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 大貴が握った隼の手首は思いのほか細く、力を入れたら砕けそうだった。
この手首を離さない、大貴はそう決めて階段を駆け下りる。
「待ってください、僕には関わらないほうがいいんです!」
 隼が制しても大貴は聞かなかった。
「あなたを巻き込みたくないんです、わかってください」
 その言い方で大貴は隼の変化に気付いた。
自分を意識しているとわかったのだ、これだけでも大貴は社長にケンカを売る勇気が湧く。
「隼のためなら、俺はなんでもする」

「なにを言っているんですか。あなたが今まで築いてきた地位も名誉もなくなるんですよ?」
 大貴は隼を見返って口角を上げた。

「男が守るものは自分の地位や名誉だけじゃない。惚れた相手も守るべき対象だ」
「えっ…」
「俺が守るから」
 隼は大貴を見上げながら目を潤ませた。
「止めてください。何度も言いますけど大貴さんの築き上げたものが全部なくなってしまうんですよ?」
「構わないよ。それで隼が俺のものになるのなら」
 大貴の言葉に隼は肩をびくりと震わせた。
しかし返答に困ったのか口を閉ざしている。
「隼は俺に好意はない?」
 大貴は声を落として聞いた。
「あります、だからこうして…」
「それで十分だ。ありがとう、俺のものになればいい」


 大貴はとうとう社長室の前まで隼を連れてきてしまった。
呼吸を整えてノックを2回すると「どうぞ」の声がする。
「失礼します」と言いながらドアを開け、一礼した。

「とうとう来たか。経理部の南大貴くん」
 社長はソファーにもたれたまま、目線だけ向けてきた。
「瀬田隼を異動させたのが不満かな?人事異動は私に権限がある、それを覆そうとするのは実に愚かなことだ。南くんはこの会社を辞めるつもりでもあるのかね?」
 ストレートな言い方に大貴は言葉を詰まらせた。
「出る杭は打たれる・という言葉を知らないのか。出すぎた真似は止めてもらおうか」
 社長はコーヒーを一口飲んで、ふうと息を吐いた。
「きみだって生活がかかっているんだろう?この会社にいたいのなら今すぐここから出て行くんだな」
「社長、お言葉ですが」
 大貴は腹を決めた。
辞職覚悟で挑まなければ勝てない相手だと悟ったのだ。
「正直に申し上げます。瀬田隼との交際を止めてください」
「ほお?率直だね。しかし、人の恋路を邪魔する奴はなんとやらだぞ」
 社長の鋭い目は大貴に向けられた。
こけた頬や骨ばった指を見ると、大貴は自分とは違う生き物と対峙している錯覚を覚える。
「隼は私のお小姓みたいなものさ。しかし私は隼を愛し、隼もまた私を愛している。なあ隼?」
 大貴をにらむ目が穏やかになり隼を見つめた。
「隼?」
 社長は念を押すように隼を呼ぶ。
大貴はここで隼が「そうです」と言ったら自分がどうでるか考えていた。
しかしうまくまとまらない、もしかしたら頬を打ってしまうかもしれないとさえ感じた。
「隼、答えなさい」
 社長は早くも痺れを切らしたようだ。
隼は社長を見ながらも口を閉ざしたままなのだ。

「今までお世話になりました」

「えっ」

 なんと大貴の隣で隼が頭を下げている。
大貴はこの展開は予想をしていなかったので、驚くばかりだ。
「今回の件で僕は責任を取って辞職します」
「な、なにを言い出すんだ!私がせっかく上手くまとめてやったのに!」
 さすがに社長が慌てて立ち上がった。
「債権は回収できる。だから隼が辞める必要はない!」
「それは感謝しています…ですが、ここにいても僕は人間としての成長は見込めないと思いました」
 隼は自分でもわかっていたのだ。
社長の愛人扱いを受ければ確かに順風満帆な生活を送れるだろう、だがしかし、それは長くは続かないものなのだ。
 もしも社長になにかあれば、自分が築いてもらった地位から滑り落ちることも予想したのだ。
人一倍社会的地位にこだわる隼だからこそ、架空の地位は認めたくなかったのだ。

「退職願は部長にだします。それでは失礼します」
 隼が出て行こうとしたその背中に社長が抱きついた。
「行かないでくれ。欲しいものはなんでも与えたじゃないか」
 骨ばった指が愛しそうに隼の腰を撫でている。
「隼が欲しいんだ、わかるだろう?」
 その指を隼が払い除けた。
「どこかの会社で1から出直します。僕だってプライドがあるんですから」
 隼は床に伏せた社長を見向きもせずに社長室を出た。
残された大貴は社長を持上げてソファーに座らせると「上司に反抗した自分も罰を受けます」とだけ言い残して社長室を出ようとした。
「南くん、待ちなさい」
「はい?」
「きみは…隼が好きなのか」
「違います。愛しています、自分は隼を守りたい気持ちでいます」
 すると社長が鼻で笑う。
「きみよりも気が強い隼を守るだと?笑わせてくれる」
 確かに土壇場での隼はたくましかった。
大貴よりも肝が据わっていた。

「2人とも出て行くがいい」
 社長はそう言うと手を払った。

10話に続きます







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