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2009.06.08 室内の湿度・9
 杏樹は凱の指が触れた茎が熱を持っているせいか、なかなか寝付けなかった。
思い出すのはバスルームにいた凱の姿ばかりで悶々としていたのだ。
あのシャツに隠れた素肌が見たかったし、細身なのに筋肉のついた腕が目に焼きついている。
「は…」
 自慰をすれば楽になるのはわかっているが、凱を汚すような気がして自慰に踏み切れなかった。
体が火照るとはこのことかと杏樹は思う。
どうにも体が疼いて仕方が無いのだ。
 
 眠れない夜の布団は妙に熱い。
吐く息も熱を帯びている気がした。
 しかしようやくうとうとしてきたと思ったら、窓の向こうは白い空が広がっていた。
 ベッドから降りて裸足で洗面所まで歩き、鏡に映る自分の顔は明らかに寝不足で、しかも瞼が腫れている。
慌てて水に濡らしたタオルを瞼に乗せてしばらくソファーにもたれると、気分がいい。
「はあ…」
 ため息をつきながら、自分はどうしたいのかを考えようとした。
だが何かをしたいわけではなくて、まるで初恋のように凱に焦がれている自分に気付く。
「思春期じゃあるまいし。何をしているんだろう、僕は」
 自分を卑下していると小鳥の鳴き声で「いけない」と正気づき、杏樹はタオルを外して時計を見ると午前5時だった。
まだ凱は仕事中だろう。
 会いたい・そう強く感じた杏樹はスーツに着替えてカバンを持つと部屋を出た。



 早朝だから人はいないかなと思ったが、ジョギングをする人とすれ違ってふと見返った。
よくよく見渡せば朝帰りなのかジャージ姿の女の子やお年寄りが歩道を歩いている。
 コンビニもお客さんが入っていることだろう、杏樹は凱に挨拶だけして会社に行こうと決めた。

 ドアを開けると「いらっしゃいませ」と野太い声がする。
レジにはその男子しかおらず、凱の姿はなかった。
 杏樹は寝不足のせいかためらいもせずにその男子に「杉本くんは?」と聞いた。
「ああ、杉本ならあそこにいます」
 指されたのはお菓子の棚の辺りだ。
言われるままに杏樹が行くと、凱は入荷したお菓子を検品していた。
5.6個のポテトチップスの箱に背を向けてしゃがみこみ、1人で黙々と作業に没頭しているようだ。
「おはよう」
 声をかけると凱が顔を上げた。
「杏樹さん!おはようございます」
 なんとも嬉しそうな笑顔を見せられて、杏樹は胸の高鳴りをおさえつつも来てよかったと思う。
「早いですね。もう会社に行くんですか?」
「いや、その…昨日は迷惑をかけたから挨拶だけでもしたくて」
「迷惑じゃないですよ。それに俺は楽しかったから堅苦しい言い方は止めてくださいよー」
 
 凱はゆっくりと立ち上がり、ポテトチップスの箱に印字されたバーコードを手のひら大の機械で読み取ると箱を開け始めた。
 仕事をこなす姿勢に見蕩れながら、杏樹は自分は邪魔だなと思う。

「忙しそうだから、また来るよ」
「え、杏樹さん。ここにいてくださいよ、俺は話ながらでも仕事をしますから」
 凱が焦って身を乗り出したが、杏樹も社会人だ。
邪魔をするわけにはいかない。
「それこそ迷惑をかけちゃうよ。電話かメールをするね」
「杏樹さん、わざわざ来てくれたのに…なんか、すみません」
 凱が頭を下げるので杏樹は「僕が勝手に来ただけだから」と制して、手を振った。
「またね」
「そんな、杏樹さん」
 杏樹がコンビニを出ようとしたら「仕事は何時に終りますか?」と言いながら凱が追いかけてきた。
「17時だけど」
「じゃあ、少しだけ会えますか?俺は20時からここで働くので」
 凱は人目を気にせず堂々と誘うので、杏樹は迫力に負けた。
「あ、うん。い・いいよ?」
 強引な誘い方だが、悪くない。
杏樹はそう思うと急に顔が熱くなってきた。
「じ、じゃあね」
 今度こそ杏樹はコンビニを出て、出社時刻には随分と早いが会社に向かって歩き始めた。



「福永くん、やけに早いね」
 すでに出勤していた部長が目を丸くした。
「起きる時間を間違えたか?まあ、そんな凡ミスをする子じゃないか」
 部長は美味しそうに煙草を吸い「今日も忙しくなりそうだね」とつぶやいた。
「聞いたか?大島くんの件」
「え、なんでしょうか」
「例の父の日の包装資材、見つからなくて四方八方に出向いているらしいよ」
「ああ…そうですか」
 
 包装紙を扱う業者はこの辺りでは一社のみだ。
県外を当たれば何か出てくるかもしれないが、麻人はそこまでするだろうか。

 杏樹がぼんやりとしていると、部長がコーヒーを渡してくれた。
「あ、すみません!」
「たまにはいいじゃないか。私の入れたコーヒーが口に合えばいいのだが」
「いただきます」
 杏樹が1口飲もうとすると「そろそろ相手が見つかったか?」と唐突に聞かれた。
「福永くんの容姿で彼女がいないなんて、おかしいと思っているんだよ。理想が高いのかい」
「そ、そんなことはありません」
 入社して以来、麻人に振り回されて相手どころではなかった。
しかもそんな麻人に惹かれていた時期があったなんて、今では考えられないあやまちだ。

「彼女ができたら写真くらい見せてくれ。大事な部下がどんな女性を選ぶか楽しみなんだ」
「はあ」
 人のことだから構わないでほしいのだが、部長はそれくらいしか楽しみがないのだろう。
「きみに似合うのはきっと今どきのお嬢さんだろうな」
「…はあ」
 今自分が焦がれているのは今どきの男子なのだが、口が裂けても言えない。
「なんでも相談に乗るよ」
「ありがとうございます」
 杏樹は自信ありげな部長に頭を下げるとコーヒーを飲んだ。
今日こそは平穏な1日を過ごしたいと杏樹は思った。
 夕方には凱に会える。
それが楽しみなので残業をせずに帰宅しようと杏樹はパソコンを立ち上げた。


「杏樹!急いでこれを登録して!」
 バタバタと大きな足音を響かせながら麻人が走ってきた。
「うるさいよ、大島くん」
「すみません、でも大急ぎなんです」
 麻人が持ってきた登録書には<父の日用包装紙・新>とある。
「新しい包装紙が見つかったんだ?」
「ああ!やっとね。て言うか、他社でキャンセルが出たんだよ、それで入手できたってわけ」
「なるほど」
 杏樹はうなづきながら登録を行い「できたよ」とすぐに麻人に伝えた。
「よーし!ありがとう。これで納品ができる!」
 麻人は駆け出そうとして一瞬足を止めた。

「目、腫れてる」
「うるさいな、構うなよ」
 杏樹がにらむと「あとで倉庫に来てよ。棚の整理をしたいんだ、手伝って」と言い始めた。
「はあ?」
 人気のない倉庫に誘うなんて、性懲りもなく、どうせセックスに持ち込む気なのだろう。
「僕は忙しいから他部署に頼め」
「えっ」
「残業になると困るんだ。せっかく朝早くから来たのに残業するなんて馬鹿らしい」
 杏樹がはっきりと断るが麻人は納得がいかないのか口をとがらせる。
「突っ立っていないで早く納品に行けばいい」
 部長も呆れたのか麻人を追い出した。
どたどたと足音を響かせながら出て行く麻人を見送りながら、部長は「どうも福永くんを構いたいようだなあ」と、ため息をついた。
「同期だからかな」
 杏樹は同期なら他部署にもいると言いかけて止めた。

10話に続きます
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