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容赦ない夏の日差しが照りつけ、口を開けると唾液さえ蒸発する気がする。

晴矢は会話の切り出し方がわからずにただ利玖の隣を歩き、
時折ちらりとその横顔を見た。
誘い出してくれたのは嬉しいのだが、不安が隠せないままなのだ。

「暑い。中、潜ろう」

利玖は地下鉄の出入り口を指した。
この日影になる階段で話をしようと言うのだろう、
晴矢は頷くと即座に日影へ体を入れた。

そして階に立つと利玖がどこに行くのか目で追う。

「これで風が出るといいのにね」

利玖は晴矢に並ばず、1段下に下りた。
並べば同じ身長なので目線が合うのに、利玖は後ろぐらいことでもあるのか退いて見せた。
積極的な利玖にしては意外な立ち位置だ。

「あのさ、利玖。聞いてもいい?」
「なにを?」
利玖は目を瞬かせ、晴矢の思いを読もうとする。

「…携帯」
「カバンが置いてあったから、番号をもらった」
「あ、そうなんだ」

「勝手にしてごめん」

その声は空気を変えた。

「え」

珍しく利玖が折れたので晴矢は声を失ってしまう。
そして慌てて手を横に振ると「いや、違う違う」と弁解する。

「別に咎めてないよ。後輩に教えていたくらいだし」

それは事実だ。
晴矢はただどうして自分の携帯番号を利玖が知ったのか、それを単純に聞きたかっただけだ。
自分の手元の携帯には利玖からの着信記録がある、
これさえも愛おしいと思えるほど晴矢は胸躍らせていた。

しかし目の前にいる利玖は困惑した表情を浮かべている。

「他に聞きたいことがあるよね?」
「は?」

「携帯・じゃないよね」

利玖は眉が下がり、唇の端を噛み締めて両腕を組んでいる。
いつもは強気な態度で挑むくせに、今の利玖の姿は晴矢には虚勢を張った小動物のように映る。

「…話がしたいんだ」

『聞いて欲しいのか』

利玖が腹を決めていると晴矢は悟った。
恐らく涼川との関係だろうと思い当たった晴矢は「あまり聞きたくない」とぼやいた。
しかしその声は小さすぎて、階段を上がっていくサラリーマンの靴音にかき消された。

「知ってたよね?あの先生との関係は精算したから」
「だから」

いきりたつ晴矢だが、2人の会話は学生らしき女性の群れの靴音と話し声に邪魔される。

「僕が有名大学へ進学するのが母の夢だった。それをかなえるために依頼した家庭教師が彼だ」
「…学年主任がカテキョーのバイト?」

晴矢にはにわかに信じがたい歴史が淡々と説かれていく。

「有名高校の主任だから、いい稼ぎになるそうだよ」

『はあ…規律正しいことを推奨させる割には、自分が道をたがえているんじゃないか』

どうりで後味の悪い会話をしたものだ、
晴矢は言葉につまり空を見上げようとして地下鉄出入り口の屋根を視界に入れた。
薄汚れたそれは晴矢の心境に似ていた。


「僕は彼を尊敬していた。だけど不本意な関係だった」

「もう、いいよ」


晴矢はうんざりな気分だった。

「俺は正直、見苦しいけど疑ったし嫉妬した。だけど今はそんな気持じゃないんだ」

晴矢の荒々しい声に利玖が目を見開いた。
予想外の言葉に自分がふられると思ったのだ。

しかし晴矢は「俺は利玖のことが好きだから、それでいいと思うんだ」と続けているのだが、
またしても地下鉄の乗降客の足音がノイズとなり利玖にははっきり届かない。

「晴矢、『そんな気持ち』って…」

衝撃を受けた利玖は言葉が滑らかに出てこない。
そして頭をわずかにふるわせ、明らかに足元が怪しくなる。
ここは階段だ、まっすぐ立っていないと下へ転げ落ちてしまう。

「僕は初めてきみを追いかけたんだ、今まで誰も追いかけたことなんてない!」
「え?り・利玖」

「そんな簡単に諦めるなよ、僕はきみを選んだんだ!」

激した利玖はここが階段だと忘れていた。
1歩踏み出そうとしてバランスを崩し、背中から真下へ吸い込まれるように落ちていく。

「あぶな!」

晴矢は咄嗟に右手で利玖の腕をつかみ、片方で手摺にしがみついた。
全力で利玖の転倒を防ぐためだ。

この反動で利玖の左足のつま先が階段に触れ、体の角度が変わる。
今度は階段に倒れこむようにうつぶせになるがなんとか左手1本で体を支え、
転げ落ちるのを食い止めた。

「あっ…ぶなー…」

晴矢のつぶやきは安堵している。
だが、周りで見ていた大人達は2人がふざけていたと思い苦々しい顔つきだ。
高校生が遊ぶならよそでやれ・そんなボヤキさえ聞こえてきた。


「晴矢といると目立つなあ」
苦笑しながら利玖が体を起こした。

「姿だけでも派手なのに、こんな助け方されたら誰でも見るもんな」
利玖は両手を払い、制服についた汚れもパンパンと払い除ける。
そして晴矢の隣に立つと、目線をようやく合わせた。

「ありがとう」

素直な感謝が晴矢の心に染みていく。

「あ、どういたしまして」

妙に照れる晴矢の腕を利玖が指した。
「血? 晴矢、怪我してる…」
「こんなの消毒すれば大丈夫だよ」

言いながら自分の腕を見ると晴矢は血の気が引いた。



地下鉄はなにかと汚れている。
ゴミバコがあるのにそこへ捨てないのがポリシーなのか、モラルのない人が増えている。

晴矢はしがみついていた手摺にドリンク剤の瓶が差し込まれているとは知らなかった。
圧力で割れたらしい破片は晴矢の腕を浅くだが切ってしまっていた。


「とりあえず止血…あ、止まっているか」
利玖は落ち着きはらいながら傷口を見て「ガラスが刺さっているといけない」といい、
カバンからボルヴィックを取り出すとそれで傷口を洗い流した。

「大丈夫そうだね、じゃ、消毒」

利玖はその唇を傷口に押し付けた。
「えっ、ちょっと?」
晴矢は慌てるが傷口を舐める利玖の舌にぞくりと快感を覚えてしまった。

『あつ…』

晴矢は額に汗がにじむがぬぐえない。
動きたくなかったのだ。

利玖にこのまま自分の腕を舐めていて欲しい、そんな欲望さえ湧いてしまっていた。


地下鉄出入り口を利用する乗降客は他人が何をしていようと構わない様子だ。
その靴音が響きあう中、呼応するように晴矢の胸は高鳴っていく。


『指を少し動かすだけで利玖に触れられるのに』

本能は叫び続けていたのだ。

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