FC2ブログ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
「鶴前です。大和さん、お疲れ様です。西店のオーナーから電話が入りまして……」
 ああ、もう電話を掛けているのか。
鶴前さんって凄いな。電話で話している時も笑顔だもの。
相手に見えなくても必ず笑顔で応対するって、なかなか出来ない事だ。

「はい。そうですね。わかりました、一時間で仕上げましょう」
 え? 何か仕事の指示があったのかな。僕にも手伝わせて欲しい。

「大和さん。帰社時間は十七時ですか?」
 
あれ? 気のせいかな。

「はい、わかりました」
 口元に嬉しさが溢れているみたいだ……。
 鶴前さんは電話の相手と話しているのが楽しくてたまらない様子だ。
相手は大和さん、だったな。あの穏やかな声の営業の人か。

「もしかして」
 
思わず独り言を呟いてしまった。
言葉は胸の内にしまっておくべきなのに、僕の間抜け。
 幸い、鶴前さんはまだ話し込んでいるから聞かれていないな。
良かった。……いや良くないぞ。まだ大和さんと話していたのか。

「ああ、そうですね。どう言えば良いでしょうか。……柴犬でしょうかね?」
 ペットの話かな。何気なく鶴前さんを見上げると、視線が合った。
「え」
 飴玉の様な瞳が僕を映している。
こんなに近くに顔があるなんて照れてしまう。
どこを見たら良いのかわからない!

「ふふ。大型犬です」
 ぽんぽんと頭を撫でられた。
そんな事をされたら喜んで飛びついてしまいそう。

「お利口さんです。体が大きくて、頼りがいのある子です。早く帰ってきて、会ってやってください」
 そう言いながら小首を傾げた。
え、もしかして僕の事を話していたのかな。
 

鶴前さんは電話を切ると、デスクから飛び下りた。
上着が捲れてベルトからお尻まで丸見えだ。
気付いたのか両手で上着を引っ張って直している。
その仕草は女子高生みたいで、可愛くて噴出してしまった。

「どうかした?」

「いえ、あの。……飛び下りるから」

「あ、面白い?」
 
あははと笑う前鶴さんは、大人の余裕なのだろうか。それとも鈍いだけか。
「電話はもう鳴らないのですかねえ」
 ネクタイは直さないのかな。襟元ばかり見てしまう。

「波があるからね。夕方まではたまに鳴る程度だよ。
お得意様は営業担当が持って歩く携帯の番号を知っているから、大体はそっちにかけるし」


6話に続くのだ。
スポンサーサイト
[PR]

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。