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2009.05.25 mellow・1
 わざとサイズが小さいブラをつけているのか、寄せられた胸は今にもはみ出しそうだ。
細身の体にはアンバランスな巨乳に続き、彼女がチェックのミニスカートを脱ぐと形の良いお尻が映し出され『待っていました』とばかりに「おおー」と低い声で皆がうなる。

「しーっ!ばれたら殺されるぞ」
 小型のビデオカメラを持つクラスメートが口元に指を当てたので、皆が無言でうなづく。
「女子に1万円も払って隠し撮りさせたんだからな。貴重な画像だぜ」
 その貴重な画像を見るために集まったクラスメートは5人もいた。
同じクラスの女子の着替えを隠し撮りさせて喜んでいる図を、直江健(なおえ たける)は窓辺で遠目に見ていた。
 うらやましいのではなく、そんなことに1万円を使ったクラスメートの心境が理解できないのだ。
 じきに女子が体育の授業を終えて、制服に着替えてこの教室に戻ってくる。
そのとき、彼らはどんな目で女子を見るのか・見られるのかと、健は腕組をしながら眺めていた。
クラスメートとはいえ、まるで他人事だ。

 高校3年生ともなれば性欲に多少の落ち着きもでてくるはずだが、クラスメートは今が盛りらしい。
梅雨の前に真夏日が続く中で、健は閑そうにあくびをした。
 昼間の日差しは厳しく、健の黒髪は熱を浴びている。
それでも眠気がするのは最近寝付きが悪いせいだろうと、健は思った。
特別悩んでいるわけではないのだが気になることがあり、それを思い出すとなかなか眠れないのだ。

「こんな暑い場所によく立っていられるなあ」
 健に声をかけてきたのは真田光(さなだ こう)、このクラスの委員長で健の幼なじみでもある。
光は健よりも背が15センチも高く、成績も学年で5本の指に入る秀才だが、見た目で損をしている。
 後ろ髪が肩にかかるほどの茶色い髪、しかもホストのように盛っている。
それに体を鍛える気がないのか筋肉のなさそうな細身で、どうも頼りない雰囲気を醸し出していた。
鼻筋のとおった男前なのにもったいないことだ。

「健はときどきおかしなことをするなあ。この窓辺は日差しが眩しいのに?」
「違うよ」
 健はあくびをしながら面倒くさそうにカーテンを引いた。
これで日差しは届かなくなったが、風も入ってこなくなる。
「あれ?なんか暑くね?」
「あー!直江!暑いからカーテンを開けろよ」
 ビデオカメラを持ったクラスメートが騒ぐが、健は一向に相手をしない。
「直江ー」
 うらめしそうな声にも健は動じない。
「そろそろ女子が戻るよ?」
 健のその一言でクラスメートは慌てだした。
「早く隠せ!」
 集団はすぐに解散して、それぞれの席に戻っていく。
しかもかなり焦ったようで、ノートを団扇代わりに振っては「ふーふー」と息を吐くものもいる。

「なんだ、あいつら?」
「さあねー。なんでしょうか?」
 光の問いかけにも健ははぐらかすような言い方をした。
委員長である光に言っても無駄だと思っているからだ。
たとえ光がそれを知っても先生に言えないだろうと健は踏んでいる。
 お互い高校3年生だ。
ほんのわずかな罪でも進路に関わることくらい、健は知っていた。
ましてや盗撮だ。
金をもらった女子も先程の集団もいもづる式につるし上げられるだろう。
 
 健は正義の味方ではない。
見てみぬふりをするのもありだと、この年で悟っていた。
健にとっては所詮、他人事なのだ。

「委員長。そんなことよりエアコンの修理を早く先生にお願いしてくださいよ」
 健が光に話を振った。
「お願いしているよ。でもなかなか業者がつかまらないんだって」
「もう1週間になるのに。委員長でも解決できないんじゃ困りますねー」
「あのさ、健。『委員長』呼びと距離を感じる言い方を止めてくれよ」
 光がため息をついた。
「なんか最近、おまえとは距離を感じるんだ」
「へえ?」
 健ははぐらかそうとしたが光が「ふざけるなよ」と続ける。
「なにかあったなら俺に相談して。これでもクラスをまとめなくちゃいけない立場なんだから」
 委員長である光の真剣なまなざしに、健は見ていられなくて視線を外した。
「光はそんなに気負わなくていいんじゃない?なるようになるって」
「楽観しすぎじゃ?」
「幼なじみだから言えるんだよ。信じていいよ」
 健は光に手を振って自分の席についた。

 やがて賑やかな声を上げながら女子が教室に戻ってきた。
体育の授業のあとだから汗をかいていると思ったが、彼女たちはそつがなかった。
制汗剤の爽やかな匂いが漂う中、健は何気なく後ろを振り返った。
 盗撮を頼んだ男子たちが目配せしながら健の隣の女子の後ろ姿を食い入るように見ている。
女子なら他にもいるのに彼らは特定している。
性欲にとりつかれた情けない姿に、健は呆れていた。

 そして授業が始まって10分後には健は眠りについていた。
睡眠不足が続いている、その結果が昼間の居眠りだ。
 健自身もよくない傾向だとわかっているのだが、1つのことに心がとらわれて以来眠れないのだ。
それは光と同じクラスになってから、とある感情に気付いてしまったのだ。
自分の手が届かない『委員長』という場に立つ光に、寂しさが募っているのだ。
 距離を感じるのは自分のほうだと、健は思っていた。


2話に続きます


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