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2009.05.27 mellow・8
 目を閉じて唇を突き出した健に、加賀はこの上ない喜びを感じた。
そして健の顎を指でくいと上げ、唇を重ねようとしたそのときに、健が加賀のみぞおちを殴った。
「うっ!」
 体を折り曲げる加賀を見て健は立ち上がり、ドアを開けて駆け出した。
精液のついたボトムを隠すべく、上着を脱いで胸に抱えると歓楽街を駆け抜けていく。
 この夜の街を支配しているキャバ嬢やホストたちはこんな光景を見慣れているのか、
もしくは校則違反で捕まった生徒と思ったのか「早く逃げろよー」と笑顔で手を振っていた。
 健はこの街に来たことがないが、車の中から外の景色を見ていたので、記憶を頼りにして無事に歓楽街を抜けた。


「はあ、はあ、は…」
 横断歩道の前で体を折り、膝に手を当てて荒い息を吐く健を、サラリーマンたちが珍しそうに見ている。
「こんなところに子供が来るもんじゃないよ」
 誰かの声がして、健は『好きで来たんじゃない』と心の中で反論する。
濡れたボトムが気色悪いが、しかし相手を甘く見ていた罰だと健は項垂れた。
 やがて信号が青に変わったので健は身を起こして虚勢を張り、姿勢を正して歩き始めた。
しばらく歩くと駅が見えてきた。
ようやく逃れられたと健は安堵して、ホームに入ってきた電車に乗った。


 健は家に着くと妙に寂しさが募り、1人では辛いと感じた。
こんなときに親がいれば虚勢を張るのだが、まだ親は帰宅していなかった。
時計を見るとまだ19時だ。
 耐え難い寂しさに任せて、健は携帯をつかんだ。
そして携帯を開くと着信が3件もあった。
見れば全部光からだった。
 健は今すぐ光に頼りたくなった。
だがしかし、担任の加賀と性行為をしたことなんて口が裂けても言えやしない。
よりどころのない寂しさと虚しさを感じて、汚されたボトムを洗濯機に入れると部屋着に着替えてベッドに横たわった。
 まったく、自分は何をしているんだろうと自分自身に毒づく。
セックスは愛情あっての行為であり、愛情がなければそれは性欲処理の虚しい行為だ。
「愛している」と加賀は言った、しかし強引にセックスに持ち込んだあたり、愛情はないだろう。
 健はふと加賀が自分の姿を隠し撮りしていたことを思い出した。
あれは単なる変態ではないか。
これ以上関わりたくないと健は背筋に寒気を感じながら思った。



 翌朝も快晴で日差しが一段と厳しかった。
健が家を出ると、なんと光が門の前で待っていた。
「おはよう、健」
「お、おはよう…どうしたんだ、光?」
「たまには一緒に登校したくてさ」
 今の健には光の笑顔が最大の癒しだ。
「子供の頃みたいだな、いいよ、一緒に行こう」
 建もつられたように笑顔になり、2人並んで歩き始めた。

「昨日、電話したけど」
「あ、ごめん。ちょっと折り返せなくて」
「なにかあった?そういえば今日の健はやつれて見える」
「えっ?」
 光に洞察力があったとは驚きで、健は目を見張った。
健は光を空気も読めない・とんでもない子だと思っていたのだが、どうやら違うらしい。
「鏡を見てみなよ、目が充血しているし頬がこけてる」
「それは言いすぎ」
 健は朝起きたときに自分の顔は確認している。
目が充血しているのは事実だが、頬はこけていないはずだと健は思う。
「僕の心配なんかしないでいい。委員長はクラス全体のことを見ていればいいんだ」
「それがなかなかできないんだよなー」
 光がため息をついた。
「俺、やっぱり委員長に向いていないよ」
「情けないことを言うなよ。頭のいい光が選任されたのは当然だ」
 選んだのはクラスの全員ではなく担任なのだが、健はそこまでは言わない。
「俺、知っているんだよ」
「は。なにが?」
 すると光は前屈みになり真剣な眼差しで健を見た。

「健がフォローしてくれているってこと」
「…は」
 
 知られたくないことだった。
健は光のフォローをすることが光のためだと思い、黙っていたのだ。
それなのに本人が知ったとは、誰かが話したのだろうか。
「僕はなにも…」
「担任から聞いたんだよ、健が気配りしているからこのクラスはまとまるんだって」
「加賀?」
 建は昨日の恐怖を思い出して身震いをしてしまう。
「え、どうした?健?」
「なんでもないよ、平気。で、担任が言ったことなんてあてにならないよ。現に僕は思ったことを口に出すから、そんな奴がクラスをまとめるなんて出来ないだろう?」
「…そうかな」
 光はまんまと健に言いくるめられた。
しかし担任には2度とそんなことを言わないように口止めしなければならない。
 顔を見るのも嫌なのだが、光がらみなので健は担任に直接会うことにした。


「ホームルーム前になんの用事?」
 加賀は不機嫌そうに健を見た。
「謝りに来たのか?」
「そうではありません。光に色々吹き込まないでください」
「光?委員長のことか」
 加賀は興味が湧いたのか、健の目を見た。
「僕がフォローしているとか、2度といわないでくださいよ」
「事実じゃないか。どうしていけない?」
 健が言葉につまると、加賀は健の手首をつかんで手を撫でた。
「えっ?」
「滑らかな肌だなー」
「触らないでください!」
 健は加賀の手を振り切った。
「変態ですか、先生は」
「失礼だな、まっとうな人生を歩んでいるよ」
 健は「わき道にそれています」と断言した。
すると加賀は健をあざけるように鼻で笑う。
自分を見て顔を赤くした担任はもはやただの変態に成り下がっていた。
 こんな態度を取るのは、昨日逃げたせいかと健は不愉快になる。
一瞬でも光と似ていると思ったことが自分でも許せない。
光の代わりなんて存在しないのだ。

「付き合うって言ったくせに。直江はあいつが好きなのか」
 加賀は急に勢いをなくし、顔を曇らせて寂しそうな表情になった。
「はい」
 健は正直に答えた。
「光は大事な幼なじみです。あいつを馬鹿にする奴は、たとえ先生でも許さない」
「私が・いつ馬鹿にした」
 のらりくらり話す加賀に健の怒りは沸点に達した。
加賀のデスクを拳でガツンと叩き、加賀をにらみつけた。
「僕がフォローしていると本人に言ったじゃないですか!失礼ですよ!」
「しかし真実だ」
「知らなくていい真実はあります」
 そして加賀の頬を打つと「昨日の分です」と言い放つ。
何も言わない加賀の前で「失礼しました」と頭を下げて健は職員室を後にした。
教師を殴るのは許されない。
恐らく自宅謹慎を言いつけられるだろう、それを覚悟の上で健は行動をしたのだ。

 何があろうと自分がいる間は光をフォローする。
それが健の決めたことだ。
 恋人になれなくてもいい、今のこの状態でいい、健はそう思いながら教室を目指して歩いたが、
頬に何かが流れていく。
「直江ちゃん!」
 廊下にいた女子たちが健の異常に気付いて駆け寄ってくる。
「どうしたの、直江ちゃん」
 その騒ぎに光が気付いて廊下に出てきた。
「健!」
 光がハンカチを取り出して頬を拭った。
「女子は教室に入ってくれ、こんな姿を見せたくないんだ」
 珍しく指示をだした光に圧倒されて、女子はわらわらと教室に入っていく。

「どうした、何があった?」
 聞かれても健は首を振るばかりだ。
とても言えやしない、それでも光は健の気持ちを読めずに「なんでも話してくれ」と言う。
「手が赤いじゃないか!どうしたんだよ、健!」
 親身になって聞く光に、健は「いろんなことがありすぎて疲れた」と答えると、そのまま光に体を預けるように倒れてしまった。


9話に続きます
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