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「おまえの同居人、かわいくない?」
廊下で担任の教師に呼び止められた祥軌は微笑んで「かわいいですよ」と答えつつ、
胸のざわつきを覚えてしまう。


「無愛想な奴かと思ってたけど、黒目でかわいい顔してるよな」
自分の言葉に納得しているのか満足げに顎を触りながら頷いている教師に、
「手・出したら噛み付きますよ」
「誰が?あの子?」

「俺です」

1歩前に出た祥軌に教師はひるんだ。
「そんな笑顔で言われると、おまえに手を出したくなるぞ?」
「誰でもいいような人は、俺は相手にしません」
「立派な保護者だ」
太刀打ちできないと悟った教師は足早に立ち去ったが、祥軌は釈然としない。

不器用な生き方をしているコノエがまるで弟のようにかわいいのだ。
これが祥軌の長男気質かもしれない、
教師の指摘どおり保護者の気持ちになっているのだ。

しかし過保護はしない、
祥軌は男なので母親のように手厚くあれこれかまうことを良しとは思えない。
見守ることを選んでいる。

校内で偶然出くわしても、手は振らない。
目が合ったら笑顔を送る。
他人から見るとそっけないとさえ思うかもしれないこの距離感で、
祥軌はコノエに『干渉しないから』と安心させている。





そんな中で起きた椿事だ。
指を入れられたなんて呆れた事態であり、しかもコノエは隠したいようだが動揺している。

『人間を嫌いにならなければいいけどね』

この話題を避けたい様子のコノエの横顔を見ながら祥軌は思う。

「風呂、先に入ったら?」
「祥軌サン、先、いいですよ」
「じゃあ」

祥軌は立ち上がると部屋着のTシャツを脱いだ。
乱れた髪を撫で付けるように直しながら歩き始めると、背中に視線を感じる。

何気なく振り返るとコノエが見ている。

「なに?」
「体、鍛えているの?」
「あー、春までは夜中にジョギングしていたなあ」
「へえ。それで・かあ」
コノエは「引き締まっている」としきりに頷いている。
背中しか見えていないだろうにと思いながら、祥軌はバスタオルを手にしてバスルームのドアを開けるが、
コノエはまだ見ている。

「夜中にジョギングなんてすげー」
「そうか?男だから発散しないとさ」
冗談まじりに笑いながら「だろ?」と同意を求めると、コノエは「そっかー」と驚いた顔をする。

「祥軌サンでも発散しないとマズイときがあったの」
「ここは男しかいない学校でしょ。女子がいないのは、ねー」


「僕がここに来てからは走っていないね?」

「は」

「どうしてか、聞いていい?」


思わぬコノエの挑発に祥軌は言葉を失った。
今まで自分を誘ってくる後輩はいたし、強引な先輩もいた。
そういう輩はうまくかわしてきた自負がある。
しかし、コノエに対してはノーマークだった。

「いつも自分に自信がある態度で余裕かましてるのに、困ることがあるんだー」

「何を考えているか知らないけど、どう言ったら満足する?」

祥軌はドアに寄りかかると腕組をした。
コノエのいたずらが過ぎると判断したのだ。

するとたちまちコノエは頭を下げた。
「走っていないのは、たまたま・だよね。ごめんなさい」


「いいよ。コノエは疲れているんだ」
祥軌はそれだけ言うとバスルームに入り、ドアを閉めた。

コノエがあんな態度を取るなんて動揺している証拠だ・
しかしやさしい言葉をかけなかった自分が正しいのか・
祥軌はシャワーのコックを回すと背中にまだ温まらないぬるいお湯を浴びた。


見ていたのは常に自分のほうであり、走らないのはコノエを見ているからだと祥軌は気付いた。




4話に続きます

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