をつつ・と下りていき、おへその辺りで止まった。
 それも凱が舐めてしまう、この感覚に杏樹は耐えがたい。
「意地悪だ…」
 杏樹がため息をつくと凱が「じれったそうな顔もいいですね」と胸を撫でる。
そして指先で乳首を回すと「クウンッ!」と杏樹が喘いだ。

「凱はそこばかり…もう耐えられない」
 体をよじって枕を引き寄せると、そこに突っ伏した。
「杏樹さん?」
 うつぶせになった杏樹は肩を震わせている。
泣いているのだろうかと凱は心配になり「杏樹さん」と何度も呼ぶが、応えがない。
 凱は自分に向けられた杏樹の柔らかいお尻を撫でてみる。
すると「入れて」とつぶやく声がした。
「激しくしてほしい」
 そして杏樹は膝を立ててお尻を突き出した。
きっと真っ赤な顔をしていることだろう、そう思った凱は自分の茎をつかむとようやく挿入した。
そして自分の腰を使って緩やかに根元まで入れてしまうと、杏樹のお尻を軽く叩いた。
「動きますよ」
 凱は杏樹の顔が見られないので今ひとつ乗り気になれないが、柔らかなお尻も魅力的だ。
抜き差しをしながらバックも悪くないなと思い始めた。
それは枕に突っ伏した杏樹が「ん・ん・あ、ううん…」と喘ぎ続けるからだ。
「杏樹さん、凄い」
 思わず凱がそう漏らすと杏樹が身をよじって顔を見せた。
「もっと突いて?」
 この魅惑的な姿に、凱は目眩がしそうだ。
高ぶる感情のままに肌を合わせて突き上げていくと「あ・あ・あ…」と杏樹が搾り出すような声を出す。
「凄く、いい」
 凱は杏樹のお尻を両手でつかむと、自分に引き寄せながら突いた。
「アッ!あー!も、もうダメかも」
 淫靡な音が秘部から聞こえる。
凱の茎は杏樹の中で先走ったのだ。
その精が潤滑油になって、凱が突くたびに淫靡な音を立てている。
「凱、も・もうもたない!」
 杏樹の叫びと同時に凱が中で爆ぜた。
急に力の抜けた凱は杏樹のなかから茎を引き抜き、杏樹の体の上に重なった。

「凱?」
 杏樹が呼んでも返事がない。
「凱、大丈夫?」
「…はあ、目の前が暗くなりました…」
 どうやらイッた衝撃で軽い目眩を感じたらしい。
「俺、杏樹さんが好きです、誰にも渡さない」
 そう言うと凱は寝転んで、すぐに寝息を立てた。
日頃の疲れもあって、寝てしまうのだろう。
 杏樹は少し物足りなかったが、凱の寝顔を見ると安らかな気持ちになれた。
「こうしてみると子供みたいだ」
 自分の声に思わず吹き出すとクーラーを<お休みモード>に切り替えて、杏樹も寝転んで瞼を閉じた。

22話に続きます
 1人寝の夜は長くて寂しい。
杏樹はベッドの上で寝返りを打ったり、不意に起き上がったりして全く眠れずにいた。
 部屋を暗くしていてもこの有様なので、杏樹はベッドに腰掛けて暗闇の中で携帯を開いた。
凱にメールを打とうと思ったのだ。
時刻は午前1時、凱はコンビニで働いていることだろう。
休憩時間に見てくれたらと思い、杏樹は『頑張ってね』と一言だけメールを送信した。
 本当は『早く会いたい』とか『凱がいないと眠れなくて困る』などと書きたかったのだが、我慢した。
凱を困らせるだけだからだ。
「…甘えん坊か」
 凱によく言われる言葉を思い出して吹き出した。
「そうかも知れない」
 
 携帯を閉じると杏樹は背中からベッドに倒れた。
そして両手を広げて「暑い」とぼやいた。
 クーラーは<おやすみモード>に切り替えてあったので、とうに運転を止めている。
杏樹は「はあ」とため息をつきながらリモコンを取り上げ、スイッチを入れた。
 数秒待つと冷風が送られてくる。
その風を浴びると気持ちがよくなってきた。
 杏樹は再びベッドに倒れこみ、瞼を閉じて凱のことを想った。


 梅雨の時期といえども朝方は冷える。
あまりの寒さに杏樹は飛び起きて、まずクーラーを切り、大きなあくびをした。
時計を見ると午前5時だ、もう一眠りしようとベッドに横になったが凱に会いたいと思い直し、
まだはっきりしない頭を振って起き上がった。

 空は曇天で今日は雨が降るかもしれないと思いながら、杏樹はコンビニへ向かった。
外から店を覗いてみると、またしてもあの店長がレジにいた。
店長に顔を見られたくないのでこれでは店内に入れない。
 無駄足を踏んだと肩を落としながら歩き出すと後方から話し声が聞こえてきた。
段ボール箱を潰す音がするので、ゴミの処理をしているのだろう。
「杉本の奴、とうとう断るんだってさ」
「ああ、あの可愛い子?早朝に杉本に会いに来るくらいだったから、相当惚れてたのになー」
「なんか、もったいなくね?」
 杏樹の足は凍りついたかのように動けず、振り返ることもできなかった。
「しつこくされるのが嫌だって言ってたぞ。杉本、禍福じゃね」
「そうそう。ま、あいつくらいの容姿なら誰でも釣れるだろうからいいんじゃね?」
 杏樹は一息吐くと駆け出した。
真実とは残酷なものだ。
惚れていたのは僕だけか・と杏樹は溢れそうな涙をこらえて部屋に帰った。


 杏樹はリビングの床に座り込むと足を抱えた。
静かな空気が耐え難くてテレビをつけたが、画面を見る気になれない。
 しかもぼんやりとしているうちに時刻は8時を過ぎた。
もうすぐ凱が来ることになっているのだが果たして来るのだろうか。
そして「別れましょう」などと言い出すのだろうか。
 杏樹の視界は歪み始めた。
頬を伝う涙はなかなか治まりそうにない。
「好きだったのにな」
 つぶやいた言葉にまた泣けてしまう。
こんなに恋焦がれていたとは、自分でも思わなかっただろう。
セックスだけじゃない、付き合うと決めた相手なのにセフレ扱いを受けたのだろうかと疑問が残る。
 そして時計は9時を指した。
しかし凱は来なかった。


 杏樹は気持ちを入れ替えようと服を着替えて、街に出ることにした。
本来なら明日、凱と出かけるはずだったが来ないのだろうと思ったのだ。
 街に出ると百貨店のショーウインドウに黄色いバラが飾られていた。
父の日はもうすぐだからだろう、気合の入ったディスプレーを見ると自分もなにか贈ろうかと思う。
ふらりと百貨店に入ると、すぐに男性の店員が歩み寄ってきた。
眼鏡をかけて理知的なイメージだが年は20代だろう、下手をしたら同じ年かもしれない。
「いらっしゃいませ。父の日の贈り物でしょうか?」
「はい、どんなものがあるのかなーって」
「ご案内します、どうぞ」
 その店員に案内されて売り場を見ていると携帯が鳴った。
見ると凱からだ。
とても出る気になれず、杏樹は携帯を切った。

 杏樹は買い物にも没頭できず、結局その店員がお勧めするシャツを買うことにした。
「喜ばれると思いますよ」
「はあ、そうだといいな」
 適当に話していると店員が首をかしげた。
「失礼ですが、どこかでお会いしたことがありませんか?」
「え?」
 杏樹はまじまじと店員の顔を見たが、記憶にない。
「会っていないと思いますよ?」
「それは失礼いたしました。お客様の華やかな雰囲気に惹かれたみたいです」
「はあ?」
 誉め言葉なのだろうか・それともからかわれたのかと、杏樹は瞬時に対応ができなかった。

「私はこういうものです」
 店員が差し出したのは名刺だ。
<紳士服売り場担当 副店長 郷田宏>と明記されている。
「若いのに副店長なんですか…」
 杏樹が驚いている郷田は指をくるりと回して見せた。
そのとおりに名刺の裏を見ると、メールアドレスが書かれてある。
「これは?」
「私個人のメアドです。御用がありましたらなんなりとお申し付けください」
 杏樹はこの名刺をお客全員に渡しているのかと勘違いをして驚いていた。
「行き届いたサービスなんですねー」
 郷田はそう言われて杏樹が鈍いと悟る。
そして咳払いをすると「いつでも呼んでいただいて構いません」と言葉を添えた。
 明らかに誘われているのだが、こう言われても杏樹はピンとこない。
そればかりか平然と「じゃあ、発送をお願いします」と送り状を受付からもらい、書き始めた。
 郷田は『やれやれ』と心の中で毒づいたが、様子を見ようと杏樹の側に立つ。
隙あらば再度誘おうという魂胆だ。
 しかし杏樹の携帯が再び鳴り始めて空気が変わった。
杏樹は何気なく携帯を取り出して凱からと知ると、ため息をついて出た。

「もしもし」
『杏樹さん、今どこにいるんですか?』
 凱の声だ。
昨日から焦がれていた凱の声を聞いてしまうと、心が揺さ振られる。
「買い物をしているんだ、凱はどうしたの」
『俺、杏樹さんの部屋の前で待っていたんですけど、今日は会えませんか?』
 ふと杏樹は腕時計を見た。
もうお昼を過ぎている、凱と会う時間が限られてしまう。
「ごめん、すぐに帰るよ!」
 あんな噂話を耳にしても、杏樹は自分の気持ちを変えることができなかった。
本気で惚れて、側にいて欲しいと願う相手だからだ。
 杏樹は急いで送り状を書き終えて精算を済ませると百貨店を飛び出した。
そして土曜日の昼間で賑わう繁華街を駆け抜けて、一路、自分の部屋を目指した。



「ご、ごめん」
 杏樹が息を切らしながら走りこむと、部屋の前で携帯を眺めていた凱が振り向いた。
「そんなに急いでこなくてもよかったのに、杏樹さん、どうかしたんですか?」
 約束を違えたことを責めずに、凱はまず杏樹の身を案じた。
「朝から、もしかして朝からここで待っていたの?」
「あ、はい。でも1時間も遅刻したから待ちぼうけは仕方ないです」
 微笑む凱に杏樹は胸が痛くなった。
「じゃ、じゃあ…凱は3時間も…?」
「ここは日差しが眩しいから日焼けしそうでした。あはは」
 屈託無く笑う凱に、杏樹は抱きついた。
「ごめん!本当にごめん!」
「杏樹さんが謝ることじゃないですよ。俺が遅刻したんですから」
 ふと杏樹が凱の顔を見上げると左の頬が赤くなっている。
「どうしたの、その頬」
「あー、ちょっと揉め事がありまして。でも無事に解決しましたから」
「まさか!麻人がまた来たの?」
「え?昨日のあの人のことですか?来ていませんよ。これは俺が悪かった印です」
 杏樹はなんのことかわからないまま、凱を部屋に招いた。
凱はスニーカーを脱ぎながら「遅刻した理由を言います」と話し始めた。

「俺、深夜に買い物に来る女性のお客さんに好かれていたんです」
 自分目当てで買い物に来ているのはわかったが、だからといって邪険にもできないし雑談もしない。
そんな日々が続いて、とうとう相手が「付き合って欲しい」と言い出した。
言われるたびにやんわりと断ったのだが早朝にも来店するようになり、凱は精神的にまいってきた。
 そこで今朝きっぱりと断ったら平手打ちを食らったというわけだった。

「僕のことじゃなかったんだ…」
 杏樹はコンビニで聞いたことが自分を指しているとばかり思い込んでいたのだ。
しかし人違いだった、おかげで杏樹の気は晴れてきた。
「ん?どうかしましたか?」
「なんでもないよ、あー、よかった」
 両手を頭上に挙げて「うーん」と伸びをしたら名刺が落ちた。
「なんですか、これ」
 凱が拾いあげて急に頬を膨らませた。
「どうしてプライベートのメアドつきの名刺を持っているんですかー?」
「あ、これは売り場でもらったんだ」
「…誘われていたんですよ!自重してください!」
 凱は杏樹を抱き締めて「本当に危ない。1人歩きもさせられない」と言う。
不安がる凱をよそに、杏樹は凱の心臓の音が伝わって体が熱くなってきてしまった。


21話に続きます
「どうしたんですか、そんなところに座り込んじゃって」
 ドアを開けて入ってきたのは凱だった。
まだ明るい空の光を背中に浴びながら、上がり口にしゃがみこんでいる杏樹を見ている。

「ん?さては抱き起こして欲しいのかな?」
 床に膝をついて杏樹を見ながら首をかしげる凱に、杏樹は無言で抱きついた。
「甘えん坊さんだなー」 
 よしよしと背中を撫でる凱に、杏樹は首を振る。
「違う、凱が心配だったんだ」
「そうですか?俺は平気ですよ」
「…とんだ修羅場で、ごめん」
「謝らないでくださいよ。俺が守るって言っているじゃないですか」
 凱は杏樹を抱き締め返すと「こんなに可愛いんだから隙を伺う奴らがいて当然ですね」と言う。
「でも振り切れてよかった。俺のほうが安心しましたよ」
「え?」
「俺はいつも側にいられないじゃないですか。側にいないときは不安でたまらなかったんですよ、
変な人に目をつけられていないか、襲われたりしていないか」
「僕はそんなに…」
 杏樹は『自分はちょろいのだろうか』と背筋が寒くなった。
「それに、寂しがっていないかなって。ずっと思っていました」
 凱の告白に杏樹はくすぐったくなる。
言当てられて恥かしい気持ちと、理解してくれていたありがたさだ。

「凱、ありがとう」
 腕の中で目を閉じると凱が額にキスをした。
「俺、凄くあなたのことが好きなんです」
「会うといつも『好き』って言ってくれるんだね」
 まるで『好き』の攻撃だが、杏樹は嬉しくて顔を上げた。
「僕も好きだよ。側にいて欲しい」
 自然に2人は唇を重ねると、凱は杏樹を抱き上げてリビングに運んだ。
杏樹はすでにその気なのだが「蒸し暑いですね、クーラーを入れましょう」と凱は平然としている。
肩透かしをくらった杏樹は、それでもセックスを期待して凱にしがみつく。
しかし凱はソファーの上に杏樹を座らせると、床に膝をついて「明後日の日曜日に先約はありますか?」と聞いた。
「ないよ?」
「じゃあ、デートしましょうね。俺、バイトが休みなんですよ」
 健全な誘いに杏樹は目を丸くした。
しかしこれは杏樹が望んでいたことでもある。
「せっかくの休みなのに、いいの?」
「側にいたいんです」
 微笑む凱に杏樹は息が苦しくなる。
この焦れる想いはどこからくるのか。
「凱、嬉しいよ。もっと力強く抱いて」
 目を潤ませて喜ぶ杏樹を見ながら凱は「でも今日は時間がないな」と残念そうにぼやく。
「えっ」
 杏樹は思わず時計を見た。
あんな騒動のせいで時間を浪費し、時計の針は19時を指している。

「せめてあなただけでも、イかせたい」

 凱は杏樹の靴下を脱がせると、その指を舌で舐め始めた。
「いっ!な、なに、この感じ!」
 悶える杏樹に「じっとしていてくださいね」と凱は唾液を乗せた舌を見せながら言う。
「杏樹さん、指も綺麗だから」
「や、止めて!なんか変な感じがするっ!」
「慣れていないだけですって」
 
 凱は指の股も舐めてじわじわと杏樹を追い込んでいく。
やがて全部の指を舐め終わると凱は立ち上がり、杏樹のスラックスのジッパーを下ろした。

「あ、感じました?嬉しいな」
 杏樹の茎は下着の中で大きく膨らんでいたのだ。
「やだやだ!凱、恥かしい!」
「その首を振る仕草も好きなんです。あー、俺はもうあなたしか抱けないな」
 
 凱は下着の上から勃起している杏樹の茎にキスをした。
「うううん!」
 それだけでも悶えてしまう杏樹は指を噛みながら開脚して凱を招き入れる。
「早く触って?どうにかして!」
 凱は杏樹の要望に応えた。
杏樹の茎を取り出すと口に含み、舌で舐めるとフェラを始めた。
「くっ、うううん!凱、凱ー!」
 のけぞる杏樹は早くも爆ぜてしまう。
「あ、あー…」
 凱は口元を拭うと「じゃあ、俺バイトに行きますから」と言い出した。
「えっ、もっとしたいよ」
「俺もしたいんですけど時間が無くて」
 そして杏樹をぎゅっと抱き締めた。
「すみません、杏樹さん」
「…謝らなくていいよ。仕方ない」
「明日も来ます。杏樹さんはお休みでしょう?9時には来れますから」
「う、うん」
 火照る体を持て余しながら杏樹はうなづく。
しかし立ち上がると凱の腰に手をまわして「離れたくない」とわがままを言う。
「重なりたいよ…」
 か細い声に凱は応えたいのだが、下唇を噛んでこらえた。
「夜勤が終ったらすぐに来ますよ」
 凱は杏樹の手を離させると頬を撫でた。
「杏樹さんが寝ていたら起こしてあげます」
「起きて待っているよ!」
 杏樹は離れがたくて凱の側につきまとうが、凱はスニーカーを履いて「行ってきます」と笑顔で出て行ってしまった。

 1人ぽつんと残された杏樹は、裸足で歩き回り、冷蔵庫からエビアンを出して熱い頬に当てた。
ひんやりとした感触が心地いいが、しかし体の火照りは治まらない。
「凱…」と名を呟きながらジャケットを脱ぎ、スラックスもその場に脱ぎ捨てると冷蔵庫に寄りかかり下着の中に手を入れた。
「ん」
 自慰をするのは久し振りで、しかも高ぶってしまっているので自分の手では快感を得られない。
勃起はするのだが、どう擦ってもイけそうにない。
 仕方なく下着を脱ぐと、今度は秘部に指を入れてみる。
すると異物が入ろうとするこの感じに、胸の鼓動が高鳴った。
「凱、凱のものがいいのに」
 あの熱さが恋しい。
突き上げてくる波が欲しい。
冷蔵庫に寄りかかりながら杏樹は茎を扱き、そして秘部に指を出し入れする。
「どうしたらイけるんだよ…」
 杏樹は高ぶりすぎて涙をこぼした。
そして床に力なくしゃがみこむと寂しさがこみ上げてきて冷蔵庫のドアを叩いた。


20話に続きます
 凱が恋しくて眠れず、睡眠不足の体に梅雨入りした独特の風がだるさを倍増させる。
スーツにまとわりつくようなこの湿気にもうんざりだ。
杏樹は出勤してからため息を何度ついたことだろう、朝から覇気のない様子を麻人が見つけた。

「やる気あるの?」
 杏樹は麻人の上からものを言う態度が憎らしい。
「今日1日頑張れば、明日は休みじゃないか。ちゃんと仕事をしろよ」
「言われなくても」
 杏樹がにらむと麻人は笑う。
「なにがおかしいんだ」
「いや、杏樹はすぐにむきになるなあと思ってさ。こんなことを知っているのも俺だけ」
「…なにが言いたい?」
「言っていいの?」
 なにやら含みのある言い方だ。
杏樹はその態度にさえ苛立ちを覚えたが「言えば?」とぼやいた。
自分にはなんの落ち度もないと思うからだ。
仕事は毎日こなしているし、ミスもないと自負している。

「杏樹の部屋から男が出てきたのを見ちゃった」
「…はあ?」

 杏樹はこの麻人が自分の部屋を知っていたことを忘れていた。
こそこそと見に来ていたのも許せないし、プライベートをとやかく言われる筋合いはない。

「あんなちゃらそうな男がいいわけ?」
「僕の勝手だ。関わるな」
「まさか…もうセックスをしているとか?」
「関わるなって言っているだろう!」
 杏樹が拳で机を叩くとようやく麻人は口を閉じた。
「朝から嫌な気分にさせるな。自分こそ部署に戻って仕事をしろ」
 麻人は勝てないと踏んだのか、素直に出て行った。
「はあ」
 杏樹はまたため息をついてコーヒーを1口飲んだ。
仕事でストレスを感じるのはまだしも、麻人のせいで心労を重ねるのは困ると思う。
隙を伺うようなあの態度、まるでハイエナだ。
自分がしっかりとしていないと、取って食われそうな気がするのだ。
 杏樹は麻人に早く相手ができることを願った。
それ以外に逃げ切る道がないとさえ思ったからだ。
幸いにも麻人は男前なので、彼がその気になればすぐに相手はできるだろう。
早くそんな日が来ないか、杏樹はパソコンを開きながらぼんやりとしてしまった。

 そんなときに杏樹の携帯が鳴った。
見ると凱からで『お仕事頑張ってください。おやすみなさい』とある。
 夜勤のために今から寝るのだろう、杏樹はその文字を見ただけで安堵した。
守られているような気さえしたのだ。

 おかげで午後からの仕事は身が入った。
入力をこなしては<済み>の印を打つ杏樹を見て、部長も負けじと入力を進める。
「よくもまあ、毎日新しい商品があるものだな。来月の棚卸しで誤差がなければいいが」
 この会社では2ヶ月に1度、倉庫の棚卸しがある。
これはパソコン上の在庫数と倉庫内の実在庫を照らし合わせる作業なのだが、
最近新商品の登録が多すぎて、この作業の難関さを知らしめている。

「長時間の作業になりそうだ。今から憂鬱すぎる」
 部長はそう言って嘆くが、杏樹も7月の倉庫の暑さを1度体感している。
空調のきかない倉庫は息苦しいサウナだ。
「廃番になった商品を確認してデータから消しておこう。それだけでも当日の作業が減る」
「そうですね」
 杏樹は明日から計画して行おうと決めた。
とにかく今日も定時であがること、それしか頭にはなかった。
 できれば明日の土曜日か日曜日に凱と街に出かけたい。
しかしローテーションが合えばいいのだが、などと考えつつも指はミスタッチもなしに動いている。
杏樹は最後の1枚を入力し終えて印を打った。




 杏樹は定時であがり、部屋まで急ぎ足で帰るとドアの前で今日も凱が待っていてくれた。
「お疲れ様です」
 笑顔で迎えてくれる凱に、今日の疲れが吹き飛ぶ。
杏樹は嬉しくてたまらず、ドアを開けると凱を先に部屋に入れた。
「お邪魔します」
 そして自分も玄関に入り、ドアを閉めようとしたらガツンと音がした。
見ると靴が片方入り込んでいる。
その先の尖った靴に杏樹は見覚えがあった、間違いないと思いながら顔を上げると果たして麻人がいた。
「俺も入れてよ、杏樹ー」
 杏樹はなにも言わずに靴を踏みつけた。
「いてえ!」
 思わずひっこめた麻人を見て杏樹はドアを閉めて鍵もかけた。

「どうしたんですか」
 凱が驚いて目を丸くしている。
「大丈夫ですか、杏樹さん?誰か…知り合い、ですか?」
 杏樹は知らぬうちに肩で息をしていたのだ。
それほど麻人の執着ぶりが恐ろしく、また苛立ちも感じた。
「あんな奴は気にしないで。凱、おなかがすいたよ」
 杏樹は冷静さを取り戻したかのように振舞うが、声が震えてしまった。

「もしかして、あなたを辱めた奴なんですか?」
 凱は杏樹が体中に赤い跡をつけられていた日を忘れていなかった。
「辱めたなんて…店長じゃあるまいし。ねえ、凱、おなかが…」
「なら、元彼なんですか…?」
「そんなものじゃなくて、あのさ…」
 杏樹の返事を待たずに凱はドアを開けようとする。
「待って!なにをするつもりなんだ!」
「2度と来ないように話をつけます」
「…凱が言って、言うことを聞くような奴じゃないんだよ!」
 叫ぶ杏樹に凱は振り向いて口角を上げた。

「あなたを守るって、言ったでしょう」

 そして凱はドアを開けて通路に立って煙草をふかしていた麻人と対峙した。
「なんだよ?おまえには用事がない。杏樹を出せよ」
 麻人は凱をにらみながら白煙を吹き出した。
「すごんでも無駄です。2度とここに来ないでください」
「偉そうな言い方をするじゃないか」
 癪に障ったらしい麻人は煙草を通路に捨てると靴で揉み消した。
「おまえが杏樹の彼氏ってわけ?こんなちゃらい男のどこが…」

「うるさい!」

 杏樹は部屋から飛び出して麻人の頬を叩いた。
「麻人には関係ないと言っただろう!しつこくここに来るな、僕は相手にしない」
「あーき。隙だらけなんだよ」
 麻人は杏樹を抱き寄せると尻を揉んだ。
「わっ!」
「いいものだろう?俺の指から逃げられないくせに」
 そして麻人は挑発的に凱を見て笑う。
「こいつは俺とのセックスに溺れているんだよ。ここから立ち去るのはおまえだよ、学生さん?」
 麻人は楽しそうに杏樹の上着をまくり上げて腰の隙間から手を入れた。
「やだっ!触るな!」
「こういうシチュエーションが好きなんだよな?誰かに見られそうな場所でセックスするのが」
 杏樹は身をよじって逃れようとするが麻人の腕の力が半端では無い。
それに悔しいことに腰を撫でられて感じてしまった。

「杏樹さん、顔を伏せて」

 凱の声がしたかと思うと、ガツンと鈍い音がした。
見上げると麻人の頬が赤く腫れている。
「俺は杏樹さんをいいようにしない。こんな恥かしい真似をさせるなんて許せない」
「いてえな!このガキ!」
 麻人は凱に殴りかかろうとして杏樹を手放した。
それを見て凱は麻人から身をかわすと杏樹の腕を取り、部屋に押し込んだ。
「守るって、言うこと?」
 麻人はかわされて不満そうだ。
「杏樹さんを玩具扱いして楽しいんですか?」
「聞いているのは俺だ!」
 忌々しげに麻人が通路を蹴り靴を鳴らした。
「怒鳴ったら言うことを聞くと思うんですか。甘いな」
「…このガキ」


 ドアの向こうから麻人の怒鳴り声と、凱の落ち着いた声が聞こえてくる。
杏樹はタイミングを見計らって飛び出して、麻人をまた殴ろうと決めた。
しかし「帰ってください」と、凱の声がした。
「殴りあうのも悪くはないんですが、大人でしょう?振られたなら引くのが賢明です」
 凱は麻人や杏樹よりも大人びていたのだ。
「あまりしつこいとストーカー被害届を警察に出しますよ」
「…ちっ」
 ゴツゴツと憤慨して歩き去る靴音が聞こえた。

19話に続きます
「凱…激しいのは止めて」
 杏樹はスーツ姿のままで凱に圧し掛かられていた。
「スーツ、脱がせてよ」
 杏樹の荒い呼吸が凱に触れるが、凱は本能の赴くまま貪るように杏樹と唇を重ねて互いに欲しがった。

「あ、もうダメ」
 杏樹は膝を立ててスラックスを脱ぎにかかった。
しかし凱は杏樹のジャケットを広げただけでシャツの上から胸を揉み始める。

「杏樹さんのここ、凄く扇情的ですね。あー、なんか俺、止まれそうにない」
「凱、夜勤だろう?ほどほどにしないと仕事に差し支えない?」
「心配しなくていいですよ、杏樹さん」
 凱はシャツの上から杏樹の乳首を舐めた。
「く、ううん!」
 途端に杏樹は体を反らすが、凱の舌はそれでも乳首から離れない。
「凱、激しすぎっ」
 叫びながら杏樹はスラックスを下ろし、下半身は下着姿になった。
もう勃起している茎が飛び出したがっている。
「杏樹さんを乱したいんです」
「もう十分、乱れたよ!…あ、そんなところばかり責めないで!」
 
 凱は杏樹の下着の上から股間を撫で、「可愛いなあ」とつぶやく。
「俺、虜になったみたいです」
「僕の…?」
「はい。あなたのことですよ」
 凱は「杏樹さんのことしか考えられないんです」と耳元で囁くと、また唇を重ねた。
「罪な人ですねー。俺、もうかなりはまっていますから」
 そして杏樹の下着を脱がせてしまうと、あらわになった茎を握り「アッ!」と杏樹に絶叫させた。

「もっと啼かせてみたいんです」
 
 凱はジーンズを下ろすと下着の中から茎を取り出して、早くも杏樹の秘部に挿入した。
「あああ!早い、まだダメ!でも、い…いっちゃう。このままじゃ耐えられない!」
 手をばたつかせて拒む杏樹だが、秘部はなんなく凱を受け入れていた。

「やだっ…」
 杏樹は指を噛んでこらえる。
その姿を見て凱は悲しげな表情を浮かべて杏樹の頬を撫でた。
「すみません、性急しすぎました」
「いいよ…。ちょっと驚いただけだから」
「俺、杏樹さんが欲しくてたまらないんです。全部欲しいんです」
 そう言いながら凱は腰を振り始めた。
「あっ。あ、うん…ん、ん、凱、なんか気持ちいい…」
「強くはしませんから。無茶をしたらあなたが壊れそう」
 
 杏樹は揺らされながら凱を見上げていた。
緩やかな腰の動きは自分を労わるようであり、それは愛情があるからこそだと杏樹は思う。
「昨日よりもいい。だんだんわかってきた…んんっ、凱、凄くいい」
「あなたにそう言われると、嬉しくてたまりませんよ」
 凱は口角を上げて微笑むと、杏樹の中を突き上げて「ここでしょう?」と聞く。
「んっ、ん。そこ、そこがいい」
「うん、俺もだいぶわかってきましたよ」
 凱は杏樹のいい場所を探り当て、そこを集中的に突くと「たまんない…」と呟きながら爆ぜた。



「シャワーだけでいいの?体を洗いなよ」
 杏樹が心配するが「平気です」と凱は濡れた髪をタオルで巻いたままスニーカーを履いた。
「その格好で外に出ないで」
 さすがにタオルを取り上げると凱が笑った。
「恋人同士みたいですね、俺たち」
「あ、うん。そうだね…」
「否定してくださいよ、『みたい』じゃなくて、そうなんだって」
 凱が杏樹を見ながら頬を膨らませた。
「え、僕でいいの?」
「あなたしかいません!」
 凱は首をかしげている杏樹にキスをすると「また来ます」と言って出て行った。
杏樹はこの瞬間がたまらなく寂しい。
凱さえよければ、一緒に住みたいとさえ思う。
「明日にでも、誘ってみようかな…」
 杏樹はタオルを手にしたまま、閉まったドアをぼんやりと見続けていた。


 夜中に杏樹は喉が渇いて目が覚めた。
目を擦りながら歩き、冷蔵庫からエビアンを取り出して飲むと、乾いていたのは別の場所と気付く。
 昨日はこの部屋に凱がいたのだ。
2人で寝たからには、もう1人寝ができないようだ。
『甘えん坊さん』と凱にまた言われそうだが、杏樹は寂しくて膝を抱えて床に座り込んだ。
「会いたいなー」
 口から出る言葉は本音だ。
「会いたい」
 杏樹が体を持て余しているとテーブルに置いた携帯が着信を知らせた。
なんだろうと見てみると凱からだった。
『もう寝ましたか?明日も会いに行きます』
 杏樹は頬が熱くなるのを感じた。
気持ちは伝わっているのだ、そう思うとさらに寝付けなくなってしまった。

18話に続きます
「杏樹さんのスーツ姿って、独特の色気がありますねー」
「ふざけるなよ」
 杏樹が洗面所の鏡の前で出勤の準備をしていると、凱がコップを片手に歩み寄ってきた。
「元々ある艶を、スーツで隠しているみたいで」
 そう言いながら凱は杏樹の髪に触れる。
「柔らかい髪。素顔は甘えん坊だし、凄くそそられます」
 
 2人が映る鏡を見ると、杏樹の理性が飛びそうだ。
凱の指先が離れたがらずに髪を指に巻きつけている。
そんなことをされたら触れて欲しくなってしまう。
「…こら。朝から口説くなよ」
「ふふ、冗談ですよー」
 凱は案外素直に指を離して「あはは」とくだけて笑って見せた。
杏樹はこういうときは凱は年下だとうなづけるのだが、セックスのときは違うと思う。
ありったけの愛情を注ぎ込むような濃密さを杏樹は感じていたからだ。
 自分を追い込む激しさと、自分の心を解放してくれるセックスだ。
そのおかげなのか、今朝の杏樹の肌は調子が良さそうだ。

「ところでまだ7時半ですよ?もう、出勤なんですか?」
「まだ30分あるけど」
 杏樹が腕時計を見ながら答えると凱が背中に抱きついてきた。
「わ、びっくりさせないでよ!」
「杏樹さん」
 凱は膝を折り、杏樹を見返りさせて唇を重ねた。
「すみません。離れるのが凄く辛いんです」
「でも僕は会社に行かないと」
「わかっています。だから…今日も少しだけ会えませんか?」
「凱の夜勤前に?別にいいけど」
 突っ張ってみせる杏樹だが、内心は落ち着かない。
好きな人と少しでも時間を共有できることは至福なのだから。


 杏樹は部屋の前で凱と別れて出勤した。
合鍵を渡そうとしたのだが、凱は「あなたをここで待っているのも好きなんです」と断った。
「お互いがルーズにならないように、俺なりに理性で線を引いているんですよ」などと、
大人っぽい言い方をしたのだ。
「わかった」
 杏樹は凱のその言い方が気に入った。
思い出すだけで顔がにやけてしまいそうで、杏樹は咳払いをして会社に入った。


「明日は雨だってさ。梅雨って、やだねー」
 なんと杏樹の部署に麻人が入り込んでいた。
「おまえ、癖毛があるだろう?気をつけろよ」
「僕のことに構わないでほしいな」
 杏樹は麻人を片手で「どけ」とばかりに追い返すと椅子に腰掛けた。
「なあ、杏樹。俺くらいおまえのことを想っている奴はいないよ?」
「なんだよ。セックスだけしか考えられない奴に言われたくないね」
「酷い言い方」
 麻人は吹き出すと近くの椅子に勝手に座って足を組んだ。
「部長が来るから出て行けよ」
「杏樹、いいことがあった?」
「うるさいな」
「なんか、今日の肌艶がいい」
「…なんでもいいだろう、早く出て行け」
 杏樹が口を尖らせて怒るので、麻人は「やれやれ」と両手を振った。

「あのさ。今日からクリスマスの包装資材の提案をするんだ。また午後から忙しくなるよ?」
「早いなー。相変わらず」
 取引先に季節やクリスマスなどの行事ものの包装資材を提案するのは営業の仕事だ。
花柄などの定番ではない包装紙はいつも早めに提案し、注文数をまとめると、
業務用の包装紙を扱う業者から注文数を買い取らなければならないのだ。
「で、杏樹のクリスマスの都合は?」
「なんでそんなことを聞くんだよ。関係ないだろう」
「いつもより語気が荒いなー。本当に俺を捨てる気?」
 麻人は杏樹のデスクに両手を乗せて前のめりになった。
「近い!」
 杏樹が体を反らすがそれでも麻人は近寄ろうとする。
「俺、杏樹にしか勃起しなくなったんだぞ。どうしてくれるんだ」
「そんなこと、知るか!」
 もはや麻人は変態としか思えない。
セックスだけが目的の男とは、こんなに露骨な性格なのだろうか。

「おいこら。バルサンでも焚くぞ」
 部長の声に慌てて麻人は立ち上がり「失礼しました」と出て行った。
「おはようございます、部長」
 杏樹が立ち上がって頭を下げると「おはよう。朝から大変だなー」と部長が苦笑いをする。
「うちの会社の女性陣は皆気が強いから、大島くんは太刀打ち出来ないんだろう」
「はあ、そうですね」
 結託した女性陣ほど怖いものは無い。
「だからと言って福永くんに誘いをかけるのはどうかと思うが」
「はい」
 部長はため息をついて煙草をくわえた。
「きみはこの部署の大事な戦力だ。あんな奴に振り回されるなよ」
「はい、もちろんです」
 杏樹は昨日の時点で麻人とは離れた気でいたのだが、彼はなかなかしつこい。
しかし逃げなければならない。
自分を大事に想ってくれる凱のためでもあるのだ。

 お昼を過ぎ、杏樹は気を引き締めてパソコンを操作していた。
麻人が言ったとおりに各営業マンから登録申請書を渡され、データ入力に追われた。
しかし苦しいとは思えない。
この仕事が終われば凱に会えるからだ。
「楽しく仕事をするとは、慣れてきたんだな。いい傾向だ」
 部長も眼鏡をかけてパソコンに向き合いながら杏樹を誉めた。
「辛いと思ったら先に進めないからな」
「はい、おっしゃるとおりで」
 相槌を打ちながら、杏樹は処理のスピードを速めた。
自分でもこんなに早く打てるようになったのかと驚くばかりだ。
しかし冷静を装い、定時であがるために全力を尽くした。
 凱に早く会いたいのだ。
会える時間は限られている、なんとしてもと焦りながら杏樹はパソコンの前から離れなかった。
 こんなに誰かを想うのは初めてかもしれない。
杏樹はこの気持ちを大事にしようと、心密かに決意した。

17話に続きます 
 自分が女性なら凱の茎を胸で挟んだり、素股でイかせることもできただろう。
杏樹は湯気を吸いながらそんなことばかり考えていた。
奉仕されてばかりで自分は何もしてあげていない、そう思うと杏樹はいよいよ落ち着かない。

「ねえ」
「ん?なんですか」
 凱は全身の泡をシャワーで流しながら杏樹を見た。

「僕にどうして欲しい?」
「え。いきなりどうしたんですか」
 凱はシャワーを止めて前髪をかきあげると、その場に膝をついてバスタブの中にいる杏樹に目線を合わせた。

「僕は凱に何をしたらいいのかわからないんだ」
「それはさっきも言ったでしょう。大事な気持ちはいただいていますって」
「…気持ちでいいの?」
「それはー…男ですからいろいろしたいことがありますけど」
 杏樹の胸が高鳴った。
凱が自分を欲しがっていると確信したのだ。

「俺は急ぎません、楽しく付き合いたいし。それにセックスも倒れるまでしたいと思っています」
 真顔でそんなことを言われると驚きもあるが、体が反応して股間が熱くなる。
「あなたと繋がっていたいんです」
 そして凱がバスタブの中にいる杏樹を引き寄せて唇を重ねた。
「ね?俺はマジなんですよ」
 凱の熱いまなざしに杏樹は体がうずく。
しかもバスタブにぽんと音が反響した。
「あ、当たっちゃった」
 凱が股を覗き込むので杏樹も見てみると、凱の茎は勃起していた。
それがバスタブに当たって音を立てたのだろう。
「大きいな…」
 杏樹は凱の茎に目が釘付けになった。
細長くて大きい凱の茎なら、自分の奥まで来れて当然だとわかる。
「嬉しいですね、誉めてくれるんですか」
「え、見たままを言っただけで」
「男のプライドは身長と茎ですよ、同じ男だからわかるでしょう?」
 凱が杏樹の顎を指で引き寄せた。
誘惑に満ちた目が杏樹を捕らえて離さない。

「そこにいると湯あたりしますから、あがってください」
 言うことを聞けとばかりに凱が杏樹にキスをする。
しかも舌を入れてきて、杏樹と絡まろうとしている。
「熱い…」
 思わず漏らした杏樹の声に「でしょう?早くあがってください」と凱が誘う。
しかし杏樹も勃起していて、あまり凱に見せたくない姿だ。
腰にタオルを巻きつけてバスタブから出ると、そのまま凱に抱きついた。

「体が熱いですね、杏樹さん」
「好きにしていいよ…。凱なら許す」
「してほしいんでしょう?」
「意地悪だな」
 
 杏樹は凱の足にまたがって密着した。
「これでは何もできないんですが?」
 凱が面白そうに口角を上げた。
「でもくっついていたいんだ」
「可愛いけど、どうしようかな。ああ、でも、一緒にイけそう」
 言うが早いか凱は杏樹の茎と自分の茎を併せ持ち、根元からぐいぐいと扱き始めた。
「あっ、ご・ゴリゴリする、なんか変な感じ!」
 杏樹がのけぞると凱が片手で支える。
「すぐに気持ちよくなりますよ、目を閉じても構いませんけど」
 凱は「あ・あ・あっ、う・ううん、やだ、なんかたまんない」と喘ぐ杏樹から目を離さなかった。
「杏樹さんの茎、もうやばそう」
「出させて、我慢できない!」
「もう少し我慢してください?俺もイきたいんです」
 凱は手コキに容赦しなかった。
「あ、杏樹さんっ。やっぱ、俺ももたないかも」
 そして凱は爆ぜ、杏樹もほぼ同時に爆ぜた。
「うっ、うううん…」
 体がだるく感じられて、杏樹は凱にもたれた。

「きつかったですか?」
「ううん、いい感じ」
 杏樹は体を火照らせたまま凱にしがみつく。

「入れて。ここがうずくんだ」
「じゃあ、また起たせないと」
 凱が自分でしようとすると杏樹の手がさえぎった。

「してあげるよ」
 そうは言ってもフェラには慣れていない。
杏樹は凱の茎を口に入れると、見よう見まねで舌で舐め、そして出し入れを始めた。
凱の茎は長くて大きいので杏樹は口を大きく開ける羽目になったが、辛くは無い。
「不慣れな感じが、かえってそそりますね…」
 凱は杏樹の髪を撫でながら、肌が上気してきた。

「はあ、杏樹さんっ」
 息が乱れてきた凱は杏樹を茎から離させ、そして杏樹の股を割った。
「あっ」
 急に開脚させられてしまい、その気ではあったが杏樹はしり込みしてしまう。
「逃げないでください」
 凱は杏樹の足首をつかむと引き寄せて秘部に指を入れた。
「んっ!」
 のけぞる杏樹だが、秘部は全く抵抗しておらず凱の指を受け入れた。
かき回すその指の動きに反応して「ん、ううん」とよがりながら胸を反らすので乳首が立つ。
「やっぱり体が柔らかい。それに、もうよさそうな感じ」
 凱は指を抜き取ると茎を挿入した。
そしてスムーズに奥まで進めると、中を突き上げた。
「アアッ!いい、凄くいい!」
 杏樹は自ら腰を振りながら快楽を求め始めた。
「もっと動いて、早くして」
 絶叫する杏樹に凱は応えるべく腰の動きを早めた。
そしてぐいぐいと中をかき回し、そのたびに「ああんっ、あ・あ・く、ううん!」と喘ぐ杏樹を見て汗を浮かべる。

「可愛い顔をして貪欲なんですねー」
 余裕のある言い方をする凱だが、杏樹にくわえられたようで未知の興奮を覚えた。
かつてないほど腰を振り続け、杏樹を貫こうとする勢いがあった。
 互いの肌がぶつかり合う音がバスルームに響き、杏樹はその感触と湯気に酔いそうだ。
思考がはっきりしなくなり、ただ凱に身を預けると急に「うううん!」とのけぞった。
すると頬が痙攣して自然と瞼を閉じた。



「杏樹さん、杏樹さん」
 凱の呼ぶ声が聞こえて目を開けると、杏樹はベッドの上にいた。
「あれ、どうしてここに?」
「俺が失神させちゃったんです。すみません」
 シャツを羽織った凱は申し訳なさそうに頭を下げると、団扇を手にして杏樹に風を送った。
なるほど、さっきから涼しい風が来ると思ったら凱がしてくれていたのかと杏樹は気付いた。
「僕、倒れたの?」
「はい。もうバスルームで無茶はしません。反省します」
 凱は再び頭を下げると「服、着れますか?」と首をかしげた。
見ると杏樹は全裸のままだった。
凱には見せている体だが、こうしているのは妙に恥かしく、杏樹は頬が紅潮した。
「着るよ、このままじゃ恥かしすぎる」
 杏樹は身を起こすとベッドから降りようとして尻餅をついた。
セックスのせいで足腰が立たないのだ。

「俺が着せますから、じっとしていてください」
 凱は本当に面倒見がいいと杏樹は思う。
こんな相手は初めてだ。
 かいがいしく下着を履かせ、シャツを羽織らせてくれるので杏樹はこの行為すら恥かしい。
凱を直視できずに目をそらすと「どうかしました?」と凱が聞いてきた。
「…凱はいいヘルパーになれると思う」
「あはは。好きな人にしかこんなことはしませんよー」
 凱は手を叩いて笑い、杏樹もそれにつられて笑顔になった。
「もう今夜は寝ましょう。俺はなにもしませんから」
「一緒に寝ないの?」
 出て行こうとする凱を杏樹は慌てて呼び止めた。
「俺はリビングのソファーをお借りします」
「凱、一緒に寝たい」
 杏樹が素直な気持ちを告げると「いいんですか?」と凱が嬉しそうだ。
「ベッドは狭いけど一緒に寝たいんだ」
 凱は杏樹の気持ちに応えてベッドに上がった。
「俺がいてもちゃんと眠れますか?」
「そんなことは気にしなくていいんだよ」
 杏樹は目覚まし時計をセットすると「起きれなかったら起こしてね」とまで言う。
凱は「甘えん坊さんだなー」と苦笑して横になった。

16話に続きます
「杏樹さんの期待に応えますよ。俺、夜型生活ですから」
 食べ損ねたハーゲンダッツを食べていた杏樹はその一言にむせた。
「け、けほっ」
「あれ、大丈夫ですか?」
「凱がおかしなことを言うから…」
 杏樹はウーロン茶を飲みながら息苦しくて涙目だ。
「僕はそんなにガツガツしていないよ。さっき抱いてもらったから十分」
「セックスのことだけじゃないですよ、お風呂も入らないと」
 目の前でにこにこしている凱に、杏樹はスプーンに取ったアイスを向けた。
「頭、冷やしたほうがいいんじゃない?」
「俺は冷静ですよ」
 凱はそう言うとアイスを舐めた。
バニラで濡れた舌が杏樹には艶めいて見えた。
まるで誘うような気さえする。

「俺、杏樹さんのことをもっと知りたいんです。どんな服が好きなのか・とか」
「ふーん」
 杏樹は平静を装いながら、鼓動が高まるのを感じた。
自分のことを知りたいなんて、早々言われることではない。
 椅子に座りながら足も乗せて両手で組むと、自分を見ている凱に首をかしげて見せた。
「照れるね、なんか」
「そうですか?」
 凱は楽しそうに笑顔を見せている。
「どうしてそんなに笑っていられるの?」
「だって、こうしてずっと一緒にいられるのが嬉しいんですよ」
 凱はテーブルに肘をついて杏樹と同じ方向に首をかしげた。
「なんだよ」
「可愛いなあと思って」
 凱が惜しげもなく誉めるので、杏樹は目のやり場に困ってしまう。

「覚えています?出会ったときのこと」
「忘れないよ。僕は裸だったからね」
 万引きを疑われてコンビニの店長の前で全裸になったのは苦い思い出だ。
しかも襲われかけたのを助けたのが、この凱だ。
「強烈なインパクトでしたけど、まさかあなたに惚れるとは思いませんでした」
「惚れたって、いつから?」
「あなたを守ろうと思ったときからです」
 それでは警察が来たときのことになる。

「僕よりも早いじゃないか」
「そうなんですか?」
 凱は「あはは」と笑い「言っておきますけど裸に惚れたわけじゃないですよ。同じ体なんだし」と言う。
「じゃあ、なんで?」

「1人にしておけない人だと思ったんです。そう思わされたのはあなたが初めてなんです」

 凱が真面目な顔をして告白するので、杏樹はどう答えようかと迷った。
放っておけない感じがすると言われたようで、自分には隙があるのかと思ったのだ。
 だからこそ麻人につけ込まれたのだとしたら納得がいく。
しかし男として、それはどうなのか。
「そんな困った顔をしないでください。俺、迷惑ですか?」
「迷惑じゃないよ。好きなんだから」
「ふふ、なんか嬉しいな」
 凱は前のめりになって「杏樹さん」と呼んだ。
「なに?」
「俺、同性に惚れたのは初めてなんです。だから新鮮な感じがして一時も離れたくないって思うんです」

「…どうしよう。そんなに愛されても僕はちゃんと返せるのかな」
「返すって?」
「同じくらいの愛情を凱に渡せるのかなって」
 杏樹は言いながら照れてしまい、うつむいた。

「ちゃーんと気持ちはいただいています」
 凱はそうつぶやくと椅子から立ち上がった。
「杏樹さん、お風呂に入りましょう?」
「一緒に?」
「はい」
 凱は杏樹の手を取り「甘えん坊さん、抱っこしましょうか」と軽々と杏樹を抱き上げた。
「い、いつも思うけど、重くない?」
「重くないですよ。あなたは細すぎて肘が当たると痛いくらいです」
 
 バスルームまで運ばれた杏樹はためらわずに服を脱いだ。
しゃがみこんでバスタブにお湯を入れ始め、その縁に腕を乗せてぼんやりしていると足音がする。
振り返ると服を脱ぎながら凱が歩み寄ってきていた。
「先にシャワーで洗いましょう」
 凱がシャワー用のコックをひねり、バスルームに蒸気が上がる。
「今日も俺が体を洗っていいんですか?」
「…うん、いいよ」
 そうして欲しいと思っていた杏樹は嬉しさを隠し切れずに笑みを浮かべた。
「やっぱり甘えん坊だ。でも俺はそういう人、好きですけどね」
 凱はスポンジにボディソープを泡立たせて「ふっ」と泡を飛ばした。
シャボン玉のようなそれはすぐに割れて消えたが、杏樹は子供のようにそれを目で追っていた。
「泡だらけにしましょうか」
「悪くないね」
 杏樹は丸椅子に座ると「じゃあ、お願いします」と凱を見たがお互い全裸だ。
思わず凱の股間を見てしまった杏樹はその長さに生唾を飲み、慌てて視線をそらした。

「杏樹さーん?」
「なんでもない」
 顔を赤くしながら杏樹は凱に体を洗ってもらい、バスタブに体を沈めた。
そして凱が自分で体を洗っているのを間近で見ながら興奮しそうな自分を抑えた。

15話に続きます
 凱の返事に杏樹は体が熱を持ち、疼き始めた。
こうして抱かれているだけでも息が苦しくなる。
愛情が募って、求める想いが高ぶりセックスをしたくてたまらないのだ。

「鍋、火を止めなくちゃ…」
 凱が杏樹を床に下ろそうとするが、まるで子猫がじゃれるように杏樹は凱にしがみついている。
「杏樹さん、ちょっと待ってくださいね」
「待てないよ、すぐにしてほしい」
 首を振る杏樹に凱は「困ったお兄さんだ」と微笑むと頬にキスをしてゆっくりと指を離させた。
 床に下ろされた杏樹は上気していてきちんと座れずにしなだれた。
そしてただ顔を上げて凱を見ている。
体が火照って仕方が無い杏樹はシャツの裾を引っ張って起き上がった股間を隠した。
しかしこの苦しい状態を強いられるのは辛い。
指先もそうだが、腿もこの欲情を隠せずに震えている。
 
 そうとは知らずに凱はカレーの鍋の火を止めて振り向き、杏樹の姿に驚いた。
「…わ。待たせてすみません」
「凱、もう我慢できない」
 杏樹は目を潤ませながら自分でシャツを脱ぐとベルトに手をかけた。
そして股間を隠しながら下着を脱ぎ去ると、いよいよ気持ちが高ぶりすぎて頬に涙がこぼれた。
「来て欲しい」
「杏樹さんっ」
 凱は床に両膝をついて杏樹を抱き締めた。
しがみつく杏樹を受け止めながら、凱は片手で杏樹の靴下を脱がせた。
「足まで綺麗って、反則です」
「焦らさないで、本当に辛いんだ」
 全裸の杏樹の股間がいつの間にか濡れている。
凱が腿を撫でると「ウッ」と杏樹がうめき、とろとろと液体をこぼす。
それをぬぐった凱の指は精で濡れた。

「杏樹さん」
 凱は右手で杏樹の股間を撫でて、左手で胸を揉んだ。
すると乳首がすぐに起ち、杏樹はたまらず腰を揺らす。
「吸って、早く」
 杏樹の期待どおりに凱は乳首を口に含み、舌先で舐めると吸った。
しかも股間をなぶる指を止めない、やがて先走った杏樹の茎からまたしても精がこぼれる。
「うっ!んんー!」
 外は体を反る杏樹を寸でのところで左手で支え、腕に抱えると杏樹を開脚させた。
「恥かしいよ」
 濡れた股間から床に精がこぼれていく。
「我慢させすぎてすみません」
 凱は杏樹の秘部に指を入れて具合を伺った。
すると杏樹はその指を締め付けてくる。
「ん、これじゃない。もっと大きいのが欲しい」
「杏樹さん、俺ももう限界です」
 凱は素早くジーンズと下着を下ろして勃起した茎をさらけ出した。
そしてわななく杏樹の足をつかむと、勢いよく挿入した。
「アッ!凱、凱ー!」
「はあ、締め付けてください、俺、昨日よりも奥に進みますよ?」
「いやだ、奥なんてっ」
 杏樹は抗いながらも腰をひくつかせて凱の茎を誘って奥に進ませていく。
それは快楽を求める本能だろう、杏樹は瞼を閉じながら凱に体を揺らされていた。
「あ・あ・あ…く、ううん…」
 首を震わされながら杏樹は感極まったように喘ぎ始める。
その声は猫の鳴き声に似て、甘く凱を煽った。
「すご…杏樹さん、昨日よりも進める」
 たしかに杏樹はまるで貫かれるような感覚を覚えた。
目を開けるとすぐ近くに凱の顔があった。
「じゃあ、もっと。もっとこっちに来て」
 杏樹の願いどおりに凱は茎を押し込み、互いのヘアーと睾丸が触れ合った。
「んっ!くるし…」
「杏樹さん、もう止まれません」
 凱は強く突き上げると素早く抜き差しを始め、杏樹は「あ、あんっ!」と叫んだ。
「や、やだっ、ゆ・揺らされる!」
「杏樹さん、好きです。もっと俺を見てください」
「見てる、見てるって!」
「愛しています、だから…だから俺と。くっ、うん!はあ、杏樹さん…」
 急にぐったりとした凱に驚いて杏樹が背中に手をまわすと「すみません」と小声がする。
凱が先にイってしまったのだ。
「はあ、なんか…持ちこたえられなくて」
 杏樹は物足りなさを感じたが、自分は3度も爆ぜていたので疲労感が残る。
「もしかして、おなかがすいているから?」
「あ、はい。…すみません」
 正直な凱に杏樹は微笑むと再び抱き合った。
「僕も愛しているよ。後でまた、してくれる?」
「もちろんです、そのつもりですから」
 凱の自信ありげな態度に杏樹は顔が熱くなった。
セックスに溺れたのは否めないが、それも愛情を感じるからだろう。
杏樹は処理をしてくれる凱を見ながら指を噛んで興奮をおさえた。
凱が触れると押し出されるように精を放出してしまうので、それをこらえるのに必死だった。
 そしてお互いが服を着ると、凱は杏樹を見て「どうしようかな」と言い出す。
「満たされていないって感じですね」
「おなかがすいたからだよ」
 杏樹は見破られて恥かしく、嘘をついてごまかした。


 2人はカレーライスを食べながら色々な話をした。
「俺ね、この時期に忘れられない思い出があるんですよ」
「へえ?」
 凱は「あまり面白いことじゃないんですが」と前置きをして「去年の父の日のことです」と切り出した。

――凱は父の日にブランドのポロシャツを買い、父に渡すときに言葉を間違えたそうだ。
「気持ちだけなんだけど」
 照れくさくてそんな言い方をした凱に、父親はこちらを向かずに「気持ちだけならいらない」と言った。
そのとき凱は箱を持った手が震えだした。
バイトをして初めてもらった給料で買った父親へのプレゼントは日の目を見ることができなかった。
 一部始終をを見ていた母親は「もらっておきなさいよ」と父親に言ったが、
「気持だけって言うんだぜ。そんなものいるか」と不愉快そうにぼやいたのだ。


「どこが言葉を間違えたんだよ?」
 杏樹はスプーンを持った手を下ろして凱に聞いた。
「照れくさくて『気持ちだけ』って言うのはありなんじゃないの?」
「俺もまだよくわからないんですけどね」
 凱は「ふふ」と噴出しながら杏樹を見た。
「子供なりに『お父さんいつもありがとう』のほうが伝わったんじゃないかなと思うんです」
「あ。そうかー。そういうものか」
 杏樹は言われてみれば月並みだがそのほうがベストだと感じた。
「だから、これからは言葉を間違えないようにしようと思ったんですよ」
「へえ」
「遠まわしな言い方をしないで、直球勝負で」
「直球?」
 杏樹がなんのことかわからず首をかしげると凱が口角を上げた。
「好きな人には『好き』って、ちゃんと言うこと」
「あ、そうなんだ…」
「これは愛だと思ったら『愛している』って伝えること」
「んっ?」
 杏樹は喉につまらせそうになって慌てて水を飲んだ。
「大事な気持ちは言わなくちゃ伝わらないですよね」
 凱はきちんと杏樹の眼を見て言った。
「…ありがとう。僕も凱が好き、いや、愛しているよ」
 言いながら照れた杏樹は「暑いねー」と言いながら手をひらひらさせながら顔を煽った。

13話に続きます
「おまえの夢を見て朝立ちしたんだけど」
「はあ?」
 杏樹が出社すると麻人が待ち構えていたのだ。
「朝立ちなんて卑猥な言葉を朝から言うな」
 朝から気分が台無しだとばかりに、杏樹は麻人を横目でにらんで部署に入る。
「俺、納得いかないんだ」
「ついて来るなよ!」
 杏樹は麻人の伸ばしてきた腕を払った。
「僕は麻人と関係を持ちたくない。昨日も言っただろう、2度も言わせるな」
 憤慨して椅子に座る杏樹を見ながら「やけに強気じゃん」と麻人が笑う。
「何がおかしいんだ」
「おまえは絶対に俺から離れられないよ。なんたって相性がいいんだから」
「うるさい」
「喘ぐくせに」
 杏樹は麻人をにらみつけると「僕は安売りしない」と断言し、「出て行け」と首を振った。
麻人は両手を上げて「やれやれ」と言った仕草で出て行った。

 麻人の粘着質に気付いた杏樹は、なにがあろうと貞操を守ろうと思う。
凱とのセックスで愛情が芽生えたからには自分を守らなければならない。
 ただ惹かれているだけでセックスに同意した昔の自分が情けない。
しかし今後はそんなことがなければいいのだ、杏樹は釣られるものかと決意をあらたにした。
『あなたを守ります』とまで言ってくれた凱を、裏切ることだけはしたくないのだ。

 

 杏樹の部署は午前中は閑だ、部長の眼を盗んで凱にメールを打ちたかったが我慢をした。
凱は寝ているか大学に行っているだろう、邪魔をしてはいけないし、自分も仕事中だ。
 だが杏樹は無性に凱に会いたかった。
今朝もコンビニに寄りたかったが、毎日顔をだすわけにもいかないと諦めたのだ。
しかし行けばよかったと今更思う。

「福永くん、気だるそうな雰囲気だねえ」
 たそがれる杏樹を部長がからかってきた。
さぞや閑なのだろう。
「まあ、今のうちに気を抜いておくんだな。午後からはため息1つつけないんだから」
「ありがとうございます」
 頬を赤くしながら謝る杏樹を見て、部長が「何か食べるか?」と誘ってきた。
「実は昨日家内がケーキを買ってきてね。残り物だがきみにどうかと思って持ってきたんだ」
「あ、はあ」
 杏樹は特別甘いものが好きなわけではない。
だが、よく人からスイーツをもらう。
「きみを見るとお菓子を与えたくなるんだ。笑顔が見たくてね」
「は。そうなんですか…」
 まるで子供扱いだが、杏樹は部長の気配りに感謝してケーキを食べ始めた。
1口食べるごとに凱とケーキを食べに出かけるのも悪くないなと想像した。
 普通の恋人のように街を一緒に歩いてみたい、そんな気にさせられるのだ。
凱とはセックスだけでなく、側にいたいと思う。
それこそ愛情があるからだろう。


 杏樹は午後からはいつもどおりに多忙を極めた。
何枚打ち込んでも減らない申請書や登録書の処理に追われ、杏樹がようやく「んー」と背伸びをしたのは定時の17時だった。
「今日もごくろうさん」
 部長は早々とカバンを持って出て行った。
杏樹は机の上を片付け、パソコンを閉じるとようやく部署を出れた。
 
 しかし出入り口には麻人が立っている。
「お疲れ」
 麻人は杏樹を見ながら口を尖らせている。
なかなかの執念深さを杏樹は思い知った。
「少し付き合えよ」
「他を当たれ。僕は関係ない」
 麻人にとってはつれない返事をして、杏樹は会社を出た。
そして早く部屋に帰ろうと走り出し、麻人の追及から逃れた。
もし麻人が来てもドアは開けるもんかと杏樹は鍵を握り締めていた。

 杏樹が部屋に着くと「お疲れ様です」とドアの前で凱が待っていてくれた。
しかも今日は大き目のエコバックを提げている。
「どうしたの?」 
 杏樹が部屋の鍵を開けながら聞くと「カレーでも作ろうかなあと思ったんです」と凱が言う。
「え、カレー?」
「嫌いですか?」
「いや、好物だけど、そんな時間があるの?」
 凱はコンビニで夜勤の仕事のはずだ。
心配して見上げる杏樹に、凱が微笑んだ。
「今日はバイトお休みなんです。ローテンションで交代制なので」
「そうなんだ!」
 杏樹は思わず嬉しそうに声を上げた。
今日はずっと一緒にいられる、そう思っただけで感激だ。
「だから、泊まってもいいですか?」
「い・いいよ?」
 杏樹は自分の顔の熱さに気付いた。
カレーも食べたいが、他のことも考えてしまう。
「よかった。突然押しかけて迷惑かなと思ったんですが、嬉しいです」
 凱は杏樹の気持ちに気付かないようだ。
それが杏樹を安心させ、なおかつ楽しい気分にさせられた。
セックスが目的じゃない、こうして会いにきてくれた凱が愛おしいのだ。

「さてと。キッチンをお借りしますね。ぱぱっと作っちゃいましょう」
 キッチンに立った凱は手際よく野菜を刻んで炒め始める。
「手馴れているね」
 杏樹が驚いて見ていると「今のうちに着替えてきてくださいね」と凱に言われた。
「スーツ姿でいられると、俺・興奮しそうなんですから」
「え、そうなの?」
「はい、そうなんです。昨日のこととか思い出すんです」
 凱は顔を赤らめて「脱がす楽しみを覚えてしまったんですから今の俺は危険ですよ」
「わ、すぐ着替えてくる」
 杏樹は襲われてもよかったのだが、凱はきちんと段取りを組む性格らしい。
邪魔をしないように部屋着に着替えると「ご飯は僕が炊くよ」と凱の側に立った。
米を研ぎながら、杏樹の視線はどうしても凱に向いてしまう。

「なんか、楽しいですね」
 凱が嬉しそうに杏樹を見つめる。
「美味しいカレーが出来そうです」
「うん、期待しているよ」
 凱はスープを鍋に注ぎ込み、蓋をした。
鍋はぐつぐつと音を立てている。
「20分も煮込めばいい感じになります」
「待ち遠しいな」
 
 杏樹が鍋を見ていると「杏樹さん」と凱が呼んで振り向いた杏樹を抱き上げた。
「わ、びっくりさせないでよ」
「少し触れてもいいですか?」
「い、いちいち聞かなくても。僕は凱になら何をされてもいいんだよ」
 杏樹は麻人の首に手をまわして唇を重ねた。
「ん、ドキドキしてきた」
 杏樹は自分の胸をおさえて鼓動が伝わらないよう配慮した。
しかし凱はさすがに気付いたようでお返しのキスをした。
「高ぶっちゃいそうです。こんなに愛しい気持ちは初めてです」
 そして凱は杏樹を抱く腕に力をこめる。
「あなたが大好きです」
 息が頬にかかり、杏樹はこの熱さに体が反応しているのを感じた。
「抱いてほしい」
 杏樹のかすれた声に凱は「俺も抱きたいです」と応えた。

13話に続きます
「杏樹さん、俺、絞り取られそう…」
 凱は杏樹の中を突きながら、髪を乱してもなお欲しがる杏樹に心を奪われた。
突き上げると「くうっ・ん!」と喘ぐくせに、急に秘部を締め付ける動作に場慣れしたものを感じる。
しかし杏樹の慣れた仕草を壊すかのように凱は腰を揺らし、激しく杏樹を駆り立てた。
「あ、あん!あ・あ・あ・や、やだっ、じわじわとくるっ…」
 杏樹は自分の茎がまた爆ぜたと知り、頬を赤くして身をよじる。
「やだ、く、ううん!凱、凱っ!」
「色気ありすぎです、杏樹さんっ」
 そうつぶやくと凱は「ぐっ」と声を押し殺して杏樹の中で爆ぜた。
秘部から茎を抜くと、同時に精が流れてくる。
それは泡を吹いたようにぷくぷくと溢れ、杏樹の腿を汚していく。

「杏樹さん、拭きますからじっとしていてくださいね」
 凱はティッシュを持ち出して杏樹の秘部の周りを拭くと、穴に指を入れて掻き出した。
「やっ!…な、なにをしているの」
 杏樹は相手にここまでされたのは初めてだった。
あの麻人は拭いてくれはしたが掻き出さなかったので、なにかの拍子に下着を濡らした事は多々あった。
「ここ、綺麗にしておかないと大変ですよ」
「そ、そうなの…。ん、んー!」
 杏樹は口に両手をあてて声をこらえるのに必死だ。
いまや完全に凱の虜になっているようだ。
どこを触られても感じてしまい、素直な茎はまた勃起してしまった。

「可愛い」
 凱は微笑みながら杏樹の顔を見る。
「年上の人に可愛いなんて失礼かもしれませんが、すみません、凄く可愛いです」
 そして秘部の中に指を3本も入れてかき回し始めた。
「やだっ!も、もう無理!」
「あ、どうしよう。俺も…かなりきちゃって」
 凱は杏樹の体に圧し掛かると片手で胸を揉み、乳首を指先で突いた。
「ん!」
 のけぞる杏樹を見ながら「止まれない…」と凱はぼやく。
「止まれないです、杏樹さん」
 そして秘部から指を抜くとまた茎を挿入して大きく腰を振った。
「あ、あん!に、2回も?や、やだ、凱!」
「すみません、もう火がついちゃって」
 凱は暴れる杏樹の乳首を舐めて甘噛みした。
「あっ…ぞくぞくする」
 杏樹が「はあ、」と息を吐きながら凱の髪をつかんだ。
「も、止めて?僕もおかしくなりそうなんだ」

「おかしくなって、いいですよ?」

 凱は腰を振り続け、互いの肌がぶつかり合う音を聞きながら「んっ、んっ」と荒い呼吸をする。
先程よりも強い調子で突き上げられて、杏樹はよがりながら開脚して凱を受け入れた。
「さっきよりもいい感じ」
 凱はだんだん小刻みに腰を震わせてきた。
「凱、んっ、あ、どうにかなっちゃう…」
「俺も、です」
 そして「ううんっ!」と吼えて凱は再び爆ぜた。
杏樹は汗を浮かべた凱の頬を両手で包み「凄くよかった」と甘い声でささやいた。


「時間は大丈夫?」
 寝転がりながら杏樹が聞くと「走れば間に合います」と凱が笑顔を見せた。
急いでシャツを着ている様子を見ながら、杏樹はもっと2人でこの夜を過ごしたかったと思う。
しかし凱には仕事があるのだ。
「今度はデートしましょうよ」
 凱の意外な提案に杏樹は驚いた。
「杏樹さんのこと、もっと知りたいんです。だから行きつけのお店とかを紹介してください」
「いいけど…まるで恋人みたい」
「俺はそう思っているんですけど、え、違うんですか?」
 凱が杏樹の顔を覗き込むので杏樹は顔を赤らめた。
「あ、そうですね。ちゃんと言わなくちゃ」
 凱は「んん」と咳払いをして膝を折り、杏樹に視線を合わせた。

「あなたを愛しています。俺と付き合ってください」
「僕で、いいの?」
 杏樹は思わず聞き返した。
昨日まで麻人の玩具扱いを受けていた身だ、それなのに凱に愛してもらえるのが信じられないのだ。
「僕なんか汚れているのに」
「汚れていません」
「昨日赤い跡を見たから知っただろう?僕は昨日まで、愛の無い…」
 すると急に凱が杏樹を抱き締めた。
「凱?」
「過去になにがあろうと、杏樹さんは俺のものです」
 その穏やかな言い方に、杏樹の涙腺はもろく崩れた。
しゃくりあげる杏樹に「あれ、泣かないでくださいよ」と凱が杏樹の頬を撫でてキスをした。
「俺があなたを守ります。だから付き合ってくださいね」
「うん」
「これからは自分の身を自分で守ることはしなくていいんです。俺が側にいますから」
 杏樹はそれを聞いて「かっこいいね」と微笑んだ。
「…凄く照れました」
 そう言いながら凱は杏樹を強く抱き締める。
「言い慣れていないもんね、だから素直な気持ちが嬉しい」
 杏樹は凱にいつまでも抱かれていたかったが、時間が迫っていた。
「…ごめんなさい。俺、もう行かなくちゃ」
「そうだね、ごめん」
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
 杏樹は手を振って送り出すと、急に寂しさがこみ上げてきた。
「我慢、我慢だ」
 閉めたドアに寄りかかりながら、その冷えた感触が心地いいと杏樹は思った。
しかしシャツしか身につけていない半裸状態なので、急に恥かしくなりバスルームに逃げ込んだ。
バスタブにお湯をはりながら、杏樹は幸せと寂しさを交互に感じる。
「はあー」
 凱ともっと2人で過ごせる時間が欲しい。
そんなことを言い出したら凱が困るのは目に見えているので口には出せないが、本音だ。
 湯気の上がるバスタブにもたれながら、杏樹は何も無い天井を見上げていた。
昨日は2人で入ったせいなのか、今日はバスルームが広く感じられる。
「また、早く会いたい」
 呟きながら杏樹はシャツを脱いだ。


12話に続きます
「どうしてセックスを拒むんだよ!」
 麻人は得意先から帰社すると、部長が席を外しているのをいいことに嫌がる杏樹を連れ出した。
そして人気のない倉庫でいきなり怒鳴ったのだ。
「俺のやり方に飽きた?」
「その言い方だとまるでセフレに聞こえる」
 杏樹が反論すると麻人は苛立ったのか棚をバシッと叩いた。
その音が倉庫に反響するが、杏樹は怯えなかった。

「麻人とセックスはしない」
「なんで!」
「好きな人がいるんだ。その人は僕を愛してくれるから」
 杏樹はそういいきると麻人の頬を平手打ちした。
「愛情のないセックスは不毛だ。金輪際、性欲の処理はお断り」
 そして呆然とした麻人に追いつかれないように走って部署に戻った。


「そんなに汗をかいて、どこに行っていたんだ?」
 部長が心配するほど、杏樹は額から汗を流していた。
「なんでもないです。しいて言えば前々からの厄介ごとが清算できたところでしょうか」
「言葉巧みだなあ」
 部長が「ふふ」と笑った。
「あの大島くんに一泡食わせてやったとしたら、たいしたものだよ」
「え」
「大島くんがきみに固執しているのは誰でもわかっていることだ」
「そうなんですか」
「大島くんの態度を見れば一目瞭然」
 部長はセックスをした仲とまでは知らない様子だが、面にでなくてよかったと杏樹は安堵した。


 定時の17時にあがれた杏樹は急いで部屋に帰った。
お昼休みに<部屋の前で待っていてほしい>と凱にメールを打ったが、果たして待っていてくれるだろうか、それが不安で杏樹は走った。
「杏樹さん、お疲れ様です」
 果たして凱は部屋の前にいてくれた。
しかも手にはコンビニの袋を提げている。

「どうしたの?」
「ハーゲンダッツです。今日は蒸し暑いから食べたくなって」
 笑顔の凱を見ると杏樹は走ってきてよかったと心底思う。
「気配りが嬉しいよ。ありがとう」
 杏樹が見上げると凱ははにかんで頭をかいた。

「早くあがって。時間が無いからさ」
 杏樹が凱を招き入れると、凱は「お邪魔します」と一礼してスニーカーを脱ぐ。
年下なのに躾が行き届いている凱に、杏樹は感心する。
「ハーゲンダッツ、冷凍庫に入れておきますねー」
「うん、ありがとう」
 そして杏樹は着替えもせずに「コーヒーでも飲む?」と凱に声をかけた。
すると凱は「そうですねー、外は暑くて喉が渇いたし」と言いながら杏樹に歩み寄った。
「ど・どうしたの?」
 杏樹が見上げると凱は急に杏樹を抱き締めた。
「凱?」

「好きなんです。凄く、好きになっちゃったんです」
 凱が苦しげに告白をした。

「大学に行ってもあなたのことしか考えられなくて、講義を受けても上の空でボロボロだったんですよ。杏樹さん、俺の気持ちを受け入れてはくれませんか」
 
 杏樹は凱の体温を感じながら目を閉じた。
そしてかすかにうなづくと「僕もそうだから」と口を閉じた。
 キスを待つ仕草だと気付いた凱は膝を折って唇を重ねる。
しかし感情が高ぶっていて、凱は舌を割り込ませて杏樹の中に進入して舌を絡ませあった。
「あ、ん。こぼれるっ」
 杏樹が離れようとしても凱に抱き締められたままで動けない。
「凱、こぼれちゃう」
「ん、これでいいですか」
 なんと凱が唾液を吸った。

「杏樹さん、暑いでしょう?脱がせてもいいですよね」
「…うん。でもなんか恥かしいよ」
「昨日、体を洗ったのに?」
 凱が得意そうに笑う。
この子には勝てないかもしれない、杏樹はそう思った。
 
 凱は素早く杏樹の上着を脱がせてシャツをまくりあげた。
邪魔なネクタイは後ろにまわして、華奢な杏樹の体を眺める。
「ちょ、恥かしい」
「床の上では痛いから、ベッドを使わせてください」
 言うが早いか凱は杏樹を抱き上げてベッドに運んでしまう。
その間、杏樹は凱の心臓の音を聞いた。
自分と同じで激しく打つ鼓動に、感情が爆発しそうな予感がした。





「はあっ…凱、バイトに遅れちゃうよ?」
「でも、離れたくないです」
 凱は舌先を使って杏樹の睾丸を丁寧に舐め、茎に到達した。
そしてすでに勃起した杏樹の茎を舐め上げて先端をくわえると吸った。
「ウッ、うううん!」
 杏樹がのけぞると凱は滑らかな腰を撫でた。

「杏樹さん…俺、離れたくない」
 凱の手は杏樹の胸に伸びていく。
「僕も、そうだけど、でも…」
 杏樹は胸を揉まれながら「んん、ん…」と、かすかな声をもらす。

「ダメだよ、仕事に行かないと」
「ダッシュで行けば間に合いますから」
「そう…?」
 杏樹が潤んだ瞳を凱に見せると、凱も顔を赤くして「ここがキツイ」と腰を上げてファスナーを下ろした。
「杏樹さん、触ってくれますか」
「ん…」
 杏樹が下着の上から凱の茎を撫でると、その固さと太さに「あっ」と声を上げた。
「苦しい。杏樹さん、もっと」
「やだ、大きいよ。凱、出したほうがいい」
「出してください、あなたの指でお願いしたいんです」
 杏樹は体を起こして凱のジーンズを下ろすと下着の上から茎を撫でた。
「あっ!苦しい、杏樹さん、出ちゃいます!」
 
 慌てて杏樹が下着を下ろすと、ぐんと起き上がった凱の茎が現れた。
その大きさに杏樹が手をこまねていていると、凱は再び杏樹を寝かせて膝を立てさせた。
「体、柔らかいんですね」
「そう…?」
「触れているとたまんないんです」
 そして凱は杏樹の秘部に自分の茎を挿入した。
「アッ!…く、ううん。凱?」
「入るものなんですね、俺、初めて知りました」
 互いのヘアーが触れ合うほど、凱は茎を奥まで侵入させる。
「なんか、中でとろけそうです。杏樹さんの中が熱いから」
「変なことを言わないで」
「だって…本当のことなんですよ」
 凱はベッドに手を置いて、腰だけで抜き差しを始めた。
「あ、凄い。飲み込まれそう…」
「凱、体が熱い!なんとかして」
 杏樹が足をばたつかせると凱が微笑んでキスをした。
「もっと熱くなりますから」
「凱…」
 杏樹は指を噛みながら凱の目を見た。
「愛しています。あなたに会えてよかった」
 そして抜き差しのスピードを速めて杏樹を追い込む。
「あっ、あ・あ・あ・あ・うっ、ううん!」
「杏樹さん、愛しています、全部俺にくださいっ」
「あげる!あげるから、もっとよくして!」
 杏樹は叫びながら精を放っていた。
我慢がきかないのだろう、精を放出すると杏樹は荒い呼吸をしながら凱を受け入れていく。
股間から淫靡な音が聞こえてきて、杏樹は失神しそうだった。
「気持ちいい…。あ、凱、もっとして」
「はい、強くしますよ」
「あ、ああん。やだ、焦らさずにもっと突いて!」
 杏樹は凱とのセックスに溺れ始めていた。

11話に続きます
2009.06.08 室内の湿度・9
 杏樹は凱の指が触れた茎が熱を持っているせいか、なかなか寝付けなかった。
思い出すのはバスルームにいた凱の姿ばかりで悶々としていたのだ。
あのシャツに隠れた素肌が見たかったし、細身なのに筋肉のついた腕が目に焼きついている。
「は…」
 自慰をすれば楽になるのはわかっているが、凱を汚すような気がして自慰に踏み切れなかった。
体が火照るとはこのことかと杏樹は思う。
どうにも体が疼いて仕方が無いのだ。
 
 眠れない夜の布団は妙に熱い。
吐く息も熱を帯びている気がした。
 しかしようやくうとうとしてきたと思ったら、窓の向こうは白い空が広がっていた。
 ベッドから降りて裸足で洗面所まで歩き、鏡に映る自分の顔は明らかに寝不足で、しかも瞼が腫れている。
慌てて水に濡らしたタオルを瞼に乗せてしばらくソファーにもたれると、気分がいい。
「はあ…」
 ため息をつきながら、自分はどうしたいのかを考えようとした。
だが何かをしたいわけではなくて、まるで初恋のように凱に焦がれている自分に気付く。
「思春期じゃあるまいし。何をしているんだろう、僕は」
 自分を卑下していると小鳥の鳴き声で「いけない」と正気づき、杏樹はタオルを外して時計を見ると午前5時だった。
まだ凱は仕事中だろう。
 会いたい・そう強く感じた杏樹はスーツに着替えてカバンを持つと部屋を出た。



 早朝だから人はいないかなと思ったが、ジョギングをする人とすれ違ってふと見返った。
よくよく見渡せば朝帰りなのかジャージ姿の女の子やお年寄りが歩道を歩いている。
 コンビニもお客さんが入っていることだろう、杏樹は凱に挨拶だけして会社に行こうと決めた。

 ドアを開けると「いらっしゃいませ」と野太い声がする。
レジにはその男子しかおらず、凱の姿はなかった。
 杏樹は寝不足のせいかためらいもせずにその男子に「杉本くんは?」と聞いた。
「ああ、杉本ならあそこにいます」
 指されたのはお菓子の棚の辺りだ。
言われるままに杏樹が行くと、凱は入荷したお菓子を検品していた。
5.6個のポテトチップスの箱に背を向けてしゃがみこみ、1人で黙々と作業に没頭しているようだ。
「おはよう」
 声をかけると凱が顔を上げた。
「杏樹さん!おはようございます」
 なんとも嬉しそうな笑顔を見せられて、杏樹は胸の高鳴りをおさえつつも来てよかったと思う。
「早いですね。もう会社に行くんですか?」
「いや、その…昨日は迷惑をかけたから挨拶だけでもしたくて」
「迷惑じゃないですよ。それに俺は楽しかったから堅苦しい言い方は止めてくださいよー」
 
 凱はゆっくりと立ち上がり、ポテトチップスの箱に印字されたバーコードを手のひら大の機械で読み取ると箱を開け始めた。
 仕事をこなす姿勢に見蕩れながら、杏樹は自分は邪魔だなと思う。

「忙しそうだから、また来るよ」
「え、杏樹さん。ここにいてくださいよ、俺は話ながらでも仕事をしますから」
 凱が焦って身を乗り出したが、杏樹も社会人だ。
邪魔をするわけにはいかない。
「それこそ迷惑をかけちゃうよ。電話かメールをするね」
「杏樹さん、わざわざ来てくれたのに…なんか、すみません」
 凱が頭を下げるので杏樹は「僕が勝手に来ただけだから」と制して、手を振った。
「またね」
「そんな、杏樹さん」
 杏樹がコンビニを出ようとしたら「仕事は何時に終りますか?」と言いながら凱が追いかけてきた。
「17時だけど」
「じゃあ、少しだけ会えますか?俺は20時からここで働くので」
 凱は人目を気にせず堂々と誘うので、杏樹は迫力に負けた。
「あ、うん。い・いいよ?」
 強引な誘い方だが、悪くない。
杏樹はそう思うと急に顔が熱くなってきた。
「じ、じゃあね」
 今度こそ杏樹はコンビニを出て、出社時刻には随分と早いが会社に向かって歩き始めた。



「福永くん、やけに早いね」
 すでに出勤していた部長が目を丸くした。
「起きる時間を間違えたか?まあ、そんな凡ミスをする子じゃないか」
 部長は美味しそうに煙草を吸い「今日も忙しくなりそうだね」とつぶやいた。
「聞いたか?大島くんの件」
「え、なんでしょうか」
「例の父の日の包装資材、見つからなくて四方八方に出向いているらしいよ」
「ああ…そうですか」
 
 包装紙を扱う業者はこの辺りでは一社のみだ。
県外を当たれば何か出てくるかもしれないが、麻人はそこまでするだろうか。

 杏樹がぼんやりとしていると、部長がコーヒーを渡してくれた。
「あ、すみません!」
「たまにはいいじゃないか。私の入れたコーヒーが口に合えばいいのだが」
「いただきます」
 杏樹が1口飲もうとすると「そろそろ相手が見つかったか?」と唐突に聞かれた。
「福永くんの容姿で彼女がいないなんて、おかしいと思っているんだよ。理想が高いのかい」
「そ、そんなことはありません」
 入社して以来、麻人に振り回されて相手どころではなかった。
しかもそんな麻人に惹かれていた時期があったなんて、今では考えられないあやまちだ。

「彼女ができたら写真くらい見せてくれ。大事な部下がどんな女性を選ぶか楽しみなんだ」
「はあ」
 人のことだから構わないでほしいのだが、部長はそれくらいしか楽しみがないのだろう。
「きみに似合うのはきっと今どきのお嬢さんだろうな」
「…はあ」
 今自分が焦がれているのは今どきの男子なのだが、口が裂けても言えない。
「なんでも相談に乗るよ」
「ありがとうございます」
 杏樹は自信ありげな部長に頭を下げるとコーヒーを飲んだ。
今日こそは平穏な1日を過ごしたいと杏樹は思った。
 夕方には凱に会える。
それが楽しみなので残業をせずに帰宅しようと杏樹はパソコンを立ち上げた。


「杏樹!急いでこれを登録して!」
 バタバタと大きな足音を響かせながら麻人が走ってきた。
「うるさいよ、大島くん」
「すみません、でも大急ぎなんです」
 麻人が持ってきた登録書には<父の日用包装紙・新>とある。
「新しい包装紙が見つかったんだ?」
「ああ!やっとね。て言うか、他社でキャンセルが出たんだよ、それで入手できたってわけ」
「なるほど」
 杏樹はうなづきながら登録を行い「できたよ」とすぐに麻人に伝えた。
「よーし!ありがとう。これで納品ができる!」
 麻人は駆け出そうとして一瞬足を止めた。

「目、腫れてる」
「うるさいな、構うなよ」
 杏樹がにらむと「あとで倉庫に来てよ。棚の整理をしたいんだ、手伝って」と言い始めた。
「はあ?」
 人気のない倉庫に誘うなんて、性懲りもなく、どうせセックスに持ち込む気なのだろう。
「僕は忙しいから他部署に頼め」
「えっ」
「残業になると困るんだ。せっかく朝早くから来たのに残業するなんて馬鹿らしい」
 杏樹がはっきりと断るが麻人は納得がいかないのか口をとがらせる。
「突っ立っていないで早く納品に行けばいい」
 部長も呆れたのか麻人を追い出した。
どたどたと足音を響かせながら出て行く麻人を見送りながら、部長は「どうも福永くんを構いたいようだなあ」と、ため息をついた。
「同期だからかな」
 杏樹は同期なら他部署にもいると言いかけて止めた。

10話に続きます
2009.06.06 室内の湿度・8
 杏樹は勃起した茎を両手で包んで隠したが先端が見えている。
泡だらけの指で茎をつかもうとして手が滑り、隠すどころか刺激を受けてしまった。
「うっ…」
 我慢できずに体を反らす杏樹を見て、凱は微笑んだ。

「その仕草が初々しいですねー」
 凱はシャワーで杏樹の体を流し始め「ちょっとごめんなさい」と言って股間にもお湯を流した。
すると茎の全容がすっかり凱に見えた。

「杏樹さん」
 凱はシャワーを元の位置に戻すと杏樹の正面に膝をついた。
「俺に任せてもらえませんか?」
「無理、そんなことさせられないよ!出会ったばかりなんだし、その…」
「俺のこと、嫌いですか?」
「そんなことはないよ、でもさ…」 
 杏樹は何かに気がついて顔を上げた。
「杉本くんは僕に聞いてばかりだ」
「自分に自信がないんですよ」
「そんなことはないだろう」

 麻人とはまた違ったタイプだが、涼しげな目元が印象的な眉目秀麗の男だ。
男に「綺麗」と言うのは誤用だと思うが、その言葉がしっくりくるような容姿なのだ。

「コンビニでも男気のある態度だったし、もしかしたら店長代理とか、リーダーシップを取る子だと思うのに」
「嬉しいことを言ってくれますね」
 凱は両膝をついて杏樹を見上げた。
「でも、好きな人の前では臆病なんですよ。ほとんどの男はその逆でいいところを見せようとしますけど、俺は嫌われたくないからとてもできない」
「え、そうなのか」
「とんだ奥手です」
「嘘だ…」
 携帯の番号とアドレスを持って走ってきたのは凱だった。
その行動のどこに奥手と言う言葉が似合うのか。

「じゃあ、俺に任せてくれますね?」
「え、なにを?」
「これ」
 凱は杏樹の茎をにぎるとぐいぐいと扱き始めた。
「あっ!あ、そこはダメッ!」
「キツイですか?」
「ちがっ…杉本くん」
 こらえようとする杏樹に「凱って呼んでくださいよ、杏樹さん」と凱が舌を出した。
「俺、凄くあなたが好きなんです」
 杏樹はその言葉に偽りは無いと感じた。
手コキをする凱が力を入れていないからだ。
これが麻人ならどんなに抗っても締め付けるように扱くし、下手をしたら口に入れられる。
自分をいたわって、優しくしているんだと思うと凱が愛しくなる。

「杏樹さんの、綺麗ですね。俺とは大違い」
「に・似たようなものだろう?」
「違いますよ。見ます?」
 凱がジーンズのファスナーを下げようとしたので杏樹は目を疑った。
「いっ!いいよ、そんな」
 杏樹が慌てると凱が笑った。

「照れちゃう顔もいいですねー。俺、本気で杏樹さんに惚れました」
 言いながら凱は杏樹の茎を扱き、先端から先走りが出たのを見て「可愛い」と誉めた。
まるで子供扱いだと思った杏樹は「もう離して」と凱に言う。
しかし凱は「イク顔を見せてください」と、手コキを止めない。
「こんな緩やかな手コキじゃ、イけないよ」

「じゃあ、こういうのはどうですか」
 凱は杏樹の顎を指で引き寄せてキスをした。
しかも舌を入れたので杏樹が驚いて凱の背中を叩いた。
「杏樹さん、いい香りがする」
「シャンプーの匂いだろう?」
「あなたの匂いです」
 そして凱が杏樹の腰を撫でるので、思わず「あン」とよがってしまう。

「うわ。色っぽい」
 凱が口を抑えて呆然としている。
しかも顔が紅潮していた。

「どうかした?」
 杏樹が聞くと凱は慌てて腕時計を見て「バイトの時間が迫っていた!」と立ち上がって頭を抱えた。
「あ、もうそんな時間なんだ」
 杏樹が丸椅子から立ち上がると、凱が急いでタオルで髪を巻いてくれた。
「もっと一緒にいたいんですけど、ごめんなさい。俺、行かなくちゃ」
 見るからに残念そうな凱に、杏樹はたまらなくなってつま先立ちでキスをした。
「愛してくれるなら、この先も…いや、なんでもない」
「ずるい大人だなー」
 凱は笑顔で腰に手を当てて膝を折ると、キスのお返しをした。
「俺、あなたを愛していると思いますよ。あなたのことが気になって仕方ないから」
「あ、ありがとう…」
「また来てもいいですか?」
「凱ならいいよ。いつでもいい」
 本当なら明日の早朝にでも会いたい気持ちだ。
しかしそんなわがままはとても言えない。
 スニーカーを履く凱に、杏樹は「なんか救われた気がする。ありがとう」とお礼を言うと、
凱は嬉しそうに口角を上げた。
「これでバイトも頑張れます」
「しっかりね」
 杏樹に背中を押されて凱は笑顔で出て行った。
しかし残された杏樹はたとえようのない寂しさを感じた。

 タオルで髪をふきながら明日も早起きをしようかと思い始めた。
自分のほうが凱に惚れている、そう直感したからだ。
 どうしても凱に会いたい。
さっきまで会っていたのに離れると辛いものだ。
 気持ちは十分に受け取っている、だから体を重ねたいとまで杏樹は思った。
麻人の性的暴行は許せないが、そのことは終わりにしたい。
これからは凱のことだけ考えて生きてみたいと思うのだ。


9話に続きます
2009.06.06 室内の湿度・7
 精で濡れた麻人の茎はまだ余力を残しているらしく、体を重ねると杏樹の下半身を突く。
「嫌だ、こんなのは嫌だ…」
 その固い茎は膝を立てた杏樹の柔らかい内腿を刺激するように突いて、秘部の周りをうろうろする。
「今更拒んだって無駄」
 杏樹は麻人に襟首をつかまれてシャツのボタンを下から外されていく。
「嫌だ!止めろ!」
 杏樹が叫んでも、拳で背中を殴っても麻人は動じずに杏樹のおへそを舐めた。
その感覚に背筋がぞくりとしながら杏樹は腰が引けてしまう。
「止めろ…」
 しかし麻人は杏樹の体を舐め上げて、いよいよ胸に到達すると撫でるように揉み始める。
「いやだー!」


 

息が苦しくなり、杏樹が顔を上げるとバスタブに張ったお湯から湯気が上がっていた。
「嫌な夢…」
 つい口から出たがそれは夢ではなく、現実に起きたことだと杏樹自身はよくわかっている。
 杏樹は目が覚めるようにとバスタブから両手でお湯をすくって顔を洗った。
熱いお湯は悪夢の後で動悸の激しい杏樹には少々辛いものだった。
目が覚めるどころか心臓の鼓動が高まるばかりだ。
 お風呂には入りたいのだが、落ち着いてからにしようと杏樹がバスタブの縁につかまっていると、
ドアをノックする音が聞こえてきた。
 どうせ何かの勧誘だ、杏樹が無視を決め込んでいると携帯が鳴った。

「…はい」
『杏樹さん、杉本です』
「えっ」
 
 杏樹は玄関に行き、ドアを開けようと思ったが半裸の自分に気付いて「ちょっと待って」と慌てた。
急いで下着とスラックスを履くと、息が上がってくる。
まだお風呂に入っていないのにのぼせたような感覚だ。
 麻人に気力を全部持っていかれた杏樹は、足元もおぼつかないまま玄関に行き、前髪をかきあげながらドアを開けた。

「…大丈夫ですか?」
 開口一番に凱が目を丸くしながらぼやいた。
杏樹の視線が泳いでいたからだろう。
「なにがあったんですか?顔色が悪すぎます」
「いや、あの…」
 杏樹が言葉につまると「あがってもいいですか?」と凱が頭を下げながら言う。
「いいけど、散らかっているから」
「構いません」
 凱はスニーカーを脱いで「お邪魔します」と礼儀正しく挨拶をした。
杏樹はその姿に育ちのよさを感じ取った。
学生とはいえ働いているから常識も兼ね備えているのだろう、杏樹は凱のことが少し知れて嬉しくなった。
 
 とはいえ部屋は散らかったままだ。
とても人に見せられたものではない。
 杏樹はよろよろと歩きながら脱ぎ捨てたシャツを拾おうとしたが、先に凱が拾い上げた。
「杉本くん…」
「洗濯機はどこですか?」
「あ、バスルームの中…」
 凱は他にも落ちていた靴下も拾い、洗濯機に入れるとすぐに稼動させた。
「この水蒸気、お風呂に入ろうとしていたんですか」
「あ、うん」
「でも見るからにその体調では毒ですよ?」
「汚れているんだ、だから」
 杏樹はシャツの裾を握り締めた。
これ以上自分の失態を見られたくない気持ちが強い。

「それなら俺が背中を流します」
「ええっ?」
 
 驚く杏樹をよそに凱は着ていたシャツの袖をまくり上げると、ジーンズもロールアップした。
「あなた1人で入ったら、のぼせてしまいますから」
 杏樹は『あなた』と呼ばれたことに妙に意識してしまう。
「あ、あのさ」
 しかしなんと言ったらいいのだろうか。
体を見られたくないし、顔は熱くなるばかりで凱の顔をまともに見られない。
「大丈夫ですよ。同じ男だし。それにあなたの裸は前に1度見ていますから」
「あ」
 万引きを疑われて店長の前で下着まで脱いだことを思い出し、ますます顔が熱くなる。
「ごめんなさい、嫌なことを思い出させました」
「いいんだ、事実だし」
 しかし杏樹はシャツが脱げない。
麻人につけられた赤い跡を見られたくないのだ。
とんだ遊び人だと凱に思われたくない、その一心で自分を抱き締めるように腕を交差させて脱ぐのを拒んだ。

「杏樹さん。首が赤いです」
「はっ!」
 杏樹が首元を押さえると、その隙に凱がシャツを脱がせにかかった。
「杉本くん、困る!」
「なにがあったか見当がつきます。あなたは魅力的なうえに隙がある」
 凱は杏樹のシャツを広げ、赤い跡を見てしまった。
「…見ないで欲しい」
 項垂れる杏樹に「俺が消します」とはっきりとした口調が聞こえた。
 本来なら呆れられても仕方が無い状態なのに、凱は態度を変えることなく杏樹に声をかける。
それが杏樹には意外だった、凱に嫌われると思っていたのだ。
 しかし凱は杏樹の乱れた髪を撫でて「大丈夫ですよ、俺がいますから」と杏樹の顔を覗き込んで言う。

 杏樹が意を決して股間を隠しながらスラックスを下着ごと脱ぐと、凱がバスルームの扉を開けた。
一気に水蒸気が流れてきて凱が片手でそれを払う。
「杏樹さん、早く」
 凱に呼ばれてバスルームに入り丸椅子に座ると、凱が体にシャワーをかけてくれた。
「髪もいいですよね?」
「う、うん」
 杏樹はおとなしく凱にされるままになっていた。
やたらと緊張したが、凱がシャンプーを泡立てて髪を洗い始めたとき、この気持ちよさに目を閉じた。
「上手だね」
「そうですか?」
 凱の穏やかな声に、杏樹はきっと凱は微笑んでいるんだろうと想像した。
じきに「流しますよー」と声がして、泡立った髪を洗い流された。
そして凱がスポンジにボディソープをつけたとき、さすがに杏樹はためらった。
「自分でやるよ」
「いいですって。ちゃんと綺麗にしてあげますから」
 言いながら凱は股間を隠していたタオルを取り上げた。
「わ!」 
 杏樹は慌てて股間を両手で隠すが、凱に「こら」と鼻先をちょんと突かれた。
「恥かしがらないでください。洗うんだから、しょうがないでしょう」
「それはそうだけど…」
 凱は杏樹の動揺を知りつつ、全身を洗い始めた。
その優しい手の動きに、だんだんと杏樹の緊張はほぐれてきた。
しかし股間に手が伸びると杏樹は「自分でやる」と凱を見上げた。
「ここだけは触られたくないんだ、ごめん」
「わかりました」
 凱にスポンジを渡されて自分で股間を洗うと、意識しているせいか茎が起き上がり始めてしまう。
「わ、杉本くん、外に出ていて!」
「どうしてですか?」
「何も聞かないで、お願いだから」
「…はい」
 
 凱は出て行こうと泡だらけの手をシャワーで流したが、その飛沫が杏樹の股間に飛び、杏樹の状態が見えてしまった。
「あのう…1人でやれますか?」
「聞くな、恥かしい!」
 杏樹は羞恥心で頭がどうにかなりそうだ。
「やっぱり俺がやりますよ」
「はあっ?」
 言うが早いか凱はスポンジを取り上げて杏樹の股間をそっと泡立てた。
そして敏感な内腿にも手を伸ばし「お尻を向けてください」とまで言う。
「恥かしいよ!」
「でも洗わないと」
 凱が杏樹をゆっくりと立たせてお尻を洗い始めた。
その感触に杏樹はぞくぞくとする。
「じゃあ、流しますから。そうしたら処理しましょうか」
「処理?」
「杏樹さんの茎。俺が触ったら勃起しちゃいましたから」

8話に続きます
2009.06.05 室内の湿度・6
 鏡を見ると鎖骨や胸に赤い跡が容赦なく残されていた。
嫌がる杏樹を麻人はしゃぶりつくすように体中を舐めては吸い、跡を残したのだ。
消えるまで1日もしくは2日はかかるだろう。
 杏樹はシャツを羽織っただけの姿でベッドに横たわり、「はあ」とため息をついた。
まるで肉食獣のような性欲高ぶる麻人に襲われて、心身ともに疲れ果てていたのだ。
 しかし麻人は杏樹の体が目当てだと、これではっきりした。
麻人の言う『好き』は杏樹の体なのだ。
しかも『具合がいい』と連呼されて、ただの玩具扱いを受けた気がする。

「あの馬鹿野郎」
 
 杏樹は悔しくて涙を零す。
その涙が頬を伝い、シャツの襟首を濡らした。
 こんなことで会社を休むなんて甘いかもしれないが、冷静に業務をこなす自信がなかった。
杏樹は枕に突っ伏すと、しゃくりあげて泣き続けた。



 何時間過ぎたのだろう。
杏樹は携帯のバイブ音で目が覚めて、周りをゆっくりと見渡した。
そして起き上がると携帯を開き、それが凱からだと知ると急に想いがこみ上げてきた。
「もしもし」
『杏樹さん、杉本です』
「あ、はい」
『もしかして寝ていましたか?邪魔してすみません。でもあれっ?会社じゃないんですか?』
 凱の声と同時に街の喧騒が聞こえてくる。
「うん、今日はお休みした」
『…体調がよくないんですね?俺、なにか差し入れしましょうか』
 杏樹はこんなに優しい声をかけてもらったことはなかった。
凱の優しさに杏樹はすがりつきたい気持ちをこらえて「気持ちだけで十分だよ」と言うのが精一杯だ。
『拒まないでください。俺に甘えていいんですよ』
 意外な言葉に杏樹は驚いた。
「甘えるって…」
『他の連中になら、自分のことくらい自分でやれって言うんですけど、あなたは違う。別格なんです。
杏樹さんさえよければ、俺行きますよ?』

 杏樹は凱に会いたい気持ちが溢れてきた。
『甘えていいんですよ』の響きが脳内で反芻する。
 しかしこの姿を見せるわけにはいかない、杏樹は電話で十分だと自分に言い聞かせた。
携帯を持つ指は震え、つま先が冷たく感じられる。
泣きそうになる感情をこらえて、杏樹は声を出せなかった。

『杏樹さん?』
「…ごめん、来なくていいよ。僕は大丈夫だから」
 本当はすがりつきたい。
思い切り凱に甘えてみたいと杏樹は胸を抑えた。
年下の子なのだが言葉から包容力すら感じるのだ。
 だが一時の迷いではないかと杏樹は自分を疑う。
辛いことがあったからと言って、どうして凱にしがみつくことができるだろう。

『俺は会いたいです』
 凱の声に杏樹は心を揺らされた。
『大学の講義が終ったので、バイトに行くまでの時間をあなたと過ごしてはダメですか?』
「ごめん。…僕は今、人に会わせる顔をしていないんだ」
 泣きはらした瞼や赤い跡を見せるわけにはいかない。
『なにかあったんですか』
「いや、僕の不注意…みたいなもので」
 すると凱が押し黙った。
これで話を終えようとする杏樹に『俺、行きます。住所を教えてください!』と凱は切り出した。
『コンビニまでは来れませんよね、お願いです、教えてください』
 杏樹はこみ上げる感情を抑えながら「会わせる顔じゃないんだって」とか細い声を出した。

『俺は一目でもいいから会いたいんです!』

 凱の気持ちに押されて、杏樹は部屋の住所を告げた。
そして携帯を切るとシャツを羽織ながらバスルームに向かうが、
そこで脱ぎ捨てられた麻人の下着を見つけてしまい、先の行為を思い出して鳥肌が立った。
愛情のないセックスはただの欲望の捌け口だ。
「2度とさせるもんか」
 杏樹は麻人の下着をゴミバコに捨てた。
そしてバスルームの扉を開けて、バスタブに湯を張り始めた。
 次第に湯煙が立つバスタブを見ながら、自分の非力さを痛感して頭を抱えた。
こんな自分でも凱は想ってくれるだろうかと自らを卑下すると、もう立ち上がれない気さえした。

7話に続きます
2009.06.04 室内の湿度・5
『杏樹、外は蒸し暑いから中に入れてよ』
 杏樹が帰宅してから数分後に携帯が鳴り、すぐに出ると麻人からだったのだ。
「はあ?おまえ、どこにいるんだよ」
『杏樹の部屋の前だよー』
「…なにを言って」
 するとドアを激しくノックされ、杏樹はびくりと身を震わせた。
『な?ここにいるんだよ。早くドアを開けてくれよ』
「…冗談じゃない!」
 杏樹はドアにチェーンをかけて無視することにした。
しかし麻人も粘って、どんどんと激しくドアをノックする。
これでは隣の部屋から苦情が来そうだ。

「帰れ」
『そんなに冷たいことを言うわけ?俺との仲なのに~?』
 麻人は話しながら笑っている。
どこかで酒を飲んだのだろうか、いつもとは雰囲気が違う。
「とにかく帰れ!迷惑だ」
『あーきー。一晩くらい泊めてくれよ』
「警察を呼ぶぞ。さっさと帰れ!」
 杏樹は自分の部屋の住所を麻人に教えていない。
それなのに探し出した麻人に恐怖すら感じた。
ただでは離れられないのかと、杏樹は眠れない一夜を過ごした。

 

 まだ空が明けないうちに杏樹はネクタイをしめて出かける準備をした。
行き先はもちろんコンビニだ。
凱に会って話をしてから、そのまま出社しようと考えていた。
 凱のことを色々知りたい、そして自分のことも知ってほしいと杏樹は願った。
先の尖った内勤用の革靴を履くと、玄関のチェーンを外してドアを開けた。
「は!」
 そこにはまだ麻人が立っていたのだ。
「…おまえ」
 杏樹が驚いていると麻人は「杏樹」と名を呼びながら玄関に押し入り、そのまま杏樹を押し倒した。
「いたっ!」
 上がり口に腰を打ちつけて痛がる杏樹の体の上に麻人が圧し掛かってくる。
「こーんなに朝早くからどこに行くつもりだったんだよ?」
 まだ酒の残っているらしい麻人から汗の匂いがする。
「あーき。俺のものになれって」
「嫌だ!離せ!」
 杏樹が抗って麻人の体を拳で殴るが、麻人は動じない。
それどころか「そんな力で俺を拒もうなんて、笑っちゃうよ」とまで言う。
「杏樹は我慢のできない子だからなー」
 麻人は杏樹のベルトを緩めた。
「触るな!」
「覚悟を決めたら?もう俺からは逃れられないんだよ」
 しかし杏樹は麻人の頬を打った。
さすがに麻人は一瞬怯んだが、体をどかそうとはしない。
「逃がさない」とつぶやき、杏樹のスラックスのファスナーを下ろした。
そして萎縮している茎をつかむと口にくわえてフェラを始めた。
「嫌だ!止めろ!」
「なんだよー。いい気分にさせてやるのに」
 麻人は杏樹の茎を舐めて「あはは」と笑う。
「杏樹は俺のものなんだよ」
 そして強引に下着ごとスラックスを下ろすと杏樹をうつぶせにして尻を叩いた。
「形のいい尻だよな。スーツの上からも、いつもそそるんだ」
 麻人は自分の茎を取り出すと杏樹の秘部に突き立てた。
「ぁああっ!」
「なあ、杏樹ー。いいじゃないか、いい具合だろう?」
 麻人は腰を揺らして挿入し、すぐに抜き差しを始めた。
肌の触れ合う淫靡な音が聞こえてきて、杏樹は肩を震わせた。
「なんだ?泣いているのか?」
 麻人は杏樹の異変に気付いたが性欲に勝てずに、盛りのついた獣のように杏樹の中を突き続け、
やがて果てた。





『杏樹さん?なんか声がおかしくないですか?』
「うん、ごめん。体調を崩しちゃって。それで行けれなくて…」
 杏樹はキッチンの床にぺたんと座り込んで凱と電話で話をしていたが、辛くなり声が震えた。
乱されたシャツが肩から滑り落ち、麻人につかまれた跡の残る腰を自然と隠した。
『いいんですよ、それより体調を崩したって大丈夫なんですか?』
「あ、たいしたことはないんだ。心配しないで」
『そんなことを言われても心配です。やっぱり、杏樹さんはちゃんと食べないからですよ。
今度、俺が美味しい料理のお店に連れて行きますから』
 稼ぎがいいとは思えない凱の言葉に、杏樹は吹き出した。
『あ、笑いましたね。よかったー。声が聞けただけでも俺は嬉しいんですよー』
「ありがとう。じゃあ、また日を改めて」
 
 杏樹が携帯を切るとタイミングよくバスルームから麻人が出てきた。
「なに?誰かと電話?」
「誰でもいいだろう」
「ふーん?」
 麻人は髪をタオルで拭きながら「パンツ貸して」と勝手に杏樹の箪笥を見ている。
本当は『勝手に触るな』と言いたいところだが、杏樹は気力が萎えていた。
乱された着衣を直す気にもなれずに上着を脱ぐと、ウオーキングクローゼットから別のシャツを出して羽織った。

「杏樹」
 身なりを整えた麻人が呼ぶが杏樹は返事もしない。
その態度に麻人は首をかしげて歩み寄る。
「怒っているの?」
「当然だ」
「どうしたら許してくれる?」
「許さない」
 今日は凱に会う大事な日だったのだ。
それなのに強引にセックスをされて杏樹は悔しくて目に涙を浮かべた。
「そんなことを言うなよ、杏樹」
「早く出て行け!」
 杏樹の語気の強さに、麻人は渋々部屋から出て行った。
それを確かめると杏樹は力が抜けて再び床にしゃがみこむ。
 この調子では仕事に差し支えると思った杏樹は会社に欠勤すると連絡を入れた。

6話に続きます
2009.06.04 室内の湿度・4
 杏樹は麻人とのセックスの記憶を振り払うように地面を蹴り、走っていた。
『具合がいい』と麻人はいつも言うのだが、杏樹も挿入された後の強引に奪われる感覚に酔ってしまう。
高まる性欲で抵抗できなかった自分が情けなくもあり、麻人と凱の間で心が揺れていた。
 我慢ができないのは男の性だ。
しかしセックスは愛がなければしたくないという気持ちは失っていなかった。

 荒い呼吸をしながらコンビニの前まで来ると、駐車場は車で一杯で盛況振りがうかがえる。
 外から店内の様子を見るとレジ2台ともお客さんが並んでおり、そのうちの1台に凱がいた。
凱は昨日と同じくコンビニの制服を着て、笑顔でレジを打っている。
仕事を楽しくこなすタイプなのだろう。
 それに昨日は気付かなかったが、なかなか爽やかな笑顔の子なんだなと杏樹は思う。
しかしいつまでも店内をのぞいているわけにもいかない、杏樹は店内に入るとドリンクコーナーに行った。
 今日は凱と話ができなさそうだが、仕方がないと自分に言い聞かせてレジに並ぼうとしたら、
なんと警察につかまったはずの店長が事務所から出てきた。
そしてレジの補佐をやり始めたので、杏樹は気分が悪くなり、何も買わずに外に出た。

「なんで、いるんだよ」
 昨日、自分を襲った相手である。
そんな人間の顔なんて見たくもない。
 まさか釈放されるとは思ってもいなかったので、杏樹は凱に会わずに帰宅した。


 杏樹は自分の部屋に入るとカバンを投げ出してベッドに体を沈めた。
「はあ…どうしたものかな」
 凱に会いたい気持ちが高ぶって体を持て余してしまう。
 しかし天井を見上げてもいい考えなんて思いつかない。
杏樹は前髪をかきあげながら起き上がると「あ、そうか。メールだ」と閃いた。
 急いでカバンから携帯を取り出してメールを打つ。
『電話に出られなくてごめん。でも、かけてくれたことが嬉しい』
 そこまで打ち込むと杏樹は顔が熱くなった。
凱への好意を打ち明け、まさに返事を期待しているとしか思えない内容で、
これでは付き合い始めたカップルみたいではないかと自分を恥じたのだ。

「メールも無理」
 
 杏樹はため息をついて携帯を閉じるとベッドの上に置き、夕食を取ろうと冷蔵庫を開けた。
しかしビールとエビアンしか入っておらず、仕方なく杏樹は再度凱のいるコンビニに向かった。
 時刻は20時前だ、さぞかし混んでいるだろうと思ったが、丁度お客の波が引いていた。
店内に入ろうとしたら、偶然にも凱がゴミ袋を両手にさげて店から出てきた。
「あ」
「杏樹さんじゃないですか!こんばんはー」
 なんとも親しみのわく明るい笑顔を見せてくれる。
「会社帰りですか?今日もお疲れ様です」
 ぺこりと頭を下げる凱が、杏樹には可愛らしく映り好感度が上がる。
そして凱は「これ、捨ててきますので」とゴミ袋を杏樹に見せて店の裏側に入って行った。
 根が真面目な子なのだろうと杏樹は思い、店内に入るとサンドイッチを選びレジに向かう。
するとレジに凱が立っていて「いらっしゃいませ」と言いながらサンドイッチを受け取った。
「もしかして、夕食はこれだけですか?」
「そうだけど」
「まるでOLさんみたい。杏樹さんはもっと食べないと。痩せすぎですよー」
 軽快に笑いながらレジを打ち、袋に入れると「あ、杏樹さん、杏樹さん」と言いながら杏樹の手を取って店の外に出た。

「なに?」
 杏樹は凱を見上げながら、なぜか期待に胸を膨らませていた。
やっと凱と話ができると思うと鼓動が高鳴る。
「電話、ありがとうございました。まさかかけてくれるとは思いませんでしたよー」
 杏樹は『あれ?』と肩すかしをくらった気分だ。
絶対にかけなければと思ったのに、これでは独り相撲だ。
「俺、あまり好かれていない気がしていたので、正直諦めようかと思っていましたから」
「えっ。諦めるなんて、そんな」
 思わず声に出してしまい、杏樹は手で口を押さえた。
しかし顔はどんどん熱くなっている。

「あ、あれ?杏樹さーん?」
 凱が目を丸くして杏樹を見た。
「もしかして、俺、マジで頑張っていいんですか?」
「あ、あのさ。僕は今は誰とも付き合っていないから…それを言わなきゃと思って」
 杏樹はそれだけ言うと「じゃあ」と凱に背を向けた。
すると背中から凱が抱きついてくる。
「杏樹さん、杏樹さん!」
「こら、仕事中なんだろう?」
 言いながらも抱きついてきてくれたのが杏樹は嬉しい。
その腕に触れると胸の鼓動が高鳴り、体が熱くなる。
「俺を1番にしてください」
 杏樹はこの言葉を待っていた。
素直にうなづくと「俺、凄く好きなんです」と凱が続け、なかなか離れない。
「仕事中だろう」
「はい、でも休憩を取りますから」
「そんなことをしなくていいよ。仕事は何時まで?」
「6時に終るんですけど…杏樹さんは仕事に行くんですよね。はあ、すれ違いだなー」
「うん…」
 凱の言い方に含みを感じた杏樹は「1時間なら空けるよ」と返事をした。
8時までに出社すればいいので、時間は作ろうと思えば作れる。
「6時にここに来るよ。話でもしようか」
「マジですか!ありがとうございます!」
 ようやく凱が離れたが、今度は手を握られた。
「離れたくないなー」
 これでは杏樹も困ってしまう。
「ほら、離して」と手をふり払うと凱が「あ、すみません」と謝った。

「杏樹さんの体、さっき俺が包んじゃいましたよ」
 凱が照れくさそうに頭をかいている。
「俺も細身だってよく言われるんですけど、杏樹さんは華奢すぎます。放っておけない感じ」
「…年下に言われたくないな」
 杏樹が吹き出したので凱も笑った。
「その笑顔も好きなんです。あー、俺、好きって言ってばかり」
 凱は恥かしいのか顔を赤く染めて杏樹に手を振った。
杏樹も指先が震えそうになりながら手を振り返した。
これが「恋」なんだと、杏樹は自覚した。


5話に続きます
2009.06.03 室内の湿度・3
「ん、じゃあまた別の日に誘うよ」
「もう誘うな。僕は気乗りしないんだから」
 杏樹は麻人と別れて部署に入ると、窓際で部長が煙草をふかしていた。
「おはようございます」
「おはよう、福永くん。毎度のことながら午前中は営業マンが外出するから閑だねえ」
「そうですね」
 杏樹が所属するシステム管理部は、得意先の資本金をはじめ詳細なデータはもちろん、
月度の売り上げ金額をデータ管理する部署だ。
 午前中は閑だが午後からは帰社した営業マンからの新規取引先の登録申請や訂正が相次ぎ、
一息つく時間さえ作れない状態になる。

「午後からは煙草も吸えないから今のうちに吸いだめだ」
「そんな無茶をしないでください。不健康ですよ」 
 笑顔を見せながら杏樹も今のうちにとお茶を飲んで優雅に過ごしていると、携帯が突然鳴り出した。

「おや。福永くん、部署に携帯の持ち込みはよろしくないよ」
「すみません、ロッカーに入れてきます!」
 社内では得意先からの連絡が入る営業部を除いて、携帯の持ち込みは禁止事項だ。
 とんだ恥をかいたと思いながら携帯を見ると凱からだった。
「あ…かけてくれたのか」
驚きと嬉しさが交じり合い、杏樹は凱と話をしてみたかったが今は仕事中だ。
「ごめん」とつぶやきながら携帯の電源を切り、個人のロッカーに入れた。
 しかしこの胸を締め付けるような痛みはどうしたことだろう。
昨日会ったばかりの凱に、心が揺れているのだ。
杏樹はロッカーの扉に手を触れたまま、暫く動けなかった。


 昼を過ぎると外出していた営業マンが続々と帰社し、システム管理部にやってくる。
杏樹は昼休み中に凱に連絡を取りたかったのだが、営業マンが早々と仕事を持ってくるので昼食も取れないまま仕事をこなしていた。
「これ、お願いしまーす」
 杏樹は麻人からの申請書を受け取り「お疲れ様です」と声をかける。
「本当にお疲れだよ。聞いてくれる?今頃になって『父の日の包蔵資材が足りないからなんとかしてくれ』なんて言う取引先があったんだ」
「それは…」
 
 今は梅雨に入る6月上旬で、父の日は目前だ。
麻人の得意先には大型スーパーがあり、おそらく難問をぶつけてきたのはその会社だろう。
業者にまだ在庫があるとは思えない、しかしそれをなんとかするのが仕事でもある。

「商品部にかけあってみたら?」
「どうせ門前払いだよ、俺が自分で動くしかなさそう」

「…社内の人間をもう少し信用しろよ」
 
 杏樹がそう言うと、話を聞いていた部長が「そのとおり」と大きくうなづいた。
「大島の欠点はそこだな。周りの人間に相談してみろ、おまえ1人の会社じゃないんだから」
「はあ。じゃあ行ってみます」
 素直に商品部に向かう麻人を見送りながら「反論しなかったなあ」と部長が驚いている。
「いつもなら、ああだこうだと難癖をつけるのに、今日は気味が悪いほど素直だ」
「たしかにそうですね…」
 麻人が自分の誤りに気付いたと解釈した杏樹は、入力作業を再開した。


 16時を過ぎると今度は17時の定時であがろうとする社員たちが慌てだす。
誰もが焦り、目が血走っていて、個人の業務以外は引き受けたくない思いが見て取れる。
 もちろん杏樹も必死だ。
なんとしても早くあがり、凱と話をしたい気持ちが膨らんでいる。
試しにかけた携帯が繋がらずに気になりだしたのを発端に、
『俺、頑張ってもいいですか?』、この言葉が杏樹の心を揺さ振ったのだ。
 年下で生意気そうなところがあるが憎めない子だと杏樹は思う。
それに自分を守ろうとした姿が残像のように脳裏に貼り付いている。

「お願いしまーす」
「は?」
 杏樹が見上げると、側に麻人が立っていた。
「なんか『こんな時間に申請書を持ってくるな』と言いたげな顔ー」
「わかっているなら、もっと早くに持ってこいよ」
 「はあ」とため息をつきながら申請書を受け取ると杏樹は目を丸くした。
そこには<俺の後についてきて>としか書かれていないのだ。
どういう意味なのか、杏樹にはさっぱりわからない。
「じゃあ、お願いしまーす」
 麻人が部署を出て行くので、慌てて申請書を持って追いかけると麻人はトイレに入っていく。
1度も振り返らずに、だ。

「麻人!」
 杏樹がトイレの中で追いつくと、ようやく麻人が振り返った。
「これ、どういうつもりだよ?」
「5分だけ俺に時間をくれよ」
「…なんの用事だ?」
 杏樹はこの忙しい時間に呼ばれたことに怒りすら感じていた。
「5分で済ます」
「はっ?」
 麻人は杏樹を抱き締めるとすぐに右手をスラックスの中に忍ばせた。
そして尻の丸みを撫でると下着の上から秘部に指で刺激を与える。
「わっ!止めろ!」
「止められないんだ、じっとしていろよ」
 杏樹は麻人の胸に顔を埋めて刺激に耐えた。
声も出さないように口を閉じているので、呼吸が苦しく足が震えてくる。

「いい子だ、もうたまんない」
 
 麻人は片手で抱き締めていた杏樹と体を離すと、後ろ向きに立たせてベルトを緩めた。
個室のドアに寄りかかり、肩を震わせる杏樹のスラックスを脱がせると下着も下ろしてしまう。
「ちょっと尻を突き出して」
「嫌だっ!ここは会社だぞ、誰かに見られたら」
「こんな忙しい時間に、誰もトイレなんかに来ないよ」
 麻人は微笑を浮かべているが杏樹にはそれが見えない。
強引に秘部に指を2本挿入すると中で暴れた。
「ぐっ!う、うううん!」
「なあ杏樹、俺と付き合おうよ」
「嫌だ!」
「こんなによくしてやるのに」
 そして麻人は指を抜くと、すでに勃起した茎を挿入する。
ぐいぐいと茎を進ませながら「だいぶ慣れてきた?」などと聞く。
「慣れるもんかっ…い、痛い、くううっ…」
 個室のドアに手を貼り付けてよがってしまう杏樹に「具合がいいんだよなー」と麻人は笑う。
「俺から離れられないようにしたい」
「…わがままな奴っ、だ」
 麻人は杏樹の腰をつかむとぐぐっと突き上げ、そして抜き差しを始めた。
「やっ、嫌だ!もう離して!」
「嫌だね。まだ3分しかたっていないし」
「…麻人!」

 これでは性欲を解消するためだけの関係だ。
やはり麻人には杏樹に対する愛情はなかった。
ただセックスに溺れたいだけなのだ、それなら昨日のコンビニの店長と変わらない。

「んっ!…ぐぐうっ…」
 麻人が獣のような声を上げて静止した。
そして杏樹の中から茎を抜くと、それをしまいながらトイレットペーパーを取り出して杏樹の秘部を拭う。
「中に出してごめん」
「…襲ってごめんの間違いだろう?」
 杏樹は身支度を整えて、濡れたトイレットペーパーを便器に入れるとレバーを上げて流した。
「こんなことは2度とするな」
「あれ、気持ちよくなかった?」
「ふざけるな」
 杏樹は麻人の頬を思い切り叩くと、トイレから出て行った。
何ごともなかったかのように業務に戻るが、皆は帰り支度を始めている。
そしてまもなく終業のチャイムが流れた。
 これで杏樹の残業は決定だ。
冗談じゃないとばかりに急いで業務を片付けるが、不在のときに置いていったと思われる申請書が5枚もあった。
 しかも部長はすでに仕事を終えて「お先に」と出て行くではないか。
「…麻人とはもう関わらない」
 そんな独り言をつぶやきながら、杏樹は業務をこなした。

 ようやく仕事を終えた頃は18時をまわっていた。
慌ててロッカーに駆け込み携帯を取り出すと凱にかけてみるが、また出てくれない。
「あ、バイトの時間か」
 杏樹は急いで会社を出ると、コンビニに向かった。

4話に続きます
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