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2009.06.25 視界良好・5
「なんだ。女が好きなんじゃないか」
 昼休みに事務所の前を通りかかった涼真は、室内で事務員と談笑している唯斗を見かけたのだ。
「散々からかって、これか」
 男が女を好きなのは当然だ。
しかし涼真はどうしても腑に落ちない。
『付き合おう』と言ったくせにと、苛立たしくなる。
「何がしたいんだよ、あの人は」

「涼真、何をぶつぶつ言っているんだ?」
 友人の里田は独り言をつぶやく涼真を心配して室内をのぞいた。

「あ、さっきのお向かいさんじゃないか」
「声が大きいよ!里田!」
 明らかに涼真の声のほうが大きく、唯斗が気付いて顔を上げる。
そして涼真を見つけると「そんなに俺が気になるわけ?」と言いながら歩み寄ってきた。
自信に満ち溢れた笑顔がやけに眩しく、涼真は日差しをよけるように手をかざす。
「後光でも見えた?」
「そんなものは見えません!」
「じゃあ、何か用事?」
「用事もありません、失礼します!」
 涼真が頭を下げて立ち去ろうとしたが、唯斗が「いつもストレートだなー」と笑う。
「俺に対して警戒しすぎ。もう慣れただろう?拒んでばかりだと余計に気になるぞ」
「…気になりませんよ」
「おまえじゃなくて、俺が」
 
 唯斗は腰に手を当てて、やや前傾姿勢をとる。
この格好だと涼真と視線が合うし距離が縮まるようだ。
「近いです!」
「ランチでも奢りたいところだけど、あいにく多忙だから会社に戻らないといけないんだ。悪いね」
「…ランチの期待もしていませんが、何が『多忙』ですか。事務員さんと話していたくせに」
「あ、嫉妬?」
 その一言に涼真は胸がちくりと痛んだ。
「そんなわけがないでしょう!もう、いい加減な人だ!」
 涼真は体が熱くなるのを感じながら、背中を向けて駆け出した。
里田も慌てて「涼真、どうしたんだ?」と叫びながら追いかけた。


 唯斗の登場で涼真の1日は混乱した。
講義を受けていても頭に入らず、ずっと唯斗のことばかり考えてしまった。
 涼真は自分はゲイではないと思いながらも唯斗が気になるのだ。
唯斗を想うと胸が高鳴り、体が熱くなる。
しかしこれは知恵熱かもしれないと、自分の気持ちに向き合おうとしなかった。


 帰宅するといつもの調子で「ただいまー」と言ってしまうが反応は当然無い。
1人暮らしの寂しさを痛感する一瞬だ。
しかも室内は閉め切っていたので湿度の高さを感じ、ベランダの窓を開けた。
すると涼しい風が舞い込んでくる。
「あー、気持ちいい」
 手摺をつかみながら思わず唯斗の部屋を見るが、まだ帰宅していないらしく室内が暗い。
「…会社員って、いつ帰宅するんだろう」
 涼真の父は公務員なので遅くとも18時には帰宅していた。
時計を見るとまだ16時、唯斗が帰宅するとは思えない。
ふう・とため息をついて涼真は自分の愚かさに感づいた。

「なんで僕があの人の帰宅時間を気にしなくちゃいけないんだ?」
 
 1日唯斗のことを考えていた割りに、気付くのが遅い。
「嫌だ、嫌だ」
 何かをふり払うかのように頭を振ると、ガラッと窓が開く音が聞こえた。
思わず顔を上げると、スーツ姿の唯斗が煙草をくわえながらベランダに立っていた。
「お疲れさーん」
 唯斗は涼真がいたのを知っていたのだろうか。
驚くこともなく、平然と煙草に火をつけた。
「で。なんか用事?」
「な、なんでもないです」
 涼真は手摺につかまっているが指先が震え、手に汗をかいていた。
まるで緊張しているかのようだ。
「そんな素振りには見えないけどなー。俺がいないから寂しかった?」
「…何を言い出すんですか!」
「当たりでしょ?」
 唯斗は煙草を口元から離して白い煙をたなびかせる。

「俺と付き合う気になった?」
 スーツ姿で、にやりと笑う唯斗が涼真には刺激的だ。
見慣れないスリムなスーツ姿には昨日見てしまった体が隠されている、そう思うと体がじわじわと熱くなる。
涼真は年上の同性にこんなに惹かれたことはない。
「返事はー?」
「な、なりません!どうして僕が…」
「結構、好みだからさ。可愛い顔をしているし、からかうと面白いし。飽きないよねー」
 唯斗は携帯灰皿に煙草を入れた。
そんな細かい仕草まで見えてしまうこの距離にも、涼真は胸の高鳴りを覚えてしまう。

「俺が好き?」
「な!何を言い出すんですか?」
「聞いているのはこっち」
「そんなことを大声で言うものですか!」
「よし、おまえの気持ちはわかった。付き合ってやる」
「はああ?」
 涼真はまたしても唯斗のペースに巻き込まれている。
「まずは夕飯だなー。こっちに来いよ」
 手招きをされても涼真は「行きません!」と拒む。
「美味しいシュークリームを会社でもらったんだけどなー」
 唯斗は口角を上げて微笑んだ。
「それともそこにじっとして、俺の着替えを見たいわけ?」
「見たくありません…」

 涼真はシュークリームに釣られたのだと自分に言い聞かせて「行きます」と返事をした。
しかし顔が熱いし、体がだるい。
動悸も激しくてこれは何かの病気ではないだろうか。
「相変わらず赤面するなあ。人見知りするタイプ?」
「そんなことはどうでもいいでしょう」
「知りたいから聞いてるんだよ?」
 声に甘さがあって、涼真はどうも唯斗には勝てそうに無い。
涼真は熱い頬を抑えながら「人見知りはしますけど、迷惑をかけていないからいいでしょう」とぼやく。

「聞こえないぞー?」
「だから!人見知りをします!」

「じゃあ、慣らしてやるよ。俺が着替え終わるまでに来い」
 そう言うと唯斗はベランダから離れて部屋に入り、カーテンを閉めてしまった。
途端に胸が苦しく、寂しさを覚えた涼真はいたたまれなくなり、部屋を飛び出した。


6話に続きます
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