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「子供の戯れかと見逃していたが、とんでもなかったな。火遊びもいいところだ」
「遊び…?」

涼川の言葉は晴矢の癪に障った。

「遊びじゃありません。俺は」

しかし叫びは続かない。
涼川の視線が冷たく、胸をえぐるような鋭さを感じたのだ。

それは自分を見下している視線だった。
学年主任である涼川に似つかわしい、模範的ではない生徒を切り捨てる非人道的な冷酷さがあった。

晴矢は唾を飲み込んだ。
ここで退きたくはない、しかし勝てる見込みのない相手と戦うなど、
かつての自分のいき方には有り得なかった。

『ちゃらい』
利玖にもそう言われた、その場しのぎのセックスという快楽や、
流されるまま生きてきた自分の歩き方が今になって悔やまれる。

「あの子は俗に言う優等生だ。我々教師の評価ではなにひとつ落ち度は無い」

そうだろう、と晴矢は思わず視線をそらす。
これ以上聞いていられる自信がない。

「有明とじゃ、つりあわない。それくらい自分で判断できる年だろう?」



利玖に出会う前の晴矢なら背を向けて逃げただろう。

しかし、利玖が自分の腕の中に入ってきたことは事実だ。
その揺ぎ無い記憶は晴矢の背筋を正す。

すると窓から差し込む日差しの眩しさに気付いた。
自分が冷静になりつつあるとわかると、晴矢は涼川の矛盾を発見した。


『果たして、学習能力の高い人間同士で成立する恋愛しか許されない掟でもあるのか?』



「あの子の家族とも長い付き合いでね。私立だが、あの子が希望する大学へ推薦で入れるよう手配した。
 母親はあの子の将来に期待している、ならば願をかなえるのは自然だ」

「あの子って、誰ですか」

「わかっていて聞いているのではないのか?千里だよ」

「利玖って、名前がありますよ」


晴矢は毅然とした言い方をした。
相手が誰であろうと、利玖を好きな事を恥じない姿勢を見せ付けたのだ。


「ここが職員室だからって、名前を伏せるような人に邪魔されたくない」

「…物の言い方さえ知らないのか。これだから」

「これだからなんだというんですか。先生と利玖の間でなにがあるのか知らない、だけど負けない」

晴矢は叫ばなかった。
無意識に拳をにぎり、それを腰のあたりに忍ばせつつも声をおさえて話し続けた。


「諦める気はない」


頭の中に利玖の声が響いていた。
『諦めるのが早い』とたしなめたあの声が今や晴矢の背中を押していた。


「…子供相手で満足する子じゃないよ」

大人の余裕を見せたいのか、涼川は鼻で笑う。
しかし晴矢は揺るがなかった。


「俺は本気で利玖が好きです」

「だから子供だって言うんだよ。むきになっている、その顔を鏡で見たらどうなんだ」

「俺の顔が面白いんですか」

「実に険しい。大人びるとはこれを指すのだな」

涼川はクッキーの箱を無造作に取り上げると、隣の机の上に放り出した。
波に揺られるようにクッキーは箱の中で跳ねると数枚が音を立てて床に落ちた。

「割れたかな」

八つ当たりとは大人気ないと晴矢は感じた。

「あの子もクッキーが嫌いでね。出会った頃はそんなことを知らないから勧めていたのだが、
 ずっと無理をして食べていたらしい」

「はあ」

「私に気に入られようと努力していたのかと思ったよ」


そして涼川は落ちたクッキーを拾い上げると「独り相撲とはよく言ったものだ」とつぶやいた。
崩れていたクッキーは涼川が力をこめるまでもなく、指先で粉と化した。

「気持ちなんてもろいものさ。そんなものにすがるなんて、どうかしている」
「すがっておかしいですか?大事なことでしょう。先生に俺の気持ちまで否定されたくないです」

涼川は「若いな」とぼやいた。
そして顎でドアを指し示し、晴矢に出て行くよう無言で伝えた。








晴矢は煮え切らない思いを抱えながら廊下を歩き進めた。

もはや校内にいる生徒は自分だけではないのかと思うほど、誰ともすれ違わない。

静かな廊下にいると気が滅入る、
自然といつもよりも歩くペースが速まり、下駄箱に着くとさすがの晴矢も息が上がっていた。


上靴さえない下駄箱の列は見慣れないせいか廃墟のようだ。

取り残された自分の靴をつかむと、ため息まじりに履き替えて校舎を後にした。



いよいよセミの鳴き声がうるさく耳に響き、日差しも照りつけてくる。
夏が始まっているのだ。

しかしこの浮かない気分はどうしたことだろうか、晴矢は空虚さを感じてしまう。

こんな夏の始まりは初めてだった。



校門を出るあたりで晴矢は背中に視線を感じた。
てっきり涼川が職員室の窓からあの射抜くような目で見ているのかと疑ったが、
振り返るとそうでもなさそうだ。

青々と伸びた葉を茂らせる樹木が視界を邪魔しており、
見上げていた晴矢は誰かの視線をつかむことができなかったのだ。


黙ったまま2.3秒過ぎただろう。

踵を返して歩き出し、ふと来週が登校日だったと思い出す。
その日こそ利玖をつかまえなくては自分の夏は始まらない、
決意もあらたにするとカバンの中で携帯が鳴り出した。


「誰だ?」

あわてて取り出そうとするが、なぜかいつもの場所に携帯が入っていない。

「は?なんで?」

カバンをごそごそと探り、ようやく携帯を見つけたと同時に呼び出し音が止んでしまう。

「誰だったんだよ」


面倒くさそうに見た画面に表示された番号に思い当たる人物はない。
しかし指になにかが当たる。

携帯の背に貼り付けられたメモには『諦めるのが早すぎる』と見慣れない文字があった。

晴矢はまさかの思いでコンビニへ駆け込んだ。

ここに居るのかと早合点したのだ。

しかし店内には利玖の姿はない、この番号が正しいのかさえわからないが晴矢はリダイヤルする。

呼び出し音が2コールで切れた。


「有明晴矢」

声と同時に尻をカバンで叩かれた。

振り返るのがためらわれるほど、晴矢の胸が高鳴った。


「いい加減、追いかけるのは疲れるからさ。一緒に歩ける?」

言うが早いか、先に店を出ようとする利玖を晴矢は追いかけた。





10話へ続きます

いつも読んでくださってありがとうございます、
感謝しています


今年の夏は異常に暑いですね、もう9月になるんですけど

…9月

次からは季節を冠したタイトルだけはつけないでおこうと決めました…
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