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思わず松田さんの隣の鶴前さんを盗み見た。
こんな会話が鶴前さんに聞かれたら悲しい顔をされてしまいそう。

「大丈夫よ、竹中と話し込んでいるから」
 
松田さんが煙草を銜えて火をつけた。
この会社の人は喫煙者が多いのかな。

「大和くんはね、いつも納期の厳しい注文ばかり受けてくるのよ。それを私達商品部が工場側やメーカーさんに頭を下げて何とか間に合わせているのだけどね、その裏事情を知らないから図に乗る。他社よりも早く納品できますなんて、とんでもない営業をするの。顧客は増えるだろうけど会社としてはどうなのかな。メーカーさんとの良き信頼関係が保たれないから諸刃の剣よ。その被害に遭っているのがハルちゃんなのよね」
「ハル……いえ。鶴前さんが?」
 
さっきも大和さんが鶴前さんにコピー機の見積もりを急がせたな。
この目で見たから松田さんの話に納得する部分がある。
しかし被害とは尋常な言い方では無い。

「営業部は事務がハルちゃんしかいない。だから自然と他部署からの苦情はハルちゃんに圧し掛かるの。まあ、殆どが私達商品部からの大和くんに対するクレームだけどね」

「それは直属の上司に訴えた方が良くないですか?」

「賢いわね。だけど無理を通す大和くんは営業の成績が良い。だから上司は黙認しているの。埒が明かないから皆がハルちゃんに愚痴る。でもハルちゃんは大和くんの相方だし、気を使う性格からか、軋轢が生じない様に私達に頭を下げて回って、大和くんには逆に励まして力になろうとする。大和くんはお蔭で気分良く仕事をしているわよ。それが余計にハルちゃんを追い込んでしまうのにね」

 酷い話だ。僕には鶴前さんがあらゆる非難から大和さんを護っていると聞えた。

「只でさえハルちゃんは事務の仕事で手一杯なのに迷惑小僧が難題を押し付ける。大和くんがハルちゃんより二つ年上だからって、気を使いすぎ。そして大和くんは威張りすぎ」
 チューハイを一口飲んだ。氷が説けて薄くなっているはずなのに、舌に苦みが残る。
「ハルちゃんは気を使いすぎて、たまにパンクするの。助けてあげて、ケンちゃん。きみといるとハルちゃんはとても楽しそうだし」
「そ、そうですか?」

 凄く良い事を言ってくれた。嬉しい。

「気が楽になったのだと思うよ。ほら、事務を補佐してもらえるから」
 
そういう事か。
鶴前さんの助けになれたのも嬉しいけど、もっと違う何かを期待しかけていた。
……僕は鶴前さんに対して、本気になっていたのだ。

「見てごらん、ほら」
 松田さんが椅子を引いてくれたので前鶴さんの横顔がはっきり見える。
ああ、楽しそうに笑っているなあ。

「ねえ、可愛い笑顔」
「朝から前鶴さんは笑顔でしたよ」
「ケンちゃんのお蔭。あの愛くるしい笑顔が私達の生きる支えだからさ。頼むわよ、番犬。ハルちゃんが倒れない様に護るのよ!」
 
ドンと背中を叩かれた。女性なのに、何て力強いのだろう。
勢いで咽ているのに甲高い笑い声が聞えている。怖い人だ。

「ケンちゃん?」
 僕の後頭部を撫でながら耳元で囁く人がいる。こ、この声は間違いない。
「そんなに心配そうな顔をしなくて良いのよ、ハルちゃん。大げさよー、番犬はコロッケを喉に詰まらせただけ」

「松田さんが叩いたのを見ましたよ?」
「あらあ。目敏い」
 また甲高い声で笑い出した。世の中で一番強いのは女性だ。僕は今こそ確信した。

「よしよし。おいで、ケンちゃん」
 えっ? 今、何て? 顔を上げたら椅子に座った鶴前さんが自分の膝を指している。
「ハルちゃん、そんなに大きな子を膝に乗せたら骨が砕けるわよ」
「大丈夫、男だもの。さあ、おいで」
 
その言い方にドキンとした。全然酔っていないけど、これは甘えても良いのだろうか。

しかし華奢な膝の上に僕が座ったら前鶴さんが悲鳴を上げてしまうだろう。
……あ、その声が聞きたい。……いや、ダメだ!

「お二人とも自宅が遠いですよね、そろそろお開きにしませんか?」
「あら、もうこんな時間。帰りましょう」

 ああっ! 葛藤しているうちに、話題が変わっている。
……この脱力感はチャンスをふいにしたせいだ。
再チャレンジの機会はあるのだろうか。しゅんとしたまま店を出る。
「今日はありがとうございました」
「私達も楽しかったわ、また明日ね」
 
お姉さん方と店の前で別れて、僕は前鶴さんと二人きりになった。
何だか意識して、何を話して良いのかわからないな。
お酒を飲んだせいか夜風が心地よい。
このままぼうっとしていたら寝てしまいそうだ。
火照った頬をぱちんと叩いていたら、袖を引かれた。

「眠い」
 鶴前さんが僕の腕に寄り掛かった。
「ま、鶴前さん?」
「ごめん……はしゃぎすぎた」
 小さな声で呟くと瞼を閉じてしまった。これがパンクか? 
「鶴前さん、送りますから、自宅の住所を教えてください」
「……飲酒運転は、ダメだよ」
「タクシーで送ります!」
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