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 杏樹が目を覚ましたとき、時計は21時をまわっていた。
夜勤に行く凱を起こそうと隣を見ると、もぬけの殻だ。
寝ている自分を起こさずに夜勤に行った凱に優しさと心配りを覚えるのだが、
どうせなら見送りたかったなあと杏樹は思う。
 タオルケットを体に引き寄せて膝を抱えると寂しさが募る。
しかし明日になれば1日中一緒にいられるのだ、そう思うと杏樹は1人寝に耐えることができた。
 それにこのベッドには凱の体温が残っているようで、杏樹は凱の寝ていた跡を撫でた。
恋しさがこみ上げてきてしまい、杏樹は涙腺が弱くなる。
だが、これもぐっとこらえて明日を待つことにした。



 朝の6時に再び目が覚めた杏樹は大急ぎで洗濯やら掃除を済ませた。
いつも散らかっている部屋なので、2人で過ごせるなら少しは綺麗にしようと思い立ったのだ。
 しかし慣れないことは急いでするものではない。
杏樹はぐったりと疲れてしまい、ソファーに深く腰掛けた。
「あー。もうダメ」
 手足を伸ばしてもたれていると呼び鈴が鳴った。
凱だ、そう思った杏樹は疲労を忘れて立ち上がり、ドアを開けた。

「おはようございます。ちゃんと眠れました?」
 夜勤明けの凱が清清しい風とともに現れた。
朝日を背に受けた凱は、いつもより眩しく感じられる。
「お、おはよ」
「今日はいい天気になりそうですね。早く出かける準備をしてくださいよ?」
 疲れているだろうに笑顔を見せる凱に、杏樹は見とれて照れてしまう。
「いまさら照れることもないでしょうに。可愛いなあ」
「それ、言いすぎだよ」
「本当のことだから何回も言いますよー」
 ふざけた調子で言うが、視線は穏やかだ。
「あがって待っていて。すぐに支度をするからさ」
「はい、お邪魔します」

 凱はいつ来ても礼儀を忘れない。
その姿勢にも杏樹は惚れているのだ。
 
「あれ、珍しい。掃除をしたんですか」
「うん。いつも散らかっている部屋しか見せていないからさ…」
「俺、掃除をする気で来たんですけど」
 よく見ると凱は雑巾を手にしていた。
「そこまでさせないよ!」
 杏樹は急に恥かしくなって顔を赤らめた。
「支度をするから、リビングで待っていてよ」
「はい、わかりましたー」
 凱は「ふふ」と笑いながらリビングに入っていく。
それを見て杏樹も部屋に入り、着替えを始めた。
自分よりも年下の凱と出歩くなら、どんな服がいいのだろう。
考え始めるときりがない。
姿見の前で悩んでいると、堂々と凱が入ってきた。
「まさかスーツを着ませんよね?」
「着ないよ!あれは仕事用なんだから」
 杏樹はTシャツを脱ぐとクローゼットから別のシャツを取り出した。
そしてジーンズを履くと「ふう」と一息ついて、凱を見上げた。
「こんな感じでいい?」
「十分です」
凱はそう言いながら杏樹のシャツの襟を直した。
「俺はあなたと出歩けることが嬉しいんですよ」
 
 そんなことを間近で言われると照れるどころか顔から火が出そうだ。

「なんか、口説かれている気がする」
「それは気のせいです。俺だって空気を読みますから」
 凱は微笑みながら「時と場所を選ぶんです」と続ける。
「杏樹さんだって、会社では欲情しないでしょう?」
「当然だよ」
「ムキになっちゃって。口説いて欲しかったんですか?でも出かける約束ですからねー」
 凱は杏樹の髪を撫でると「じゃあ、行きましょうか」と手を取った。
主導権はあっさりと凱にさらわれたが、杏樹は悪い気がしない。




 日曜日の繁華街は恋人同士はもちろん、家族連れもいて賑わっている。
そんな中を男2人で歩いていても別段目立つ様子はなかった。
人々は自分達のことで頭がいっぱいなのだし、他人をじろじろ見ることはしない。
 杏樹と凱はウインドーショッピングをしながら、互いのいきつけの店に行き、物色した。

「白があったんだ!感激だなー」
 革製品の専門店で凱が手にしたのは革でできたキーケースだ。
「前から欲しかったけど、白があるなんて嬉しいな。買っちゃおう」
 あまり悩まずにキーカバーを購入している凱を見て、杏樹もこっそり同じものを別のレジで購入した。
キーカバーは入用ではないのだが、1つ思い立ったことがあるからだ。
なので買ったことは秘密にしたい。
「このまま使われますか?」と店員に聞かれ、慌てて「袋に入れてください」と頼んだ。
 これは自分用ではなくて、実は凱に使って欲しいからだ。
杏樹は凱に見つからないようにそれをカバンにしまいこんだ。
「少し休みましょうか?いいカフェがあるんです」
「でも、混んでいない?」
「大丈夫です。裏通りにあるので隠れた名店なんです」

 凱の薦めたカフェはたしかに人がまばらだった。
しかし注文したコーヒーもクロワッサンサンドも美味しくて、杏樹は喜んだ。
「ケーキとか、食べないんです?」
 凱が妙なことを聞き始めた。
「僕は甘いものはあまり食べないよ」
「甘いものが好きそうな感じなのに意外です」
「あー。よく言われる」
 杏樹は指についたパンくずを舐めながら「会社でもおやつが出るんだけど食べないし」と続けた。
「ハーゲンダッツは好きなんですよね?」
「うん、アイスは好き」
「話を聞いていると、可愛いなあーって益々思います」
 凱が微笑むので杏樹はどんな表情をしたらいいのかわからない。
「もっと杏樹さんのことを知りたい」
 杏樹はテーブルの上で手を組んでいる凱を見ながら、言うなら今だと腹を決めた。
カバンからキーカバーの入った袋を取り出してテーブルに置くと口を開いた。

「一緒に暮らさない?」
「えっ?」
 
 凱は突然の誘いに面食らっている。
しばらく何も言わずにただ杏樹だけを見て、飲みかけのコーヒーをぐいっと飲み干した。
「ど・どうかな」
「杏樹さんの部屋で・ですか?」
「うん、あ・あのさ、迷惑なら今の話はなしに…」
「迷惑じゃないですよ、凄く嬉しいです」
 そして凱はテーブルの下で足を伸ばして杏樹の靴に触れた。
「いつも一緒、なんて禍福な気がする。でも側にいたいから、俺からお願いしたいくらいです」
「あ。ありがとう…」
 杏樹は胸が一杯になってもう食べることができなかった。
そんな杏樹を見て凱はキーカバーを受け取った。
「合鍵、1度断りましたが使わせてください」
 凱はいつの間に買ったのかと聞かない。
それは杏樹が胸を抑えて、見るからに安堵しているからだ。
「可愛いことをしてくれますねー」
 杏樹のすることすべてが凱には癒しのようだ。
「俺、あなたに会えて毎日が楽しくなりました。これからもそうです」
 凱の気持ちに杏樹は顔を上げ「僕もそうなんだ」と笑顔で応えた。
 


 街から部屋に帰ると杏樹は凱のためにお茶を入れた。
「今日は楽しかったよ、ありがとう」
「そう言われると俺も嬉しいです。お茶、いただきます」
 2人は服の入った紙袋を並べて置き「結構買いましたねー」とのんびりした会話を楽しんだ。
「さっそくですけど、泊まっていいですか?」
「あ、うん。ここに住むんだからいちいち聞かなくてもいいのに」
「そうでしたね。あ、なんか嬉しさがこみ上げてくる」
 凱は珍しく頬を染めた。
「明日にでもすぐに荷物を持ってきます。と言ってもたいした量じゃないんですけど」
「早くおいでよ。僕は早く一緒に暮らしたいんだ」
 杏樹はトレーを持ちながら窓を開けて空を眺めた。
梅雨らしく曇天の空だ、明日は雨が降るかもしれない。
「荷物が濡れないようにね」
「はい、旅行用の大きなキャリーケースで来ますから大丈夫です」
 これで話は決まった。
杏樹がカーテンを閉めると凱が「お風呂を沸かしましょうね」と立ち上がる。
「ありがとう」
「一緒に入ります?」
 凱の誘いに杏樹は胸のときめきを抑えきれない。
「うん、そうしよう」
 そして靴下を脱いで裸足になると凱に続いてバスルームに向かった。


終わり

読んでくださってありがとうございました
 
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