FC2ブログ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 雨が降る中、僕は湊と並んで歩いた。
ポツポツと傘を打つ音しか聞えないこの重苦しい空間は、避けたかった事態だ。

「よく、僕の家がわかったね」
「悠里と同じグループの奴に手当たり次第に電話を掛けて、教えて貰った」
「そう、か」
 そんな努力をしてくれたことが嬉しい。
しかし気まずい空気は一向に変わらない。
「水族館に行くことになりそうだね」
 この空気が辛くて呟いた。

「悠里」
 呼ばれたので湊のほうを向くと、鞄を持っていた右手を掴まれた。
「え! な、何?」
「今日、俺と付き合って」
 湊の眼がまっすぐに僕を刺した。
「学校は、郊外学習は……どうするんだよ」
「行きたくない」
「そんな、子供みたいなことを言うなよ。どうしたんだよ、湊!」
 手を離させようとしたけど、しっかり握られていた。
「悠里だって行きたくないくせに」
 そんな言い方を初めて聞いた。
湊は僕を無意識に追い込むことは多々あったが、本気で照準を合わせたのは初めてだ。
「勝手だなあ。どうしたいんだよ、湊」
「つきあってくれるなら話す」
「順番が逆だろう?」
「……悠里」
 湊を雨から守っていた傘が、急に後方へ落ちていった。
そして髪や肩に容赦なく振り続ける雨で、湊が濡れていく。

「ど、どうしたんだよ。傘が」
 拾おうと体の向きを変えたら、傘を奪われ、そのまま抱き締められた。
「湊? どうして……」
 凍える体が冷たくて、僕は抗った。
「悠里、このままでいて。もっと抱き締めさせてよ」
「何を言っているんだよ! 湊、ずぶ濡れだろう、離せって」
「嫌だ」
 湊が僕を抱く力を強めた。
「……何があった?」
 尋常ではないと思い、背中越しに聞いた。
「何もないよ。ただ、俺は間違っていたことに気がついたんだ」
「嘘付け……。何のことか知らないけど、それを言う為にわざわざ電車に乗って僕の家まで来ないだろう」
髪が濡れて雫がしたたり落ちる。濡れていく制服が重く感じる。
「湊、このままじゃ、何処にも行けないよ」
 見返ると息がまともに湊にかかった。
「あ、ごめん」
 口を抑えていると顔が熱くなる。
「別にいいよ。近いけど、嫌じゃない?」
「うん。嫌じゃないよ……」
 強気に出たのに甘い声を囁かれると弱い。
「よかった」
 安堵したのか湊が微笑んだ。
 
 駅までの道程は遠い。
それにお互いずぶ濡れで、乾かさないと風邪をひいてしまう。
「付き合うから話を聞かせろよ。その前に僕の家に行こう。制服を乾かそうよ」
「いいの?」
「良いも悪いもないよ。寒くなってきた」
 湊の懐に顔を埋めると暖かかった。
僕の髪を撫でて抱き締める、湊の気持がまだ読めないままだ。
「湊、歩かなくちゃいけないから離して」
「もう少し、だめ?」
「……風邪をひくだろう」
「看病するから」
「湊も風邪をひくんだぞ? もう、離せ」
 往来で抱き締めるなんて、本当に自己中心的な奴だ。
僕は近所の人に見られたらアウトなのに、少しは僕のことを思いやってくれてもいいだろうに!

「悠里じゃなきゃ、俺はダメなんだよ」
「……何回聞かせるんだ、その言葉を」
 その度に僕の心は湊を諦めきれずに、欲してしまっていたのに。
その罪を知らない湊は今もまた、僕を困らせる。
「好き」
「それも聞いた」
 突き放さなければいけない。
湊の『好き』は友情だろうから。僕とは違うんだ。
「湊、寒いから」
 いい加減にしろと顔を上げたら、この唇が塞がれた。
そして暖かい体温が伝わり、僕の冷えた心が動揺して気持を曝け出そうとする。

(どうしてキスをするんだよ!)
 
 唇を離そうと向きを変えても顎を掴まれてまたキスをされる。
湊は何度も僕の唇を吸って、下唇を鋏み、名残惜しそうに唇を離したときは、全身ずぶ濡れだった。
「悠里」
 僕の濡れた頬を手で拭わないで。
唇を指でなぞらないで。
これ以上僕を悩ませないで!

「好きなんだ。悠里しか欲しくないんだ」
 その甘い声に心の鍵が壊れた。
しまいこんだ想いが、もしや成就されるのか?
「……奈々さんは、どうしたんだよ」
 おおよその予測はつけていたが、湊が知っているのかがわからないので聞いた。
「俺から別れると言った」
「え、はあ?」
 振られたんじゃないのか? 僕は湊を見た。
「だって、俺……奈々さんと会っていても、悠里の話しかしないんだって。奈々さんが、そう言ったんだ」
「おまえは……何をしているんだよ?」
「合コンの場で盛り上がって、好きになった錯覚がしただけだったんだ。会っていても、俺は心ここに在らずで、それを奈々さんに指摘された。俺はようやくわかったんだ」
 僕は声が出せないでいた。
湊が何を言い出すのか、期待してはいけないと自分を押さえつけていた。

「俺にとって悠里はかけがえのない存在だ。クラスメートでも友人でもない」
 湊が僕を見ながら前髪をかきあげた。おでこを見せたその仕草に、艶を感じた。
「あー。口の中に雨粒が入った」
「早く僕の家に行こうよ」
「誰か、いる?」
「母がそろそろパートの仕事に出かけるはずだから、誰もいなくなるよ。だから別に困らない……」
 と言いかけて顔が熱くなった。
心にひた隠してきたものが、漏れてきたのだ。
 思わず顔を伏せて口を手で覆う。
知られてはいけないのに湊が本当に上手に突くので、僕は本心があからさまになるのを恐れた。

「俺、きっと今、悠里と同じことを考えている」
湊のまっすぐな言葉を聞いていられない、耳を塞ぐと腕を取られた。
「ここまで来たんだ、俺を受け止めてよ」
「ばっか……」
 言葉が出てこなかった。
ただ湊の胸に顔を埋めてしまった。


11話に続きます
 
スポンサーサイト
[PR]

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。