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2009.06.23 視界良好・3
「なにこれ。俺が頼んだのは靴だけだぞ」
「…『人の家にお邪魔するときは手ぶらで行くな』と親に教わりましたから」
 涼真が唯斗に差し出したのは投げつけられた片方の靴と、小さな紙袋だ。

「なにが入ってんの」
「シュークリームです。後で食べようと思っていたんですけど」
「あ、好物。ありがとうー。いい子だなー」
「ひっ?」
 涼真は唯斗の笑顔を間近で見てしまい、激しく動揺した。
「ち・近いです!」
「そう?普通の距離じゃね?」
 確かに2人の間に人が1人入れる距離だ。
しかし唯斗を激しく意識している涼真には耐えられない近さなのだ。

「ま、入れば?」
 唯斗はドアを開けると靴を先に入れ、意外にも大事そうに紙袋を持ちながら涼真に手招きをする。
「お邪魔する気はありませんから。ここで失礼します!」
「このシュークリーム、食べたいんじゃないのー?」
「…また買い直します」
「突っ張るんじゃないよ、大谷涼真」
「はっ」
 涼真は背中をどんと押されてしまい、よろよろと玄関に入り込んだ。
「こうでもしないと入らないのか。これも親御さんの躾?」
「違います!」
「そうだろうねー。俺を意識しすぎて頭が正常に作動しないんじゃない?」
「機械じゃありません!」
「でも凄く緊張しているんだろう?手足がガタガタ震えているじゃん」
 唯斗が口角を上げて「別に取って食うわけじゃないのに・さ」と笑う。
その笑顔を見ながら、涼真は言当てられて顔が熱くなってきた。
どうして自分が唯斗を意識してしまうのかわからないまま玄関に立っていた。
 そんな涼真に構わず、唯斗は靴を脱いでさっさと部屋に上がる。
そして見返ると「動かないなー」とぼやいた。
「狭いところで萎縮していないで上がれよ」
「…お邪魔します」
 
 涼真が渋々靴を脱いで部屋に上がると「わ、広い」と思わず声を上げてしまった。
自分が住んでいるマンションとは部屋割りが異なり、広いリビングが見えたのだ。
しかも白いカーペットに赤いソファーが置かれてある。
まるで洒落たカフェのようだが、これは男の1人暮らしにしては派手だ。
恐らく彼女がいるのだろう、唯斗はなかなかの男前だからな、涼真はそう解釈をした。
 
 しかし涼真はキッチンに立つ唯斗の後ろ姿を見て、急に胸が高鳴る。
これは一体どうしたことだろう、涼真は唯斗の背中に見蕩れてしまった。
「茶でも飲むー?」
 振り返った唯斗に、涼真は大袈裟なくらいに驚いた。
「け・結構です」
「なーんだ。せっかく引越し祝いでもしてやろうと思ったのになー」
「祝い?」
「そ。もしかして遠慮しているのか?」
「遠慮じゃありません、知らない人に接待されるのは恐怖を感じます」
「恐怖だって?じゃあ、警戒していたのか!これは面白いなー」
 唯斗は流し台にもたれながら涼真をじっと見つめる。
「…俺が飲み物に何か入れやしないかと、警戒しているんだ?」
 だんまりを決め込む涼真に、唯斗は「傑作だ」と吹き出した。

「何か期待しているなら裏切っちゃうけど、俺はおまえに何かしようとは思っていないよ」

「は。僕だって、して欲しいとも思っていません!」

 涼真は顔どころか体まで熱くなるのを感じながら吼えた。
いかにも小動物が自分より大きな体を持つものに対して威嚇するような叫びだ。
しかし、唯斗を笑わせるだけでなんの効果もなかった。

「なーんだ。男が好きな奴かと思ったけど違う?」
「ご・誤解です」
「じゃあ、俺に惚れたとか?」
「違います!知らない人を急に好きになるような発情期じゃありません!」

 涼真が何を言っても唯斗のツボらしかった。
もたれていた流し台から崩れるように床に尻をつけると目に涙まで浮かべて笑っている。
「あー、こんなに笑ったの・久し振り」
 唯斗は楽しそうに涼真を見上げた。
「俺たち、付き合おうか?」
 予想もしない誘いに涼真はしびれたかのように指先が震える。
「まんざらでもないんでしょ?」
 唯斗は床に手をつくと、ひょいと立ち上がって前髪をかきあげた。
その仕草1つも、涼真の眼を惹いてしまう。
「…男が好きなんですか?」
「違うよ。見るからにノーマルだけど?」
「からかうのもいい加減にしてください!」
 涼真は玄関に走り、急いで靴を履くとドアを開けようとしたが開かない。
「ロックを外さないと出れないよ?」
「わ、わかっています」
 しかし慣れないことは急いでするものではない。
ロックの外し方さえ涼真はわからない。
もたもたしているうちに、唯斗が玄関先に座り込んだ。
そして背中越しに「逃げられると火がついちゃうんだよなー」とぼやいた。

「へっ?」
 
 涼真が振り返ると唯斗が首をかしげていた。
「興味が湧いた。やっぱ、付き合おう」
「そ、それはお断りです!有り得ないです、男同士なんて!」
 早く外に逃げたい涼真だが、焦ると非常に不器用だ。
いまだにロックが外せない。
焦るからこそ簡単なことができないのだ。

「そこ、あんまりガチャガチャされると傷がつくんだけど」
「あ、すみません」
 
 思わず手を離した涼真だが、唯斗に尻を触られて「ぎゃっ!」と声を上げた。
「いいか?よーく聞け。俺は平日休みのサラリーマンだ。だから学生のおまえと付き合える」
「僕は付き合うなんて言っていません!」
「威勢がいいなー。あんまり拒むと、さらに火がついちゃうよ?」
 唯斗は涼真のジーンズの中に手を差し込んだ。
「わ!何をするんですか!」
 涼真が騒いでも唯斗は引き下がらない。
そして直に尻を触ると「あれ。柔らかいなー。心が動くかも」
「そ。それは、体が目当てなんですか!」
「おまえも俺の裸に見蕩れたんだろう?」
 そう言われると返す言葉がない。
「…好きで見たわけじゃないのに。謝らせたいから、からかうんですか?」
「見るのはタダ。別に見られて困る体じゃないし。それにからかっていないよ?」
「え、そうなんですか」
「ふざけているだけ」
 その言葉に涼真は苛立ちを隠せない。
「帰りますから、開けてください!」
「よく吼える子だなー。俺にどう思っていて欲しかったんだ?」
「…そんなの、僕にはわかりません」
「耳まで赤くなって『わからない』はないでしょう?」
 そう言いながらも唯斗はドアを開けた。

「いつでも来ていいよー」
「2度と来ません!」
 涼真はようやく解放された安堵感と、からかわれた悔しさで胸が押し潰されそうだった。


4話に続きます
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