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 一ヵ月後、いよいよまとめると決めた日に、僕は湊の家に泊まった。
湊一人では清書も大変だろうと思い、手伝ったのだ。
 しかし湊は教室内と変わらず、僕を見れば何か話したくて仕方がない。
落ち着かない湊のせいで清書の半分は僕がやる羽目になった。
 
 完成してほっとしたら、そのままテーブルに突っ伏して寝てしまったらしい。
朝日の光を窓越しに感じてゆっくり体を起すと、すぐ隣で湊が寝ていたので一気に目が覚めた。

「……何で、隣で寝ているんだよ。自分の部屋だろう、ベッドで寝ろよ……」
 
 欠伸をしながらその横顔を見て、胸がちくりと痛くなった。
 眉目秀麗という言葉は知っているが、こんなに綺麗な顔をしている湊を、間近で見たのは初めてだった。
(肌も綺麗、だな)
 静かに寝息を立てる湊の頬に、まるで導かれるように僕はこっそりキスをした。
悪戯心のつもりでいたが、この胸の高まりは違う感情が芽生えていると知らされた。
(気の迷いかもしれない。だって、僕は男で、湊も男で……)

 テーブルに頬杖をついて、湊が起きないか、暫らく待ったが、一向に起きる気配がしない。
「じゃ、学校で」
 そう呟くと湊の髪を軽く撫でて、僕は早朝、湊の家を出て電車に乗り、自宅に帰った。
 大急ぎでシャワーを浴び、シャツを羽織ながら慌しく携帯を操作した。
湊に必ずレポートを持って登校するように、メールを打ったのだ。
「まあ、忙しそう」
 母が呆れていたが、僕は携帯を閉じると制服を着て、冷蔵庫からウリヴェードという炭酸水を出して一口飲み、咽た。
「落ち着きなさいよ」
「遅刻しちゃう。行ってきます」

 僕からのメールをちゃんと読んだらしく、湊は完成したレポートを持参し、それは先生を唸らせた。
「まさか、ここまで詳細なものを書くとは」
 先生が湊と握手をしたので、隣で見ていて誇らしかった。これだけで怒りは消えた。
 このレポートは勿論文化祭に出品して皆の度肝を抜いた。
「マジで? ここまでやるかー、普通?」
「凄い、なんて行動力だ」
 皆の称賛を受けて、僕は嬉しかった。ようやく、肩の荷が下りたと安堵した。
たった、一ヶ月の間ではあるが、かなりのハードな日々だったので早く寝たいと思うのに湊が合コンに誘ってきた。勿論、断った。
「ごめん。悪いけど眠らせて」
「あ、そっか。こっちこそ、ごめん」
 
 その合コンで、湊は奈々さんに出会ったのだ。
その日は僕が眠いと言っても携帯を切らせてくれず、いつまでも奈々さんの話を聞かされた。
 途中で寝たが、朝方四時にふと目が覚めて携帯を耳にあてたらかすかな寝息が聞えた。
まるであのときのように、隣で湊が寝ているような感覚がした。

「湊だから、僕はここまでやったんだよ」
 別に誉めて欲しくないし、謝って欲しくもない。僕は、湊だったからここまでやれた。
 呟いたまま、また枕にうつぶせになった。



「あの頃を思い出すと、本当に、悠里におんぶに抱っこだった。ごめんね」
「何を言っているんだよ。湊が清書をしてくれたから完璧に仕上がったんだ。僕は湊に感謝しているよ。ありがとう」
 すると奈々さんが「ふふ」と笑った。
「あ、どうかしましたか?」
「二人があまりにも仲が良くて。妬けちゃいそうです」
「あ。あ……そ、そうですか? あの、すみません」
「謝らないで。湊は見かけがちゃらちゃらしているから、どんな友人がいるのかと、不安だったの。ほら、友人を見ればその人の性格や人となりがわかると言うでしょう? 森下くんを見て安心した。凄く、ほっとした」
 奈々さんを見て、僕は心が騒いだが。

(ん? 今、僕は何を考えた?)

「ところで悠里。プレゼントがあるんだ」
「は? 何で」
 誕生日でもないのだが?
「じゃーん」
 テーブルに、携帯の番号が描かれた白い箱が置かれた。
「これって、最新の機種じゃないか?」
「そう! 今日が発売日だったんだよ」
「それで学校を休んだわけね」
「そうそう! で、これが悠里の分」
「はあ?」
 僕は自分の携帯を持っているし、最新機種なんて、高くて手が出せない。
「ごめん。僕、お金に余裕がないから。好きな服やCDを買うだけで一杯一杯だよ」
「違うって。これが俺からのプレゼント」
「はああ?」
 全く意味がわからない。
「僕に、携帯を変えろと言うこと? それにしても高額のプレゼントは貰えないよ」
 しかし湊は首を振る。
「今週末の目玉商品でね、機種変更ゼロ円のなんだ。これに替えてもいいし、二台持ってもいいし。それは悠里の判断で」
「……すぐには替えられないよ。メールとか、消したくないものがあるし」
 機種変更をしたらアドレスとかは移せるが、貰ったメールまでは移せないはずだ。
「じゃあ、これは俺とのメールや会話専用」
「はっ? 湊、何を言い出すんだ?」
「いいじゃない。しかも、このオレンジ色は俺とお揃い」
「はあ? 湊、大丈夫か? 自分が何を言っているのかわかるか?」
 奈々さんの前で何を言い出すんだと、真剣に僕は悩んだ。
「森下くん、これは私からもお礼ということで。湊が信頼している友人のあなたに挨拶がてら、お礼がしたいの。使って欲しいの」
「あ、はあ……」
 奈々さんがそういうのなら、いいだろうか。
しかし普通に考えたら、『湊専用の携帯』なんて、あってはならないものではないか。
「携帯は一人一台の時代じゃないから。平気、平気。ね、悠里。このオレンジの携帯が鳴ったら、何処にいても三コールまでに取って」
「無茶を言うなあ……」
 恐らく機種変更で購入したら三万円は下らない。
週末セールの目玉とはいえ、そんなものを渡されて、僕は悩んだ。

「まだ、困っているの? 迷惑だった?」
 湊が前傾姿勢で顔を覗き込むので、慌てて首を振った。
「本当に貰っていいのかと、考えていただけだよ。困らないし、むしろありがたいくらいだよ?」
「あ、良かったー!」
 両手を挙げて微笑んでいる。この罪を知らない笑顔に絆される。
(本当に、何も考えていないんだな)
 それが僕には少しだけ寂しくて、逆に安堵する気持もあった。
 僕はコンビを組んでから、湊に対して心の中で特別な感情が芽生えていたのだ。
それは口には出せない、深く考えてもいけない悩みでもあるのだ。
 考えたら負けだ。
大事な友人を一人失うことになる。
だから僕は奈々さんとの交際に喜んで見せたし、正直に奈々さんは可愛らしいと感じることができた。
 でもどうしたことだろう。
僕の胸には風が吹いているんだ。
それは和室の障子紙を揺らす程の風で、僕はそのせいで心が冷えてしまうような錯覚がした。


5話に続きます

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