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2006.12.18 傾城の微笑。1
白鷺の殿様の甥っ子に、とんだ商談を持ちかけたことを女衒は後悔しました。

紺屋のあたりをふらふら歩いていた少年を見かけて、後をつければ町のはずれの古びた屋敷。
これは金に困っているに違いない。
先の男子の器量ならば、高く売れることだと取らぬ狸の皮算用。
まだ手にしない小判を妄想。ほくほくしながら声をかければ、身なりの清潔な男子と対面する羽目になりました。
「榊原と申します」
その苗字で女衒は気がついたのです。
あの真っ白いお城の殿様の親戚筋。
「なにゆえこのような営みをなさっておられるのか?
殿様の親戚筋ならば、街中に住むことも許されましょう」
「自分の器にあう生活をしているだけです」
隣に座る奥方と思わしき老いた女性が微笑します。
一家の大黒柱が見当たりません。
<なるほど、父親を亡くされたか。それゆえ隠居のような生活を>
女衒は、ここに隙があると感じました。
「金策に困っておられると見た。
しばし貸してさしあげることが可能です。
こちらの男子をお借りできればの話ですが」

「当家は困っておりませんよ」
奥方は首を振りました。
その穏やかさに、毒を抜かれた女衒は一時退却を余儀なくされます。

しかし、どうにも諦めきれない。

「俺を買うんですか?」
男子の声は、まっすぐ女衒に刺さりました。
肝の据わった態度に驚かされます。
これは値踏みもできません。
「相当積むんでしょうね」
胡坐をかいていた足を崩して、立ち上がろうとします。
「待ってください。とんでもないことを言い出したのは百も承知。
しかし、あなたなら地方の大名もとりこにできましょう。
私は、江戸は吉原の大見世に頼まれてよいおひとを探しておりました。
榊原殿。私と江戸に行きませんか?
金は要るだけの額を準備しましょう。
聞けば、あなたの弟君は床に臥せっておられるとか。
薬代もままなりませんでしょう?」
弟、と言われて男子の表情が翳りました。
この時代の薬代は、一家の暮らしを圧迫する高額のものでした。
数少ない医者にかかるにも金が要る。
一家の大黒柱を欠いての生活では、いくら表面上は穏やかに見えても家計は火の車でしょう。

「江戸ですか。一度見てみたいと思っていました」

奥方譲りの微笑。
まるで一輪の花を揺らす穏やかなる風のよう。
女衒は、その男子の手に触れたい衝動にかられました。
触れておきたい。
まもなくこの男子、江戸でとんでもない花魁になる。
その予感がしたのです。

「明日、また来て下さい。支度をしておきましょう」
女衒を追い出すと、下駄をはいてざらざらする道を歩いていきました。
細い腰。
すらりと伸びた脚。
なによりも、あの器量。
自分が買われたら。何をして返すのか知っているのでしょうか?

慣れている気がする。
そして世の中を達観している気配すら。

「武士の子か」
末裔とはいえ、その意地は感たるものでした。


畑を越えると古井戸が目印の田舎屋敷に着きます。
「こんにちは。西条はいるかい?」
「高尾のあんちゃん。こんにちは」
わいわいと子供が飛び出してきました。
「泥だらけじゃないか。皆、手を洗わないとおやつももらえないよ」
古井戸までちびっ子を連れていって、よいしょよいしょと水をくみ上げます。
着物の裾が割れて、脚が見えます。
その脚にからみつきたい子供たちを追い払いながら、
額の汗を拭います。
「高尾!」
着物の袖を捲り上げた男子が大声で呼びます。
「なんだい。いたならさっさと来ないか」
「子供らにとられるとは思わなかった。昼間っからどうした?」
「しばらく会えない」
「はあ?」
首をかしげる男子に、
「西条。ようやく親孝行できそうだ。江戸の花火を見てくるよ」
「江戸?まさか、徳川の殿様の稚児になるのか?」
あはははと笑い出す高尾。
「やめてくれよ。大名なんて勘弁だ」
「じゃあ?」
「たぶん吉原だと思う」
「花魁?待てよ、着物の裾をすぐに乱す高尾に勤まる仕事ではないだろうに。まして・・体を売るのか?俺は承知できん」

「金なんかで体を渡さないよ。
だから、ここに居てくれ。
俺はおまえがここにいてくれないと、帰る場所がない」

榊原の家から花魁が出ること。
それは、お殿様の耳にはいれば只では済みません。
恐らくお家断絶になることでしょう。
「なあに、すぐに帰るさ。俺は飽きっぽいからね」


→2話へ続きます。









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