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 翌朝、登校すると教室内は騒がしい。
湊が来ているのだな、と姿を見なくてもわかる。 
 近くにいた子に「おはよー」と挨拶を交わして席に着くと、湊はどうやらバイトの話をしているようだと気付いた。
「おまえにバイトなんてできるのかよー?私語が煩いって、即日解雇じゃないか?」
 あはははと笑う皆に賛同したい。
昨日僕は湊にバイトを勧めたが、性格的に社会で通用するのか心配だ。
「やれるって! 大丈夫。だって、どうしてもやらなくちゃいけない理由ができたからさあ、俺だって本気を見せるよ」
「ほおお?」
 また笑い声がしている。
楽しそうだなあと他人ごとのように眺めていたら「おはよう」と肩を叩かれた。
誰かと思えば星野サンだ。
「おはよう」
 挨拶は人としての基本だ。
だから無視はしないけど、もう関わって欲しくない。
「ねえ、昨日は走っていたね。何処に行ったの? 南波くんと会っていたりして?」
「急いで帰宅しただけ」
「けち! いつもそうやってはぐらかす」
 何が、けちだ。
星野サンこそ、どうして何でも聞きたがるのだろう。
 気分を害して頬杖をつくと、今度は制服の上着を引っ張られた。
「何?」
「そんなに、うざそうにしなくてもいいじゃない! ねえ、これ見てよ」
 携帯を渡された。興味がないのにと渋々見てみると、それは発信画面で、おぞましい記録が残されていた。
彼女は十七時から二十一時まで五分とおかずに、ずっと湊に電話を掛けていたのだ。
「何、これ! 気持悪いよ!」
「酷いわね」
 星野サンが携帯を取り返して「あ、間違った」と呟いた。
「本当はこっち」
 また見せられるのかと体ごと除けたが、携帯を突き出された。
今度は待ち受け画面で、何と湊とツーショットで撮った写真だった。
「何だ、これ!」
「うふふ。いいでしょう? 南波くんにお願いして、撮っちゃった!」
 僕は愕然とした。
湊は人が好すぎると思ったし、星野さんが急接近するなんて、それが怖かった。
「ねえ、森下ちゃんも知っているでしょう?この学校の伝説! 私、一番乗りしちゃおうかなー」
「何が? どういうこと?」
 尋ねながら鳥肌が立っていた。
僕の勘が外れて欲しいと願いながら、眉間に皺を寄せた。
「今日のホームルームで校外学習の班を決めるよね。私、南波くんと一緒の班になりたいから邪魔しないでよね」
「はあ?」
 
 まだ行き先の決まっていない校外学習か。
 校外学習の班編成は、男子女子各二名と決まっていて、僕はこの班編成も未定の行き先も全く興味がなかった。
 だけど何故か闘志が湧く。
星野サンだけは湊に近づけさせたくない。
他の子なら誰でもいい、きっと無害だから。
 
 ホームルームが始まると騒ぎは更に激しさを増した。
皆が勝手に誰と同じ班がいいと主張して、全くまとまりがなかった。
 先生がくじ引きを提案したら女子が聞き入れない。
それはそうだろう、派閥があるのだから。

「もう、おまえらで勝手に決めろ。今日の放課後までに班を決めて、委員長が報告しろ」
 先生が匙を投げたが、その気持はわかる。
さて、どうしようかなあと思ったら、湊がいきなり僕の席まで歩いてきて、机に両手を置いた。
「な、何? どうした?」
「同じ班で、いいよね?」
 小首を傾げられて、胸の鼓動が高まった。
(あれ、どうしたんだ?)
「ね?」
 念を押す湊に「うん」と答えると、湊は両手を上げて「よっしゃあ!」と叫んだ。
「何なのー、南波! 煩いよ、あんた」
 女子が苦笑いしながら注意をすると、湊は腰に手を当てた。
「一つ班が決定―!」
「おいおい、南波! 女子が二人必要だぞ」
「そうよ、それで皆が悩んでいるのに。あんたは気楽でいいわねー。面倒を見てくれる森下を確保したんだから」
 女子や男子にぶつぶつ言われても、湊は動じなかった。

「それで揉めるくらいなら、別に男女混合の班じゃなくてもいいんじゃね?」
 
 湊の一言に、皆が目を丸くした。そして、じわじわと笑いの波が押し寄せた。
「もう! 南波には敵わないわね」
「そうだよ、揉めて決まらないくらいなら、最初から別々でいいんじゃないか。なあ、委員長」
 委員長と呼ばれた気の小さそうな眼鏡の男子が周りを見渡して、ゆっくり立ち上がった。
「僕も、それでいいと思います。そのほうが早く班が決まるし。僕は、放課後は塾があるので、早く報告できたほうが助かります」
「おいおい。自分の都合かよー」
 野次が飛んだが湊の意見でまとまりそうだ。

「凄いな、湊」
「え、何で?」
 言った本人が自分の発言の影響力を理解していない。天然か?
「皆が湊の意見に賛成したんだよ? 凄いよ、湊は」
「へえ? 俺はただ、悠里と一緒がいい。それだけなんだけどなー」

(この悪魔! その言い方が、僕の心に火をつけるのがわからないのかな!)
 
 はあ、と溜息を出して机に頬杖をついた。
 目の前にいる湊が中腰で微笑みかけるのが照れくさいし、何処を見ていいのかわからなくて本当に困る。

「席に戻れよ、もう決まったんだし」
「あれ。悠里、怒っている?」
「怒っていないよ」
 しかし湊は唇に指を当てて「んー」と言いながら僕を見つめた。
「俺が嫌い?」
(何を言い出すんだー!)
「そんなことはないよ。僕も湊と同じ班がいいなあと思っていて、実現したからちょっと驚いただけ」
「そっか、良かった!」
 その微笑を独占している人がいるんだよな。
 そう思うと、悲しくなってしまう。
「あ、ねえねえ! 南波くん! 私も同じ班に入れてよ」
 は! 星野サン、何を言い出すんだ。
「ん? 別にいいけど」

「……湊!」
「え、どうしたの、悠里」
 何もわかっていない湊を引っ張って廊下に出た。
「どうしたの?」
「あのさ。凄く言いづらいけど、星野サンは断ったほうがいい」
「どうして?」
「湊に関心があるからだよ」
「へえ?」
(ああ、何もわかっていないんだ)
「そういえば、どうして携帯番号やメアドを教えたり、ツーショットなんか撮るんだよ? 奈々さんが見たら悲しむぞ」
「そうかな? 別に何も関係ないからいいんじゃない?」
(女性はそうは思わないはずだ)
「……奈々さんは女性だよ。そしてこの場にはいない人だ。自分の知らないところで、別の女性と写真を撮っていたなんて、ショックを受けると思うよ。自重しろよ」
「そうか……」
 湊の表情が曇った。
こんなにいい男なのに、自己中心すぎて相手の気持を考えられないのは、ある意味不幸だとは思う。

「でも、どうしよう。あの写真」
 そして、湊は繊細なんだよな、時々だけど。
「撮ったものは仕方ないよ。星野サンは湊を狙っているんだから、削除してと頼んでも、絶対に消さないと思う。だから今後、こんな軽率な真似はしないでいたらいいんだよ。
僕も心配になるからさ」

(しまった、口が滑った)
 
 思わず自分の気持を付け足していた。
まあ、気楽な湊には何も通じない、と高をくくっていたら、湊が目を丸くしていた。
(あれ? さっきまで暗い表情だったのに)

「ど、どうかした? 僕の言ったことがおかしかった?」
「悠里が心配してくれていたの?」
「……あのさ。それは友人として当然だと思うけど。奈々さん、あんなに可愛い……」
 話の途中で抱き締められた。僕の唇が湊の首筋に触れて、頬にシャツの襟が当たる。
 そして腰にまわされた腕のしなやかさに、胸の鼓動が高まってしまう。
「な、何?」
 自分の腕の行き場がなくて硬直していた。
「心配させてごめん」
 僕の髪のトップの辺りに湊の息がかかって、背筋がぞくりとした。
「……それは、奈々さんにするべきだろう。
湊! おまえは相手を間違えているぞ」
「間違えていないよ、悠里だよ?」
 
 どうしても悩ませたいのだろうか。
僕が心の中に厳重な鍵をかけてしまいこんだ芽生えた気持を、どうしてくれるんだ。

「おや? ようよう、お二人さん。どうしたあ? 湊、それは可愛い顔をしているけど、森下悠里だぞ?」
「げ。どうしたの、南波」
 皆に見られているし、本当に困る。硬直していた腕を引き上げて、軽く湊の胸元を押した。
「え」
「え、じゃないよ。ふざけるな!」


7話に続きます
 
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