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箱を開けたら懐かしい匂いに包まれた。
桃の花のように甘くて色づく匂い。
でも匂いがするようなものは入っていなくて、本ばかり。
田舎の家の本棚の近くで桃の木なんかあったかしら。
しかも季節が微妙に違う、今は秋の初め。
なんだろう・・・箱に鼻を近づける。
くんくん・・嗅いでいると。なんだか田舎の家が懐かしくなる。
家を出て、町で一人暮らしを始めて5年になる。
なかなか顔を見せない孫に、おじいちゃんが本を送ってくれた。
中学生くらいの頃に、おじいちゃんが見せてくれた本。
カタカナが多くて読みづらくて、すぐに読むのを諦めたんだった。
でもものすごく気になっていたんだ。
多分、明治時代あたりの古い本。
時代を経たくせに保存状態がよくて。ぼろぼろじゃなくて。
<キミヲオモフ。>
今でも通用しそうな単語のタイトル。
ここから・・・桃の花の匂いがするような。
くんくん・・嗅いでみた。
ああ。ここだ。
おじいちゃんに香を焚き染めるような趣味はないはずだけど。
なんだろう、とてもいい匂い。

「久しぶり。覚えてる?」
・・・いつの間に部屋に入り込んだ?
真っ黒い髪。すらりと伸びた背。いたずらっ子みたいな笑顔。
口元のホクロ・・。
見覚えがあるような、・・懐かしいような・・男の人がひとり、ベランダに立っていた。
ふわんと風が吹いて、揺れた木から放たれた木の葉が部屋に舞いこんだ。
手紙が届いたような懐かしさ。
部屋にどんどん飛び込んでくる木の葉と、桃の花の匂い。
「忘れちゃったの?千里は薄情だなあ。」
俺の髪を風でふんわりとかきあげて、頬を撫でて。
座り込んだ俺をそのまま抱き締めるような、優しくて甘い声がする。

「困ったときは俺を呼んで。そう言ったじゃない。」

誰だろう。
誰?
あれ。声が出ない・・・・?



息苦しくなって飛び起きた。
背中が冷たい。
触ってみたら、汗でびっしょり濡れていた。
なんだろう、この不快感。
ぐらつく頭、・・喉が痛い。
しまった、夏風邪か。・・からだがだるくて動けない。

「千里。無理しないで。」
・・え?
「ベッドに運んであげる。」
夢じゃなかったの。
桃の花の匂いがかすかにわかる。
風邪でやられた鼻でもわかるなんて、相当強い匂いなんだろうけど。
「随分、大きくなったね。会わないうちに。」
誰?・・だから誰なんだろう。
「・・千里。ひとりで苦しまなくていいんだよ。」
この冷たい皮膚の持ち主はだれ?
熱を帯びた今の俺には丁度いいんだけど・・。
「すぐに治る。安心して。」
喉を触られた。
そこは苦しいんだ、何かが詰まっているみたいで。
・・冷たい指の感触が、なぜかとても安心する。
「大丈夫だよ、千里。」
誰・・。誰か想い出せないけれど、そばにいてほしい。
安心するから。


抱き上げられて、ベッドに運ばれた。
この沼のように深い黒い瞳にも見覚えがあるんだけど・・頭がぼうっとして思い出せない。
「そばにいるから、安心して寝なさい。」




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