FC2ブログ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
「ん、」
 瞼が重そうだけど携帯を操作してユーザーの画面を開いて見せてくれた。
「お借りします」
 携帯を受け取ると鶴前さんが倒れない様に片手で抱き寄せて、急いでメモに住所を書き写す。
これをタクシーの運転手さんに渡せば前鶴さんを運んでくれるだろう。

「……わ!」
 いきなりバイブが鳴ったので驚いた。
こんな時に着信か。
しかも相手の名を見て息を呑んだ。<ヤマト>って、あの大和さんか!

「鶴前さん?」
 呼んでも僕の左脇に顔を突っ込んだまま動こうとしない。
まさか立ったまま寝ているのかな。これでは僕が出るしか無い。

「は、はい。鶴前の携帯です」
『誰?』

「すみません、犬山です」
『……おまえがどうして? ハルは? おまえ、ハルと一緒なのか。今、何時だと思っているのだよ、勝手に連れまわしているのか? ハルと代われよ!』

「前鶴さんはちょっと、電話に出られなくて。あの、お酒を飲んで寝てしまいまして」

『起こせ!』

「そんな」
『急用なのだよ! 早く代われ!』
 電話口で怒鳴る人は初めてだ。そんな人はドラマだけと思っていたけど、本当にいた。

「ハル……鶴前さん、起きてください」
「……ん」
 僕の脇でごそごそと動く前鶴さんが愛しく思える。起こしたくない。だけど……。

「鶴前さん。……大和さんからお電話です」
 言いたくなかった。でも、名を出せばおきる気がした。
「……大和さ、」
 はあ、と息を吐きながら前鶴さんが顔を上げた。
そして前髪をかきあげて足元がふらつき、僕にしがみついた。
「大丈夫ですか?」
「うん、ごめんね。携帯をくれるかな?」
「はい……」
 
携帯を渡すと前鶴さんは開口一番に「すみません」と謝った。
頬を赤くして目を伏せながら、その後は黙っている。
大和さんが怒鳴り続けているのだろうか。……やはり起こすべきではなかった。

しかし大和さんから電話があったのに起こさなかったと知ったら、前鶴さんがへこむ気がしたのだ。
僕は一瞬の判断ミスをして鶴前さんに無理をさせてしまった。唇を噛んで俯いた。
「失礼します」


鶴前さんが携帯を閉じた。
二分くらいだろうけど、凄く長く感じた通話時間だった。

「あの。プライベートの時間なのに、急用で電話がかかったりするのですか」
「営業部だからね。朝一番に片付けてと急な依頼があるのさ」
「それは、でも、時間外でしょう。明日の朝では遅い話なのでしょうか」
 
僕は間違っている。
こんな事は前鶴さんにではなく大和さんに言うべきで……。
さっき松田さんに言われたばかりなのに僕は前鶴さんを責めてしまった。


「ケンちゃん、手をつないでもいいかな」
「えっ?」
 僕の指に細くて折れそうな前鶴さんの指が触れた。
「暖かいね。子供みたい」
 また子供扱いか……。
「鶴前さんよりは子供ですけど、でも、僕も大人になりかけです」
 気持の上で背伸びしてみた。
「ケンちゃんは大人だよ。しっかりしていて頼りになる」
 え、そんな。
「そんなこと、無いですよ」

「……僕も、あの人も大人の振りをしているだけなのかもしれない」

「ええっ?」
 素っ頓狂な声をあげてしまった。

「おかしいだろう、大和さんと僕。個人的な付き合いは一切せずに、仕事上の相方、その絆を信じているのだけど」
 酔っているのかな。頬が赤いのが気になる。
「気がついたら日常の殆どを侵食されていた。弱い僕では大和さんを支えきれない」
 ズキンと胸が痛い。鶴前さんの苦悩の滲んだか細い声が心からの悲鳴に聞える。
「あの、どこかに座りませんか?」

「このままでいて」
 指が絡まってきた。ドキドキしていたら、ぎゅっと握られた。
「鶴前さん?」
「ごめん。嫌じゃなかったら、にぎり返して欲しい」
「い、嫌じゃないです。全然です」
スポンサーサイト
FC2公認の男性用高額求人サイトが誕生!
稼ぎたい男子はここで仕事を探せ!
[PR]

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。