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給湯室でへこんでいたら足音が聞えてきた。
てっきり鶴前さんだと思って笑顔で出迎えたら、何と大和さんだった。

「お疲れ」
「あ、お疲れ様です」
 
手にしているのは、さっき鶴前さんがお茶を入れていたカップだ。
ちゃんと飲んでくれたのか。前鶴さんが見たら喜ぶだろうな……。
そう思う自分が悲しい。

「ちょっとそこ。いい?」
「はい?」
 僕をどかして大和さんはカップを自分で洗い出した。
「えっ。僕がやりますよ」
「いいよ、自分のだから」
 
意外だ。僕は鶴前さんに片付けさせると勝手に思い込んでいたのだが。

「家でも自分の分は洗うし」
 ささっと洗い終えた。手際が良い。

「犬山くんだっけ」
「あ、はい」
「煙草、吸う?」
「い、いいえ」
「ふうん。じゃあ失礼するよ」
 
煙草を銜えると換気扇を回した。
紫色のライターで煙草に火をつけると、白い糸のような煙が伸びてきた。

「どうしてこの会社のバイトに来たの?」
「えっ。……商社の仕事は、将来の役に立つかもしれないと思いまして」
「大学を卒業したら、この仕事を希望?」
「まだ、決めていませんが」
 
大和さんは「ふうん」と呟いて白い息を吐き出した。つまらなそうだな。僕もだけど。

「商社は激務の割に給料が安いよ。営業成績を上げても反映されるのは半年後だし」
 

初対面で愚痴られても困る。
「はあ」としか言えないので話が続かない。
僕が警戒しているせいもあるだろうけど、大和さんと僕は話が合わないと思う。


「歓迎会をしよう」
 

突然、何を言い出すのだ。
第一、僕の事を気に入っていない感じがしたのに何故だ。

「お酒は飲めるだろう?」
「あ、はい。少しですが」
「今日開催しよう、憂さ晴らしだ」
 
憂さ晴らし? 僕は名目上で、自分が飲みたいだけか!

「皆に話そう」
 
大和さんが煙草を放り出して駆けていった。
煙草を消せ。そしてその前に僕の予定を確かめろよ! 本当に勝手な人だ。


「ハル! いつもの店に予約を入れて。歓迎会をするのだよ」
 
とんでもない声が聞えた。
大和さん、皆の予定の確認が先だろう! 止めなければと慌てて給湯室を出ると何かにぶつかった。
「あ、すみませ……」
「ケンちゃん?」
「ああっ! すみません、鶴前さん!」

 こんな細い体にぶつかってしまった。ケガをさせていないだろうか!

「ケンちゃん、何度も謝らないで。僕が前をよく見ていなかったからだよ。ごめんね」
 微笑んでいるけど鼻がほんのり赤いぞ。しまったー!
「鶴前さん、冷やしましょう」
「え、大丈夫だよ」
 
ふふっと微笑みながら、何故か僕のお尻を叩いた。

「それよりこの腕を離してくれないかな?」
 はっ! いつの間に僕は前鶴さんを抱き締めていたのだ。は、恥かしい!
「すみません!」
「あはは。面白いねえ、ケンちゃん」
 
あ。ケンちゃんと呼んでくれた。さっきもそうだ、ぶつかった時もケンちゃんって。

「鶴前さん。あ、ありがとうございます!」
「何が?」
「その、呼び方が嬉しいです」
「……お礼なら、僕の方だよ。こんなに良い子がバイトで来てくれて嬉しい」
 
前鶴さんは給湯室の換気扇を止めた。
そして大和さんが濡らした流しを拭いて、出しっぱなしのカップを片付けた。


「今晩、空いている?」
 えっ?
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