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2009.06.04 室内の湿度・4
 杏樹は麻人とのセックスの記憶を振り払うように地面を蹴り、走っていた。
『具合がいい』と麻人はいつも言うのだが、杏樹も挿入された後の強引に奪われる感覚に酔ってしまう。
高まる性欲で抵抗できなかった自分が情けなくもあり、麻人と凱の間で心が揺れていた。
 我慢ができないのは男の性だ。
しかしセックスは愛がなければしたくないという気持ちは失っていなかった。

 荒い呼吸をしながらコンビニの前まで来ると、駐車場は車で一杯で盛況振りがうかがえる。
 外から店内の様子を見るとレジ2台ともお客さんが並んでおり、そのうちの1台に凱がいた。
凱は昨日と同じくコンビニの制服を着て、笑顔でレジを打っている。
仕事を楽しくこなすタイプなのだろう。
 それに昨日は気付かなかったが、なかなか爽やかな笑顔の子なんだなと杏樹は思う。
しかしいつまでも店内をのぞいているわけにもいかない、杏樹は店内に入るとドリンクコーナーに行った。
 今日は凱と話ができなさそうだが、仕方がないと自分に言い聞かせてレジに並ぼうとしたら、
なんと警察につかまったはずの店長が事務所から出てきた。
そしてレジの補佐をやり始めたので、杏樹は気分が悪くなり、何も買わずに外に出た。

「なんで、いるんだよ」
 昨日、自分を襲った相手である。
そんな人間の顔なんて見たくもない。
 まさか釈放されるとは思ってもいなかったので、杏樹は凱に会わずに帰宅した。


 杏樹は自分の部屋に入るとカバンを投げ出してベッドに体を沈めた。
「はあ…どうしたものかな」
 凱に会いたい気持ちが高ぶって体を持て余してしまう。
 しかし天井を見上げてもいい考えなんて思いつかない。
杏樹は前髪をかきあげながら起き上がると「あ、そうか。メールだ」と閃いた。
 急いでカバンから携帯を取り出してメールを打つ。
『電話に出られなくてごめん。でも、かけてくれたことが嬉しい』
 そこまで打ち込むと杏樹は顔が熱くなった。
凱への好意を打ち明け、まさに返事を期待しているとしか思えない内容で、
これでは付き合い始めたカップルみたいではないかと自分を恥じたのだ。

「メールも無理」
 
 杏樹はため息をついて携帯を閉じるとベッドの上に置き、夕食を取ろうと冷蔵庫を開けた。
しかしビールとエビアンしか入っておらず、仕方なく杏樹は再度凱のいるコンビニに向かった。
 時刻は20時前だ、さぞかし混んでいるだろうと思ったが、丁度お客の波が引いていた。
店内に入ろうとしたら、偶然にも凱がゴミ袋を両手にさげて店から出てきた。
「あ」
「杏樹さんじゃないですか!こんばんはー」
 なんとも親しみのわく明るい笑顔を見せてくれる。
「会社帰りですか?今日もお疲れ様です」
 ぺこりと頭を下げる凱が、杏樹には可愛らしく映り好感度が上がる。
そして凱は「これ、捨ててきますので」とゴミ袋を杏樹に見せて店の裏側に入って行った。
 根が真面目な子なのだろうと杏樹は思い、店内に入るとサンドイッチを選びレジに向かう。
するとレジに凱が立っていて「いらっしゃいませ」と言いながらサンドイッチを受け取った。
「もしかして、夕食はこれだけですか?」
「そうだけど」
「まるでOLさんみたい。杏樹さんはもっと食べないと。痩せすぎですよー」
 軽快に笑いながらレジを打ち、袋に入れると「あ、杏樹さん、杏樹さん」と言いながら杏樹の手を取って店の外に出た。

「なに?」
 杏樹は凱を見上げながら、なぜか期待に胸を膨らませていた。
やっと凱と話ができると思うと鼓動が高鳴る。
「電話、ありがとうございました。まさかかけてくれるとは思いませんでしたよー」
 杏樹は『あれ?』と肩すかしをくらった気分だ。
絶対にかけなければと思ったのに、これでは独り相撲だ。
「俺、あまり好かれていない気がしていたので、正直諦めようかと思っていましたから」
「えっ。諦めるなんて、そんな」
 思わず声に出してしまい、杏樹は手で口を押さえた。
しかし顔はどんどん熱くなっている。

「あ、あれ?杏樹さーん?」
 凱が目を丸くして杏樹を見た。
「もしかして、俺、マジで頑張っていいんですか?」
「あ、あのさ。僕は今は誰とも付き合っていないから…それを言わなきゃと思って」
 杏樹はそれだけ言うと「じゃあ」と凱に背を向けた。
すると背中から凱が抱きついてくる。
「杏樹さん、杏樹さん!」
「こら、仕事中なんだろう?」
 言いながらも抱きついてきてくれたのが杏樹は嬉しい。
その腕に触れると胸の鼓動が高鳴り、体が熱くなる。
「俺を1番にしてください」
 杏樹はこの言葉を待っていた。
素直にうなづくと「俺、凄く好きなんです」と凱が続け、なかなか離れない。
「仕事中だろう」
「はい、でも休憩を取りますから」
「そんなことをしなくていいよ。仕事は何時まで?」
「6時に終るんですけど…杏樹さんは仕事に行くんですよね。はあ、すれ違いだなー」
「うん…」
 凱の言い方に含みを感じた杏樹は「1時間なら空けるよ」と返事をした。
8時までに出社すればいいので、時間は作ろうと思えば作れる。
「6時にここに来るよ。話でもしようか」
「マジですか!ありがとうございます!」
 ようやく凱が離れたが、今度は手を握られた。
「離れたくないなー」
 これでは杏樹も困ってしまう。
「ほら、離して」と手をふり払うと凱が「あ、すみません」と謝った。

「杏樹さんの体、さっき俺が包んじゃいましたよ」
 凱が照れくさそうに頭をかいている。
「俺も細身だってよく言われるんですけど、杏樹さんは華奢すぎます。放っておけない感じ」
「…年下に言われたくないな」
 杏樹が吹き出したので凱も笑った。
「その笑顔も好きなんです。あー、俺、好きって言ってばかり」
 凱は恥かしいのか顔を赤く染めて杏樹に手を振った。
杏樹も指先が震えそうになりながら手を振り返した。
これが「恋」なんだと、杏樹は自覚した。


5話に続きます
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