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「出し惜しみをして、1回しかセックスをさせないからだよ。抱きたくてたまらない」
 まるでさかりのついたネコのように、亮輔は蒼生を見つめて目を光らせている。
周りが全く見えていない証拠だ。
「こんなところでなにを言うんだ!ひと晩1回で十分だろう!それにもう好きにさせない」
 蒼生は亮輔の頬を打つと、急いで助手席から逃げ出そうとしたが腕をとられる。
「好きにさせないって、どういうことだよ」
「不毛だからだよ!」
「…俺が蒼生を好きだって言っているのに、か?」
「セックスするだけしか能がないみたいだ」
 すると今度は亮輔が蒼生の腕を引っ張り、無理矢理自分のほうを向かせて頬を叩いた。
「暴力かよ、今度は」
 蒼生は叩かれた頬を手で覆いながら、亮輔を睨み付ける。
「最低だ。本当は好きでもなんでもないんだろう?手短なところで処理したいんだろう」
「違う。どうしたら理解してくれるのかわからなくなった」
「は」
 亮輔は蒼生の腕を離して頭を抱えた。
「どうしてわかってくれないんだ?」
「わかるって、なにが?」
「好きなのに、気持ちを受け入れられないなんて初めてだ」
 蒼生は急に力をなくした亮輔に驚いた。
「同性を好きになったのも初めてなんだ」
「…そうなのか」
「蒼生をどう扱っていいのかわからなくて今まで誰かにしてきたようにプレゼントもしたし、食事もした。それなのに、俺のものにならないなんて」
 肩を落とした亮輔に蒼生は何も言えなかった。
ようやく本気で好かれていると理解したのだ。
蒼生自身もこんなに王様気取りな亮輔が気になりだしていた。
 亮輔は俯いてしまい、肩を震わせる。
「男が泣くなよ」
「泣いていない。ちょっと鼻水が出ただけだ」
「子供だなー…」
 蒼生は亮輔に手を伸ばし、その体を抱き締めた。
「え、蒼生?」
「泣かれるのは困るから」
 蒼生はそう言いながら亮輔の胸に顔を埋めた。
「セックスだけじゃなくて付き合うなら、僕も覚悟を決めてもいい」
「蒼生、マジで?マジでそう言ってくれるのか?」
 亮輔は蒼生の髪を撫でて、ぐいっと顔を起こさせた。
「…この距離で顔を見られるのは恥かしいんだけど。近いし」
「やった!蒼生、付き合ってな!」
 歓声をあげる亮輔をまじまじと見ると泣いたあとがない。
蒼生は雰囲気で騙されたような気がした。
しかしもう引き下がれない。
「俺の部屋で一緒に暮らさない?」
「嫌だ」
「はあ?どうして?」
「プライベートは別にしてほしい。会社で嫌になるくらい顔を見るんだから勘弁して」
「嫌だよ!一緒に住もう!」
「無理を言うな!」
 蒼生は亮輔の背中を叩いて体を離した。
そして車から降りると台車を転がしながら背中を向けて会社に戻った。


 定時になると、皆が帰り支度を始めてぞろぞろと会社を出て行く。
珍しくその波に乗れない蒼生はパソコン入力を進めていた。
「戸田さん、私でもできることなら助けたいのですが」
 声をかけてきた新入社員に蒼生は笑顔を返した。
「部長の指示なんだ。気にせずに帰りな」
「は、はい。ではお先に失礼します」
 事務員が全員帰っていくのを見届けると、室内は蒼生1人になった。
部長が指示した表の作成は時間がかかった。
しかし本来なら定時で上がれたはずが、亮輔と口論をしたせいで時間を取られたのだ。
 部長が帰社するまえにどうしても作成しておかなければ自分の評価が下がってしまう。
蒼生は焦りながら作業を進めていた。
 喉が渇いたがとてもコーヒーを入れている余裕は無い。
溜息をつきながら急いでいると電話が鳴った。
「はい、●●商事です」
『蒼生?まだ社内にいるのかよ』
 亮輔の声だ。
「ああ、まだ仕事が終わらなくて。何か用事?今はもう誰もいないよ?部長の帰社待ちだな」
『手伝おうか?』
 意外な言葉に蒼生は耳を疑う。
王様な亮輔が誰かの仕事を手伝うなんて、有り得ないのだ。
「いいよ、自分でやるから。じゃあな、お疲れ」
 電話を切った10分後、なんと亮輔が部署に戻ってきた。
「はあああ?なんの用事だよ?」
「手伝うって。早く帰ろう」
 亮輔は慌しく資料をつかむと、空いている席のパソコンを起動させた。
「あのさ…亮輔は伝票が切れるのか?」
「やったことがないけどできると思う」
「…いいよ、手伝わなくて。僕1人で十分だ」
 蒼生は資料を返させると、またパソコンに向かう。
それを亮輔はおとなしく待っていた。
「側にいられると集中しづらいんだけど」
「一緒に帰りたいんだ」
「はあ?」
「言うと怒るかもしれないけど、俺はセックスがしたい」
「またか!今日は付き合えない、遅くなるから」
 蒼生が拒むと亮輔はなにを思ったのか椅子ごと近寄ってくる。

「近いって!」
「俺より部長の指示のほうが大事?」
「子供みたいなことを言うな!これは仕事だ」
 蒼生は呆れて亮輔の座っている椅子の足を蹴った。
すると車輪がついているのでくるくると回る。
「おおー。怖い怖い」
 亮輔がデスクにしがみつくと回転が止まった。
それと同時に部長が帰社して「まだいたのか、戸田」と驚いている。
「すみません、まだ表ができていなくて」
「おまえにしたら珍しいな、規定の時間の枠内で仕事が終わらないなんて」
 部長は驚くと共に「なにかあったか?」と勘繰った。
「いえ、浅尾の仕事の補佐をしたものですから時間をそれに取られまして」
「…戸田。おまえは私の部下だ。浅尾の仕事を手伝う理由はないはずだ…浅尾?」
 部長はようやく亮輔の存在に気付いた。
「なにをしているんだ?丁度いい、きちんと言っておくぞ。戸田は私の部下だ、いいように使うな!」
 部長の覇気にさすがの王様な亮輔が頭を下げた。
「さ、帰れ帰れ」
 亮輔は部長に追い出されてしまい、その部長も「続きは明日やれ」と蒼生に声をかけて出て行った。


20話に続きます
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