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「顔はわかったけど体の線が曖昧だった。僕は有明晴矢の体を見たことが無いからさ」

利玖は小声でつぶやきながら右手で晴矢の腰をつかむ。
そして、体の線を確認するつもりか上下に撫でた。

「わ、なにす…。触るなよ」
「腰の位置が高い。やっぱり、僕よりも足が長いんだね」
「な・長くないでしょ。身長が同じなんだから変わらないよ」

晴矢は明らかに動揺していた。
体を密着させられたままで無防備な腰をつかまれているせいもある。

だが一番の原因は、自分の腰をつかむ指が爪を立て、
まるでシーツをつかむその仕草に見えてしまったからだ。

乱れた妄想を誘うのは、利玖の息遣いにも問題があった。
ただでさえ形良く、キスで濡れた唇が側にある。
そこに呼吸をこらえるような苦しげな息が漏れていれば正常な思考は止まる。

何のつもりだろうか、
妙に近づいてきたと思えば、すぐに立ち去る。
昨日は頬をひっぱたいたくせに、今日はキスをした。

もしかして誘っているのか?と晴矢は勘繰るが、
自分を追い込んでいた足がすらりと抜き取られてあっ気に取られてしまう。


「どうりで歩くのが早いわけだ。さっきも付いて歩くのがやっとだったし」
「は…」

荒い呼吸は自分のせいかと気付いた晴矢は「ごめん」と素直に謝った。
気分が高揚して隣の利玖への気配りを怠ったからだ。

「悪い子ではないんだね、有明晴矢」

明るい声に晴矢は顔を上げる。
すると、唇を利玖に指で拭われた。

「はっ?」

「いいよ、次からは僕が早歩きをする。じゃあ、行こう」
晴矢は手招きをする利玖に「え」と上ずった声で聞き返した。

誘われたのか思い胸をときめかせたのだ。

「…授業に遅れるよ?」
しかし、利玖は肩透かしをくらわせた。



自分の数歩先を歩く利玖の隣に、晴矢は行けない。
いつものペースで歩けば抜けてしまうくらいなのに、
期待を外されたせいか近寄りにくい雰囲気を感じているのだ。

同じ夢を見たと聞いてから、この距離が縮めばいいと願う。
手が届きそうでなかなかつかめない、このじれったさに耐え切れない。

しかし、どう声をかけていいものか迷う。
恋愛感情の無い相手ならすぐに誘えるし抱ける。

だが、親しくなりたい相手には奥手な自分を思い知ったのだ。


晴矢は教室の自席に座るとぼんやりと室内を見渡す。

朝から騒がしい奴もいれば今にも寝そうな奴もいる、
いつもと同じ朝に思えるが晴矢自身はエンジンがかからない状態だ。

担任教師が「来週は衣替えなので夏服着用」と淡々と連絡事項を話すが、
それすらも耳を通り抜けていく。

ふと、晴矢は思い出した。
昔飼っていた犬が死んでしまったときに初めてその犬が夢に出たことを。

親しいものが夢に出るのがお約束ではなく、
距離を感じてしまうものほど夢に出るのだと気付いたのだ。


たしかに、利玖には距離を感じる。
今まではクラスの副委員で優等生・それくらいしか認識がなかった。
これ以上は知ろうと思わなかったというのに、
いまや頭の中は利玖のイメージしかない。

自分のネクタイを結び直したあの距離、そして腰をつかむ指。


『自分だって、指が細いじゃないかよ』

小さなため息をついたとき、胸の鼓動の激しさを覚えた。
そして妙に、肌が熱かった。





晴矢の昼の休憩時間は忙しい。
後輩が事前に誘うので、
自ら1年の校舎へ出向き、その渡り廊下を渡ったすぐの資料室で慌しくセックスをするのだ。

今日も携帯に後輩からのメールが2件入っていた。

2人ともが『ランチを抜くから早く来てほしい』と送ってきている、
そんな言葉を受けて晴矢が向かおうとするのだが、どういうわけかドアから出られない。

振り向くと、誰かに上着の裾をつかまれている。

ゆっくりとその細い手首の先を見上げると「ほんとに男娼?」と呆れ顔の利玖がいた。

「…暑いから離してくれない?」
「そう。暑いから、やめておきな」

「は?」
「セックスを・だよ」

そして利玖は晴矢の上着の裾を手放した。

ずばりと言当てられた晴矢はバツが悪そうに渋々と体ごと利玖に向き合った。
「そんなにしたいわけじゃないでしょう?」
見透かした言葉に、晴矢は軽く頷く。

「通報でもあったらどうするつもり。安易に校内でしないほうがいい」

誘われるままに腰を振っていたことが罪だと理解したのだ。
項垂れた晴矢に「素直だね」と利玖がやさしい声をかける。

「ただでさえ、こんな上着を着ているんだから。汗をかく運動は避けるんだね」
「あー、たしかに」
納得する晴矢に、利玖は満足そうに微笑んだ。

「この制服は堅苦しいから嫌いだったんだ。でも有明晴矢には妙に似合う」
「そう?」
「ちゃらい男に伝統あるおかたい制服が似合うなんて面白い。1度…やっぱり、崩してみたい」

「はっ?」
「夢で見て思ったんだ、側にいないのはもどかしいって。で、今朝確信した」

「確信って、なにを…?」
かすれた声には力がこもらない。
晴矢は、利玖の黒い目にすっかり心をとらわれたと自覚した。

翻弄されたいのだ。

もう、何も問い返す気になれない。
何を言われても受け入れてしまうだろう。


「有明晴矢を知りたい」

利玖は同意を促すつもりか、晴矢の指をつかむと自分の上着の中に招きいれ、
人目のないところで指を絡ませる。
自分とは違う体温を持つ皮膚と密着するとこんなに嬉しいものかと、
互いに求め合う動きに晴矢は欲情してしまう。

首を振り、冷静さを取り戻そうと試みたが難しい。
目の前には利玖がいるからだ。

「相手を選びなよ。僕となら、もっといい思いができるから」

ダメ押しで口説かれ、足元がよろめく。

そして思わず飛び出しそうな言葉を抑えるべく口を手で覆うが、
赤みのさした頬が素直な感情を伝えてしまう。

請われるままに後輩を抱く荒々しさはすっかり消え、
まるでセックスを知らない初心さしか持ち合わせていないかのようだ。

「教室の奴らに見られるよ、顔・下に向けて」

利玖の言うがままだ、晴矢がうつむくと利玖は自分の体で晴矢を隠した。
すると晴矢は自分の近くに利玖の首筋があると気付いてしまった。

胸が激しい鼓動を刻むのは、もう少しで触れられるからだ。
汗のにおいのしないこの体に近づきたい、
衝動的に鼻先を持っていくと利玖が「あ」と上体をわずかに反らした。

「…息が熱い、噛んじゃダメだよ」
喘ぐようなその小声を聞いて、晴矢は膝を曲げてしまう。

バランスを崩した晴矢の体を利玖は受け止め、
しっかりと腰に手をまわした。

制服越しに伝わる体温がもどかしい。

「暑いね。有明晴矢…」

晴矢は利玖に対する興味はある、
しかしそれ以上に期待させる誘いをかけられ続け、そして肩すかしを食らい、
ようやくもらえた甘い言葉に晴矢は身も心もほだされそうだ。


4話へ続きます

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