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「先輩、あ・すご…。やだァン・ふ・震えて、も、イッちゃいそ!」
セックスに慣れた腰つきだが、感極まったらしい涙声が部屋に響く。

「アッ、ぅううん、もっと擦って、先輩!」
「うるさ…」
自分の背に腕を回し、開脚してあられもない姿をさらす後輩の喘ぎ声に、
有明 晴矢(ありあけ はるや)は萎えた。

感じるのは構わないが声が大きくて嫌と感じた途端、
挿入している相手がどうでもいい存在へ変わる。
熱は冷め、求めていた力が消えていく。

「先輩、どうし…」
「早くイけば?」
「えっ…」
すがる腕を払い除けて男根を抜くと、後輩を捨てて身支度を整え、1人さっさとドアを開けた。




「有明晴矢くん。まるで男娼だね」
ドアを背にした晴矢に、実に低いトーンの声が投げかけられた。

「貴重なお昼の休憩時間に、資料室で、なにやってんの」

振り返ると黒い両目が非難していた。
顔をよく見て確かめるまでも無い、
自分と同じこの背丈はあいつしかいない・と晴矢はまたしても陰鬱な気分になる。

晴矢と同じ背丈で同級生の千里 利玖(せんり きく)だ。

この高校で2年になるまでその存在を知らなかったが、
『真面目で教師受けがいい』『キレイな顔してるけど笑った顔を見たことが無い』、
そんな噂を耳にした半年後、3年で同じクラスになった。

真面目で教師受けがいい、
まさにそのとおりでクラスでは副委員を担っている。

それに澄んだ瞳と形の良い唇、噂どおりにキレイな顔をしているが、
笑顔を見た日はまだない。
もとより会話をした経験もあまりない。


「どうもー。こんなところで会うなんて不思議だねえ。3年の教室はここから遠いのに?」
晴矢がふざけた挨拶をしてみると、利玖が「そうだね」と鋭い目つきだ。

「3年のちゃらい男が1年を資料室で性交、そんな投書が職員室にあったってさ」
「はっ?」
晴矢が聞き返すと利玖は腰に手を当て、「はー」とため息をつく。
そして2歩も歩み寄り、晴矢の髪をぐいとつかんだ。

「いた!なにすん…」

「ほんと、ちゃらいねー。どうせなら、見つからないようにやりなよ」
「はあ?俺は誘われただけだって!」

「どうだか?」
顔を寄せると同じ背丈あって、互いの鼻がコツンとぶつかる。

「近い!」
「1年とは体ぶつけてセックスしてるんでしょ?僕は近いとまずいわけ?」

利玖の息が頬にかかり、晴矢は思わず自分の息を止めた。
しかしすぐに息苦しくなり、顔を背けて息を吸おうとしたそのとき、
耳たぶに冷たくて柔らかいものが触れた。

なんだ?と手を伸ばすが何にも触れられない。

「有明晴矢、髪も校則違反だよ。もっと落ち着いた茶色に染めたほうがいい」
だが、耳元には唇が迫っていたのだ。

「はっ?」
「これ以上、教師に目をつけられると僕1人ではかばいきれない」
「はあ?おまえ何言ってるの?頼んでないって!」

元々、校則違反ばかり繰り返し、
3年になってからは悪い先輩に憧れる1年に誘われて校内でセックスまでし始めた。
そんな晴矢は、やさぐれて自分でもいつ退学になるかと指折り数える始末だった。

「素行が悪くて、2年の冬に『桜が散る頃には退学』の噂があったね」
「あ、知ってた?」
「僕が副委員をしているからには、退学者は出さないよ」

真面目すぎるが、どこか背徳な香りのする隙を晴矢は嗅ぎつけていた。

「へえ。でも、そんな噂はどこから聞いた?やっぱ、教師とできてたり…」
すると、晴矢は頬に平手打ちをくらった。
至近距離で叩かれた頬は、じんじんと痛む。

「…言うことを聞いたほうがいいよ」
利玖は、ふいに晴矢の髪から手を離した。

「むかつくことばかりだろうけどさ、仕方ないでしょ。生徒・なんだから」
「優等生が言うことかよ?」

晴矢は耳を疑った。
教室の中でもこれほどなれなれしく口を聞いたことはなかった相手だからか、
信じがたい言葉を聞いてしまった衝撃は大きかった。

それに利玖は細い指の持ち主でもあった。
晴矢が指を目で追うと、しなやかなそれは空を切り、横に揺れた。

手を振られていると気付いたのは数秒後だ。

指に見蕩れたのもある、
だが、利玖はいつのまにか親しみをこめた微笑を浮かべていたのだ。

その笑顔が自分に向けられていると知った晴矢の胸は騒いだ。
誰かに好かれる事に慣れていたこの男は、
堅物の副委員も落としたと思い込んだのだ。

「早く教室に戻りなよ、授業に遅れたら行き先を聞かれるのはいつも僕なんだから」
「…副委員は大変ってこと?」
強気を出そうとしたが、晴矢は自分の声が震えたのを知り、動揺する。
しかし背を正すとなにごともなかったかのように咳払いをして誤魔化した。

「クラスメートのお守りってのはたてまえで、実は」

「…手間かけさせるなってことだよ」

笑顔とは対照的な冷たい言葉に晴矢は目を見張る。
続く言葉を見出せない唇が半開きになり、ただ利玖の呼吸を確かめる。

晴矢は気分屋で誰かに対して冷たい態度をよく取る、
しかし冷たくあしらわれたのは初めてだった。

「ほんと、ちゃらいよ、有明晴矢」

黒い目は晴矢を射抜いたのだ。
気持ちを見透かされていないかと慌てるほど、その視線は鋭く、揺らがなかった。

胸騒ぎは自分の感情の高まりとようやく気付いた晴矢だが、
この近さにいても利玖に手を出せない。

「そして、度胸が無い」
利玖は晴矢の胸を指先で押した。
それは軽い力なのに晴矢は足元をふらつかせてしまう。

「…やば。腰にきた」
そう独り言をぼやくと、足早に利玖から遠ざかる。
「教室に戻る?」
「ああ。先、行くわ」

「意外とちょろいね」
利玖のつぶやきは晴矢には届かなかった。

渡り廊下には梅雨前の湿り気を帯びた風が入り込み、
制服の上着を重く感じさせる。
前ボタンを閉じながら、晴矢はネクタイが解けていたことに今頃気付いた。


2話へ続きます



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