FC2ブログ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2009.05.22 RUSH・8
「まったく盛りのついた子供は手に負えない。エロ動画をみたことを反省しないんだからな」
 部長が呆れ顔で商品部に戻ってきた。
「営業部の三郷(みさと)ですか」
 蓮音が聞くと「ああ」と部長がうなづく。
三郷とは後輩の苗字だ。
「懇々と説教をして、会社のパソコンで動画を見ていたことを確認し『2度としません』と約束させたよ」
「それだけですか?」
「生ぬるいかな?罰則をかける前に注意をしておかないとな」
 部長はそう言うとお茶を一気に飲み干した。
「うちの社員は大貫くんと植田くんをはじめ、優秀で助かるよ。手がかからない子が1番だ」
 蓮音は誉められても三郷に罰がくだらなかったことに意外な気がしたし、櫂は納得しかねる表情だ。
「それからメーカーからの引き取りはしばらく商品部で対応してほしいと言われたよ」
 部長の力のなさに櫂がため息をついた。
これではなんのために営業部に行かせたかわからない・元の木阿弥だ。
「また時期をみて相談するよ」
「はあ…」
 気の抜けた声を出す櫂を見て、これは期待できないなと蓮音も感じた。
部長は楽観しすぎなのだ。
2人の思惑に気付かずに部長は時計を見て「そろそろあがりだぞ」と声をかけて、湯飲みを洗いに給湯室へ行った。
 

「俺たちの上に立つ人間がこんな甘さでどうするんだ」
 櫂は明らかに不服だった。
「三郷はヤバイものばかり見ていたんだろう?会社の風紀を乱しているんだぜ?」
「…それはあまり僕たちは言えないんじゃないの」
 蓮音が椅子にもたれながらつぶやいた。
「セックスのことなら就業後と休憩中だ。会社に迷惑はかけていない」
 胸を張ってそう言い切る櫂に、蓮音は「まあ、そうだけど」と続けた。
「定時までに片付けなくちゃ」
 蓮音は書類をまとめてファイルをし、机上を片付けた。
櫂も時計を見ながら少々焦り気味に片付けている。

「そんなに慌てなくても」
「1分1秒が惜しいんだ、時間がないから」
 櫂が書類をまとめてクリアケースにしまいこみ、カバンを持つと階段を駆け下りる足音が聞こえてくる。
「あいつか?」
 櫂が階段のほうを見ると、予想とおりに後輩の三郷がやってきた。
そしてまっすぐに蓮音の元に来ると「お願いします」と注文書を差し出す。
「もう定時だぞ?そんなに急ぎの注文なのか?」
 蓮音が注文書を見ると納期が1週間しかない。
「こら、何度言えばわかるんだ。納期1週間なんて無理だ、工場に頼めないよ」
「そこをなんとか!お願いします、大貫さん」
 蓮音が渋っていると櫂が苛立ったのか「早く帰るぞ」と大きな声を出した。
「なにをしているんだ?見せろよ」
 櫂が注文書を取り上げて納期を見ると益々苛立ちを隠せない状況になった。
「こんなものが受けられるか!納期を修正しろ」
「でも急ぎなんです」
「いつも急ぎなんておかしくないか?工場はフル稼働しているんだ。おまえたち営業部のおかげでな。これ以上は会社の人間として無理はとおせない!」
 櫂は三郷に注文書を突き返すと蓮音に「帰るぞ」と声をかける。
蓮音はカバンを持ち「明日の朝、修正してもう1度持っておいで」と三郷に指示すると会社を後にしようとした。

「大貫さん!」
「は、まだ用事?」
 蓮音が見返ると「植田さんと仲がいいんですね」と、妙なことを言い出した。
「まさか、植田さんを好きじゃないですよね?」
「おまえに言うことじゃないよ」
「教えてくださいよ!自分も大貫さんが好きなんですから!」
「またその話かー」
 蓮音は「聞かなかったことにしただろう」と三郷をにらんだ。
普段は怒りの感情を面に出さない蓮音だけあって、三郷は怯んだ。
「おまえとは会社だけのつきあいにしたいんだ。もうこれ以上言わせるなよ」
 蓮音はため息をつきながらドアを開けると、側に櫂が立っていた。

「後輩に好かれているの?」
 櫂には丸聞こえだったらしい。
「蓮音はもてるなあ」
「止めろよ。嬉しくない」
 蓮音は櫂の手首をつかんで「どこに行く?」と聞いた。
「また車じゃ嫌だろう?」
「あんな狭い場所は動けないから辛い」
「じゃあ、歓楽街まで足を伸ばして休憩するか」
 櫂が歩き出したので蓮音もつられた。
しかし人通りの多い道だ。
人目を気にして手首を離すと「なんで?」と櫂が蓮音の顔を覗き込む。
「別にいいじゃん。見る人なんていないよ」
 蓮音は櫂こそ楽観しすぎだと思った。

「そういえば俺は蓮音から『好きだ』って言われたことがない」
 櫂がいきなり話を振るので蓮音は驚いた。
「俺のこと、好き?」
「そんなことをこの往来で聞くなよ」
「じゃあ、後で聞かせろよ」
 櫂は命令調子だが、笑顔を見せている。
嫌われていないと確信があるのだろう。

「後で何度でも言うよ」
 蓮音がつぶやくと櫂が「1回でいいよ」と笑った。

9話に続きます
スポンサーサイト
[PR]

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。