FC2ブログ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
「何が好きなのか、どんな癖があるのかも知りたいんだ」

利玖にそう切り出され、晴矢はどんな顔をしていいのかわからなかった。
つかまえようとすれば拒絶してしまう相手が自分に目を向けてくれたことに喜び、
まだ足元がおぼつかないような状態だからだ。

自分の予想以上に収穫があると、人は戸惑うものだろうか。

感激しているのだが、子供のように両手を挙げるわけにもいかず、
晴矢はただ背筋を伸ばすだけだった。
利玖の発する言葉を1つとして聞き逃すまいと、懸命だった。

「好きなものを言えばいい?」

「いや、一緒にいるときに晴矢がどんな仕草をするのか見て覚えるから」

「覚えるって?」

「頭で記憶する。僕は忘れないようにするよ、常に一緒にいられるわけじゃないからさ」

晴矢は急に寂しさを覚えた。
たしかに四六時中は一緒にいられないだろう、
しかしそれを当たり前のように話す利玖が遠い存在にも思えてしまう。

今までは自分が呼ばなくても、相手は来た。
しかも同じ場所・指定した時間に待っていた。

だが利玖が相手では勝手が違うのだ、
自分から行かなければ会えないだろうし、
しかも拒絶される恐れもある。

晴矢はセックスが目的ではない・ただ会って話をするだけの時間が欲しいと感じた。
まさに、恋焦がれていた。
セックスで肌を重ねたが、利玖がどんな性格なのかつかみきれていない。
だが惚れてしまったのだから始末が悪い。

晴矢は自分のことを知ってほしい欲望もあるのだが、
利玖を知りたいのだ。
何を考えているのか・そして自分のことを本当に好きなのかさえわからず、
ただ不安を抱えてしまっていた。

「晴矢。なに考えてる?」

押し黙った晴矢に利玖が気付き、顔を覗き込んだ。

「黙っていても、なにか興味をそそられるなあ。そんな男がいたんだね」

その表情からは晴矢に気を配るやさしさを感じ取れない。
新しい玩具を与えられた子供のような、眩しい笑顔だ。

「ちゃらい外見だけど、恋には臆病なのかな」

利玖はずばりと晴矢の心中を言当ててしまった。

軽そうな素行で本心を隠してきた晴矢の武装は1度のセックスで解かれてしまい、
しかも好意を見抜かれ、
足元がすくわれそうな危機だ。

身包みはがされた晴矢の不安は一層募る。
自分を軽んじられていると思い込むと、指先が震えてきた。

晴矢は、いよいよ利玖の気持ちがわからなくなってしまった。








衣替えをし、夏服姿で登下校をするようになると、いよいよ季節は夏だ。

気温の上昇につられてコンビニでコーヒーを買う回数が自然と増え、
おのずとそこで利玖に会う回数も増える。

特別になにかを話すわけではない、
ただ挨拶を交わすだけの朝もあれば、ふざけてカバンで軽く叩く夕方もあった。

しかし、晴矢はもっと親密な関係になりたいと願う。

かつての自分がセックスをまるで義務ととらえていた男娼のような日々を思うと矛盾するのだが、
利玖とのセックスは互いの想いを確認しあえる機会だったのにと悔やむのだ。

欲望に流されて貪るように求め合ってしまったのが尾をひき、
晴矢自身は積極性を失っていた。

これを打開するにはどうしたらよいのかと考えあぐねていたそのとき、
晴矢の視界に意外な人物がよぎった。

いつものようにコンビニの冷蔵扉を開け、
缶コーヒーを取り出そうとした晴矢の隣でエビアンの小さなペットボトルを取ったその左手。
左利きで銀色の指輪が光るその人物は、晴矢が通う高校の学年主任だ。


「…有明晴矢か。噂どおり、ちゃらそうな身なりだな」


声を聞くのは学年集会以来だ、
しかもそのときはマイクをとおして話していたので地声は初めてと言ってもいい。
その明るく嫌味のない響きに、晴矢は意外な発見をした気さえする。


「いろいろ問題がある生徒と判断しているが、根がまじめという報告を受けたばかりだ。
 矯正できそうだな」

年は30代前半だろう。
青臭さが抜け、若くして出世したのは身なりの清潔さがものを言う。


「先生に矯正されなくても。俺は校則違反を繰り返してもこうして学校にいるわけで、半年後には卒業だし」

「まあ、そうだな。もともと、校内で淫らな行為をするなとは校則に書いていない」
晴矢が見据えると、その教師・涼川はエビアンを手持ち無沙汰にぶらさげながら「いい顔だ」とつぶやく。


「若いからガツガツしているんだろう、だが時と場所・それから…相手を見定めろ」
「は?」

「私から、今はそれ以上言う事はない」

涼川はレジへ向かい、歩いていく。
その姿勢のよさや上質のスーツを着こなしている後ろ姿を晴矢はまじまじと眺めた。

余裕が感じられるが隙もなく、妙に気にかかるのだ。

晴矢は首をかしげつつ、レジへ向かって歩き出した。

お菓子の棚を抜けていく途中、雑誌コーナーのあたりを同じ背丈の人間が歩いていくのが見え、
利玖か?と慌てるが視線の先は丁度涼川の姿で隠れてしまう。

苛立ちながらレジに着くと、涼川がレジをすませて出て行くところだった。
なにげなくその姿を目で追うと、彼はエビアンを右手に持ち替え、
ドアから出ながら携帯を取り出した。

なぜかその行為を晴矢は凝視した。
おかしな胸騒ぎさえした。



晴矢の背後で携帯が鳴り出した。

その着信音は聞いたことがあった、晴矢は一瞬目を強く瞑り、
しかし意を決して冷えた缶コーヒーをにぎりながら振り返ろうとしたが、
レジの順番が来てしまった。


着信音はやがて消えたが晴矢の耳にそのリズムが残った。
脳裏には利玖の室内が残像のように広がっていた。


奇妙な符号だった。
生活感のない室内、そして焦らされたが手馴れた様子のセックス。

『間が悪い』
けだるそうにつぶやいた利玖の表情さえ思い出せる。


しかし、まさかという思いで晴矢の心は引き裂かれそうだった。

数日前、自分が利玖に発した言葉は急に現実味を帯びる。
晴矢は口をおさえ、気のせいなのか、先ほどから背中に感じる誰かの視線に耐えた。


『やっぱ、教師とできてたり…』



8話へ続きます
暑くて寝苦しくてたまらない愛知県です、
この夏の暑さは異常です


リズムを変えたのですが、拍手をいただけて恐縮です、
本当にすみません…

もう赤とんぼが飛んでた
秋なんだなあ
セミも鳴いているけど
スポンサーサイト
[PR]

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。