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――僕達の通う学校には伝説がある。
高校二年の秋に年上の人と出会ったら、卒業後にその人と必ず結婚をするというものだ。
 入学時に校長が冗談めかして話していたのだが、その年に五組も婚約成立したのだから、
これは嘘ではない。
この学校には、きっと幸せになるパワーが溢れているのだろう。

「湊が僕達の中で一組目か。でも、お揃いの指輪がないのは理由でもあるの?」
「指輪が買えなくて、さ」
 携帯を買ったので懐が寒いのだろう。
それはわかるが、湊が平然としているので、ここはびしりと言わないと奈々さんが気の毒だと思った。

「湊、バイトをしろよ。そうして、早く奈々さんに指輪を渡せよ」
「そうだな」
 湊が力なく頷いたので、僕はまだ言っていなかった言葉に気がついた。
「ごめん。遅くなった。……おめでとう」
「ありがとう! 俺、悠里に言われると何でも凄く嬉しくなるんだ!」
 街を歩けば女性が振り返るようないい男なのに、どうして僕の言葉でこんなに嬉しがってくれるのだろう。

「森下くんって、素直で……湊の世話女房みたいなのね。だから湊は森下くんが気に入っているの」
 奈々さんが意外な言葉を口に出したので、僕は思考が停止した。
「え? 僕を気に入っているの?」
「あ、それは! あの、ほら!」
「……別に急かしていないよ」
「あのレポートだよ。あれを一緒にやって、凄く良い評価を貰ってから、俺は自信がついたし、悠里にも好感を持ったんだよ」
「そうか、ありがとう。僕も湊とコンビが組めて、本当によかったと思っているんだ」
「だよなー!」
 湊がいきなり席を立ち上がり、僕の手を掴んで振り回すので驚いた。
「湊、頼むから、落ち着いて!」
 人目を気にして小声で言ったら「あ、いけない」と手を放して、「ごめん!」と両手を合わせた。
「そんなに謝らなくていいよ。湊は時々、子供だなあ」
 僕が呟くと、奈々さんが頷いた。
「彼の友人が、こんなに良い人で安心したわ。
高校卒業まであと一年? それまでに指輪をお願いします」
「あ、はい! 必ず」
 いつもは自己中心的な性格の湊だけど、彼女に対しては誠実な気持なのが垣間見られて僕まで嬉しくなった。
 それにまだ敬語で話し合うこの二人を見ていて、初々しいなあと思った。

 甘いパネットーネを食べながら、湊が奈々さんに僕との出会いを話し始めた。
「悠里とはレポートでコンビを組むまでは、教室の中で挨拶くらいしかしたことがなかったんだけどさあ」
 そう。教室内では、気の合うもの同士でグループが出来ていて、僕と湊はそれぞれ別のグループにいたのだ。
女子は派閥を作っていて、何やら敵対しているが男はそこまではしない。
グループ同士で仲良く遊ぶことも多々ある。
そんな中、ひょんなことで僕は湊とコンビを組んだのだ。
 


――あれは文化祭に向けて、皆が出し物作りに夢中になっていた頃だ。
神経質で有名な日本史の先生が、いつも授業中に私語で煩い湊の机をノートで叩いて、こう言った。
「皆をあっと言わせるようなレポートを書いて、文化祭に出してみろ」
 それはかなり挑戦的な言い方だった。
多分、あの先生は湊をあまり良くは思っていなかっただろう。
それを聞きながら厄介なことを言い出したなと感じた。
皆を驚かせるレポートなんて漠然としていて何も思いつかない。
 しかし負けん気の湊は「はあ、はあ、そうですか」と鼻であしらった。
それは見ているこっちがハラハラする場面だった。

「どうせ一人では間に合わないだろう。誰かと一緒にやってもいいぞ?」
 その言い方を聞いて、僕はこの先生の鼻柱を折ってやりたい気になった。
もしも湊が指名してくれたら、僕は本気で付き合う気持になっていた。
「じゃあ、森下悠里と組みます」
 教室中がざわめいた。「え? 何で」の声も飛び交う。僕自身も声が出なかった。
僕と湊は、本当に関わりがなかったからだ。
「どうして森下なんだ?」
「閃きました」
「ようし。期待して待っているぞ」
(あの言い方、本当に憎たらしい!)
 
 僕は自分が馬鹿にされた気になった。
だから湊が僕の元に来て「頼むね」と言ったときは、その右手を握った。
「絶対に、あっと言わせてやろう」
「あ、うん」
 湊のほうが怖気づいて見えたが、僕は皆の前で湊に挑戦的な態度を取ったあの先生が許せなかった。
教師なのに、個人的な感情で生徒を煽るなんて最低だと思った。
だから絶対に隙のない、想像もつかない論点を引っ張り出す必要があった。

「そんなに怖い顔をしないでよ、森下」
「だって、僕はあの先生が許せないんだ。
南波を馬鹿にしたようなあの言い方、凄く腹立たしいよ」
 素直に気持を言うと、湊が顔を赤くした。
「や、でも。俺が悪いんだよ? いつも授業中に騒いじゃうからさ。目を付けられていたんだ、きっと」
「そうであっても教師がすることじゃない。僕は、とにかく許せないんだ。だから完璧に近いレポートを出して見せるよ」
 はっきりと言い切った僕に、湊がコツンとおでこを当ててきた。
「巻き込んで、ごめんね」
「……謝らないでいいんだよ」
 僕は湊と身長差があることに気付いた。
十センチも差はないけど、湊は背が低い僕に合わせて、ずっと前屈みで話していたのだ。


3話に続きます

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